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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第四十七話 再出発

~キリト side~

誰一人身動きする者は居なかった。
シルフも、ケットシーも、五十人以上のサラマンダー強襲部隊も、魂を抜かれたように凍り付いていた。
それほどまでに、先の戦闘がハイレベル過ぎだったのだ。
流れるような剣舞、超高速エアライド、ユージーンの天地を砕かんばかりの豪剣、それを打ち砕いた俺の超高速の二刀流。
アレクの高技術の槍技、そしてその技術を越えたシンタローの糸の使い方。
レンの高威力の攻撃、それを破ったサクラの神速の剣技。
最初に沈黙を破ったのは、シルフ族領主サクヤだった。
手にした扇子をパッと開き、高らかに声を上げた。

サクヤ「見事、見事!!」
アリシャ「すごーい! ナイスファイトだヨ!!」

ケットシー領主のアリシャ・ルーがそれに続き、シルフ、ケットシーの護衛十二人も加わった。
盛大な拍手に混じって、サラマンダーの強襲部隊の中からは賛辞や歓声が上がった。
それ程までに、俺達のデュエルが彼らの心を揺さぶったのだろう。
やはり種族の差や争いはあってもここにいるのは生粋のゲーマーばかり、このデュエルに拍手を送らずにはいられなかったのだろう。
歓声の輪の中央で、立役者となった俺達は笑みを浮かべ、四方にくるりと一礼すると、リーファたちの方に向かって着陸する。
其処には、赤いリメインライト二つがふわふわと漂っている。

俺達は剣を収めてから口を開いた。

キリト「誰か、蘇生魔法頼む!」
サクヤ「解った。」

サクヤは頷くと、リメインライトの前まで移動し、スペルワードの詠唱を開始する。
やがてサクヤの両手から青い光が迸り、赤い炎三つを包み込んだ。
その炎は、徐々に人の形を取り戻していく。
ユージーンは、肩を回しながら俺達に向かって口を開いた。

ユージーン「見事な腕だな。 オレとオレの直属の部下、アレクとレンまで倒すとはな、貴様らは今まで見た中で最強のプレイヤーだ。」
キリト「そりゃどうも。」

俺が応じてから、

シンタロー「機会が有ったら他の二人とも戦いたいモンだな。」
サクラ「私も。」
ユージーン「貴様らのようなスプリガン、シルフ、ウンディーネが居たとはな。 世界は広いということか。」

すると、ユージーンの後ろで話を聞いていたアレクとレンがおずおずと少し前に出てきてから、口を開いた。

アレク「シンタローさん、とても楽しいデュエルでした。 是非、今度リベンジさせてくれませんか?」
シンタロー「別に良いぜ。 絶対に勝たせないからな。」
レン「サクラ、と言ったな。 次は負けない。」
サクラ「そう? なら今度は今のより楽しめそうだね。」
アレク「あと、キリトさん、サクラさん。 今度相手をしてくれませんか?」
レン「俺もだ。」

おお、凄い好戦的だな。
ま、そういう奴は嫌いじゃないが。

キリト「おう。 今度やろうな。」
アレク「はい。 よろしくお願いします。」

シンとレンは俺に一礼をしてから、ユージーンの後ろに戻った。

キリト「で、俺たちの話、信じてくれたかな?」
ユージーン「そうだな。 約束を破るのは止めておこう。 貴様等を大使として認めよう。」

ユージーンは軽く笑みを浮かべ、次いで俺たちに向き直る。

ユージーン「確かに現状でスプリガン、ウンディーネとも事を構えるつもりは俺にも領主にもない。 この場は引こう。 だが貴様とはいずれもう一度戦うぞ。 そっちの二人もな。」
キリト「じゃあ、フレンド登録しとくか? そっちの方が何かと都合が良いだろ。」

俺とユージーンがフレンド登録をして、右手の拳をゴツンと打ち付けると、ユージーンは身を翻してから、翅を広げ、地を蹴る。
サラマンダーの大軍勢は一糸乱れぬ動作で隊列を組み直すと、ユージーンを先頭に鈍い翅音を響かせながら遠ざかっていった。
再び訪れた静けさの中、俺が笑いを含んだ声で呟いた。

キリト「サラマンダーにも話の解る奴がいるじゃないか。」

リーファは片手を頭にやりながら、今浮かんできた言葉を口にした。

リーファ「やっぱり、君達はムチャクチャね。」
キリト、シンタロー、サクラ「「「よく言われる。」」」
サクヤ「すまんが、状況を説明してもらえると助かる。」

シルフ族の領主サクヤを含め、両陣営十四人が説明を求めていた。

静けさを取り戻した会談場の中央で、『一部は憶測なんだけど』、と断ってからリーファは事の成り行きを説明した。
サクヤ、アリシャ・ルーを始めとする両種族の幹部たちは一つも音を立てず、リーファの長い話に聞き入っていた。
リーファが話し終わり、口を閉じると、両種族の幹部たちは揃って深い溜息を洩らした。

サクヤ「なるほどな。」

両腕を組み、サクヤが頷いた。

サクヤ「此処何ヶ月か、シグルドの態度に苛立ちめいたものが潜んでいるのは私も感じていた。 だが、まさか、サラマンダーに通じていたとはな。」

サクヤ曰く、シグルドはパワー志向の男だから、彼には許せなかったのだろう。
勢力的にサラマンダーの後塵を拝しているこの状況が、との事だ。

リーファ「でも、だからって、なんでサラマンダーのスパイなんか。」
サクヤ「もうすぐ導入される《Ver5.0》の話は聞いているか? ついに《転生システム》が実装されるという噂がある。」
リーファ「あっ、じゃあ、」
サクヤ「モーティマーに乗せられたんだろうな。 領主の首を差し出せばサラマンダーに転生させてやると。 だが転生には膨大なユルドが必要になるらしいからな。 冷酷なモーティマーが約束を履行したかどうかは怪しいところだな。」

俺がサクヤの言葉に苦笑い混じりで言った。

キリト「プレイヤーの欲を試すゲームだな、ALOって。 デザイナーは嫌な性格しているに違いないぜ。」
サクヤ「ふ、まったくだ。」

リーファが口を開き、サクヤに言った。

リーファ「それで、どうするの? サクヤ。」

リーファが訊ねると、サクヤは一瞬瞼を閉じた。
それからケットシー領主、アリシャ・ルーに振り向いた。

サクヤ「ルー、確か闇魔法スキル上げていたな?」

サクヤの言葉に、アリシャは大きな耳をぱたぱたと動かして肯定した。

サクヤ「じゃあ、シグルドに《月光鏡》を頼む。」
アリシャ「いいけど、まだ夜じゃないからあんまり長く持たないヨ。」
サクヤ「構わない、すぐ終わる。」

もう一度耳をぴこっと動かし、アリシャは詠唱を開始する。
周囲が僅かに暗くなり、一筋の月光が降り注いだ。
それがやがて、完全な円形の鏡を作り、その表面がゆらりと波打って、滲むように何処かの風景を映し出した。

リーファ「あ、」

リーファが微かに吐息を洩らした。
鏡に映った場所は、何度か訪れた事がある、領主館の執務室だったからだ。
鏡の向こうで、椅子に座り、机にドカッと両足を投げ出している人物がいた。
眼を閉じ、頭の後ろで両手を組むその男は間違いなく、シグルドだ。
サクヤは鏡の前に進み出ると、琴のように張りのある声で呼びかけた。

サクヤ「シグルド」

鏡の中のシグルドは眼を開き、椅子から跳ね起きた。
震える声で呟く。

シグルド「サ、サクヤ!?」
サクヤ「ああ、そうだ。 残念ながらまだ生きている。」

サクヤは淡々と答えた。

シグルド「なぜ、いや、か、会談は?」
サクヤ「無事終わりそうだ。 条約の調印はこれからだがな。 そうそう、予期せぬ来客があったぞ。」
シグルド「き、客?」
サクヤ「ユージーン将軍が君によろしくと言っていた。」
シグルド「な、」

どうやらシグルドは、今の状況を悟ったようであった。
言葉を探すかのように視線を動かし、俺とリーファを捉えた。
眉間に深くシワ寄せ、猛々しく歯を剥き出す。

シグルド「無能なトカゲどもめ。 で? どうする気だ、サクヤ? 懲罰金か? 執政部から追い出すか? だがな、軍務を預かるオレが居なければお前の政権だって、」
サクヤ「いや、シルフで居るのが耐えられないなら、その望みを叶えてやることにした。」
シグルド「な、なに?」

サクヤが領主專用の巨大なウインドウを開き、一枚のタブを引っ張り出し、素早く指を走らせる。

シグルド「貴様っ! 正気か!? オレを、このオレを、追放するだと!?」
サクヤ「そうだ。 レネゲイドとして中立域を彷徨え。 いずれ其処にも新たな楽しみが見つかる事を祈っている。」
シグルド「う、訴えてやる! GMに権利の乱用で訴えてやるぞ!」
サクヤ「好きにしろ。 さらばだ、シグルド。」

次の瞬間シグルドが消えた。
恐らく何処かの中立域の街に飛ばされたのだろう。
金色の鏡が消えると、周囲の暗闇が薄れ、再び太陽の光が照らしだした。
リーファはサクヤを心配するように、そっと声を掛けた。

リーファ「サクヤ、」

サクヤはシステムメニューを消すと、吐息交じり笑みを浮かべた。

サクヤ「私の判断が正しかったのかそうでないのかは次の領主選挙で分かるだろう。 それより、礼を言うよリーファ。 君が救援に来てくれたのはとても嬉しい。」

するとリーファは顔を左右に振り、俺達を見た。

リーファ「あたしは何もしていないもの。 お礼ならキリト君達にどうぞ。」
サクヤ「そうだ、そう言えば、君たちは一体、」
アリシャ「ねェ、キミたち、スプリガン=ウンディーネの大使と、その護衛って本当なの?」

並んだ二人の領主が、疑問符を浮べながら俺達を見て来た。
俺は領主二人に言った。

キリト「勿論大嘘だ。 ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション。」
シンタロー「俺達はそれに乗っただけ。 でも、もうちょっとマシなウソつけなかったのかよ。」
キリト「仕方ないだろ。 パッと思い付いたのがソレだったんだから。」
サクヤ、アリシャ「「な――……」」

二人の領主は口を開け、絶句した。
それからサクヤが口を開いた。

サクヤ「まったく無茶な事をするな。 あの状況でそんな大法螺を吹き、それに乗るとは、」
キリト「手札がショボイ時はとりあえずレイズする主義なんだ。」
サクラ「私達は何時もキリトの無茶に付き合っていたから。」

すると、それを聞いたアリシャ・ルーは突然二ィッと悪戯っぽい笑みを浮かべると、数歩進み出でて、俺達を覗き込んだ。

アリシャ「おーうそつきくんにしてはキミたち、ずいぶん強いネ? 知ってる? さっきのユージーン将軍とアレク、レンは、ALO最強って言われているんだヨ。 それに正面から勝っちゃうなんて、秘密兵器、だったりするのかな?」
キリト「いや、俺たちはしがない用心棒だよ。 ギルドをこれから作ろうとしてるんだ。 生憎とギルドマスターが不在だけど。」
アリシャ「ぷっ。 にゃはははは」

アリシャは大きく笑うと、俺とユウキに顔を近づけて来た。

アリシャ「フリーなら、キミたち、ケットシー領で傭兵やらない? 三食おやつに昼寝付きだヨ。」
キリト「へっ」

サクヤはアリシャを退けてから、

サクヤ「おいおいルー、抜け駆けはよくないぞ。 キリト君とシンタロー君、それにサクラ君と言ったかな。 どうかな、個人的興味もあるので礼も兼ねてこの後スイルベーンで酒でも、もちろんお仲間の分も私が出そう。」

サクヤが腕を絡ませ、俺の腕に当ててくる。
何をとは言わないが。

アリシャ「あー、サクヤちゃんズルーイ。 早い者勝ちだヨ。」
サクヤ「それを言うならこのパーティーのほとんどはシルフだ。」
アリシャ「色仕掛けもしてるシ。」
サクヤ「お前が言えたことか!」

二人の口論+二人の色仕掛けで俺が困惑していると、

パシャッ

サクマがいつの間にかスクショしていた。

サクマ「よっしゃ。 アスナに教えてやろ。」
キリト「て、てめぇー! 止めろー!!」

サクマと俺の追いかけっこが始まる。

リーファ「 えっとー、実は私が皆を《アルン》まで連れて行く約束をしてるの。」
サクヤ「ほう、そうか、それは残念。」

サクヤは、残念そうに引き下がった。

サクヤ「アルンに行くのか、リーファ。 物見遊山か?
それとも、」
リーファ「領地を出る、つもりだったんだけどね。
でも、いつになるか分らないけど、きっとスイルベーンに帰るわ。」
サクヤ「そうか。 ほっとしたよ。 必ず戻って来てくれよ、彼等も一緒にな。 」

サクヤに続いてアリシャが言った。

アリシャ「途中でウチにも寄ってネ。 大歓迎するヨ。」

二人の領主は表情を改め、俺とユウキに一礼した。
顔を上げたサクヤが言った。

サクヤ「今回は本当にありがとう、リーファ、キリト君、サクラ君、シンタロー君。 私たちが討たれていたらサラマンダーとの格差は決定的なものになっていただろう。 何か礼をしたいが、」
キリト「いや、そんな、あ、そうだ。 今回の同盟って、世界樹攻略の為なんだよな?」
サクヤ「ああ、まぁ、最終的にはな。」
キリト「俺達もそれに同行していいか?」

キリトの言葉にサクヤとアリシャは顔を見合わせる。

サクヤ「同行は構わない。 と言うよりこちらから頼みたいほどだよ。 しかし、なぜ?」
キリト「俺たちがこの世界に来たのは、世界樹の上に行きたいからなんだ。 そこに居るかもしれない、ある人達に会うために、」
サクヤ「人? 妖精王オベイロンのことか?」
キリト「いや、違うはずだ。 リアルで連絡が取れないんだけど、どうしても会わないといけないんだ。」

俺の言葉に興味が引かれたアリシャが言った。

アリシャ「へぇェ、『世界樹の上で待っている人が居る』。 何だかミステリアスな話だネ?」

だが、すぐに申し訳なさそうに、

アリシャ「でも、攻略メンバー全員の装備を整えるのに、しばらくかかると思うんだヨ。 とても一日や二日じゃ、」
キリト「そうか、そうだよな。 いや、俺たちも取り敢えず樹の根元に行くのが目的だから、あとは何とかするよ。 あ、そうだ。 これを資金の足しにしてくれ。」

そう言って、俺はウインドウを手早く操り、かなり大きな革袋をオブジェクト化させる。

サクラ「じゃあ、私も。」

サクラも革袋を出す。
俺のよりも大きい。
それを受け取ったアリシャとサクヤが一瞬ふらついてから、革袋の中を覗き込んで眼を丸くした。

サクヤ「十万ユルドミスリル貨、これ全部。」

サクヤは摘まみ出したのは、青白く輝く大きなコインだった。

サクヤ「いいのか? 一等地にちょっとした城が建つぞ。」
キリト「構わない。 俺にはもう必要ない。」

俺は何の執着も無さそうに頷く。

サクラ「私の方は貸しにしとくわ。 ちゃんと返してね。 ギルドの資金だから。 あ、返し方は別にお金じゃなくて良いから。」

再び革袋を覗き込んだサクヤとアリシャは、『ほうーっ』と深く嘆息してから顔を上げた。

アリシャ「これだけあれば、かなり目標金額に近づけると思うヨー。 にしても、こんなデカイ借金どうしようカ。」
サクヤ「大至急装備を揃えて、準備が出来たら連絡させてもらう。 さて、さっさとケットシー領に引っ込むとしよう。 こんな大金、持って襲われたらと思うとゾッとする。」
キリト「よろしく頼む。」

二人の領主は手を振りながら一直線に上昇すると、赤く染まった空に進路を向け、その後を六人の護衛が美しい隊列を組んで追っていく。
夕焼けの中に彼らの姿が消えてしまうまで俺達は無言で見送った。
沈黙を破ったのはリーファだった。

リーファ「じゃあ、行こうか? 日が暮れちゃうよ。」
キリト「あぁ、行くか。」

そう言ってから、俺たちは地を蹴る。
俺たちは世界樹に向かって、大きく翅を振るわせながら加速を開始した。

~side out~ 
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