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フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~

作者:零水
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ゼロの使い魔編
三章 王女からの依頼
  乙女の密かな戦い

 
前書き
零「いや~最近fgoのガチャの引きが悪いわ~。」
セ「最近当たり前のように前説に顔を出す作者。」
士「水着イベントでも惨憺たる結果だったらしいな。」
零「くそっ、俺はセイバーに嫌われているのだろうか!?」
セ「本人の前で大声で叫びますかね・・・。」
零「皆オラにガチャ運を分けてたも~~!!」
士「前説やろうや。」 

 

「チップレース?」
「そう!今日から一週間、お客様から貰ったチップの合計金額を競う恒例行事よ!」

 店の仕度をしていると、突然スカロンが皆を呼び止め発表しだした。恒例行事なのか、周りの娘たちは知っているらしく結構盛り上がっている。

「見事優勝した娘には豪華賞品!この我が家代々伝わる『魅惑の妖精ビスチェ』を一日着る権利を与えまーす!この人を虜にする魅了の魔法がかかったビスチェを着れば皆メロメロ!チップもザクザク!皆頑張って頂戴ね、トレビア~ン!」
『きゃ~~~素敵~~~♡』

「代々伝わるって、スカロンの家系は皆こんな商売をやっているのか・・・」

 盛り上がる空気の中、一人どうでもいいことにツッコむ架。
 一方で、

「(魅惑・・・メロメロ・・・)」

 ルイズは一人、何か決意を固めるように拳をグッと握った。




 そしてあれよあれよと時は流れ数日後―――




 トリスタニアの夜の街頭を二人の男が歩いている。どちらも背が高く、どことなく強者の風格を漂わせていた。

「あ~あ、退屈だなぁおい。」

 二人の内紺色の髪をもつ男が欠伸交じりに呟いた。それを聞き逃さなかったのは隣にいる銀髪の男である。

「そう言うな、ランサー。これも立派な任務のうちだ。」
「任務ねぇ。」

 銀髪の男の名はワルド。そして、紺色の髪の男は彼の使い魔であるランサーのサーヴァントだ。
 元はトリステインの王宮に仕える貴族であったが、今はもうある使命のためレコンキスタに完全に寝返った。かつて虚無の担い手であるルイズをレコンキスタ側に引き込もうとし、空中都市アルビオンでセイバーと衝突。任務を失敗し一時は撤退した彼らだったが、再びルイズを手に入れんとこのトリステインに舞い戻ってきたのである。
 とはいえ、既に敵対する国に迂闊に足を踏み入れることは出来ない。髭は全て剃り、長く下ろしていた髪も後ろに編んで纏められている。こう見ると中々の好青年である。ランサーが「似合ってんな。」と茶化したように言うとギロリと睨まれた。

「あら、お兄さん。」

 と、酒場の前を通りかかると表に出ていた女性がランサーを見て声をかけた。

「今日はお店に寄ってかないの?」
「あ~悪ぃな。今日はちと仕事でな。」
「そぉ?残念。けどまた来てよね!」
「お~う。」

 その会話を勿論聞いていたワルドは若干頬を引きつらせながら尋ねた。

「なあ、ランサー。今のは?」
「ん?昨日、いや一昨日だったっけな。そこの店で飲んだだけだぜ?」
「・・・お前は任務を分かっているのか!?情報収集だぞ!このトリステインが今どういう情勢なのかを報告するためのな!なのに何故お前は酒場なぞ練り歩いている!?」

 潜入だというのについつい声を荒げてしまうワルド。実はこの店の人に声をかけられるというやり取り、今夜だけで既に3回目である。しかも、その全てが飲み屋関係であった。

「心配すんなって、全部俺の持ち金で払ってっからよぉ。」
「誰もそんなことを心配していない!」

 このトリステインに来る際、クロムウェルからそれなりの資金を渡されていた。それが何故ワルドだけでなくランサーにもかというと、それはクロムウェルの懐の深さ・・・では当然なく、ランサーが持ち前の悪舌で不平不満を言いまくった結果である。
 迂闊だった!こんなことなら初日から一緒に行動しておけば良かった・・・!とワルドが頭を抱えていると、「分かってねぇな~。」とめんどくさそうに言う。

「あのな、酒場っつーのは一番口が緩くなる場でもあるんだぞ。日頃不満を押し殺している奴らが、酒の勢いでつい本音をポロって漏らしちまう。情報を知るんだったらこれ以上手っ取り早い方法はねぇぞ。」

 図らずも別場面で他の(サーヴァント)が言っていたことと全く同じことを述べるランサー。
この男にしては至極真っ当なことを言っている。流石のワルドもそれに対し「むぅ」と唸るしかない。

「それで、何か収穫はあったのか?」
「おう!さっきの店が一番ねーちゃんたちの胸がデカい。」
「貴様ぁ!!」

 もう我慢の限界とばかりに杖を抜きかける。町中だというのに目の前の男の顔面に魔法をぶち込んでやりたくてたまらなかった。
 ランサーの毒舌スキルは味方の方にもしっかりと機能してしまうのであった。更に言うと、ここでワルドが魔法で攻撃したとしてもランサーの対魔力は高く並みのものでは傷一つ負わせられないのが余計に腹ただしい。
 数分を得て、どうにかワルドに落ち着きを取り戻した。二人の間でこの光景はもうさして珍しいものではないため、彼も自分を取り戻すのが早い。

「つーかよ、何で俺らこういうことやってんだ?さっさと学院とやらに乗り込んじまえばいいだろうがよ。」

 再び歩き出しながらランサーが愚痴る。どうやら情報収集などという地味な作業は彼には向いていないらしい。
 ワルドは今日何度目かのため息をつきながら答える。

「忘れたのか?その学院に、肝心のルイズたちがいなかったんだろう。だからこうして一先ず城下まで足を運んでいるんじゃないか。お前だって確認したんだろう。」
「俺はセイバーの気配が無ぇって言っただけだぞ。小娘がいたかどうかまでは察知出来ねぇよ。」
「まさか。主人と使い魔が離れて行動するなど基本的にはありえん話だ。」


 注)少し前まで離れてました・・・( ゚Д゚)ノ


「それに、あそこにはセイバーだけでなくアサシンもいる。下手に近づいて逆に気取られでもしたら厄介だ。」
「んなもんまとめてぶっ潰しゃあいいじゃねぇか。」
「あのなぁ・・・」

ワルドは本日何度目かの呆れたような仕草をする。
彼と出会ってから暫く経ってから気付いたことだが、このサーヴァントは思考が短絡的な傾向が強い。何でもかんでもすぐ力づくで解決しようとする。先ほどのように、一見考えているようだが実際は何も考えてないのが殆どだ。こと戦闘に関しては全面的に信頼できるがこういうことは全くのダメダメである。

「我々がしているのが潜伏だとういうのを分かってないのか?戦闘など最も避けるべき事態だろう。」

 ワルドの言葉にランサーは「へーへー」と聞いているのかどうかも怪しい返答をする。
 
だが今のランサーの気持ちを、ワルドは分からないわけではなかった。
 彼やクロムウェルから聞いた話では、サーヴァントは元々聖杯戦争とやらで戦うために呼ばれるのだという。加えて『ランサー』のクラスは戦闘能力に優れ、彼自身もまた戦いを好む性格である。
 要するに、退屈なのだ。やりたいことが出来ないことがどれだけ歯痒いことか、ワルドも理解しているつもりだ。だから、

「ランサー、行くぞ。」
「は?どこに?」
「そ、その、何だ。さっきの酒の席だといろいろ話が聞きやすいというお前の意見には一理あると思ってな。それに今日は私も一緒だから代金も私が払ってやっても・・・」

 そこまで言った瞬間、彼は笑顔でガッと思いっきり肩を組んできた。

「んだよワルド!やっぱしテメエも遊びたかったんじゃねぇのか!?」
「違うと言っているだろう!あと『やっぱり』とはどういう意味だ!?」
「まーまー、すぐそこに今度行こうと思ってた店があるからよ、試しに行ってみようぜ!チラッと覗いてみたら中々可愛い子ちゃんたちが揃ってたんだよ、店主がちょっとアレだったが・・・」

 何か変な誤解をされているようだが、嬉しそうにはしゃぐ彼を見てるとそれでも良かった。少しでも倦怠が晴れるというなら――――

「ワルド、あそこだあそこ!」
「何、『魅惑の妖精亭』か。変わった名前だな・・・。」
「名前なんてどうでもいいだろ!いいからとっと入ろうぜ、何かセイバーの気配がすんけど(・・・・・・・・・・・・)、気にすんな!」
「ああそうだな・・・・・って何故それを早く言わないっ!!?」








「ん・・・?」
「カケル、どうかした?」
「あ、いや何でもない。(何か異質な気配を感じたが気のせいか・・・?)」

 料理の皿をルイズに手渡しながら架は窓の外を見やった。魔術師として未熟な彼はサーヴァントの気配を正確にかぎ分けることは出来なかった。が、それもすぐに遠ざかってしまったため捨て置くことにする。

「ほらアンタたち、何ボサッとしてんのよ!ルイズちゃん、それ運んだら7番テーブルでご指名よ!」
「は、はい!」

 スカロンに急かされ、ルイズは再び客席の方へと繰り出していった。




「いらっしゃいま・・・せ。」
「おう、やってんな。」

 言われた通りに窓側の席まで行くと、待っていたのは見知った・・・というか彼女がこんな目に遭っている原因の張本人であるヴァロナだった。

「あ、アンタねぇぇぇぇ・・・!」
「よせよせ、今日は客だぞ。」

 酒瓶で殴りたくなる衝動を何とか抑え込み乱暴に反対の席に座った。と、彼の頬がやや腫れていることに気が付いた。

「どうしたのそれ。」
「お前を指名した時にスカロンにな・・・」

 そういえばここに来る直前「アタシのことなんてどうでもいいのね~~!!」なんて悲鳴が聞こえた気がした。

「自分を乙女と称するならグーで殴るかね、普通。骨格が歪むかと思ったぞ。」
「アンタ何であの人と関わり持ってんのよ。」
「こういう商売している所為か、あれで結構この街で顔が利く。いざという時の貴重な情報源なんだよ。」
「ふ~ん。」

 グラスにワインを注ぎながらルイズは気の抜けた返事をする。あの筋肉隆々の腕でグーパンチされている所を想像すると、目の前の被害者に怒る気力はすっかり萎えてしまった。
 一先ず形だけの乾杯をする。慣れない環境が続く中、親しい間柄の接客であるためか丁度良い息抜きであった。
 そして話題は当然チップレースのことになる。

「聞いたぞ。何でもチップレースとやらで盛り上がってるらしいじゃねぇか。」
「別に盛り上がってなんてないわよ。」

 謙遜しながらもその表情は誇らしげのルイズ。
 実はチップレースが始まってからというもの、ルイズの接客態度は激変した。
 客の前では微笑みを絶やさず、更にチップを渡された時には飛び切りの笑顔を客に魅せる。元々が可愛らしい顔の持ち主のルイズの天使のような笑顔を向けられれば、客もついつい魅了されてしまうのも無理はない。まだ緊張とぎこちなさは残っているが、それがまた初々しく、男心をくすぐられる。その笑顔を見に翌日もチップを渡しに店を訪れ、あるいは噂を聞きつけた別の人が来る。その繰り返しにより、今ではルイズはこの店のちょっとした話題の人物となっていた。
 その結果、ルイズのチップはトップを争うほどの成績になっているのである。
 そのチップレースも今日が最終日。今日の稼ぎで順位が決まるのであった。

「お前のことだからこんな勝負には興味がないと思ったが。」
「別に。ただ勝負と聞いて負けるのが嫌だっただけよ。」

 と、本心を隠しつつ(・・・・・・・)ワインを煽るルイズ。
 一方で賞品のことをこっそり聞いたヴァロナは、「ふ~ん」と含みのある笑みを浮かべる。
 それを見咎めたルイズが「何よ―――」と食ってかかろうとした時だった。



「邪魔するぞ、店主!」


 大声で入ってきたのは丸々と太った中年の男と、側近の兵士たちだった。彼の来店に店員だけでなく客たちも怯えの表情を見せる。

「誰なのあれ?」
「確かチュレンヌとか言ったな。この辺り一帯の徴税官をしている奴だ。」
「ふ~んそうなん・・・って」

 ふと向き直ると、ヴァロナの姿がなかった。すぐ隣の窓が開いていることから、どうやら今の一瞬で外に飛び出して行ったようだ。とことんトラブルに巻き込まれるのは御免らしい。

「(それにしても)」

 徴税官ということは貴族。貴族と言えばお金持ち。上手く取り入れば、相当な額のチップが貰えるかもしれない!

「(チャンスだわ!)」

 そう考えたルイズはそそくさと準備を始めた。





「チュレンヌ?」
「そ、この辺りの徴税官をやってるの。だからあんな好き放題しようが、重い税を課せられるから誰も逆らえないのよ。」

 一方厨房では、架もジェシカからチュレンヌについての説明をされていた。厨房の陰からこっそりホールを窺ってみると、席に座ったチュレンヌが酌を求めてギャーギャーと喚いている。他の客は彼に恐れをなしてこぞって帰ってしまい、今はスカロンがご機嫌取りをしている。

「あいつに酌なんかやるわけないじゃない。こっちの胸とか尻とかやたら触ってくるクセにチップなんか一枚も払いやしないんだもの。百害あって一利なしだわ。」

 ジェシカの文句を聞きながらも架はチュレンヌを観察する。確かに店員の少女たちは怯えるなり反抗的な視線を送るなりで誰も近寄ろうとしない。チュレンヌはそれに気分を害しているのかさらに喚き散らす。さてどうしたものかと架が思っていると、一人の女性がチュレンヌに近づいていくのが見えた。
 というかあれは・・・

「何やっているルイズ!?」





「お客さま、お一ついかがですか?」
「む?」

 他の店員から無謀と思われているなどつゆ知らず、ここ数日で鍛えた営業スマイルでチュレンヌに話しかけるルイズ。
 可愛らしい笑みにチュレンヌも「おっ」と鼻の下を伸ばしかけるが、視線が下にいくと「ん、ん~?」と訝し気なものに変わった。

「何だ、この店では男も雇っているのか?」

 その時チュレンヌの言葉は嫌味を込もっておらず、寧ろ素直な感想だったのかもしれない。
 だがしかし・・・


  ピキッ


 何かがキレる音を聞いた衛兵や店員たちは、彼が思いっきり地雷を踏んでしまったことを瞬時に理解した。

「だ~~れが男なのよ!!」
「ヒデブッ!?」

 そして気が付いた時には、ルイズの見事なアッパーが決まっていた。

「ちょっとこっちが下手に出てるからって調子にのってんじゃないわよ!」
「き、貴様ぁ!徴税官たる私を足蹴にするだとぉぉ!!」

 顔を怒りで真っ赤にしたルイズが吠えると、チュレンヌも怒鳴り返す。
怒り狂ったチュレンヌが杖を向けると、それに合わせて衛兵たちも武器をとる。
 が、その時、何かが両者の間に凄い速度で割って入った。


 ズバババッ
 
「え・・・」
「な、何だ・・・?」

 次の瞬間には衛兵たちの槍や鉄砲がキレイに分断されていた。そして、彼らの前には―――

「かの弓兵には遠く及ばんが、まあこんなものか。」

 包丁を両手に持った架がいた。デルフリンガーは学院にいるギーシュに預けていたため、咄嗟にキッチンにある包丁を使ったというわけだ。
 『模倣』でイメージしたのは、当然あの赤い弓兵である。

「な、何だこのガキ!」
「今の、包丁なんぞで・・・」
「んな馬鹿な・・・」

 衛兵たちが呆然とする前で包丁を傍の机に置いた架は、ルイズを守るように立つ。

「主に手をあげるなど許さんぞ。」
「あ、主だと!?お前貴族か!?」

 架の言葉に驚くチュレンヌ。更にルイズが太ももに隠しておいた杖を見せつけると更に目を見開いた。

「フ、フンッ!だが、こんな所にいる貴族なぞたかが知れるわ!どうせ身をやつした没落貴族に決まって――」

 ピラッ

「誰が没落貴族ですって?」
「!!?そ、それは王室の・・・」

 ルイズが見せたのはアンリエッタから貰った身分証明書であった。それを見た途端、チュレンヌの顔は完全に凍り付いた。

「す、すすすすいませんでしたああああああ!!!」

 慌ててチュレンヌや衛兵たちもその場に土下座した。ルイズが王宮の関係者と分かるや否や凄い態度の変わりようである。

「ど、どうかこれで目をお瞑り下さい!お願いいたします!!」

 更に全員がチップの入った袋を差し出す。膨らみから見て相当な額である。
 ルイズは完全に平伏したチュレンヌたちに満足したように、毅然とした態度で警告する。

「いいこと?ここで起きたことは全て忘れなさい。そうすれば、私もこの話
を王宮に持ち帰らなくても良くってよ。」
「は、はいいい!一切口外致しません!陛下と始祖ブリミルに誓って!」

 と、ルイズがチラリと架を見て「アンタも何か言ってやりなさい。」と小声で言ってきた。

「(い、いきなり言われてもな!)」

 考えた挙句、架の知る中で最も傲慢な人物を思い浮かべ『模倣』で真似てみることにした。眼光は鋭く、相手をとことん見下すようにしながらスゥと息を吸い込み言い放った。


「主の眼前にその無様な姿を晒すでない。疾く失せろ、雑種共(・・・)!!」


『ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!』

 どうやら咄嗟の模倣は彼の王の威厳までもコピーしてしまったらしい。チュレンヌは勿論、衛兵までもその役目を放棄して我先にと店の外に逃げて行った。

「・・・やり過ぎたか?」
「そ、そうね。こっちまで少し怖かったし・・・。」

 もうこれを使うのは止めよう、そう心に決めた架である。やはりあの態度はあの王が一番様になる。
「きゃ~、カケルちゃ~~ん!!」
「ぐおっ!?」

 と、そこへスカロンが思いっきり架を抱きしめてきた。店の少女たちも危機が去ったのを見てわらわらと奥から顔を出してきた。

「ルイズちゃんすご~い!」
「見たあの徴税官の情けない態度!」
「胸がスカッとしたわ!」
「あ、あの、ええと・・・」

 皆の称賛にルイズは戸惑いの表情を浮かべる。自分の正体が貴族であり、皆に嘘をついてしまっていたことがバレてしまったためである。

「安心なさい。アンタたちが貴族なんじゃないかって薄々分かってたわよ。」
「え、じゃ、じゃあなんで・・・?」
「この店は従業員の事情なんて一切関知し~ません。だから私たちはな~にも見たり聞いたりしてないわ。ね、皆?」
『は~い!!』

 スカロンたちの態度にルイズは安堵の笑みを浮かべ、架も礼を込めて静かに頭を下げた。何となくだが、ヴァロナがスカロンの人柄を評価していることをルイズは少しだけ理解できた。



「ところでルイズちゃん、このお金はチップに加えるかしら?」

 場も落ち着いたところでスカロンが、チュレンヌたちが置いていった小袋の山を指さした。客が勝手に置いていったのだから本来はチップと見なしていいのだが、ルイズは直ぐに首を横に振った。

(自分の力で勝たなきゃ意味ないもの。)

 声には出さなかったが、その態度から察したスカロンは「そう。」とニッコリと微笑んだ。

「では皆、お待ちかねのチップレースの最終結果を発表するわよ~!」
『は~い!!』


 


 チップレースの結果は、ルイズは2位、1位はこの店の看板娘であるジェシカであった。
 ただ、1位と2位の差は殆どなく、ぶっちゃけ後半は二人のデッドヒートだったらしい。
 悔しそうににしているルイズに、架は頭を撫でながら健闘を祝すのであった。
 


さてその夜―――

「ああは言ってくれたが、正体がバレたからには出て行かなくてはな・・・」

 ベッドに寝転がりながら架は呟いた。まあ欲しい情報は大体手に入ったし、もう十分だろう。
ルイズは先ほどジェシカに呼び出されたようでここにはいない。戻ってきたら話を切り出してみようか、と思案していると―――

「―――――!」
「―――――」

「ん?」

 ドアの外から何やら話し声が聞こえる。もう少し聞き耳を立ててみると、

「(や、やっぱり無理よこんなの!)」
「(何言ってるのここまで来て!せっかく貸してあげたんだから、さっさと彼を落としなさい!)」
「(オ、オトスって何よ!)」

 どうやら会話の主はルイズとジェシカのようだった。しかし内容がよく分からない。架が小首を傾げているとやがてドアがノックされ開いた。
 そこにいたのは―――

「ル、ルイズ!?」
「ああああああの、ここここれは」

 そこには件の『魅惑の妖精ビスチェ』を身に纏ったルイズだった。スカートの裾を押さえながら俯き、顔面は愚か全身が真っ赤になっている。
 さすがの架も開いた口が塞がらない。

「やっほー、カケル!」
「ジェシカ・・・。」

 続いてひょっこりとジェシカが現れる。架のリアクションに満足したのか、彼女は得意げに説明しだした。

「ルイズもせっかく頑張ったんだし、特別に今夜だけ貸してあげたのよ。ま、貰った額で言えば実質ルイズが優勝だったしね。」
それに、アタシには惚れてる男なんていないし。ともジェシカは思っていたが、流石にそれはルイズのためにも伏せておいた。

「べ、べべべべべ別に、ジェシカが着せてあげるって言うし、あああああアンタも今回は頑張ってくれたから、ごごご主人としてご褒美をあげようと・・・」
「だったらもっと近くで見せてあげなさい・・よっと!」
「きゃあ!?」

 と、ジェシカはルイズの背中を押して、架の前に立たせた。

「さあカケル、女がせっかくおめかししたんだ!何か感想は?」
「カ、カケル・・・」

 ジェシカの言葉に、緊張しながらもどこか期待するような表情で架の答えを待つルイズ。
 しかし・・・

「・・・・・あら?」
「?」

 いつまで待っても架から言葉が出てこない。それどころか、さっきから俯いていてこちらを見ようともしていなかった。

「カ、カケル、どうし――」

 とルイズが顔を覗き込もうとすると、今度は突然ガタリと立ち上がった。

「すまんルイズ、少しトイレに行ってくる。」
「へ?」
「え、ちょっと」

 二人の声を聞かず、走り並みのスピードの早歩きで架は部屋を出て行った。
 その予想外の行動にポカーンとなる二人。やがてジェシカがなんとか声を出した。

「トイレ、反対方向なんだけど・・・」





 勢いよく部屋を出た架は、そのまま店の裏口から外に出てようやく立ち止まった。

「ふう・・・」

 一息つき、店の壁にもたれかかる。目を閉じると、脳裏には先ほどのルイズの姿は蘇ってきた。

「驚いたな・・・」

 と徐につぶやいた。 胸に手をあてると、自分でも驚くほど動悸が激しくなっている。しかも顔もやや熱くなっているようだ。

「魅了の魔法とやらが、あそこまで強力だとはな・・・。」

 対魔力スキルがあるから効かないだろうと高を括っていたが、全くの想定外だった。
 動悸が収まるまで、暫くこうしていよう、と壁にもたれたまま夜風に当たる架であった。

「(それにしても、随分と可愛らしかったな・・・)」

 


 それが果たして本当に魔法によるものなのか。
 はてさて真実は一体誰が知ることやら。











 『魅惑の妖精亭』での一悶着があった翌朝、とあるホテルの一室でワルドは物思いに耽っていた。ベッドに腰掛け漠然と壁を見つめているその目にはどことなく憂いが感じられた。

「ワルド。」

 そう言って突然姿を現したのはランサー。そこで暫く動くことがなかった彼の目がようやく彼の方へと向いた。

「ランサー、彼女らはどうした?」
「あいつらならさっき店を出て行ったぜ。どうも王城の方に向かったみたいだが、どうするまだ追うか?」
「・・・いや、行先が分かったのなら良い。警備が固い王城だ、万が一見つかったら不味い。」
「そうかい。」

 事務的な会話の後、またしても沈黙が空間を支配する。ワルドはまた虚空を見つめ、ランサーもまた不必要に口を開いたりしない。というか、彼と契約している以上、ワルドが何を思っているのか何となく察しがついている。
 昨夜の出来事、チュレンヌが引き起こした騒動を二人は遠巻きに除いていた。酌をしにルイズがチュレンヌに近寄った時には焦りもしたし、もし彼女に危険があろうものなら即割って入る準備もしていた。
 が、結果は杞憂に終わった。ルイズはその小さい体で果敢にも挑み、見事あの傲慢な男を平伏して見せた。
 少し前、まだ彼女が幼い頃を思い出す。あの時は姉に馬鹿にされる度に一人拗ねて泣いていた。それが今やあの頃とは段違いである。
 そう、見違えるほどに成長した。そしてそうさせたのは・・・

「(きっと、彼なのだろうな・・・)」

 今、彼女の傍らにいるのは元婚約者の自分などではない。使い魔の彼なのだ。
 少し前までは彼女は自分の物になる。そうなることが当たり前だと思っていた。それがなくなった現在、彼の胸の内にあるのはかつて味わったことないほど敗北感、喪失感、そして虚脱感だった。
 一時期はレコンキスタでの任務で気を誤魔化してきた。だが昨夜、二人が仲睦まじく話している様子を見ると余計にその気持ちが強くなってしまった。

 何故か、答えは簡単に辿り着いた。

「(そうか、私は本当に、彼女を―――)」

 最初は彼女の力だった。彼女の持つあの力があれば、きっと自分の目的の助けになる。そう思っていた。
 

 いつからだろうか。

彼女(ルイズ)を、一人の女性として愛してしまったのは・・・。




「―――なあ、ワルドよぉ」

 不意に、ランサーが話しかけてきた。壁に寄りかかり立ったままの彼はワルドに背を向けたまま話している。

「何だ。」

 気力もない返事をするワルド。どうせまたくだらない話題だろうと思っていた。しかし・・・

「テメエはどうしたい?」
「・・・は?」

 出してきた問いは全くの予想外で漠然としたものだった。

「どう、とは?」
「すっとぼけんじゃねぇぞ。テメエにとって一番に大事なモンは何だって聞いてんだよ。任務か?『聖地』とやらか?それともあのオッサン(クロムウェル)か?小娘(ルイズ)か?はたまた自分(テメエ)自身か?」
「私は・・・」

 ワルドはすぐに答えることが出来なかった。今の彼の心情ならルイズだと答えたい。が、彼にとって『聖地』を奪還することは長年の悲願であり、そしてそのためにもレコンキスタという組織は必要な存在だった。

 使命か、恋人か。その二つが彼の中でせめぎ合っていた。


「―――なぁ、ワルドよぉ。」

 黙っていると、再びランサーが尋ねてきた。

「・・・何だ。」
「俺のステータス、テメエは見えてんだよな。」

 またしても突拍子もない話。一応返事はしておく。

「見えるが、それがどうかしたのか?」
「俺のスキル、何か気になるモンはねぇか?」

 言われて小首をかしげながらも彼のスキルを確認する。
 ランサーの固有スキルは全部で三つある。

『戦闘続行』
 戦いで真価を発揮するスキル。これは今は関係ないだろう。

 『嘲罵』
 これには散々苦労をかけられたが、これも今は問題ではない。
 彼が言っているのは、恐らく三つ目のスキルだろう。

 
『流浪組』
 
かつて主君の下を離れ、他国へ亡命したことにより付けられたある意味裏切りともいえる行為から付けられたスキル。

「俺は元々はぐれものよ。オメエがどんな道を進もうが慣れっこだぜ。」

 その言葉は暗にこう意味していた。

“必要ならクロムウェルとは手を切れ。その時は俺はお前について行くだけだ。”

 ワルドは目を見開いてランサーを見つめた。
意外だった。普段嫌味しか出ない彼の口からまさかそんな言葉が出てこようとは。先の質問もワルドの複雑に絡み合う心情を察し、最も彼の中で優先すべきことは何かと問うてきたのだろう。

「私は・・・」

 ワルドが答えを出そうとしたその時だった。

 
 コンコン

 窓から音がしたため見てみると、そこには一羽の鳩が。脚に付いている紙からどうやら伝書鳩のようだった。
 ワルドはすぐさま手紙を読んだ。そして

「・・・いくぞランサー。」
「あ?どういうことだよ。」


「帰還命令だ。
 アルビオンが・・・トリステインを潰すそうだ。」



 それは、新たな波乱の幕開けであった。


 
 

 
後書き
 そんなわけで今回はエピローグはありませんが三章終了です。
 次章はいよいよタルブ戦です。一体どのような結末になるのか。そしていよいよ四人目のサーヴァントが・・・!?

 いつも通り、感想&評価お待ちしてます!! 
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