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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第四十三話 世界樹目指して

~キリト side~

昨日、スイルベーンで寝落ちして、ログアウトしたとき、桜さんからメールがあった。
何だか嫌な予感がするとの事。
けど、思い当たる節も無いのでその時は気のせいと言うことになった。
そして今日。
現在の時刻、午後二時五十分。
俺達はもう一度ALOにログインした。
鈴蘭亭のベットから体を起こす。
そして、下に降りる。
その時にユージオ、アリス、シンタローと合流。
奥のテーブルに姿を現した俺達は、数回瞬きしてから、近づくリーファを見て微笑んだ。

キリト「よう。 早いな。」
アリス「こんにちは、リーファ。」
ユージオ「こんにちは。」

俺は、軽く手を上げ、アリスとユージオは挨拶をして、シンタローは軽く頭を下げた。

リーファ「こんにちは。 さっき来たとこなの。 ちょっと買い物してた。」
キリト「シンタロー、全員の装備は?」
シンタロー「来てから決める。 後少ししたら来るはず。」
リーファ「道具類は、一通り買ったけど、流石に全員分はキツくて、」
シンタロー「足りない分はこっちから出すさ。」
リーファ「お金有るの?」
ユージオ「そう簡単に使いきれないほど。」
キリト「おーい起きろ。 ユイ」

俺がユイを呼ぶと、ユイは俺の胸ポケットから眠そうな顔を出し、大きな欠伸をした。

ユイ「ふぁー、おはようございます。 パパ。」
キリト「おはよう、ユイ」

俺はユイにニッコリと笑うと、次いでシンタローを見た。

キリト「じゃあ、来るまで消耗品買っとくか。」
シンタロー「だな。」

そして消耗品を買い、待つこと数分、全員が揃った。

シンタロー「よし、じゃあ装備買いに行くぞ。」

そして、武具店、SAO組は茅場のお陰で武器、防具を買う必要は無かったのだが、シンタローが弓と矢を買った。
本人曰く、後衛に専念するらしい。

そして、キドは刀、カノとヒビヤは片手剣、セトは両手剣、マリーとモモは短剣、ヒヨリは細剣になった。
防具は全てシンタローが選んだ。

ユイを肩に乗せた俺と、俺の隣を歩いているサクマ、そして俺達の前方を歩いているリーファ。
歩くこと数分、俺達の眼の前に、翡翠に輝く優美な塔が現れた。
シルフ領のシンボル、《風の塔》だ。
俺は昨日激突した壁を見て、少し顔を強張らせてしまった。

シンタロー「そう言えばキリトはあの塔に突っ込んだんだよな。」
リーファ「すごい音だったよね。」

こちらを振り向いたリーファにも言われた。

キリト「それはそうと、なんで塔に? 用事でもあるのか?」

俺がリーファに訊ねた。

リーファ「ああ、長距離を飛ぶときは塔の天辺から出発するのよ。 高度が稼げるから。」

リーファは俺とサクマの背を押しながら、歩きだした。

リーファ「さ、行こ! 夜までに森を抜けておきたいね。」
キリト「俺はまったく地理がわからないからなぁ。 案内よろしく。」
リーファ「任せなさい!」

リーファはトンと胸を一回叩いてから、ふと思いついて視線を塔の奥へと移した。
そこには、シルフ領主館の壮麗なシルエットが朝焼けに浮かんでいた。
だが、建物の中心に屹立する細いポールにはシルフの紋章旗が揚がっていない。
今日一日領主が不在だという印だ。

サクマ「どうかしたのか?」
リーファ「うん。 知り合いに挨拶をしていこうと思ったんだけど、今は不在らしいから後でメールをしておこうかなって。」
キリト「なんか悪いな。」
リーファ「大丈夫だよ。 謝らないでよ。」

リーファは慌て、両手を左右に振って言ってくれた。

リーファ「さ、行こっか。」

俺たちは、風の塔の正面扉を潜って内部へと進む。
一階は円形の広大なロビーになっており、周囲を色々なショップの類が取り囲んでいる。
ロビーの中央にはエレベータが二基設置させている。

リーファ「このエレベータに乗って頂上に行くよ。」
キリト「おう。」

エレベータに乗り込もうとした時、不意に傍らから数人のプレイヤーが現れ、俺達の行く手を塞いだ。
激突する寸前で、先頭に居たリーファは如何にか翅を広げて踏み止まる。

リーファ「ちょっと危ないじゃない!」

リーファが反射的に文句を言いながら、眼の前に立ち塞がる長身の男を見上げると、それはどうやらリーファの知り合いみたいだ。
兄としてはこんな柄の悪そうな奴と付き合いを持って欲しくない。
シルフにしては図抜けた背丈に、荒削りだが男っぽく整った顔。
やや厚めの銀のアーマーに身を包み、腰には大ぶりのロングソード。
額に幅広の銀のバンド巻き、波打つ濃緑の髪を肩の下まで垂らしている。

リーファ「こんにちは、シグルド。」

リーファは挨拶したが、シグルドと呼ばれた男はそれに応える心境ではないらしく、唸り声を交えながら行き成り切り出した。

シグルド「パーティーから抜ける気なのか、リーファ。」

リーファはこくりと頷いた。

リーファ「うん、まぁね。 貯金もだいぶできたし、しばらくのんびりしようと思って。」
シグルド「勝手だな。 残りのメンバーが迷惑するとは思わないのか。」
リーファ「ちょっ、勝手!?」
シグルド「お前はオレのパーティーの一員として既に名が通っている。 そのお前が理由もなく抜けて他のパーティーに入ったりすれば、こちらの顔に泥を塗られることになる。」

何だコイツ。
自分勝手なのはお前だろ。
どうせスグは条件出してたんだろ。

キリト「仲間はアイテムじゃないぜ。」
シグルド「なんだと?」

俺は一歩踏み出し、リーファの間に割って入り、シグルドに向き合った。

キリト「他のプレイヤーを、あんたの大事な剣や鎧みたいに、装備欄にロックしておくことはできないって言ったのさ。」
シグルド「き、貴様等っ!」
サクマ「おい、少しは言い方考えろ。 悪いな。 コイツもそこそこ血の気が多いから。 ところで、リーファはアンタに条件を出してたんじゃないのか?」
シグルド「・・・出してたら何だと言うんだ。」
サクマ「出してたら勝手なのはアンタの方だ。 リーファが条件を出してた以上、それは守るのがルールだ。」
シグルド「このっ、トカゲがっ。」

シグルドが自分の剣に手をかけると、

サクマ「へぇ、論破されたら今度は実力で黙らせようってか? やってみろ。 こっちからはダメージを与えられなくても領地の外までぶっ飛ばして殺すから。」
リーファ「ちょっ、ストップ! 大事にしないで!」

そう言って刀に手を伸ばしてたサクマを止めると、シグルドに向き合い、

リーファ「私、ここから出ていくから。」
シグルド「っ、レネゲイドになるつもりか。」
リーファ「ええ、そうよ。」

自発的に領地を捨てた、あるいは領主に追放されたプレイヤーを脱領者(レネゲイド)と呼称している。
シグルドは唇を歪め、食い縛った歯を僅かに剥きだすと、ロングソードを抜き放った。

シグルド「小虫が這いまわるくらいは捨て置こうと思ったが、泥棒の真似事とは調子に乗りすぎだな。 のこのこと他種族の領地まで入ってくるからには斬られても文句は言わんだろうな?」
キリト「やれるモンならやってみろ。 ただしこっちも手加減しないぞ。」
シグルド「・・・チッ。」

シグルドは周囲に目立つことはしたくないようだ。

シグルド「せいぜい外では逃げ隠れることだな。 リーファ。」

俺達に捨て台詞を浴びせながら、睨む。

シグルド「今オレを裏切れば、近いうちに必ず後悔することになるぞ。」
リーファ「留まって後悔するよりずっとマシだわ。」
シグルド「戻りたくなった時のために、泣いて土下座する練習をしておくんだな。」

それだけ言い放つと、シグルドは身を翻し、塔の出口へ歩き始めた。
付き従う二人もシグルドを追って走り去って行った。
彼らの姿が消えると、リーファは大きく息を吐き出し、俺達を見た。

リーファ「ごめんね、妙なことに巻き込んじゃって。」
キリト「いや、俺達も火に油を注ぐ真似しちゃったし。 いいのか? 領地を捨てて。」
サクマ「今ならまだ間に合うかもしれないぞ。」
リーファ「あー、うん。 いいのよ。 あそこまで言って戻るわけにもいかないでしょ。」

と言い、リーファは俺とサクマの背中を押して歩き始めた。
野次馬の間をすり抜け、ちょうど降りて来たエレベータに乗りこむ。
最上階のボタンを押して数十秒後、エレベータが停止すると、ドアが音も無く開いた。
白い朝陽と心地良い風が同時に流れ込んで来る。
彼方に殆んど空と同化した色で高く聳える影、世界樹。

キリト「おぉ、凄い眺めだな。」
アリス「わぁー、綺麗ー。」

俺達は、リーファの後に続いてエレベータから降り、数歩歩き周囲を見回した。
アリスが珍しく感情をフルで出してる。
リーファは俺の隣に立ち、言った。

リーファ「でしょ。 この空を見ていると、小さく思えるよね、色んなことが。」

リーファは言葉を続ける。

リーファ「いいきっかけだったよ。 いつかは此処を出て行こうと思っていたの。 一人じゃ怖くて、なかなか決心がつかなかったんだけど。」
キリト「そうか。 でも、なんだか、喧嘩別れみたいな形にさせちゃって。」
サクマ「スマンな。」
リーファ「あの様子じゃ、どっちにしろ穏便には抜けられなかったよ。 なんで、」

この先は、リーファの独り言だった。

リーファ「なんで、ああやって、縛ったり縛られたりしたがるのかな。 せっかく、翅があるのにね。」

この問いに答えたのは、俺の胸ポケットから顔を出したユイであった。

ユイ「フクザツですね、人間は」

音を立てて飛び立つと俺の肩に乗り、小さな腕を組んで首を傾げる。

ユイ「ヒトを求める心を、あんなふうにややこしく表現する心理は理解できません。」

リーファはユイの顔を覗き込み、屈みこんだ。

リーファ「求める?」
ユイ「他者の心を求める衝動が人間の基本的な行動原理だとわたしは理解しています。 ゆえにそれはわたしのベースメントでもあるんですが、わたしなら、」

ユイは俺の頬に手を添えると、音高くキスをした。

ユイ「こうします。 とてもシンプルで明確です。 ママもこうしていました。」

あっけに取られて目を丸くするリーファの前で、俺は苦笑いしながら指先でユイの頭を突いた。
それに、余計な事は言うなよ。

キリト「人間界はもうちょっとややこしい場所なんだよ。 気安くそんな真似したらハラスメントでバンされちゃうよ。」
ユイ「手順と様式ってやつですね。」
キリト「頼むから妙なこと覚えないでくれよ。」

俺とユイのやり取りを呆然と眺めていたリーファは、如何にか口を開いた。

リーファ「す、すごいAIだね。 プライベートピクシーってみんなそうなの?」
キリト「こいつは特に変なんだよ。 詳しくは後で話すけど。」

俺はユイの襟首を摘み上げると、ひょいと胸ポケットに放り込んだ。

リーファ「そ、そうなんだ。 人を求める心かぁ。」

リーファは、屈めていた腰を伸ばした。

リーファ「さ、そろそろ出発しようか。」

展望台の中央に設置されたロケーターストーンという石碑を使って俺達に戻り位置をセーブさせると、リーファは四枚の翅を広げて軽く震わせた。

リーファ「準備はいい?」
キリト「あぁ。」
コジロウ「何時でも。」
シンタロー「準備は出来てる。」

俺達が返事をして、俺の胸ポケットから顔を出したユイが頷くのを確認して、いざ離陸としようとした所で。

レコン「リーファちゃーん!」

エレベータから転がるように飛び出してきた少年に呼び止められ、リーファは僅かに浮いた足を再び着陸させた。

リーファ「あ、レコン。」
レコン「ひ、ひどいよ、一言声をかけてから出発してもいいじゃない。」
リーファ「ごめーん、忘れてた。」

ガクリと肩を落としたレコンは、顔を上げると真剣な表情で言った。

レコン「リーファちゃん、パーティー抜けたんだって?」
リーファ「ん、その場の勢い半分だけどね。 あんたどうすんの?」
レコン「決まっているじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げているんだから。」

レコンは短剣を空に突き上げたが、

リーファ「えー、別にいらない。」

リーファの言葉により、よろけてしまっていた。

レコン「ま、まぁそういうわけだから当然僕もついて行くよ、と言いたいところだけど、ちょっと気になることがあるんだよね。 だから、当分シグルドのパーティーに残るよ。」

確かに、何か企んでいる感じがしたしな。
レコンが俺達に向き直った。

「皆さん。 彼女、トラブルに飛び込んでいくクセがあるんで、気をつけてくださいね。」
キリト「あ、ああ、わかった。」
ユージオ「大丈夫だよ。 僕達は何時もトラブルに突っ込んでたしね。」
レコン「それから、言っておきますけど彼女は僕のンギャッ!」

語尾の悲鳴は、リーファがレコンの足を思い切り踏みつけたからだ。

リーファ「余計なこと言わなくていいのよ! しばらく中立域に居ると思うから、何かあったらメールでね!」

そう言って、リーファは翅を震わせて飛翔した。

レコン「り、リーファちゃん元気でね!! すぐ追いかけるからねー!!」

とレコンの叫び声。
俺達も飛翔し、俺はリーファの隣まで移動する。

キリト「彼、リアルでも友達なんだって?」
リーファ「まぁ、一応。」

俺の胸ポケットから顔を出したユイが言った。

ユイ「あの人の感情は理解できます。 好きなんですね、リーファさんのこと。 リーファさんはどうなんですか?」
リーファ「し、知らないわよ!!」

リーファは照れ隠しをする為、スピードを上げた。

リーファ「さ、急ごう! 一回の飛行であの湖まで行くよ!」
キリト「了解!」
サクラ「急ぎましょ!」

俺たちは思い切り翅を鳴らし空中移動を開始した。

~side out~ 
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