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フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~

作者:零水
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ゼロの使い魔編
三章 王女からの依頼
  魅惑の妖精亭

 
前書き
零「皆、たっだいま~!」
士「何か言うことは?」
零「大変申し訳ございません」
セ「出てきて早々土下座する作者www」
士「四か月も間空けるってお前なぁ・・・」
零「やっと身の周りが落ち着いてきまして。べ、別に凍結していたわけじゃないんだからね!」
士「誰もお前のツンデレは望んでいない。」
セ「素直に気持ち悪いです。」
零「・・・お待たせしました。どぞ。」 

 
「そう、そんなことがあったのね。」
「ああ。」

 ルイズと合流した架は、彼女が乗ってきたという馬車で城下町を目指していた。二人はそれぞれ起きたことを報告している。ルイズはアンリエッタからの依頼について、そして架はタルブで見つけた竜の羽衣について。
 
「にしてもまた極秘任務か。姫様も懲りないというか・・・。」
「私もいいのかって聞いたわ。でも」

 ルイズは話した。アンリエッタの覚悟を。
 国を良くするためなら自己の保身など厭わない。彼女はそう言って笑っていた。だからこそ、自分は彼女のその笑顔を守りたいのだ。

「私は姫様の為に在りたいって決めた、だからこの依頼を引き受けたのよ。」
「そうか。お前がそう決めたのなら俺は付いていくだけだ。」

 架が言うと、ルイズは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐにムスッとなる。

「ご主人様置いて出かけたくせに。」
「グ・・・済まない。まさかキュルケに騙されているとは・・・。」
「へえ~カケル、ご主人様に向かって言い訳するんだ~。ふ~ん。」
「・・・申し訳ない、マスター。」

 ジト目で睨まれては架も素直に頭を下げるしかない。よろしい、と満足げに頷くルイズ。
 だが、何を思いついたのか急にモジモジしだした。

「・・・ならいいわよ。」
「ん?」
「だ・か・ら、頭を撫でてくれたら許すって言ってるの!」
「あ、ああ・・・?」

 気圧されながらもそんなことでいいのかとか思いつつ、いつかの夜のようにゆっくりと優しく撫でてやる。最初は恥ずかしそうにしながらも次第に気持ちよさそうに顔も綻んでくる。
 そんな彼女の笑顔に架もどこか癒されるのであった。

「任務、成功させような。」
「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるの?」

 そんな会話をする二人。もう城下町も見えてきた。



 だが、架は知らない。
 この初任務が、この和んだ空気が嘘のような大波乱になろうとは。
 そして、その大波乱を作り出すのが、目の前の少女であるということに。








 ―――――一時間後。


「もう、無理っ!!」

 城下町に少女の悲鳴が響き渡る。周囲の人々が何事か注目するが、彼女はお構いなしのようだった。

「何で私がこんな貧相な服を着なきゃいけないのよ!」
「町に潜伏するっていうのに、学院の恰好でいるわけにいかないだろう。お前だって納得したじゃないか。」
「でもでもでもでもでもでも~~~!!」

 まさか学院の服で出歩くわけにもいかないので、適当に服屋を見つけ、架の目利きで仕立てることとなった。その服装は決してルイズの言うように貧相というわけではなく、十分に可愛らしかったのだが、貴族目線ではそうではないらしい。店内では渋々といった具合に納得はしていたようだが、いざ表に出るとすぐに音を上げることとなった。
 それから時間をかけて、服装については何とか説き伏せた。が、次の泊まる宿屋の話になると、そこからがまた大変だった。

「一泊200エキューですって!冗談じゃないわよ、二日で持ち金が尽きちゃうじゃない!」
「貴族も泊まるところとなるとそれくらいするんじゃないのか。もっと安いところに行かないと・・・。」
「そんな場所で寝れるわけないでしょう!」
「あのなぁ・・・」

 架は呆れるしかなかった。これが先ほどまで姫様のためにと言っていた人物とは思えない。貴族としてのプライドというのがルイズの主張なのだろうが、今という今は架からしたら邪魔くさくってしょうがなかった。

「このままでは埒が明かない。手分けして宿を探そう。」
「仕方ないわね・・・。」
「言っておくが、無駄遣いするなよ。」
「し、しないわよ!使い魔のクセに子ども扱いしないで!」

 どうだか・・・







 しかしながら、安い代金でルイズが納得してくれそうな宿など中々見つからない。日も傾きはじめたため、どうにかこれで我慢してもらおうという物件に当たりをつけ、待ち合わせの広場の噴水まで戻ってきた。
 噴水近くのベンチではルイズが既に待っていた。しかし、どことなく表情は暗い。お金の入った小袋を見てははぁ、とため息をついている。不審に思いながらも架はルイズに話かけた。

「ルイズ?」
「ひゃう!?カ、カケル!どう宿の方は見つかった!?」

 異常に驚くルイズ。更に持っていた小袋をササッと後ろに隠す。しかも別れる前に比べてかなり萎んでいるようにも見えた。
 まさか。と思った架はルイズ言ってみた。

「いや実はなルイズ。これならお前も大丈夫だろうっていう宿を見つけてな。しかも無理を言って少しの間だけ一部屋貸してもらえるようになったんだ。」
「ホ、ホント!?」
「ああ。5日で400エキューだと。破格だろう。」
「・・・・・」

 一度は浮かべた喜色の顔がそのまま張り付いたように固まった。架がじと~、と視線を向けると顔を青ざめ視線がゆっくりと逸れていった。

「ルイズ。」
「何でもないわよ。」
「じゃあ後ろに隠した袋を見せてみろ。」
「う・・・」

 言われてもルイズは隠した物を見せようとしない。はあ、とため息を一つつくと、架は奥の手を使うことにした。

「ルイズ。」
「な、何でもないったら!」
「正直に言いなさい。」


「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」


 暫くの間、二人の周りだけ無言の空気が流れていた。露骨にしゃべろうとしないルイズは相変わらず目を背けたままだが、架はルイズから目を離さない。ルイズの顔から、冷や汗が時間と共に増えていった。
 普段は主と使い魔という関係だが、今の光景は叱る兄と叱られている妹そのものだろう。
 実はこれ、架の妹である茜が今のルイズと同様悪いことをしてそれを隠していた時に架がよく使っていた方法だった。彼女たちとて馬鹿ではない。自分が行いに非があることくらい分かっている。だが、この年頃の子は無理やり聞き出そうとしても却って意固地になってしまい余計に口を開かなくなる。だから、架は何も言わない。その代わり決して逃がさない。相手が自分の非を隠すことに罪悪感を覚え、それに耐えかねるまで。

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ」

 数分を要し、ようやくルイズが諦めのため息をついた。どうやら話した方が楽だということにようやく気付いたらしい。
 「(ふむ、茜よりは短かったな。)」と架は感じていた。因みに架と茜のこの対決の最長時間は3時間である。その間流れた異様な空気に、場に居合わせていた士郎、凛、セイバー、ついでにアーチャーのSAN値がガリガリ削られたのはご愁傷さまといったところだろう。
 さしもの歴戦の強者たるセイバーやアーチャーも、「騎士同士の果たし合いを見ているかのようでした。」「何人たりともあれに介入することは許されまい。」と漏らしていたとか。

「それで、何に使ったんだ?」
「・・・」

 架がもう一度尋ねると、ルイズは黙ってとある建物を指さした。
 店の名前は読めなかったが、雰囲気で架は察した。所謂「カジノ」である。

「・・・いくら使った?」
「・・・・・・・・ぜんぶ」
「はあ・・・。」

 てっきり装飾品か何か買ってしまったのかと予想していただけに、架の落胆は大きかった。まさか初日から持ち金がゼロとなってしまうとは。しかも姫様から頂いた物を賭博で摩ったなんて罰当たりもいいところである。

「だ、大丈夫よ。400エキューなんて大した額じゃないわけだし・・・」

 シュンとなりつつもルイズは言い訳する。
 確かに架はこの世界の金銭価値は完璧には理解していない。ルイズが大丈夫というのなら本当にそうなのかもしれない。
 さてどうしたものかと考えていると――――



「お前ら何やっているんだこんなトコで?しっかもそんなチャチな恰好で。」
「「ヴァロナ!?」」


 二人の前に現れたのはアサシンことヴァロナだった。どうやらコルベールからお使いを頼まれていたところ偶然二人を発見したらしい。
 丁度いいとばかりに架はヴァロナに聞いてみた。

「なあ、400エキューってこの国じゃあどのくらいの価値なんだ?」
「はあ?どうしたいきなり。」
「ち、ちちちちちょっと!カケ・・・ムギュ!?」

 割って入ろうとするルイズの顔を手で押さえつけて黙らせる。それを訝し気に見ながら、「何のことかは知らんが・・・」と前置きしてから答えた。




「400あればそうだな・・・平民一人で向こう3年は働かなくても衣食住には困らんだろうな。」




 瞬間、静寂が辺りを覆った。だが、普通よりも明らかに温度が低い。その中心地であり、温度を下げる張本人の架は頭の中でヴァロナの言葉を何度も反芻していた。


 え?  何? 3年間? 働かなくても? 衣食住に? 困らない? 何それ? メチャメチャ高額ジャネ?


「え、え~と・・・カケル?」
「るいず」
「ヒィッ!?」

 恐る恐る声をかけると、恐ろしいほど底冷えな声が返ってきた。
死んだような目で睨まれて自分の使い魔ながら怯えてしまう。

「今度から財布は俺が管理する。いいな?」
「え、で、でも主人は私であって・・・」
「い・い・な。」
「(コクコク)」

 ゲイボルグも真っ青の射貫くような視線に高速で首を上下にするルイズだった。











「え~と、それで状況を整理するとだな・・・」

 場の空気を仕切り直すようにヴァロナが口を開いた。

「現状、お前さんたちがやるべきことは三つ。
 一つ、寝る場所の確保、
 二つ、資金の確保
 三つ、情報収集  と、これでいいな?」

 ヴァロナの言葉に架とルイズはうんと頷く。
所持金を失い、もはや途方に暮れた二人は事情を話し彼に助けを求めたわけだ。流石に極秘任務だと話すわけにもいかないので、アンリエッタの名は伏せたのだが。

「ヴァロナは城下町に結構来ているんだろう?何か心当たりはないか。」

 最悪、働いて返すという手段もあるが・・・、そう気前よくしてくれる店があるだろうか。
 架が考えていると、ヴァロナが「あ~・・・」と声を漏らした。

「あるにはある。」
「本当か。」
「ああ。店長の性格にやや難ありなんだが、今言った三つの条件は全部クリアできる。どうする?」

 どうもこうも他に選択肢が思いつかない以上それに頼るしかない。案内を頼むと「こっちだ。」と言って歩き始めた。







 ヴァロナを先頭に架とルイズら三人は歩いている。

「ねぇ、ホントにそこ大丈夫なの?」
「安心しろ。別にヤバいわけじゃない至極真っ当な店だよ。」

 不安そうにルイズが尋ねるがヴァロナは普通に返す。が、架は彼の顔がどこか苦々しい表情をしていることが嫌に気になった。
 やがて、一つの店が見えてきた。丁度よく店の扉から、一人の女性がビンの入ったケースを持ちながら外に出てきた。三人が近づくと、女性もこちらに気付いたようだ。

「あれ~、ヴァロナさんじゃん!」
「久しぶりだな、ジェシカ。」

 二人は見知った間柄のようで、親し気に挨拶を交わす。ジェシカと呼ばれた女性は黒髪黒目であり、どことなくシエスタを連想するほど彼女に似ていた。
 と、ジェシカは架たちに目を向けると首を傾げた。

「で、今日はどうしたの?後ろのお連れさんは見ない顔だし・・・。」
「ああ、実はな・・・」

 ヴァロナは事前に架たちと打ち合わせていた設定をジェシカに説明する。
 曰く、『隣国で父親に借金の返済の為売り飛ばされそうになったところを一緒に逃げてきたが、初めての国に路頭に迷ってしまったとっっってもかわいそうな兄妹』というものだ。
 「なんで私が下なのよ。」と口では反論したルイズだが、それに対し「どう見てもそうだろうが。」と、ここにきて場の空気を面倒くさくするほどヴァロナは馬鹿ではない。それに口ではそう言うものの、その表情は満更でもなさそうな彼女であった。
 因みに架はというと、『一緒に逃げた兄妹』という点において「既視感が・・・」と頭を押さえながら呟いていたとか。

「話は分かったわ。そういうことならウチのパパは放って置けないと思うから。ちょっと待ってね。」

 と、ジェシカは店の中に入っていった。三人は扉の前で待つことにする。

「店の名前、なんて読むんだ?」
「『魅惑の妖精亭』。お前そろそろこの世界の字覚えろよな。」
「むぐ、すまない・・・。」
「普通は聖杯から知識として与えられるんだがな。話す方は問題なさそうだし、聖杯も中途半端にくれたもんだ。」
「っていうかヴァロナ。ここって何の店?」
「まあそれはすぐに分かるとして・・・来るぞ。」

 それだけ言うとヴァロナは突然霊体化した(・・・・・)

「は――――」
「おい――――」

 突然の行動に二人が面食らった次の瞬間だった。

ドドドドドドドドドドドドドドド
バンッ

「ヴァロナちゃ~~~~~~~~~~~~~~~~っっっん!!!!!」

 ドゴォンッ!!

「ぎゃあああああああああああああ!!!!」

 扉の前に立っていた架が何者かのラグビーさながらのタックルで吹っ飛ばされ、向かいの壁にそのまま激突した。あまりの衝撃だったため、一瞬意識が飛びそうになったほどだ。ルイズに至っては「あ、え、」と、あんぐりと口を開けることしか出来ない。
 何せ突っ込んできたのは何処で鍛えてきたんだと言えるほどのガチムチのマッチョだったのだから。

「あら、よく見ると違うわね。でも抱き心地いいわ~!ねぇ貴方お名前は!?」
「あ、あ~・・・」

 自身が追いやったのにもお構いなしにピチピチの服を着たマッチョ男は聞いてくる。というかその口調はまるで女―――つまりはオカマのマッチョだった。
 一方架も架で答えることが出来ない。今の彼の心の中は驚き2割、戸惑い1割、痛み7割といったところだろう。
 それは正に彼のランサーにもらった一撃よりも効いたのではないかと思えるほどである。

「スカロン、その辺にしておけ。」
「あらやだヴァロナちゃんってば。新しい子を紹介しに来てくれたのね。」
「否定したいんだが微妙に合ってるな・・・。」

 何事もなかったかのように再び実体化したヴァロナに指摘され、スカロンと呼ばれた男(女?)はようやく架を解放してくれた。殺気を込めてヴァロナを睨み付けるが、彼はスイッと受け流してそっぽを向いた。

「大体の話はジェシカから聞いたわ。詳しくは中で話しましょ。」
「じゃあ俺はここまでだ。がんばれよ、お二人さん。」

 ヴァロナはそう言って去っていく。どうやらいつも通り、後のことには関わりたくないらしい。
 ふらふらな架と未だ放心状態のルイズを先ほど女性が「ほらしっかりして!」と背中を叩いた。

「アタシはジェシカ。よろしくね二人とも!」








 その数時間後・・・


「カケルちゃん!6番テーブル、オーダー入ったわよ!」
「分かった!ノエル、これを8番に持って行ってくれ。」
「オッケー!」
「カケルちゃん、11番さんのまだ出来ない!?」
「もう出来る!そこにいてくれ!」

 執事服にエプロンをつけ、厨房でひっきりなしに動きまわる架の姿があった。

「(くそっ、何でこうなった!?)」




 つまり、ここに来る道中にヴァロナが説明するにはこういうことだった。
 ここ『魅惑の妖精亭』は大衆酒場であり宿屋でもあるらしい。そこで、宿の一室を借りる代わりにここで働かせてもらうよう頼んだのである。
 ヴァロナ曰く、酒場はアルコールの勢い任せて普段から溜まっている鬱憤や本音が出やすい。裏の情報を聞き出すならばこれほど簡単な場はない、とのことらしい。正に、一石三鳥である。
 スカロンも事情(出まかせだが)を聞き、快く承諾してくれた。ルイズも架も、他に当てもないのは事実であるし、何より所持金ゼロならば四の五の言ってもいられないと覚悟を決めた。決めたはずだった・・・


「さあ、ワタシの可愛い妖精さんたち!今日は新しいお仲間を紹介するわよ~!」
『はぁ~い!』
「ルイズちゃ~ん、いらっしゃ~い!」

 呼ばれておずおずと現れた新入りに、メイドの少女たちから黄色い歓声が沸いた。

「ル、ルイズと言います!よ、よよよろしくお願いいたしますです!」
「ルイズちゃんはね、借金をした父親に売られそうになったところを兄妹で必死に逃げてきたそうなの。皆、仲良くしてちょうだいね!」
『はぁ~い!』

 店の女の子たちは元気に応えるが、当のルイズは羞恥心でいっぱいだった。
 なぜ貴族の自分がこんな恰好をしなければならないのか!スカートも短すぎて下着が見えそうだし・・・。


 と、そこへ―――

「な、なあスカロン店長・・・」
「ノォオオオオ!!ここではミ・マドモアゼルって呼びなさい!!」
「あ、ああ。そ、それはいいんだが、その、何で俺までこんな恰好を・・・?」
「な~に言ってんのよ!?貴方にも宿を貸してあげてるんだから働いてもらうのは当然でしょ?丁度給仕の人手も足りなかったし、それにその服も似合ってるわよ♡」
「だ、だがな・・・」

「え・・・?」
「あれ、男・・・?」
「店ty「ミ・マドモアゼルよっ!!」ミ・マドモアゼル、その人は?」

 ルイズに続いてひょっこり現れたのは、執事の恰好をした架であった。この店に(皆口が裂けても言えないが)店長以外の男性がいるとは思わなかったのか、少女たちも少々ポカンとし、その内の一人がスカロンに尋ねた。

「ああ、今紹介しようと思ってたのよ。彼がルイズちゃんのお兄さんのカケルちゃん。ダメな父親に代わって家事全般がやってたっていうから、いろいろ雑務を任せることにしたの。ほら、ちゃんとご挨拶なさい!」
「い、今紹介に預かったルイズの兄の架という。よろしく頼む。」

 ネクタイの首元の部分を弄りながら、普段の彼らしからぬぎこちない挨拶をした。

(へえ、お兄さんだって)
(でもあんまり似てないわね)
(顔立ちはまあまあいいわね)
(それにほら、恥ずかしそうにしちゃって、か~わいっ!)

 少女の間でヒソヒソと囁き合っているようだが、自分のことだと分かっているため架もより恥ずかしくなってくる。何よりこのような執事服など当然着たこともないわけだし、いろんな意味で居心地が悪いったらない。

「働かざる者食うべからず、って言うでしょ?二人とも泊めてあげるんだからルイズちゃんだけでなくアンタも働きなさい。」
「・・・・・了解した。」

 その後、掃除や皿洗いだけでなく、気が付いたら厨房にまで立たされ現在に至るわけである。





「はあ、さすがに疲れたな・・・。」
「いや~でも貴方ってホントに料理が上手いのね。ちょっとつまみ食いしたんだけど驚いちゃった。」

 閉店後、架が休んでいると、ジェシカが褒めながらやってきた。
おい、と睨むと「あははは~」と笑って誤魔化された。
手伝いの際にいろいろ話したのだが、どうやらジェシカはあのシエスタとは従姉妹の関係らしい。やはりとは思ったが少しばかりは驚いた。

「おかげで普段は酒しか飲まない連中まで料理を注文しだして思わぬ繁盛だったわ。」
「まあ、こっちは泊めてもらっている身でもあるからな。店の儲けの助けになるならなりよりだ。」
「まあアンタわね。後は・・・」
「む・・・」



「やっぱり無理よこんな生活!!」

 ルイズの悲鳴に近い言葉に、架は今日何度目かのため息をつく。
 架が雑務に追われる一方でルイズは当然接客の仕事を任されたわけだが、案の定上手くいかなかった。
 やれ酒を注げと命令されただの気安く触られただのということで、客に罵声に平手打ちに蹴り、果ては顔面に酒をぶちまけたという。その時は流石に止めに入ったのだが。
 予想はしていたがここまで予想通りとは・・・。
 
「それも借りた部屋は何!?ここが人の寝る所なの!?物置小屋と言った方がまだ納得よ!!」
 
今架とルイズがるのはスカロンから借りた部屋なのだが、聞いていた以上のボロ部屋だった。
 架が急遽掃除をして何とか座れるようにはなったものの、床や窓は音を立てるわベッドもカビ臭いし一つしかない。まあでも野宿するよりは何倍もマシというものだ。


「冗談じゃないわ!これじゃあ他の安宿に泊まった方がマシよ!!」
「泊まろうにも一文無しだろうが俺ら・・・」

 そう思ったのだが、ルイズの喚きは止まる素振りを見せない。フォローにまわる架の言葉も仕事の疲れも手伝って覇気がない。
 結局散々不平不満を言った挙句に「もう寝る!」とボフンとベッドに横になってしまった。

「(はあ・・・今回の任務、上手くいくのか・・・?)」

 窓の外をぼんやりと見やる架の顔には、初日から諦めの色が濃かった。



 

 翌日からも、相変わらずの日々が続いた。架は仕事の最中、客たちの会話に耳を傍立てていたし、ルイズも相変わらずの接客態度だったが、それでも何か話が聞けないかと奮闘する毎日だった。
 
 転機が訪れたのは、二人が『魅惑の妖精亭』に来てから数日たった頃である。







 ―――――――――――――
 
おまけ ―魅惑の妖精亭に行く少し前のこと―

カ「所持金ゼロか・・・」
ル「ねぇヴァロナ、少しお金貸してよ。」
ヴ「しょーがねぇなぁ。」
カ「こらルイズ!ヴァロナも甘やかすな!」
ヴ「あ~でも俺もあんまし余裕がねぇな・・・。ちょっとそこのカジノで増やしてくるか。てなわけで行くぞ。」
カ「はぁ?何で俺も?」
ヴ「二人でやった方がいいだろ。それに主の尻拭いをすんのも使い魔の仕事さね。」
カ「む・・・分かったよ。」
ル「カケル・・・」(期待に満ちた目)

 ~~30分後~~

ヴ「スッカラカンだな・・・。」
カ「くそ、何故だ・・・。」

 セイバー→幸運:D アサシン→幸運:E

ル「よく考えたら上手くいく訳なかったわね・・・」(残念に満ちた目)


 ※本編に加えたかったのですが、そこまで尺を使う場面でもなかったためカット


 
 

 
後書き
 というわけでお久しぶりです!長く空けていましたが、その間にもお気に入り登録をしてくれる方がいて嬉しいです!
 いつも通り、感想や評価お待ちしてます! 
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