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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第四十二話 囚われた者達

~アスナ side~

私。 いや、私達が居る場所は、白い大理石で造られた、冷ややかな硬いテーブルと椅子。
傍らに、同じく純白の豪奢な天蓋付きベット。
白のタイルが敷き詰められた床は、端から端まで大きな真円形で、壁は全て煌く金属の格子で出来ている。
十字に交差する黄金の格子は垂直に伸び上がり、やがて半球形に閉じる。
その頂点には巨大なリングが取り付けられ、それを太い枝が貫いていて、この構造物を支えている。
つまりこの部屋は、大樹の枝から下がった金の鳥籠、私達はこの中に囚われている。

アヤノ「私達が囚われてから、何日経ってるんだろうね。」

私に声を掛けてくれた人物は、アインクラッドで《円卓の紅姫》の二つ名を持っていたアヤノさんだ。
私たちの鏡に映っていた姿は、現実世界とほぼ同じ容姿だった。
私の栗色の長い髪と、アヤノさんの黒髪も元のままであった。
私達が身に纏うのは、白い薄いワンピース一枚。
胸元に、血のように赤いリボンがあしらわれている。
私達二人の背中からは不思議な羽根が伸びている。
鳥というより妖精の翅。

アスナ「わからないです。」

私は涙を抑えながら、アヤノさんの言葉に応じた。
本当にいつもありがとう。
アヤノさんが居なかったら、私の心はすでに折れていました。
須郷の手によって。

アヤノ「そんな泣きそうな顔してたらキリトやシンタロー達が来たときに笑われちゃうよ。 今は信じて待とうよ。」
アスナ「はい。」
アヤノ「ふふっ、やっと笑ったね。」

オベイロン「その表情が一番美しいよ、ティターニア。」

金の檻の一個所、《世界樹》と呼ばれる巨大な樹に面している部分に、小さなドアが設けられている。
そのドアから入って来たのは、一人の長身の男、波打つ金髪が豊かに流れ、それを額で白銀の円冠が止めている。
体を包むのは濃緑のゆったりした長衣、これも細かな銀糸で細かい装飾が施されている。
背中からは私たちと同じように翅が伸びている。
その翅は艶のある四枚の翅、鮮やかなエメラルドグリーンの模様が入った巨大な蝶の翅。
顔は、作り物としか言いようのない程端麗だ。
滑らかな顔から連なる鋭い鼻、切れ長の双眸からは、翅と同じ色の虹彩が光を放っている。
だがそれらを台無しにしているのが、薄い唇に張り付く微笑、全てを蔑むような歪んだ笑い。
私はその人物を一瞬見ると、汚わらしいものを見たかのように視線を逸らせた。

オベイロン「泣き出す寸前のその顔がね。 凍らせて飾っておきたいくらいだよ。」
アスナ「なら、そうすればいいでしょう。 それにこんな所に閉じ込めといてよく言うわ。 それにその変な名前で呼ぶのはやめて。 私はアスナよ、オベイロン、いえ、須郷さん。」
オベイロン「ティターニア。 僕に顔を見せておくれ」

須郷は舌を舐め回し私に言った。

アスナ「嫌よ。 貴方の顔は眼に毒だわ。」
オベイロン「またつれない事を言う、でもティターニアは此処で起きたことは全部忘れ、そして僕を求めるようになる。 ふふ、時間の問題さ。」
アスナ「絶対貴方なんか求めないわよ。」
オベイロン「いや、すぐに君の感情は僕の意のままになるんだから。 ねぇ、ティターニア。」

須郷はにやにやと笑い浮かんだ顔を鳥籠の外にぐるりと巡らせる。

オベイロン「見えるだろう? この広大な世界には、今も数万人のプレイヤーがダイブし、ゲームを楽しんでいる。 しかしね、彼らは知りゃしないのさ。 フルダイブシステムが娯楽市場のためだけの技術ではないという真実をね!」

須郷は芝居がかった仕草で両手を大きく広げる。

オベイロン「冗談じゃない! こんなゲームは副産物にすぎない。 フルダイブ用インタフェースマシン、つまりナーブギアやアミュスフィアは電子パルスのフォーカスを脳の感覚野に限定して照射し、仮想の環境信号を与えているわけだが、もし、その枷を取り払ったらどういうことになるか。 それは、脳の感覚処理以外の機能、すなわち思考、感情、記憶までも制御できる可能性があるってことだよ!」

私とアヤノさんは、須郷の言葉に絶句するしかなかった。
私は須郷に見て、どうにか声を絞り出す。

アスナ「そんな、そんなことが許されるわけが。」
オベイロン「誰が許さないんだい? すでに各国で研究が進められている。 でもねぇ、この研究はどうしても人間の被験者が必要なんだよ。 自分が何を考えているか、言葉で説明して貰わないといけないからね!」

須郷は、ひっ、ひっと甲高い声で笑いを洩らした。

オベイロン「脳の高次機能には個体差も多い、どうしても大量の被験者が必要だ。 脳をいじくり回すわけだからね、おいそれと人体実験なんかできない。 それでこの研究は遅々として進まなかった。 ところがねぇ、ある日ニュースを見ていたら、いるじゃないか、格好の研究素材が、一万人もさ!」

一万人、それはSAOにログインした人の人数。
そして私は、須郷が何をこれから言おうとしているのか、その先が想像できてしまった。

オベイロン「茅場先輩は天才だが大馬鹿者さ。 あれだけの器を用意しながら、たかがゲーム世界の創造だけで満足するなんてね。 SAOサーバーに手をつけられなかったが、あそこからプレイヤー連中が解放された瞬間に、その一部を僕の世界に拉致できるようルーターに細工するのはそう難しくなかったさ。」

須郷は舌を這わせた。

オベイロン「いやぁ、クリアされるのが実に待ち遠しかったね! 全員とはいかなかったが、結果三百人もの被験者を僕は手に入れた。 現実ならどんな施設でも収容できないほどの数さ、まったく仮想世界さまさまじゃないかい!」

須郷は饒舌に言葉を捲し立て、続ける。
私は昔から須郷のこういう性癖が大嫌いだった。

オベイロン「三百人の旧SAOプレイヤー諸君のお陰で、たった二ヶ月で研究は大いに進展したよ! 人間の記憶に新規オブジェクトを埋め込み、それに対する情動を誘導する技術は大体形ができた。 魂の操作、実に素晴らしい!!」
アスナ「そんな、そんな研究、お父さんが許すはずがないわ。」
オベイロン「無論あのオジサンは何も知らないさ。 研究は私と極少数のチームで秘密裏に進められている。 そうでなければ商品にできない。」
アヤノ「商品……!?」
オベイロン「アメリカの某企業が涎を垂らして研究終了を待っている。 せいぜい高値で売りつけるさ。 いずれはレクトごとね。 僕はもうすぐ結城家の人間になる。 まずは養子からだが、やがては名実ともレクトの後継者となる。 君の配偶者としてね。 その日のためにもこの世界で予行演習しておくのは悪くない考えだと思うけどねぇ。」

私とアヤノさんは首を振った。

アヤノ「そんなこと、絶対にさせない。 いつか現実世界に戻ったら、真っ先にあなたの悪行を暴いてあげる。」
オベイロン「やれやれ、君達はまだ理解していないのかい。 実験のことをぺらぺら喋ってあげたのはね、君がすぐに何もかも忘れてしまうからさ! 君も僕が貰ってやろう、その後に残るのは僕への、」

不意に須郷は言葉を切ると、僅かに首を傾け沈黙した。
すぐに左手を振ってウインドウを出し、それに向かって言う。

オベイロン「今行く。 指示を待て。」

ウインドウを消し、再びにやにや笑いを浮かべながら、

オベイロン「という訳で、君が僕を盲目的に愛し、服従する日も近いということが解ってもらえたかな。 しかし勿論、君の脳を早期の実験に供するのは望まない。 次に会うときはもう少し従順であることを願うよ、ティターニア。」

囁くと、須郷は身を翻し、ドアに向かって行った。
ドアの開閉音が響き、次いで静寂が訪れた。

アヤノ「アスナ、もう少しの辛抱だよ。 きっと皆が助けに来てくれるよ。 それまで頑張ろう。」

アヤノさんは、私が安心できるように微笑みかけてくれた。

~side out~

~アーサー side~

俺が相変わらず鎖に縛られて半分寝てた時。
オベイロンがやって来た。

アーサー「・・・来るなって言ったよな。」
オベイロン「そんな事に僕が従うと思うのかね?」
アーサー「それもそうだ。」
オベイロン「・・・さて、君には今まで手を焼いてきたが、それも今日までだ。」
アーサー「あ?」
オベイロン「ついに! 僕の研究は完成した! 君にはその最初の被験者になってもらう。」

その言葉の意味が分かったとき、俺は初めてコイツに恐怖してしまった。

アーサー「てめぇ、まさか、」
オベイロン「そのまさかさ。 三百人の元SAOプレイヤーのお陰で僕の脳の研究は九割九分完成した。 後は最後の調節だけさ。 君はこれから僕の従順な下部となる。」
アーサー「俺を、操ろうって言うのか?」
オベイロン「その通り。」

ここで何を言っても無駄。
時間稼ぎにもならない。
なら、一旦諦めてキリト達を信じて待つのが最善策。

アーサー「いいぜ、やれよ。」
オベイロン「ほう、意外だな。 てっきり僕は泣き叫んで許しを乞うのかと思ってたよ。」
アーサー「基本的に無駄な事はしない主義なんでね。 足掻いたって無駄だろ?」
オベイロン「なら、望み通りにしてあげるよ。」

そう言ってオベイロンは何処からかヘルメットのような物を取り出した。
それが俺の頭に被せられる直前、

アーサー(キリト、サクラ、サクマ、コジロウ、シンタロー、信じてるからな。)

そう念じた直後、俺の視界がブラックアウトした。

~side out~ 
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