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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第30話『部長』

 
前書き
いつの間にか30話。とは言え、全体的には30話を普通に越えております。
しかも、まだ『祝!』とか言うには早いですね。100話とか行けたら祝うことにしますか。

取り敢えず、部長同士の闘いをご覧あれ!! 

 

「腕が鳴るぜ」


指をポキポキと鳴らしながら、終夜は威嚇する。
しかしその威力は皆無、科学部の4人は怯まずにその様子をじっと見ていた。


「さっさと始めましょうかね」


そう言ったのは、科学部部長の茜原。彼女は余裕の笑みを浮かべると、白衣のポケットから何かを取り出す。
試験管。一目見て分かるのはそれ。でもって二目見て分かったことは・・・


「おいおい。何だよその液体はよ」


終夜はつい弱気な声を出す。それは、彼女の持つ試験管の中に入っている透明な液体を見たからであった。
赤色でも、青色でも、はたまた黄色でもない。水と言われても疑えないような液体がそこにはあったのだ。


「塩酸、と言えば分かるかしら」

「おっかねぇな…」


茜原は試験管を左右に揺らし、液体を吟味するかのようにウットリと眺める。
塩酸といえば、終夜にもわかる。触れれば皮膚を侵すという強酸だ。そんなものに感じ入る様子は、かなり不気味に思えた。


「それはそうと。終夜、あんたの使う雷の原理、教えてくれたりしないかしら。あの子に訊いても無駄だったし」

「それは都合が良いことだ。悪いが、お前には言えないよ」

「幼馴染みでも?」

「幼馴染みでもだ」


心を見透かすくらいの睨み合いが続き、互いにニヤッと口角を上げる。
笑えるようなことがあった訳でもなく、無意識に。


「そう。じゃあ力ずくで聞き出すことにするわ」

「お前の科学脳は物騒なもんだな。大体、何で俺の魔じ・・・雷が気になるんだよ」

「そりゃ、大気から急に雷を生み出すだなんて、そんな科学者の心を(くすぐ)るような物、知りたくない訳が無いじゃない」


茜原が自分の思惑を説明する中、一瞬の間違いに気づかれなかった事に安堵する終夜。
今は何かの科学だと彼女は考えているが、これが魔術とバレた時、何が起こるかなんて想像がつかない。
きっと、マイナス方向に話が進むのがオチだろうが。

そんな事から終夜もまた、魔術を茜原に話すのを拒んでいた。


「4対1。現実的に考えて、私達の勝利は明白だけど。アンタはどうするの?」


そう訊かれ、割と真剣に悩む終夜。

一気に放電したりして一掃するのは?と考えるが、さすがにそれは怪我が発生すると判断し、却下。
強行突破で一気に感電!も良いかと思うが、そもそもあの塩酸がそれを防ぐ盾の役割を担っており、時間的に猶予を与えてはくれそうにない。却下・・・


「あれ、もしかしてこの場面は他力本願??」


一人でに呟く終夜。彼はこの状況では、自分が集団相手には意外に向かないという事を察した。
手加減しなくて良いのならその逆なのだが、相手は生徒で場所は学校。無理だという条件は揃いまくっていた。


「あら、随分と弱気じゃない。諦めた?」

「んな訳あるかよ。ちょっと状況把握しただけだ。別に俺だけで勝てる」


強がりにも聞こえてしまう発言をしてしまったが、茜原に特に言及される事はなかった。そんな中、終夜は科学部の部員を1人ずつ見定める。
茜原以外は男が2人で女が1人。男女1:1で都合が良さそうな組み合わせだが、比較的非力な女子が突破口である事は確実。

直後、終夜はゆっくりと一歩を踏み出した。


「…向かってくるのね」


さっきの落とし穴みたいな仕掛けが無いとは限らない。相手から目をそらさず、かつ一歩一歩床を踏みしめながら進む。
『石橋を叩いて渡る』。まさにそれを具現化したのが、今の終夜だ。


「……」


終夜が向かってくるのに対して、茜原は身構える。距離にして、残り3m。
しかしその頭には何か考えが有るのか、彼女は焦った様子は見せなかった。

だが、終夜にも考えはある。
科学部の4人の位置関係だが、まず茜原が終夜がいる入り口から最も距離が離れた所に立っており、男子2人が茜原の傍、残りの女子がさらにその隣に立っている。

つまり狙いは必然、その女子からだ。

──刹那。終夜が跳んだ。


「おらぁっ!!」


立ち幅跳びの要領だ。ゆっくり歩いていた状態から、急に飛びかかる。当然、いきなりのその挙動に彼女らは反応できない。

4人の眼前に着地した終夜は、右手に夜雷を纏わせ、瞬時にターゲットの女子の肩を軽く叩く。すると、それだけで女子は力を失って倒れた。
次は男子2人。手を伸ばして捕まえようとしてくるので、手が触れた瞬間に電流を流す。これで彼らもダウンした。
やはり、対人にはこれしかない。麻痺なら安全に片がつく。

「さて、上手くいった」と、最後に茜原の方を向く終夜。すると彼女もまた、終夜に手を伸ばしている。
呆気ない。その手が触れた瞬間に電流を流せば、きっとミッションクリアとなるだろう。終夜は勝ちを確信した。


──直後、頬に鋭い衝撃が走る。


「いった……おい、ゴム手袋はずるいだろ」

「あら、これくらいの常備は普通だけど」


茜原に殴り飛ばされ、2m程先に倒れた終夜。
そして自身の電撃が効かなかった理由…ゴム手袋を睨み付ける。


「やっぱ一筋縄じゃいかねぇか。でもお前の部下は大したことなかったな。一瞬で片づいたぜ?」

「最初から期待はしてないわよ。だって彼らはただの科学者。戦闘なんてできっこないもの」


「当たり前じゃない」と最後に付け加える茜原。確かに彼女の言うことに間違いはなく、さっきの部員は数合せに過ぎないのだろう。


「始めから敵はお前だけだった訳だ」

「いや、彼らには『準備』を色々と手伝って貰ったし、アンタの敵じゃないと言えばそれは間違いかしら」

「『準備』?」

「そう『準備』。このゴム手袋もその一部だけど、もっと大きい『準備』を、ね」


もったいぶるように茜原は言う。終夜は、それが示すのは自分を苦しめる道具だと判断し、探りを入れ始める。


「その準備とやらは、もう終わってる訳か?」

「ええ。ポチッとすればすぐにでも」


その表現を聞いた終夜は1つの仮説をたてる。
それは、彼女が用意したのは『機械』だということだ。
完全に推測なのだが、「ポチッと」と言った辺り、何らかの装置の起動を意味しているはず。そして、それで撃沈させる算段なのだろう。


「面白ぇ。だったらさっさとやってみやがれ」

「すぐに切り札を切るのはもったいないじゃない。まずはじっくり楽しみましょ」


横目で時計を確認。残り時間は40分余りだ。
それを知った終夜は指をポキポキと鳴らし、拳を突き出して高らかに叫んだ。


「手加減してっと、後悔すんぜ!」







「はぁ…はぁ…」


廊下の壁に手をついて休むのは、初めてではない。
もうかれこれ10分は走っているのだが、仲間どころか敵さえ見当たらない始末だ。
だからこんな無防備に呼吸していても、狙われる事なんて無かった。


「暁君、副部長、どこ…?!」


探し相手の名前を呟きながら、また走りを再開する。
廊下の端から端、階段の上から下・・・普段運動をしない俺にとっては、過酷を極めた。


「やばっ、そろそろ横腹が…」


長距離走るとよく起こる横腹の痛み。それが起こった俺は、涙目になりながらも走りを続行する。

だがついに、その努力は報われた──



「はぁ。さっきの子の耳ってホントどうなってんだろ…?」

「……副部長!」


階段の踊り場。上から降りてきた俺に対し、下から上ってきたのは副部長だった。
ブツブツと何かを言っているようだが、そんな事はお構い無し。俺はすぐさま本題を切り出した。


「…三浦? どうしたの、そんなに息を切らして・・・」

「部長が大変なんです! 一緒に来てくれませんか?!」


部長の名前を出した途端、副部長のキョトンとしていた顔が真顔になる。


「え、あいつが? それってどういう状況なの??」

「科学部です。4人全員で部長の相手をしてるんです!」

「!!」


副部長は驚いた様子を見せ、直後「マズい…」と一言。
きっと茜原さんの存在を知っていて、何らかの思い当たる節が有ったのだろう。
副部長は少しだけ考えた様子を見せると、俺に言った。


「場所は理科室?」

「はい、そうで──」


俺が言い終わるよりも早く、副部長は階段を駆け上がって行く。
一瞬俺の思考が停止するが、「俺も行こう」とすぐさま副部長の後を追った。







ドガァン


「もう終わり、というのはつまらないのだけれど?」


ドアに体をぶつけ、不格好な音を響かせてしまったのは俺。
それに対し、そう皮肉を言うのは俺の幼馴染みである光。今しがた、こいつが俺を蹴り飛ばした所だ。


「おうおう悪うござんした。生憎、肉弾戦でお前には敵わないんでな」


俺はそう吐き捨てると、再び立ち上がる。
彼女が装備しているゴム手袋。アレのせいで、先程攻撃の選択肢から“魔術”を消された。
おかげで、勝ち目の無い肉弾戦を強いられている。

というのも、光は空手や柔道といった、武道を完璧に体得している。その手の部活から勧誘が来るほどだ。男子相手だろうと、負けた様子は今まで見たことがない。
まぁ、まさか俺がその餌食になる日が来るなんて…。


「つーか、どうやったら白衣でそんなに動けんだ。何か色々無視してねぇか?」

「私の白衣を甘く見ないで頂戴。そりゃもちろん、いつでも格闘できるように重量や材質は計算され尽くして──」

「聞いた俺が馬鹿だったよ!」


気になる事を問うてみるとこのザマだ。余りにも面倒なんで拳を振るってみる。
幼馴染みということで付き合いも長い訳だから、手加減は一切なし!


「はいそうですか」

「がっ!?」


だが見事に俺の攻撃は躱され、お返しに鳩尾(みぞおち)を拳で捉えられる。その痛みにはたまらず床に伏せ、悶絶してしまう。


「がはっ……お前加減しろっつの」

「加減しないで殴ってきたのはどっちよ」


前言撤回。というか条約改正を求める。
俺は加減不要で、こいつは絶対加減。これさえ成り立ってしまえば、勝機が有るはずだ。成り立てば・・・って、あれ?


「お前、塩酸どうした?」


いつの間にか、彼女の手から塩酸の入った試験管が消えていた。まさかもう使ったのか。俺の身体のどこかに・・・


「あら今頃? もうとっくに片づけたわよ」

「片づけた? なぜだ?」

「貴方の行動を封じるための脅しだったのに、普通に飛びかかってきたもの」

「つまり、俺に塩酸を浴びせる気は元からなかったと? お前にも優しいとこあるんだな」

「…そのうるさい口は溶かしてあげたいわね」


光の声のトーンが一段下がった。今のは癇に障ったか。
これ以上軽口を叩くと、ホントに塩酸が飛んで来そうだ。シャワーとか使われて。


「そろそろトドメを刺してあげようかしら」

「ようやく真打登場ってか。何が出てきても、全部ぶっ壊してやるよ」


俺は快活に言う。光はそれに不敵な笑みで応えた。


「元気なこと。けど、これを見てまだそんな事言えるのかしら」

「何度でも言ってやんよ。お前の科学なんて全部俺が打ち砕いてやる!」


静寂。俺はそれにいち早く気づく。
今のは少し言い過ぎただろうか。でも、それを訂正できる雰囲気ではとうに無くなっていた。



「そう。わかったわ」



理科室に響いた声。それは光によって(つむ)がれたものだった。
どこか儚げで、それでいて不気味な声。
その中で、彼女がスイッチらしき物を押す動作がよく目立った。

──スイッチが、押された。

彼女が用意した最高の仕掛け。
俺を潰す為に用意した最大の武器。
その解放が今、行われた。


「出でよ!!」


光は叫んだ。その声に呼応して、光の目の前の約1m四方の床が開く。
そしてその穴から何かが出てくるのを、俺は見た。


「ロボット、か…?」

「ただのロボットじゃないわ。──“戦闘用”のロボットよ」


なるほど、そう来たか。
目の前に出てきた体長2m程のロボット。スタイルが良い人間、といった形状だろうか。
黒と白のシンプルなカラーで統一されており、頭部はバイクのヘルメットみたいな具合だった。


「随分とかっこいいな」

「そりゃデザインは大事だからね。結構苦労したのよ」


誉めて、と言わんばかりの光の態度。だが、俺はそれに反応することができない。
率直に言った感想もそうだ。何かしら言葉を発さないと危険だったのだ。

殺意。俺はそれに近いモノを感じた。

ロボットではなく、光からだ。

彼女は薄く笑い、静かに言った。


「痛くしないから、大人しくしててね」

 
 

 
後書き
祝とか何とかほざいてたら、文章が急に細々し始めて自分で自分が恐ろしくなったこの頃。
次回からちゃんと元に戻しますよ。今回は調子乗ってただけだろうし。

・・・とか思っていても、グダグダなのは変わらない。特に後半。
クライマックスまでの盛り上がりが欠けるなぁ…。
修正…できるかなぁ…?

ハイ、悲しい俺の話は置いといて、気になった事が1つ。
『光』って名前凄く遣いづらい。
え、絶対思いましたよね? 「この“光”は何を意味するんじゃ~!」って。流石に気付けば分かるけど、俺は一瞬間違いました。
「光によって紡がれた」とか超幻想的じゃん!と、こんな具合で。

うーん…自分の痴態を晒しても悲しくなるだけだ…。
・・・また次回に会いましょう!(←無理やり) 
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