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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第五十四話 銃の世界へ

~和人 side~

俺達は今、菊岡に指定された入院病棟三階にやって来ていた。
ドアの隣のネームプレートに患者の名前は書かれていない。
ノックの後、ドアを引き開けた。

「おっす! 桐ケ谷君、お久しぶり!」

俺を出迎えた人物は、長いリハビリの期間にお世話になったという、女性看護婦の安岐さんだ。
俺は軽く頭を下げた。

和人「あ、ど、どうも、ご無沙汰してます。」

安岐さんは、隣の拓真とシンタローに眼をやった。

安岐「なるほどなるほど、君が佐々木 拓真君で、そっちの君が如月 シンタロー君ね。」
和人「あと、今日なんですけど、」
安岐「あの眼鏡のお役人さんから話は聞いているよー。 何でも、お役所の為に仮想、ネットワーク?の調査をするんだって? 君たちが《あの世界》から帰って来て一年も経っていないのに、大変だねぇ。 取り敢えず、これからよろしくね。」
和人、拓真、シンタロー「「「こ、こちらこそ、よろしく」」」

俺は気になる事を聞いてみた。

和人「で、眼鏡の役人は来てないんですか?」
安岐「うん、外せない会議があるとか言ってた。 伝言、預かってるよ。」
和人「あ、破いて良いです。 大体分かるんで。 それじゃあ、早速ネットに接続をお願いできますか。」
安岐「あ、はいはい。 準備出来てます。」

俺たちが案内されたベッドの脇には仰々しいモニターの数々が並び、ベッドレストの上には新しいアミュスフィアが置かれている。

安岐「じゃあ脱いで。 電極を貼るから」
和人「は」
安岐「早く早く、カーテンあるから。」
拓真「上だけで良いですよね。」

電極を貼ってから、俺達はベットに横になった。

和人「安岐さん。 俺達の体、お願いしますね。」
拓真「多分、五時間位潜りっぱなしだと思いますが、」
安岐「はーい。 君たちの体はしっかり見てるから、安心して行ってらっしゃい。」

それから俺たちは眼を閉じ、銃の世界に赴くコマンドを唱えた。

和人、拓真、シンタロー「「「リンク・スタート」」」

数秒後。 俺は銃の世界に降り立った。
この世界の空一面は、薄く赤味を帯びた黄色に染まっていた。
GGOの舞台である地は、最終戦争後の地球という設定だ。
この空は、黙示録的雰囲気を出す為の演出なのかもしれない。
俺は改めて、眼前に広がるGGO世界都市、《SBCグロッケン》の威容に眼を向ける。
メタリックな質感を持つ、高層建築群が天を衝くように黒々と聳え、それらを空中回廊が網目のように繋いでいる。
ビルの谷間を、ネオンカラーのホログラム広告が鮮やかに流れている。
俺が立っている場所は、金属プレートで舗装された道の上だった。
どうやら此処が、初期キャラクターの出現位置らしい。
俺は両手を広げて見た。
俺はそれを見て、嫌な予感がした。
両手の肌は白く滑らかで、指も吃驚するほど細い。
視点からして、そんなに身長は高いとは思えない。
すると、後ろから声を掛けてきた人物が居た。
振り向くと、漆黒の短めの髪に赤のマフラーの男だ。

???「あの、貴方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
キリト「えっと、キリトですけど。 貴方は?」
シンタロー「えぇっ! マジでキリト!? くっはははははは!! 無いわー。 俺だよ、シンタロー。」
キリト「し、シンタローか。 どうしたんだ、そんなに笑って?」

俺はシンタローに手を引かれ、近場にあるガラスに自身を映した。
そして、眼を見開いた。

キリト「な、なんじゃこりゃ!?」

映っていたのは、美少女だった。
長い黒髪が、頭頂部から肩甲骨あたりまで滑らかに流れている。
顔は手と同じで、透き通るような白、唇は紅、漆黒の瞳。

すると、俺たちに駆け寄るプレイヤーが居た。

「おお、お姉さん運がいいね! そのアバター、F一三〇〇番系でしょ! め~~~たに出ないんだよ、そのタイプ。 どう、アカウントごと売らない? 二メガクレジット出すよ!」

え、お姉さん??
俺は放心していたが、すぐに我を取り戻し、ある事故が起きていないか調べる為、両手で自身の胸をまさぐった。
幸い、そこには平らな胸板があった為、危惧した事には成らなかった。

シンタロー「こいつ男だよ。 男。」
「お、男!? なら、もっと出にくいってい、」
シンタロー「残念だったな。 これコンバートデータで売ることは出来ない。」
「そ、そっかぁー。 でも気が変わったら連絡くれないか。 これが俺の連絡先。」

そう言ってその男は俺に名刺のようなものを渡し、また何処かに行った。

キリト「ところで、サクマは?」
シンタロー「さぁ? 実はここ以外にも新規プレイヤーが現れるところはあってな。 一応その内の二ヶ所にエネとコノハを行かせたんだけど。 ま、それより先にお前の武器と防具だな。 俺が見繕ってやるよ。 金は貸しな。」

そう言って俺はシンタローの後に付いていった。

~side out~

~サクマ side~

サクマ「ここが、GGOか。」

俺は鉄と硝煙の混ざった臭いのする空気を吸い込み、吐く。
因みに俺のアバターは割りと現実の姿に近い。

サクマ「で、どこだここは?」

現在、絶賛迷い中だが、

SBCグロッケンと言う都市は、どうやら広大なフロアが幾つも重なる、多層構造をしているらしい。
簡単に言えば、ダンジョンを彷徨っているみたいだ。
メインメニューから詳細なマップを呼び出す事は可能だが、表示される現在地と、実際に広がる光景を照合するが容易ではない。
だが、此処はMMOだ。
ここで取るべき手段は一つ。
俺は一人の後ろ姿に駆け寄り、背後から声を掛けた。

サクマ「すまない。 道を教えてくれないだろうか?」

振り向いたのは、女の子だ。
細い青い髪は無造作なショートで、くっきりとした眉の下に、猫科な雰囲気を漂わせる藍色の大きな瞳が輝き、小ぶりな鼻と薄い唇。
首には、サンドカラーのマフラーを巻いている。
彼女には警戒の色が見えた。
が、それを含めて彼女は俺の知っている人に似ていた。

サクマ「詩乃?」
???「え、何で私の名前を!?」

デジャブ

サクマ「俺だ。 拓真だ。」
シノン「た、拓真!? な、なんでここに?」
サクマ「少し用があってな。 それより、俺のプレイヤーネームはサクマだ。 詩乃は?」
シノン「シノンよ。 で、何処に行きたいの?」
サクマ「何処か安い武器屋さんと、あと総督府、って所に行きたいんだが。」
シノン「総督府? 何しに行くの?」
サクマ「バトルロイヤルイベントのエントリーに、」

それを聞いた途端、彼女は眼を丸くした。

シノン「え、ええと、今日ゲームを始めたんだよね? その、イベントに参加するには、ちょっとステータスが足らないかも。」
サクマ「平気だ。 コンバートキャラだからな。」
シノン「それなら良いけど。 分かった、案内してあげる。 私も総督府に行く所だったんだ。 その前にガンショップだったね。 好みの銃とか、は、無いよね?」
サクマ「あぁ。 全くと言うほど銃に関する知識は無い。」
シノン「じゃあ、大きいマーケットに行こう。 こっちよ。」

曲がりくねった路地や階段を次々通り抜け大通りに出た。
正面には、煌びやかな店舗が見える。
シノンが店舗に指差し、

シノン「あそこがガンショップよ。」

シノンの背中を追って、俺達は店内に足を踏み入れた。
店内は様々な色と光と喧騒で満ち、アミューズメントパークのようだった。
NPC店員は揃って露出の大きいコスチュームを纏った美女たちで、天真爛漫な営業スマイルを振りまいているのだが、彼女たちの手には物騒な黒光りする拳銃や機関銃が握られている。

シノン「本当は、こういう初心者向けの総合ショップよりも、専門店の方が掘り出し物があったりするんだけどね。 まぁ、此処で好みの銃系統と見つけてからそういうとこ行ってもいいしね。」

確かに、店内をうろついているプレイヤーは、ビギナーっぽい印象が多い。

シノン「さてと、サクマのスターテスは、どんなタイプ?」
サクマ「筋力と俊敏をほぼ同じくらいで上げてる。」
シノン「AGI-STR型か。 じゃあ、ちょっと重めのアサルトライフルか、もうちょっと大口径のマシンガンをメインアームにして、サブにハンドガンを持つ中距離戦闘タイプがいいかなぁ。 あ、でも、コンバートしたばかりだよね? てことは、お金が、」
サクマ「あ」

俺は右手を振り、ウインドウを開いた。
コンバートをすればキャラクターの能力は引き継がれるが、アイテムや所持金は引き継がれない。
つまり、必然的にゲームを始めた時の初期金額になるということだ。

サクマ「千クレジットだ。」

こんな金額で買い物が出来るのか?

シノン「・・・ばりばりの初期金額ね。」

シノンは唇の下に人差し指を当て、首を傾げた。

シノン「う~ん、その金額だと、小型のレイガンしか買えないかも。 実弾系だと、中古のリボルバーが、どうなかぁ。 あのね、もしよかったら、」
サクマ「いや、いくらリアルの知り合いとは言え、そこまでして貰うわけには行かない。 どうにかして稼ぐさ。 カジノがあるんだろ?」
シノン「ああいうのは、お金が余っている時に挑戦した方がいいよ。 確かに、この店にカジノはあるけどさ。」

シノンは視線を巡らせ、店の奥を指差す。

シノン「ほら。 あそこにギャンブルゲームがあるよ」

指差す先には、壁際の一画を占領する大きな代物が輝いていた。
金属タイル敷いた床の奥に、NPCガンマンが立っている。
そのガンマンの後ろには無数の弾痕に刻まれたレンガの壁と、その上部にピンクのネオンで≪Untouchable!≫の文字。

サクマ「あれは?」
シノン「手前のゲートから入って、奥のNPCガンマンの銃撃を躱しながら何処まで近づけるか、っていうゲームだね。 今までの最高記録があそこ。」

シノンが指を指した先には、赤く発光するラインが引いてあった。
全体の三分の二といった所だ。
俺も興味が出て来た。
俺はシノンに聞いてみた。

サクマ「あれをクリアすると、幾ら貰えるんだ?」
シノン「えっと、確かプレイ料金が五百クレジットで、十メートル突破で、千クレジット。 十五メートル突破で、二千クレジットかな。 もしガンマンに触れば、今まで注ぎ込んだお金が全額バックね。」
サクマ「へぇ。」
シノン「ほら、看板の所にキャリーオーバー表示があるよ。 えっと、今は四十万ちょいか。 でも、クリアするのは不可能ね」
サクマ「何でだ??」

俺が聞くと、シノンは肩を竦めた。

シノン「あのガンマン、八メートルを超えるとインチキな早撃ちになるのよ。 リボルバーのくせに、無茶苦茶な高速リロードで三点バースト射撃するの。 予測線が見えた時には、もう手遅れよ。」
サクマ「予測線、」

シノンが俺の肩を叩き、

シノン「ほら、またプール額を増やす人が居るよ。」

俺たちの視線の先には、三人連れの男たちが映った。
その内の一人がゲートの前に立ち、掌をパネルに添えた。
同時にゲーム開始のファンファーレが響き渡った。
この音を聞き、店内に居たプレイヤーたちが集まってくる。
NPCガンマンが英語で『へぇい。 てめぇのケツの穴を吹き飛ばしてやるぜ』的な言葉を放った後、ホルスターからリボルバーを抜いた。
ホログラフの数字が【0】になり、ゲートの金属バーが開いた。
男は『ぬおおぉぉりゃぁああ』と叫びながら、ガンマン目掛けてゲートを走る。
一メートル走った所で男は左足を上げた。
次の瞬間、ガンマンがリボルバーから銃弾を発射し、男が上げた左足の下を銃弾が通り抜けて行った。
男には、弾丸が通るコースが解っていたようだ。

サクマ「今のは、」

俺が呟くと、シノンは小声で答えてくれた。

シノン「今のが、≪弾道予測線バレッド・ライン≫による攻撃回避。」

男はガンマンまで残り五メートルという所で、三点バーストによって沈められていた。
男はとぼとぼとゲートから出て、元の場所に戻った。
シノンは再び肩を竦めてから、

シノン「ね? 無理でしょう。 左右に動けるならともかく、殆んど一直線に突っ込まなきゃならないんだから。 絶対にあの辺が限界なのよ。」
サクマ「ふむ、面白いじゃないか。」
シノン「え? ちょ、ちょっと。」

俺はゲートの前に立ち、パネルに手を添えた。
次いで、賑やかなサウンドが鳴り響く。
同時にカウントダウンが始まった。
カウントが【0】に成り、ゲート前の金属バーが開いたと同時に、床を蹴った。
ガンマンがリボルバーの照準は頭、右胸、左足をポイントしているはずだ。
それを予測し、思い切り左に跳ぶ。
直後、予想した場所を銃弾が通り過ぎた。
それを確認した後、思い切り跳び中央に戻る。
飛び道具を攻略する手段は、相手の《眼》を見て射線を読むことだ。
SAOではモンスターの《眼》を見て、先読みをしたものだ。
このシステム外スキルには、何度お世話になった事か。
このまま先読みを続けながら左右に跳び、弾丸を躱していった。
残り八メートルになると、シノンが言っていた三点バーストのインチキな早業になった。
これも躱して、残り二メートル半。
今、最後の銃弾を避けたので弾切れのはずだ。
だが、弾切れの筈なのにNPCガンマンがにやりと笑った気がした。
突進してガンマンにタッチしようとしたが、嫌な予感がしたのでジャンプに変更。
ジャンプした途端、俺が居た場所にノーリロードでレーザーが放たれた。
俺は心の中で『そりゃないだろ』と叫びつつ、空中で一回転半してガンマンの隣に着地し、肩にタッチした。
すると、ガンマンが頭を抱え、

「オーマイ、ガ―――――ッッッ!!」

と叫び、膝を付いたと同時にファンファーレの音が鳴り響き、ガンマンの背後のレンガが崩れ、そこから大量のコインが流れ出した。
ウインドウが出現し、金額入手ボタンに触れた。
するとコインが消滅し、ストレージの中に約四十万クレジットが収納された。

サクマ「割りと簡単だったな。」
シノン「ど、どうやってクリアしたの?」
サクマ「ん? 相手の眼を見て次に狙う場所を判断したんだ。 要は弾道予測線を予測したってところか。」
シノン「だ、弾道予測線を、予測ぅ!!?」
シンタロー「サクマ、か?」
サクマ「ん? そういうお前は、シンタロー?」
シンタロー「やっぱりか! ん? なぁ、サクマ、何でシノンと一緒に居るんだ?」
サクマ「知り合いか?」
シンタロー「知り合いって言うか、、、戦友?」
シノン「アンタと戦友になった覚えは無いわ。 今大会でリベンジしてやるからそのつもりでいなさい。」
シンタロー「あっそう。 ところで、コイツ誰だと思う?」

思いっきり睨んでいるシノンを無視してシンタローが人混みの中から一人の少女を連れてきた。

サクマ「・・・誰だ? こんな女子は見覚えが無いが。」
キリト「や、やっぱり女に見えるよな。 そうだよな。」
シンタロー「コイツ、キリトだよ。」
サクマ「き、キリト!? えぇ~~。 何があった?」
シノン「それはそうと、サクマ、知り合いだったの?」
サクマ「あぁ。 SAO、ALOと一緒に戦ってきた仲間だ。」
シノン「そ、そうなの?」
シンタロー「あぁ。 それよりサクマ、お前の気に入りそうな武器があるぞ。」
サクマ「銃はあまり詳しくない。」
シンタロー「大丈夫、銃じゃ無いから。」
シノン「銃以外となると、クロスボウに、ナイフ、ランチャー、爆弾、トラップくらいかしら。」
シンタロー「残念、そのどれでもない。 正解は光剣だ。」
シノン「・・・使えるの?」
シンタロー「お前、今、俺達がSAOサバイバーだってこと忘れてたろ。 剣の扱いならお手の物。 こっちだ。」

シンタローの後に付いて売り場に向かう。

シンタロー「これ。 でも、サクマだったら亜種の方がいいかな。」
サクマ「亜種?」
シンタロー「光剣、二刃刀バージョン。」
サクマ「マジで!? 有るの!?」
シンタロー「ほれ、これだ。 値段は普通の光剣よりも少し高いが、お前だったら平気だろ。」
サクマ「あぁ。 さっきのでたっぷりと稼がせて貰ったからな。」

俺は迷うこと無く、その光剣を購入する。
その横ではキリトが普通の光剣を購入していた。

シンタロー「あとは、防具と、牽制用の銃とその弾か。 光剣と合わせるなら拳銃だな。 だとしたら、キリトはこの《FN・ファイブセブン》で、サクマは、《M1911 コルト・ガバメント》でいいか。 防具に関しては何もないだろ?」
キリト「あぁ。 お任せする。」

数分後

シンタロー「まぁ、ざっとこんなもんか。 じゃ、総督府に行くか。 そろそろ向かわないとな。」
シノン「そうね。 エントリー締め切られちゃうし。」

俺達は少し早歩きで総督府に向かい始めた。
数分歩いた後、眼の前に途轍もなく巨大な金属のタワーが屹立していた。
おそらく、この建物が総督府だろう。
内部は広い円型のホールだった。
正面モニターには、《第三回バレット・オブ・バレッド》のプロモーション映像が映し出されている。
右端に設置させている端末まで足を進め、一台の前に赴く。
シノンがひょこっと顔をこちらに向け、

シノン「これで大会のエントリーをするの。 よくあるタッチパネル式端末だけど、操作のやり方、大丈夫そう?」

キリトが、シノンの質問に答えてくれた。

キリト「大丈夫だと思う。  解らなくなったら聞くから。」

俺は端末に眼を向けた。
エントリー者名に《sakuma》。
職業欄は空欄にした。
指先でメニューを辿ると、画面フォームに【以下のフォームには、現実世界におけるプレイヤー本人の住所等を入力してください。 空欄や虚偽データでもイベント参加は可能ですが、上位入手プライスを受け取ることはできません】という内容が表示された。
とても魅力的な誘いではあったが、今回の目的は《死銃》なるプレイヤーに接触し、俺たちの眼で見極める事だ。
ゲーム内でリアル情報を晒すのは賢明な判断ではない。
仮に《死銃》なるプレイヤーが運営側の人間で、登録データにアクセスすることが出来るかもしれないのだ。
それにこのゲームは胡散臭すぎる。
俺はフォームを空欄にしたまま、一番下の《SUBMIT》ボタンに触れた。
エントリー完了を知らせる画面と、予選トーナメント一回戦の時間と日付が表示された。

シノン「終わった?」
サクマ「あぁ、終わった。」
キリト「俺もだ。」

俺達は端末から離れた。
シノンが言葉を発した。

シノン「貴方たちは、何処のブロック?」
サクマ「えっと、俺はFブロック。 Fの三十七番。」
キリト「えっと、俺はCブロック。 Cの十五番。」
シンタロー「俺はCの二十九番。 エネとコノハはどっちもAブロックか。 あいつら決勝で当たるな。」
シノン「サクマとは決勝で当たるわね。 絶対来なさいよ。」
サクマ「了解だ。」
キリト「俺は決勝でシンタローとか。」
シンタロー「手加減はしないぞ。」
キリト「あぁ。 もちろん。」

俺たちは総督府一階ホールの奥へ向かってから、エレベータに乗り地下【B20F】で降りた。
床、柱、壁は全て黒光りする鋼板か、赤茶けた金網。
ドームの壁際は無骨なデザインのテーブルが並び、頂点分には巨大なホロパネルで【BoB3 Preliminary】という文字と、残り二十分という文字が表示されていた。

シノン「さて、控え室に行きましょうか? 貴方たちも、さっき買った戦闘服に着替えないとね。」

戦闘服に着替えてから、壁際のデーブルの椅子に腰を下ろした。
BoBのレクチャーをしてくれるらしい。

シンタロー「最低限のことだけ説明しておく。」

予選までのカウントは十分を切っている。

シンタロー「カウントがゼロになったら、全員予選一回戦の相手と、二人だけのバトルフィールドに自動転送される。 フィールドは一キロ四方の正方形。 地形、天候、時間はランダム。 決着したら勝者はこの待機エリアに転送される。 次の対戦者が決まっていれば、すぐに二回戦がスタート。 質問は?」

全員が首を横に振る。

シノン「サクマ、もう一度言うけど決勝まで来るのよ。 最後に教えてあげる。」
サクマ「最後?」
シノン「敗北を告げる弾丸の味。」
サクマ「ふっ、面白い。 なら絶対に決勝に出てやる。 勝つのは俺だがな。 しかし、シノンの方は大丈夫なのか?」

シノンは『フン』、と小さく息を吐き出した。

シノン「予選落ちなんかしたら引退する。 今度こそ、」

広いドーム犇く好敵手たちを凝視するシノンの瞳が、強烈な瑠璃色の光を放った。

シノン「強い奴らを、全員殺してやる。」

俺たちの耳が、近づく音を捉えた。
一直線に歩み寄ってくるプレイヤーは、銀灰色の長髪を垂らした背の高いプレイヤーだった。
ダークグレーの迷彩を上下に身に纏い、肩にはアサルトライフルを下げている。
戦歴の兵士というよりは、特殊部隊の隊員といったところか。
男はシノンを真っ直ぐ見て、口許に笑みを零した。

「遅かったねシノン。 遅刻するんじゃないかと思って心配したよ」

シノンは微笑を浮べて応じた。

シノン「こんにちはシュピーゲル。 ちょっと予想外の用事で時間取られちゃって。 あれ、でも、あなたは出場しないんじゃなかったの?」

男は照れくさそうに笑いながら、片手を頭に置いた。

シュピーゲル「いやあ、迷惑かと思ったんだけど、シノンの応援に来たんだ。 試合も大画面で中継されるしさ。 それにしても、予想外の用事って?」
シノン「ああ、ちょっと、そこの人を案内しててね。」
サクマ「どーも、そこの人です。」
シュピーゲル「あ、ど、どうも、はじめまして。 ええと、貴方はシノンさんのお友達さんですか?」
サクマ「まぁ、昔馴染みというか何と言うか。」

その時、ドーム内に控えめのボリュームで流れていたBGMがフェードアウトし、代わりに荒々しい音楽が響き渡った。
次いで、女性の合成音声が大音量で響き渡った。

『大変長らくお待たせしました。 ただ今より、第三回バレッド・オブ・バレッツ予選トーナメントを開始致します。 エントリーされたプレイヤーの皆様は、カウントダウン終了後に、予選第一回戦のフィールドマップに自動転送されます。 幸運をお祈りします。』

ドーム内に盛大な拍手と歓声、さらには銃声が沸き起こった。
シノンは立ち上がり、

シノン「決勝まで来るのよ。 私に案内までさせたんだから。」
サクマ「おう、任せろ。」
シノン「それと、貴方は絶対に本選まで来なさい。」
シンタロー「言われなくても。」

俺達は、転移に備える為前を向いた。
カウントダウンがゼロになり、体を青い光の柱が包み込み、たちまち視界の全てを覆い尽くした。

~side out~ 
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