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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第三十五話 別れ

~アーサー side~

戦闘の後、安全地帯に入った俺達はユイとストレアの話を聞いていた。

ユイ「<ソードアート・オンライン>という名のこの世界は、ひとつの巨大なシステムによって制御されています。 システムの名前は<カーディナル>、それが、この世界のバランスを自らの判断に基づいて制御しているのです。 カーディナルはもともと、人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されました。 二つのコアプログラムが相互にエラー訂正を行い、更に無数の下位プログラム群によって世界の全てを調整する……。 モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランス、何もかもがカーディナル指揮下のプログラム群に操作されています。 しかし、ひとつだけ人間の手に委ねなければならないものがありました。 プレイヤーの精神性に由来するトラブル、それだけは同じ人間でないと解決できない、そのために、数十人規模のスタッフが用意される、はずでした。」
キリト「って事は君達はGMなのか?」
シンタロー「はずでしたって事は違うんだろ?」
ストレア「うん、カーディナルの開発者たちは、プレイヤーのケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作したの。 ナーヴギアの特性を利用してプレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーのもとを訪れて話を聞く。 <メンタルヘルス・カウンセリングプログラム>、MHCP試作二号、コードネーム<ストレア>。 そして試作一号<ユイ>。 それが私達。」
アスナ「プログラム、AIだって言うの?」
ユイ「プレイヤーに違和感を与えないように、わたしには感情模倣機能が与えられています。 偽物なんです、全部、この涙も。 ごめんなさい、アスナさん。」
サクラ「なら、記憶が無かったのは何で? AIにそんなことが起こるの?」
ストレア「二年前にこのゲームが始まったとき、何が起きたのかは私達にも詳しくは解らないんだけど、カーディナルが予定にない命令を私達に下したの。 プレイヤーに対する一切の干渉禁止。 具体的な接触が許されない状況で、私達はやむなくプレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけを続けていた。 状態は、最悪と言っていいものだったよ。 ほとんど全てのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され、時として狂気に陥る人すらいた。 私達はそんな人たちの心をずっと見続けてきた。 本来であればすぐにでもそのプレイヤーのもとに赴き、話を聞き、問題を解決しなくてはならないのにプレイヤーにこちらから接触することは出来ない。 義務だけがあり権利のない矛盾した状況のなか、私達は徐々にエラーを蓄積させ、崩壊していったの。 私は早い段階でその矛盾から抜けられたから失ったのは記憶だけで済んだけど、ユイ姉はそれが出来なかった。 だから言語能力まで壊れてしまったの。」
キリト「じゃあ、ユイが二十二層の森に現れたのは、」
ユイ「それはある日、いつものようにモニターしていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメーターを持つ二人のプレイヤーに気付きました。 喜び、安らぎ、でもそれだけじゃない。 この感情はなんだろう、そう思って私はその二人のモニターを続けました。 会話や行動に触れるたび、私の中に不思議な欲求が生まれました。 そんなルーチンはなかったはずなのですが。 あの二人のそばに行きたい、直接、私と話をしてほしい。 少しでも近くにいたくて、私は毎日、二人の暮らすプレイヤーホームから一番近いシステムコンソールで実体化し、彷徨いました。その頃にはもう私はかなり壊れてしまっていたのだと思います。 キリトさん、アスナさん、私、ずっと、お二人に、会いたかった。森の中で、お二人の姿を見た時、すごく、嬉しかった。 おかしいですよね、そんなこと、思えるはずないのに。 私、ただの、プログラムなのに。」
ストレア「みんな、こんな作り物の私を仲間にしてくれてありがとう。 私すっごく楽しかったよ。 でもユイ姉が言ったみたいに私達はただのプログラム。 ごめんね。」
アーサー「はぁ、アホかお前ら、ただのプログラムが上位の命令に逆らえる訳無いだろ。 お前らは二人とも意思を持った人、だ。」
アスナ「そうだよ。 ユイちゃんは私達の家族だもん。」

その言葉を意外そうな顔で受け止めた二人は微笑んで

ストレア「ありがとう。 そんなこと言ってくれて。」
ユイ「でも、もう遅いんです。」
キリト「ど、どういうことだよ、遅いって。」
ユイ「私達が記憶を取り戻したのは、あの石に接触したせいなんです。」

ユイは部屋の中央にある黒い立方体を指差した。

ユイ「さっき私達をこの安全地帯に退避させてくれた時、私達は偶然あの石に触れ、そして知りました。 あれは、ただの装飾的オブジェクトじゃないんです。 GMがシステムに緊急アクセスするために設置されたコンソールなんです。」

ユイが言ったとたん黒い石の表面に青白いホロキーボードが浮かび上がった。

ユイ「さっきのボスモンスターは、ここにプレイヤーを近付けないようにカーディナルの手によって配置されたものだと思います。 わたしはこのコンソールからシステムにアクセスし、<オブジェクトイレイサー>を呼び出してモンスターを消去しました。 その時にカーディナルのエラー訂正能力によって、破損した言語機能を復元できたのですが、それは同時に、今まで放置されていた私達にプログラムが気付いてしまったのです。 今プログラムは私たちを走査しています。 すぐに異物という結論が出され、私達は消去されてしまうでしょう。 もう、あまり時間がありません。」

シンタローがそのコンソールに近付きユイとストレアに尋ねる。

シンタロー「お前らはどうしたいんだ?」
ストレア「私は、まだみんなと一緒に冒険したい! 一緒に戦って、笑って、泣いて、もっと、もっと一緒にいたい!」
アーサー「ユイは?」
ユイ「わ、私もです! 冒険は出来なくてもパパとママと一緒にいたいです!」
シンタロー「そうか。 よし、そこ退け。」

そう言うとシンタローが物凄い速さでホロキーを叩き始めた。

そして、一分が経つか経たないかぐらいして、

シンタロー「終わった。 二人を〈カーディナルシステム〉から分離してアイテム化した。 ユイはキリト、ストレアはアーサーのナーヴギアのメモリーに入るように設定した。」
ストレア「これでまたみんなと会えるの?」
シンタロー「あぁ。 この世界ではもう無理だろうが、必ず向こうで展開してやる。 約束だ。」
ユイ「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」


ユイとストレアの体が光りだす。

アーサー「じゃあ、少しの間お別れだ。」
サクラ「ストレアちゃん、ちょっとだけ待っててね。」
ストレア「うん! また会おうね!」
ユイ「パパもママもお元気で!」
キリト「あぁ。 ユイもな。」
アスナ「ユイちゃん、またね。」

二人は涙こそ流していたものの最高の笑顔だった。
二人は小さなネックレスになった。
ユイは青、ストレアは紫のネックレスだ。
その後、俺達は戻り、キバオウやディアベル、ユリエール、シンカーなどから感謝された。
その時ユイとストレアの事を聞いてこなかったのは恐らく何かがあったと察してくれたのだろう。

キリトとアスナは二十二層の自宅に、俺とサクラ、シンタロー、アヤノはギルドホームに戻った。
俺はギルドホームで今日の出来事を話した。

~side out~ 
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