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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第六十九話 地下世界へ

~キリト side~

リズ「ねぇ、この階段どんくらいあるの?」

疲れた声でリズが尋ねてくる。

アスナ「確か、迷宮区タワー丸々一回分は有ったかな。」
リズ「うへー。」
キリト「おいおい、正規ルートだと階段を一時間以上降りて、最後にボスを倒してようやく着くところを、この階段だと五分だぞ。 俺がリーファなら通行料設定して使わせて商売するね。」
リーファ「でも、トンキーが居ないとグレートボイドに落っこちてお陀仏だよ。」
シノン「それに、アンタが作ったわけじゃないでしょ。」
キリト「ご指摘、どうも。」
シノン「うひゃあ!!?!?」

俺がシノンの尻尾を掴むとシノンが変な声を出した。

サクマ「ほう、俺の前でそれをやるとは、良い度胸をしてるじゃないか。」

すると当然サクマがキレるわけで、

ドゴォ!

階段から蹴落とされた。

キリト「うわあぁぁぁ!!?」
アーサー「・・・今のは100%キリトが悪い。」
キリト「そんなぁぁぁ!!?」

一番先頭で降りていたアーサーに見捨てられ、階段を転げ落ちていく。


数分後


キリト「はい、全部俺が悪かったです。 シノン様。」

シノンに向かって土下座をして謝る俺。

怖いのはシノンではない。
その後ろで俺の事を睨んでいるサクマだ。
虎の威を借る狐、いや、龍騎士の威を借る山猫だ。

セト「ま、まあまあ、そこら辺にしたらどうっすか?」
サクマ「それもそうだな。 ここら辺にしとかないと余計な時間を取るからな。」

セト君、ありがとう。

サクマ「また後でな。」

全然よくなかった。

因みに今回のパーティーは

Aパーティー
俺、アスナ、シリカ、クライン、リズ、リーファ、コジロウ

Bパーティー
アーサー、サクラ、セト、マリー、シノン、サクマ、フィリア

Cパーティー
シンタロー、アヤノ、キド、カノ、エネ、コノハ

Dパーティー
ランスロット、ヒビヤ、ヒヨリ、アルゴ、モモ、ストレア

だ。

リーファ「じゃあ、トンキー呼ぶよー。」

リーファがトンキーを呼ぶために指を口にくわえ、鳴らす。

そして十数秒後、トンキーの姿が見えてきた。

ユイ「トンキーさーん!!」

ユイがトンキーに手を振る。

そしてAパーティーのコジロウ以外が背中に乗り込む。

そうしないと結婚によるストレージ共有化で回廊結晶が渡せないからだ。

リーファ「じゃあ、また後でね。」
コジロウ「また後でって、すぐじゃないですか。」
リーファ「まぁね。 よーし、トンキー、あのダンジョンの入り口までよろしく!」

トンキーの背に乗って移動を始めた俺たち。 そんな中、リズが言葉を漏らした。

リズ「ねぇ、これ、落っこちたらどうなるの?」
キリト「飛べないからな。
間違いなくお陀仏だろうな。」

ヨツンヘイムでは原則的にどの種族も飛行不可能であり、また高所落下ダメージが適用されるのだ。
スキル値などにもよるが、ダメージは十メートル程度から発生し、三十メートルを超えると確実に死亡だ。
俺の隣に座るアスナが、言った。

アスナ「きっといつか、そこの昔アインクラッドの外周の柱から次の層に登ろうとして落っこちた人が試してくれるわよ。」
キリト「あー、そんな事あったな。」

リズが右手を額に当て、

リズ「あんたは何やってんのよ。」
キリト「いや、あの時は遊び心で。 転移結晶を使うのが後一秒遅かったら、生命の碑の名前に横線が引かれたな。」

俺は頬をポリポリ掻いた。

キリト「それに、高所から落ちるなら猫科動物の方が良いんじゃ無いか?」

そう言ってシリカの方を向くと同時に首を横にブンブンと振った。

そんなやり取りをしている間にも、トンキーは四対八枚の翼をゆっくり羽ばたかせ、空中を進んで行く。
目指す場所は、氷の空中ダンジョンの入り口だ。
このまま安全運転でお願いします。と願った瞬間だった。
トンキーが急降下ダイブしたのだ。

「「うわあああぁぁぁあああ!?」」

俺とクラインの太い絶叫。

「「「「「「きゃあああぁぁぁあああ!?」」」」」」

女性陣の甲高い声。

リーファ「やっほ―――――う!」

《スピード・ホリック》ことリーファは、とても気持ち良さそうにしていた。
皆は広い背中に密生する毛を両手で掴み、襲ってくる風圧に必死に耐える。
殆んど垂直の急降下で、下の地面にみるみる近づく。
トンキーは巨大な大穴《ボイド》の南の縁に来ると、急ブレーキを掛け、五十メートル上空で緩やかな水平巡航に入った。
その時、トンキーの頭を乗り上げるよう身体を伸ばしていたリーファが、声を上げた。

リーファ「み、みんな、あれ見て!」

言われるまま、全員一斉にリーファが指差した方向を凝視した。
俺たちはそれを見て驚愕した。

キリト「どういうことなんだ?」
アスナ「なんで人型邪神が、プレイヤーたちと一緒に居るの?」

アスナの言う通りなのだ。 攻撃しているのは、三十人を超える種族混合部隊のレイドパーティー。 これだけを見れば《邪神狩りパーティー》と言える。
だが、人型邪神もプレイヤーと一緒に、像水母邪神を攻撃していたのだ。
像水母邪神を倒し終えた後、両者は戦闘にならず、連れ立って移動を始めたのだ。

アスナ「あれは、どうなってるの? あの人型邪神を、誰かがテイムしたの?」
シリカ「そんな、有り得ません。 邪神級モンスターのテイム成功率は、最大スキル値に専用装備でブーストしても不可能です!」
クライン「あれは、なんつぅか、便乗してるようにしか見えねぇぜ。 人型邪神が像水母邪神を攻撃している所に乗っかって、追い打ちを掛けているみてぇな。」
キリト「でも、そんなに都合良く憎悪値ヘイトを管理できるか?」

と、俺が冷静にコメントする。
邪神の行動パターンからして、接近して魔法スキルなどを連発すれば、人型邪神のターゲットはプレイヤー側に移動してもいいはずだ。
しかも大規模レイドパーティーの幾つかが、人型邪神と行動しているのが窺える。ということは、

キリト「もしかして、さっき上でアスナが言っていた、ヨツンヘイムで新しく見つかった虐殺スロータ系クエストじゃないか? 《聖剣エクスキャリバー》を入手するには、人型邪神と協力して、動物型邪神を殲滅する、みたいな。」

俺が呟くと、それを聞いていた六人が揃って息を吸い込む。
恐らく、それに間違えない。 クエスト進行中なら、特定のモンスターと共闘状態になることがままあるのだ。
そこで俺は妙な気配を感じ、後ろを振り向いた。
俺に釣られて他のメンバーも後ろを振り向く。
トンキーの背中の一番後ろ、誰も座っていないあたりに光の粒が音も無く漂い、凝縮し、一つの人影を作り出したのだ。
ローブ風の長い衣装、背中から足許まで流れる波打つ金髪、三メートルを超える背丈、優雅かつ超然とした美貌の女性だった。

ウルズ「私は、《湖の女王》ウルズ。」

金髪のお姉さんは、続けて俺たちに呼びかけた。

ウルズ「我らが眷属と絆を結びし妖精たちよ。 そなたらに、私と二人の妹から一つの請願があります。 どうかこの国を、《霜の巨人族》の攻撃から救って欲しい。」
ユイ「パパ、あれ人はNPCです。 でも、少し妙です。 通常のNPCのように、固定応答ルーチンによって喋っていません。 コアプログラムに近い言語エンジン・モジュールに接続しています。」
キリト「つまり、AI化されているってことか?」
ユイ「流石パパです。」

俺は彼女の言葉に耳を傾けた。
NPC――《湖の女王ウルズ》は、真珠色に煌く右手を広大な地下世界に向けると、言った。

ウルズ「かつてこの《ヨツンヘイム》は、そのたたちの《アルヴヘイム》と同じように、世界樹イグドラシルの恩寵を受け、美しい水と緑に覆われていました。 我々《丘の巨人族》とその眷属たる獣たちが、穏やかに暮らしていたのです。」

その言葉と同時に、周囲の雪と氷に覆われたフィールドの光景が、音もなく揺れ、薄れる。

二重写しのように現れたのは、ウルズの言葉通りに草木と花々、そして清らかな水に溢れた世界だ。
女王ウルズの背後に存在する底無しの大穴《グレートボイド》も、本来は煌く透明な水を満たした広大な湖であり、天蓋からぶら下がっているだけの世界樹の根は、太く寄り集まって湖にまで達して全方向に広がっていた。

水面から盛り上がる太い根の上には、丸太で組まれた町が存在しており、その風景は地上の《中都アルン》ととても良く似ていた。
ウルズが右手を下ろすと、幻の風景も消え去った。 彼女はどこか悲しそうな表情を浮かべ、口を開いた。

ウルズ「ヨツンヘイムの更に下層には、氷の国《ニブルヘイム》が存在します。 彼の地を支配する巨人族の王《スリュム》は、ある時オオカミに姿を変えてこの国に忍び込み、鍛冶の神ヴェルンドが鍛えた《全ての鉄と木を断つ剣》エクスキャリバーを、世界の中心たる《ウルズの湖》に投げ入れました。 剣は世界樹のもっとも大切な根を断ち切り、その瞬間、ヨツンヘイムからイグドラシルの恩寵は失われました。」

ウルズが左手を持ち上げる。 再び幻視のスクリーンが映し出され、その圧倒的な光景に、俺たちは声も無く見入った。
巨大な湖――《ウルズの湖》の全面に伸びていた世界樹の根が、のたうち、浮き上がり、天蓋の方へ縮小していく。そして根の上に築かれた町々は、崩壊していく。
同時にあらゆる木の葉は落ち、草は枯れ、光が薄れる。 川は凍り付き、雪が降り、吹雪が荒れ狂う。 《ウルズの湖》を満たしていた膨大な水も一瞬で凍り付き、巨大な氷の塊となったそれを、世界樹の根を包みながら上空へ引き上げていく。 世界樹の根には巨大な氷塊がその半ばまで天蓋に突き刺さる。 その氷塊こそが、現在ヨツンヘイムの上空に偉容いように構える《氷の逆ピラミッド》のことだろう。 氷塊の最下端、氷柱のように鋭く尖った先に黄金の光が見える。 霜の巨人の王スリュムが投げ込み、《世界樹》と《ヨツンヘイム》という二つの世界を切り離したという剣、聖剣エクスキャリバーに間違いない。
ウルズが左手を下ろすと、幻のスクリーンは消え去った。

ウルズ「王スリュムの配下《霜の巨人族》は、ニブヘイムからヨツンヘイムへと攻め込み、多くの砦や城を築いて、我々《丘の巨人族》を捕え幽閉しました。 王は嘗かつて《ウルズの泉》だった大氷塊に居城《スリュムヘイム》を築き、この地を支配したのです。 私と二人の妹は、凍り付いたとある泉の底に逃げ延びましたが、最早かつての力はありません。 それに霜の巨人たちは、それに飽き足らず、この地に今も生き延びる我らが眷属の獣たちを皆殺しにしようとしています。 そうすれば、私の力は完全に消滅し、スリュムヘイムを上層のアルヴヘイムにまで浮き上がらせることが出来るからです。」

これを聞いていたクラインが、憤慨したように叫んだ。

クライン「な、なにぃ! ンなことしたら、アルンの街が壊れちまうだろうが!」

ウルズはその言葉に頷いた。

ウルズ「彼等の目的は、アルヴヘイムを氷雪で閉ざし、世界樹イグドラシルの梢に攻め込み、其処に実るという《黄金林檎》を手に入れることです。」
キリト「ああ、確か天辺近くには、有り得ないくらいの強い大型鷲ネームドモンスターに守られて近づけないエリアがあるな。 も
しかしたら、其処に黄金林檎があるのかもな。」
ウルズ「我ら眷属たちをなかなか滅ぼせないことに苛立ったスリュムと霜巨人の将軍たちは、遂にそなたたち妖精の力をも利用し始めました。 エクスキャリバーを報酬に与えると誘いかけ、眷属狩りを尽くさせようとしているのです。 しかし、スリュムがかの剣を余人に与えることなど有り得ません。 スリュムヘイムからエクスキャリバーが失われる時、再びイグドラシルの恩寵はこの地に戻り、あの城は溶け落ちてしまうのですから。」
リズ「え、じゃ、じゃあ、エクスキャリバーが報酬っていうのは、全部嘘だってこと!?」
ウルズ「恐らく、鍛冶の神ヴェルンドがかの剣を鍛えた時出来た失敗作、見た目はエクスキャリバーにそっくりな、《偽剣カリバーン》を与えるつもりなのでしょう。 充分に強力ですが、真の力は持たない剣を。 ですが、配下の殆んどを、巧言によって集められた妖精の戦士たちに協力させるため、スリュムヘイムから地上に降ろしたのです。 今、あの城の護りは嘗てないほど薄くなっています。 妖精たちよ、スリュムヘイムに侵入し、エクスキャリバーを《要の台座》より引き抜いて下さい。」

このクエストの《女王の請願》の目的は、エクスキャリバーの奪還か。

その後、空中ダンジョンの入り口で他のパーティーと合流し、さっきの事を話した。

アーサー「で? 開発者サマ? そこまで行ったら最悪の場合ラグナロクが起こるわけだが、そうなった場合はこのALOはどうなる?」
ランスロット「恐らく、カーディナルによるマップの全消去だろう。」
リーファ「で、でも、幾らなんでも、ゲームシステムが、自分の管理しているマップを丸ごと崩壊させるようなことが出来るはずが、」
ランスロット「可能だ。 このフルスペック版カーディナルにはクエスト自動精製機能の他にもう一つコピー版には無い機能がある。 それが自己崩壊プログラム、旧アインクラッドがクリアされたときにそれを崩壊させたのがこのプログラムだ。」
シノン「もし、仮にその《ラグナロク》が本当に起きても、運営側が望まない展開なら、サーバーを巻き戻すことは可能じゃないの?」
クライン「お、おお、そうか、そりゃそうだよな。」

クラインがうんうんと頷いた。
だが開発者は首を左右に振り、それを否定した。
運営サイドが手動で全データのバックアップを取り、物理的に分割されたメディアに保管していれば可能だが、カーディナルの自動バックアップ機能を使用していればそれは不可能だと言った。
GMに連絡を取ろうにも年末の日曜日の午前中は、人力サポート時間外だ。
俺は息を吐き、上空を振り仰いだ。

カノ「でもさー、このクエストをクリアすれば何の問題も無いんだよね?」
アーサー「あぁ、制限時間付いただけだろ?」
フィリア「こんな大きなダンジョンだったらお宝いっぱいあるかもね。」
クライン「おっしゃあ! 今年最後の大クエストだ! ばしーんと決めて、明日のMトモに載ったろうぜ!」

リーファが、右手にぶら下げた大きなメダリオンを高くかざした
《湖の女王ウルズ》から与えられたそれは、綺麗にカットされた巨大な宝石が嵌め込まれている。 しかし今、カット面の六割以上が漆黒の闇に沈み、輝きを失い掛けている。
この石が暗黒に染まる時、地上の動物型邪神は全て狩り尽くされ、ウルズの力も完全に消滅する。 その時こそ、《霜の巨人の王スリュム》のアルヴヘイムの侵攻が開始されるのだ。
俺はウインドウを開くとロングソードを交差して吊った。 皆も各自の武器を装備する。
扉がゆっくりと開く。
ユイが俺の胸ポケットに入ったのを確認してから、俺たちは氷の床を蹴り飛ばして、巨城《スリュムヘイム》へと突入した。

アーサー「行くぞ! 殴り込みだぁ!!」
「「「「「「おおぉーーーー!!!」」」」」」

~side out~ 
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