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猪突猛進

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第三章

「その結果いい論文を書いているからな」
「学者になるべきですか」
「そう思ったよ、サラリーマンになっても面白いと思うが」
 それでもというのだ。
「学者としてはそう思うよ」
「俺は学者になってもいいですか」
「うん、サラリーマンになったら金太郎かな」
 本宮ひろ志先生の漫画である、一介のサラリーマンが全力の体当たりで道を開いてのし上がっていく本宮先生ならではの漫画である。
「そうなるね、そして学者になっても」
「金太郎ですか」
「インディー=ジョーンズかも知れないが」
 考古学であることからだ、教授は笑ってこのキャラクターの名前も出した。
「君を大学院に推薦したい」
「では」
「考えてくれとはな」
「はい、俺は考えられないです」
 自分でもだ、暢樹は笑って言った。
「まず動きます」
「じゃあ動いてくれ」
「そうします」
 こう笑顔で答えてだ、暢樹が動いた先は。
 大学院だった、彼は大学院に進んでも考えずまず動いた。そして。
 本をどんどん読みフィールドワークに邁進した、そのうえで論文を次から次に書いていった。考えるよりもまず動いていた。
 そして大学院で修士論文を書いてから大学で助手となり正式に学者として就職も出来た。そうなっても彼は同じだった。
 考えない、まずは動く。その彼を見てだ。
 学生達は珍獣を見る目になってそして彼について話した。
「凄い人だな」
「考えない学者さんだからな」
「考えるより動く」
「まず歩くか」
「インディー=ジョーンズみたいだな」
「探偵だったらマイク=ハマーだな」
「そうした人だな」
 こう言う、そして実際にだ。
 暢樹は動き続けた、フィールドワークに積極的でこれはと思った本は迷うことなく開き読破した。その猪突猛進に周りは困る時もあった。
「またいきなり動いたな」
「この前もそうだったけれどな」
「本当にあの人考えないな」
「考えるよりもな」
 まさにそれよりもというのだ。
「動いてそれで失敗もするし」
「間違えたりも」
「難儀な人だな」
「その動くことがいい方向にもいけば」
「悪い方向にもいくな」
 そのどちらにも転がるというのだ。
「間違えたまま進むこともあるしな」
「間違えたとわかったら戻る人にしても」
「そこが問題だな」
「周りのフォローも大変だよ」
「話を聞く前に動くしな」
 人の話を聞かない人間だったがそこは訂正されたというか動く初動が速くなったので人の話を聞くよりもになったのだ。
「後のフォローだな」
「取り返しのつかないことになる前にな」
「そこは気をつけないとな」
「困った人だぜ」
 こうしたことも口々に言う、しかし行いがあらたまる彼ではなく。
 やはり進むままだった、専門の日本の古墳時代の考古学でもそれは同じでだ。
 ある日彼は自身の研究室で本を読み耽った後にこう周りに言った。
「俺はどうやら大発見をしたぞ」
「大発見といいますと」
「それは一体」
「ああ、鹿児島にもかなりの古墳があるみたいだ」
 こう言うのだった。
「あそこにな」
「鹿児島に、ですか」
「そういえばあそこはこれまで古墳とはあまり縁がありませんでしたね」
「九州は朝廷に反抗的な勢力もいましたし」
「鹿児島までは」
「その鹿児島にな」
 まさにというのだ。 
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