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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第四十五話 地底湖での戦い

~キリト side~

数分の飛行で、俺達は洞窟の入り口まで辿り着いた。
その洞窟は、ほぼ垂直に切り立った一枚岩を中心に、四角い穴が開いている。
入り口の周囲は、不気味な怪物の彫刻が飾られていた。

キリト「この洞窟、名前はあるのか?」

俺の問いに、リーファは頷きつつ答えた。

リーファ「《ルグルー回廊》って言うのよ。 ルグルーってのが鉱山都市の名前。」

俺達は言葉を交わした後、洞窟の中へと歩き出した。
外から差し込む光もすぐに薄れ、徐々に視界が暗くなり始めた。
リーファが魔法で灯あかりを灯ともそうと手を上げてから、ふと思いついて俺を見た。

リーファ「そう言えば、皆は魔法スキル上げているの?」
キリト「あー、まぁ、種族の初期設定のやつだけなら。 使ったことあんまりないけど。」
サクマ「あんまり、じゃなくて、まったく、だろ。 俺は初期と炎と水を上げてる。」
ユージオ「僕は種族の初期設定と、氷魔法を上げているよ。」
シンタロー「俺は取り合えず入れられるだけ入れた。 つまり、ほぼ全部だな。」
アリス「私は回復と風の魔法を。」
コジロウ「俺は強化魔法と地属性の魔法を。」
リーファ「じゃあキリト君。 スプリガンの得意分野の灯り術をお願い、風魔法よりいいのがあるはずだから。」
キリト「えーと、ユイ、シンタロー、分かる?」

頭を掻きながら俺が言うと、ユイとシンタローに溜息をつかれた。

ユイ「もう、パパ、マニュアルくらい見ておいたほうがいいですよ。 灯りの魔法はですね。」

ユイが発声したスペルワードを、俺は右手を掲げながら覚束ない調子で繰り返した。
右手から灰色の波動が広がり、それがリーファの体を包んだ途端、リーファの視界が明るくなった。
続けて、自分にも暗視付与魔法をかけ、視界を明るくした。

リーファ「わぁ、これは便利ね。 スプリガンも捨てたもんじゃないわね。」
キリト「あ、その言われ方なんか傷つく。」
シンタロー「実際そうだろ。 とりあえず使える魔法は覚えとけ。」
リーファ「シンタローさんの言う通りだよ。 使える魔法は暗記しといたほうがいいわよ、いくらスプリガンのしょぼい魔法でも、それが生死を分ける事だってひょっとしたらあるかもしれないしね。」
キリト「うわ、さらに傷つく。」

軽口を叩きながら、曲がりくねった洞窟を下っていく。
いつの間にか、入り口の白い光はすっかり見えなくなっていた。

キリト「うええーと、アール・デナ、レイ、」

俺は紫に発光するリファレンスマニュアルを覗き込み、覚束ない口調でスペルワードをぶつぶつと呟いていた。

ユージオ「つっかえていたら魔法が発動しないよ。」

ユージオにそう言われ、俺は深い溜息と共にがっくりと項垂れる。

キリト「まさかゲームの中で英単語の勉強みたいな真似をすることになるとは思わなかったなぁ、俺はもうピュアファイターでいいよ。」
アリス「はいはい、泣き言を言ってる暇があるなら、最初からもう一回言って、早く覚えてください。」
キリト「あい。」
シンタロー「英単語の暗記なんて簡単だろ。」
キリト「お前にだけは言われたくない!」
サクラ「アーサーだったら直ぐに覚えたと思うけど。」
キリト「・・・確かに。」
サクマ「そう思ったなら、負けないように頑張れ。」
キリト「ウイッス。」

洞窟に入って数時間が経過していた。
オークとの戦闘も難なく切り抜け、スイルベーンで仕入れておいたマップのお陰で迷うことなく、順調に洞窟内を進んでいた。
マップによればこの先に、広大な地底湖に架かる橋があり、それを渡ればいよいよ地底鉱山都市ルグルーに到着することになる。
突然『ルルル』と電話の呼び出し音に似たサウンドエフェクトが鳴り、リーファが足を止めた。

リーファは顔を上げ、俺達に声を掛けた。

リーファ「あ、メッセージ入った。 ごめん、ちょっと待って。」
キリト「ああ」

リーファは立ち止まりウインドウを開くと、送られて来たメッセージに目を通す。

リーファ「なんじゃこりゃ?」

リーファが呟いた。

リーファ「エス、さ、し、す、うーん。」
キリト「どうした?」
リーファ「コレなんだけど。」

俺がリーファに聞いた。
するとリーファはこっちにそのメッセージを見せる。
【やっぱり思ったとおりだった! 気をつけてs】
書かれていた内容はこれだけであった。
その時、俺の胸ポケットからぴょこんとユイが顔を出した。

ユイ「パパ。 接近する反応があります。」
キリト「モンスターか?」
ユイ「いえ、プレイヤーです。 それも十二人。」
リーファ「じゅうに!?」

リーファはユイの言葉に絶句した。
通常の戦闘単位にしては多すぎる人数だ。

リーファ「ちょっとヤな予感がするの。 隠れてやり過ごそう。」

隠れようとしたその時、コジロウが思いついたように言葉を発した。

コジロウ「此処で返り討ちにしちゃいましょう。」
サクマ「お、それもいいな。」
「あ、そうでした。 その手が有りましたね。」

リーファは、俺とユウキとユイの言葉に口をポカンと開けてしまった。

リーファ「ちょ、ちょっと待って。 ここは隠れようよ。」
キリト「そう言うなら隠れるか。 でもこの人数でどうやって隠れるんだ?」
リーファ「あ、それもそうね。 じゃあ、シンタローさん達とサクラさんは先に行っててくれる?」
シンタロー「分かった。 道はこのまま真っ直ぐでいいんだな?」
リーファ「うん。」

シンタロー達が先に行くと

リーファ「じゃあ、ここに隠れようか。」

リーファはそう言うと、俺の手を取り、手近な窪みに引っ張り込んだ後、左手を上げスペルを詠唱する。
すると、緑に輝く空気の渦が発生し、窪みの前に薄緑色の膜が張られた。
この魔法によって、外部からはほぼ完全に隠蔽されるのだ。
リーファは、俺達を見ると小声で囁いた。

リーファ「喋るときは最低のボリュームでね。 あんまり大きい声を出すと魔法が解けちゃうから。」
キリト「了解。 便利な魔法だなぁ。 狭いけど。」

俺が風の膜を見回していたら、ユイがポケットから顔を出し、ひそひそと囁いた。

ユイ「あと二分ほどで視界に入ります。」

俺達は首を縮め、岩肌に体を押し付ける。
やがてザッザッという足音が微かに届いてきた。
俺は首を伸ばし、不明集団が接近してくる方向を睨んだ。

キリト「あれは、何だ?」
ユージオ「あれって?」

ユージオも首を伸ばした。

ユージオ「あっ、ホントだ。 何かいる。」

ユージオも俺が見ている物に気付いたようだ。

リーファ「何、二人して。 まだ、何も見えないでしょ?」
キリト「いや、赤い、ちっちゃいコウモリが見える。 あの赤いコウモリは、モンスターなのか?」
リーファ「!?」

リーファは息を呑んで眼を凝らした。
洞窟の暗闇の中を、確かに小さな赤い影がひらひらと飛翔し、こっちに近づいてくる。
あれは――

リーファ「やられたっ!?」

リーファは窪みから道の真ん中に転がり出た為、自動的に隠蔽魔法が解除される。

キリト「お、おい、どうしたんだよ。」
アリス「どうかしました? リーファ。」
リーファ「あれは、高位魔法のトレーシング・サーチャーよ!! 潰さないと!!」

リーファは両手を前に掲げ、スペル詠唱を開始。
長めのワードを唱え終えると、リーファの指先からエメラルド色に光る針が無数に発射された。
この攻撃により赤いコウモリは、赤い炎に包まれて消滅した。
リーファは身を翻すと俺達に向かって叫んだ。

リーファ「街まで走るよ、皆。」
コジロウ「え、逃げるんですか?」
サクマ「俺は此処で戦ってもいいんだが、」
リーファ「まぁ、とにかく逃げるよ。 それに、さっきのは火属性の使い魔なの。 ってことは、今接近しているパーティーは、」
キリト「サラマンダーか。」
ユージオ「サラマンダーって、最初に会ったときリーファを襲ってた人達だよね?」
リーファ「そうよ。」

俺達がやり取りをしている間にも金属音の混じった足音が大きくなっていく。

リーファ「行こう。」

頷き合い、俺達は走り出した。
一目散に駆けながらリーファがマップを広げて確認した後、俺達に声を掛けてきた。

リーファ「この一本道はもうすぐ終わり、その先に大きな地底湖が広がっているの。 湖に架かっている橋を一直線に渡れば、鉱山都市ルグル―の門に飛び込むことができるわ。 門を潜れば安全よ。」
キリト「了解!!」
リーファ(でも、どうしてこんなところにサラマンダーの大集団が。 今は、此処から逃げ切ることが先決ね。)

橋に入ると、周囲の温度が僅かに下がった。
ひんやりと水の香りがする空気を切り裂いて疾駆する。

キリト「どうやら逃げ切れそうだな。」
リーファ「油断して落っこちないでよ。 水中に大型のモンスターがいるから。」

俺たちは短く言葉を交わした直後だった、背後から二つの光点が高速で通過したのだ。
その二つの光点は、門の手前に落下した。
すると、重々しい轟音と共に、橋の表面から巨大な岩壁が高くせり上がり、行く手を完全に塞いだ。

リーファ「やばっ」
ユージオ「やっぱり、そう簡単には逃がしてくれないよね。」
サクマ「まぁ、そうだよな。」

俺達は逃げるのを諦め、壁の前で立ち止まった。

アリス「この壁って壊せますか?」
リーファ「これは土魔法の障壁だから物理攻撃じゃ破れないわ。 攻撃魔法をいっぱい撃ち込めば破壊できるんだけど、」
サクマ「まだそんなに強い魔法は使えないし、時間も無いか。」

俺達はサクマの言葉に頷き、武器を手にした。

リーファ「うん。 戦うしかないんだけど、ちょっとヤバいかもよ。 サラマンダーがこんな高位の土魔法を使えるってことは、よっぽど手練のメイジが混ざっているんだわ。」
キリト「ま、何とかなるだろ。 リーファはヒール役頼む。」
サクマ「さーて、久々に一暴れするか。」
コジロウ「肩慣らし、と言ったところですね。」
アリス「これからに備えて戦い方も知っておきたいですし。」
ユージオ「サクッ、と殲滅出来ればいいけど、」
キリト「殺ってやるか。」

全員、やる気は十分、いや、十二分ある。
リーファはヒール役に徹する為、橋を遮る岩壁ぎりぎりの場所まで退いている。
目の前では、重い金属音を響かせながら接近してくる敵集団をはっきりと目視出来る。
先頭、横一列に並んだ巨漢のサラマンダー三人は、分厚いアーマーに身を固め、右手にメイスなどの片手武器、左手に巨大な金属盾を携えている。
俺は腰を落とすと体を捻り、巨剣を後ろ一杯に引き絞り、横一列に並ぶ重戦士に斬りかかる。

キリト「っはぁ!」

気合いと共に、重戦士たちに向かって横薙ぎに叩きつけたが、三人のサラマンダーは武器を振りかぶることもせず、右手の盾を前面に突き出して体を隠し、攻撃に耐え切った。
三人のサラマンダーのHPバーは、揃って一割以上減少している。
だがそれも束の間、後方からヒール詠唱が響き、三人のサラマンダーのHPバーを瞬時にフル回復させた。
大型シールドの後方から、オレンジ色に光る火球が次々に発射され、俺が居る場所に向かってくる。

キリト「マジかっ!」

俺はそれをバックステップで避けていく。
その隣をアリスとユージオが突進していく、恐らくギリギリ魔法の当たらないコースを通っているのだろう。

アリス、ユージオ「「はあっ!!」」

二人で同時に盾装備のサラマンダーの真ん中の奴を突きで攻撃する。
この相手の陣は恐らく対ボス用。
それゆえに前の三人を同時に攻撃しようとするなら一人に与えられるパワーは3分の1となり、ろくなダメージは入らず、すぐに回復され、魔法によって攻撃される。
この陣を崩すなら前の三人の内、一人に狙いを定め、そいつから壁を崩していけば良い。
一度崩れた壁はそこを中心に周りも崩れていく。
よって、アリスとユージオがその壁の穴を作り、そこから崩す。
そして、出来た穴にサクマとコジロウが入って相手を中から倒していく。
コイツら対人戦は大した事無さそうだし。
俺も参加しよ。

そして、数分後、こちらの被害は全く無く、サラマンダーは最後の一人になった。

リーファ「さぁ、誰の命令か吐いてもらうわよ!!」

男は顔面を蒼白にしながら首を振った。

「こ、殺すなら殺しやがれ!」
リーファ「この……!」
アリス「リーファ、少し見ててください。」

アリスが前に出て、男と交渉する


アリス「もちろん、タダでとは言いません。 先程の戦闘で貴方の仲間がドロップした金、アイテムは全て差し上げます。 それで如何でしょうか?」

男は、死亡した仲間のサラマンダーがセーブポイントに転送されたのを確認してから口を開いた。

「マジ?」
アリス「取り引きで嘘はつきません。」

男は、話し出すと饒舌であった。

「今日の夕方かなぁ、ジータクスさん。 あ、さっきのメイジ隊のリーダなんだけどさ、あの人から携帯メールで呼び出されてさ、俺飯食ってたから断ろうと思ったら強制だっていうじゃん、で、入ってみたら二十ちょいを十何人で狩る作戦だっつうんだよ。 バカかよって思ったんだけどさ、昨日カゲムネさんをやった相手だっつうし、その大体半分はニュービーだっつうからなるほどなって。」
ユージオ「そのカゲムネさんってのは?」
「ランス隊の隊長だよ。 シルフ狩りの名人なんだけどさ、昨日珍しくコテンパンにやられて逃げ帰ってきたんだよね。 あんたらがやったんだろ?」

おそらく昨日撃退したサラマンダー部隊のリーダーのことだな。

アリス「で、そのジータクスさんは何故私達を?」
「ジータクスさんよりももっと上の命令だったみたいだぜ。 なんか、《作戦》の邪魔になるとか。」
キリト「作戦って?」
「サラマンダーの上のほうで何か動いてるっぽいんだよね。 俺みたいな下っぱには教えてくれないんだけどさ、相当でかいこと狙ってるみたいだぜ。 今日入った時、すげぇ人数の軍隊が北に飛んで行くのを見たよ。」 
リーファ「北、」

サラマンダーと俺達の会話を聞いていたリーファがポツリと呟いた。
リーファは唇に指をあて、考え込んだ。
アルブヘイムのほぼ南端にあるサラマンダー領の主都《ガタン》から真っ直ぐ飛ぶと、現在通過中の環状山脈にぶつかる。
そこから西に回ればこのルグルー回廊があるし、東に行けば山脈の切れ目の一つ《竜の谷》がある。
どちらを通過するにしても、その先にあるのは《央都アルン》、そして《世界樹》だ。

リーファ「世界樹攻略に挑戦する気なの?」

リーファの問いに、男は首を横に振った。

「まさか。 さすがに前の全滅に懲りたらしくて、最低でも全軍に古代武具級の装備が必要だってんで金貯めているとこだぜ。 ま、俺が知っているのはこんなとこだ。 さっきの話、本当だろうな?」
アリス「取引で嘘はつかないと言ったじゃないですか。」

俺達はトレードウインドウを操作した。
トレードが完了するとサラマンダーの男は、元来た方向に消えて行った。

リーファ「交渉上手いんだね。」
アリス「いえ、これでもまだシンタローには及びません。 私はただギブアンドテイクまで持っていっただけですから。」
キリト「シンタローだったら上手く挑発して向こうがベラベラ喋るように仕組むさ。」
リーファ「へ、へー。 そうなんだ。 それより、皆サラマンダーのドロップ全部あげちゃうなんて太っ腹だね。」
サクマ「え、ガチで全部渡したと思ってんの?」
リーファ「へ?」
アリス「装備は全て渡しました。 使いませんし。 ですがユルドと回復アイテムは少し誤魔化しましたよ。」
リーファ「ちゃ、ちゃっかりしてると言うか、何と言うか。」
サクマ「それより、さっさと中入ろうぜ。」

俺達はサラマンダーとの戦闘を潜り抜け、鉱山都市に足を向けた。

中に入るとシンタロー達が待っていた。

シンタロー「よう、やっぱりお前らだったか。」
コジロウ「はい。 少しトラブルがありまして。」
シンタロー「まぁいいや。 良さげな宿が有ったからそこで一回セーブしようぜ。」

補給と、色々気になることが出来たので、情報整理も兼ねてこの街で一泊することにした。
リアル時刻は既に深夜0時に近い。
取り合えず宿に向かいつつリーファに質問する。

キリト「そう言えばさぁ、サラマンダーズに襲われる前、何かメッセージ届いてなかったか? あれはなんだったんだ?」

俺の質問に、リーファは思い出したように呟いた。

リーファ「あ、忘れてた。」

リーファはウインドウを開いて、メッセージを改めて読み返したが、さっぱり意味が解らない。
それに、続きも届いていなかった。
こちらからメッセージを打って確認しようとしたが、フレンドリストのレコンの名前はオフラインになっていた。

リーファ「何よ、寝ちゃったのかな。」
アリス「一応《向こう》で確認を取ってみたらどうですか?」

ユウキの言葉に数秒考え込んでから、頷いた。

リーファ「じゃあ、ちょっとだけ落ちて確認してくるから待ってて。」
キリト「わかった。 じゃあ俺は、手近にある屋台で何か買って食べてるわ。」
シンタロー「俺は矢の補給。」

などと各自散っていく。
リーファは手近なベンチに座ると左手を振ってウインドウを出し、ログアウトボタンを押し、現実世界に還った。
レコンに確認を取る為に。
これから確認することが、今後の事を左右する重要な事だとは知る由もなかった。

しばらくして、俺の眼の前でリーファが眼を見開き、同時に勢い良く立ち上がった。

キリト「うわっ!」

俺はビックリして、屋台で買った串焼きを取り落としそうになったが、危うく握り直した。

キリト「お、お帰り、リーファ。」
ユイ「おかえりなさいです」

口々に言う俺とユイに向かって、リーファは『ただいま』を言う間も惜しんで口を開いた。

リーファ「皆、ごめんなさい。」
キリト「どうした?」
リーファ「あたし、急いで行かなきゃいけない用事が出来ちゃった。 説明している時間もなさそうなの。 多分、此処にも帰ってこられないかもしれない。」

俺達は一瞬リーファを見詰め、すぐに頷いた。

サクマ「そうか。 じゃあ、移動しながら話を聞こう。」
リーファ「え?」
シンタロー「あぁ、そうだな。 どっちにしても此処から足を使って出なくちゃいけないんだろ?」
リーファ「わかった。 じゃあ、走りながら話すね。」

ルグル―の目貫通りを、アルン側の門目指して俺たちは駆け出した。
幸いこの世界では、どれだけ走ろうと息切れをすることは無い。

リーファの話を簡単に纏めるとこうだ。
《風の塔》のエレベータ前で、俺たちが出会ったシグルドというシルフ男は、敵対関係にあるサラマンダーと内通していた。
シグルドは、リーファとレコンを売った。
いや、シルフ族を売ったのだ、領主サクヤ諸共もろとも。
そして今日、領主サクヤがケットシーと正式に同盟を調印する為、極秘で中立域に出ているらしい。
シグルドはサラマンダーの大部隊に、その調印式を襲わせる気だと。
まぁ、レコンは尾行に見つかってしまって、サラマンダーとシグルドの会話を聞いている途中で、毒矢を撃ち込まれたらしい。
だから、リーファに送ったメッセージが途切れていた、と言うことだ。

キリト「じゃあ、いくつか聞いていいかな。」

俺は幾つか気になる事があったので、リーファに質問をすることにした。

リーファ「どうぞ。」
キリト「シルフとケットシーの領主を襲うことで、サラマンダーにはどんなメリットがあるんだ?」
リーファ「えーと、まず、同盟を邪魔出来るよね。 シルフ側から漏れた情報で領主が討たれたらケットシー側は黙っていないでしょう。 それに最悪、シルフとケットシーの間で戦争になるかもしれないわ。 サラマンダーは今最大勢力だけど、シルフとケットシーが連合すれば、多分パワーバランスが逆転するだろうから、それを何としても阻止したいんだと思うよ。」
キリト「なるほど。」
リーファ「あと、領主を討つことによって、討たれた側の領主館に蓄積されている資金の三割を無条件で入手出来るし、十間日、領内の街を占領条件にして税金を自由に掛けられる。 それにサラマンダーが最大勢力になったのは、昔、シルフ最初の領主を罠にはめて殺したからなんだ。 普段領主は中立域には出ないからね。 ALO史上、後にも先にもあるのはその一回だけ、だからねお兄ちゃん、皆。」

リーファは言葉を続ける。

リーファ「これは、シルフ族の問題だから、これ以上キミ達が付き合ってくれる理由はないよ。 この洞窟を出ればアルンまでもうすぐだし、多分会談場に行ったら生きて帰ってこれないから、またスイルベーンから出直しで、何時間も無駄になるだろうね。 それに、世界樹に行きたい、っていうお兄ちゃんと木綿季ちゃんの目的の為には、サラマンダーに協力するのが最善かもしれない。 サラマンダーがこの作戦に成功すれば、十分な資金を得て万全の体制で世界樹攻略に挑むと思う。 皆なら、傭兵として雇ってくれるかもしれないし。 今此処で、あたしを斬っても文句は言わないわ。」

しばらく考えて俺が口を開いた。

キリト「所詮ゲームなんだから何でもありだ。 殺したければ殺すし、奪いたければ奪う。 そんな風に言う奴には、嫌っていうほど出くわしたよ。 一面ではそれも事実だ。 俺も昔はそう思っていた。 でも、そうじゃないんだ。  仮想世界だからこそ、どんなに愚かしく見えても、守らなきゃならないものがある。 俺はそれを大切な人から学んだよ。 そしてその人は、俺の傍にずっと居てくれて、支えてくれたんだ。 なあ、皆。」

SAOメンバーが黙って頷く。

リーファ「お兄ちゃん、皆。 ありがとう、じゃあ、洞窟を出たところでお別れだね。」
キリト「いや、今の流れだと俺たちも行くぞ。」
シンタロー「あぁ、まぁなんとかなるさ。 サラマンダーの大部隊が襲ってきても、このメンバーなら返り討ちに出来る。」
ユージオ「さっきのが丁度良い準備運動になったしね。」
キリト「そうと決まったら急ごうか。 ユイ、走るからナビよろしく。」
ユイ「りょーかいです!」

俺の肩に乗ったユイが頷くのを確認してから、リーファに向かって、

キリト「ちょっとお手を拝借。」

他のメンバーもメカクシ団のそれぞれの手を握る。

リーファ「え?」

次の瞬間、俺達は猛烈なスピードで駆け出した。
手を握っているリーファの体は殆んど水平に浮き上がり、洞窟の湾曲に沿ってコーナリングするたび左右にぶんぶん振り回される。

リーファ「きゃぁぁぁぁぁあああああ!!??」

何度かオーク、その他のモンスターにエンカウントしたが、俺達は足を止める事なくすり抜けを繰り返した。
結果、背後にはモンスター集団が形成され、地響きを立てて追いかけて来る。
まぁ、《トレイン》と呼ばれる非マナー行為なんだが。
前方に白い光が見え始めた。

キリト「お、出口かな。」

直後足元から地面が消えた。
リーファは慌てて翅を広げ、詰めていた息をいっぺんに吐き出した。
リーファはぜいぜいと荒い呼吸を繰り返しながら、俺を見てきた。

リーファ「寿命が縮んだわよ!」
キリト「ははは、時間短縮になったじゃないか。 っと、あれが世界樹か。」

雲海の彼方に巨大な影が見える。
空を支える柱かと思うほどに太い幹が垂直に天地を貫き、上部には巨大な枝葉が伸びている
それから暫く無言で世界樹を眺めていたが、俺は我に返り、リーファに聞いた。

キリト「と、こうしちゃいられない。 リーファ、領主会談の場所ってのはどの辺りなんだ?」
リーファ「ええと、確か、北西の方角に見える《蝶の谷》。 会談場所はその蝶の谷の、内陸の出口で行われるわ。」

リーファはぐるりと視線を巡らせると、その方角を指した。

キリト「了解。 残り時間は?」
リーファ「あと、二十分かな。」
ユージオ「じゃあ、早く行かないとね。 先を急ごうか。 ユイちゃん、サーチ圏に大人数の反応があったら知らせてね。」
ユイ「了解です、ユージオさん!」
キリト「頼むから間に合ってくれよ。」

ユイが俺の胸ポケットに入るのを確認してから、俺達は翅を鳴らして加速に入った。

~side out~ 
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