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立ち上がる猛牛

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第五話 主砲とストッパーその一

                 第五話  主砲とストッパー
 西本はブルペンで投げるピッチャー達のうちで長身で目尻を決した大きな口の若い投手を見てコーチ達に言った、背番号二十九山口哲治だ。
「山口はええな」
「はい、速球も生きてますし」
「シュートの切れ味もいけます」
「あれはええピッチャーですね」
「気も強いですし」
「あいつ使っていくで」
 西本はコーチ達に言った、そして。
 昭和五十三年のシーズンは阪急は前期後期共に優勝しプレーオフもなく万全の調子で日本シリーズに挑んだ、相手は巨人の名ショートだった広岡達朗率いるヤクルトスワローズ、広岡の徹底した管理野球で長嶋巨人を見事倒し初優勝を遂げたチームだ。
 広岡は巨人についてこう言い切った。
「決して怖い相手ではない」
「あの巨人がですか」
「怖くないですか」
「長嶋君の采配にはミスが多い」
 広岡は長嶋を常に『君』付けで呼ぶ、巨人時代三遊間を組んできた同じチームの先輩だからこう呼ぶがそこには完全に飲んでいる、彼のことをわかっているという意識もあっただろうか。
「そのミスを選手達がカバーしているだけだ」
「カンピューターですか」
「ミスターの勘ですね」
「野球は勘でするものではない」
 広岡はこの持論も出した、データとセオリーを重視したうえで徹底的な選手の管理を行ったうえで戦うのが彼の野球だ。
「それではミスが多いのも当然だ」
「それで怖くないんですか」
「ミスターを選手がカバーしている」
「それだけですから」
「しかもそれが出来ているのは九連覇の選手達だけだ」
 かつての栄光の時代のというのだ。
「王君をはじめとしたな、若手は出来ていない」
「だからですか」
「巨人も恐れることはないですか」
「じゃあうちも」
「優勝出来るかも知れないですか」
「出来るかもではない、するのだ」
 広岡はそれを当然だと言い切った。
「他のチームのことも調べてある、今シーズンはヤクルトが優勝する」
「まさか」
 ヤクルトの選手達は誰もがこう思った、何しろ昨年の二位が球団創設以来の成績だったのだ。それでどうして優勝なのか。
 だが広岡は選手達を上手に使い相手のデータを調べ尽くしたうえでの攻略を行っていき巨人も実際に長嶋の采配ミスを衝いていき勝利数を増やしていき。
 遂に優勝した、そのうえで阪急とのシリーズに挑んだ。この勝負は多くの者が阪急有利と見ていた。しかし。
 阪急はこの時山口を怪我で欠いていた、このことが阪急の戦力ダウンになっていた。それでも阪急有利であったが。
 広岡は冷静に勝負を進めていった、ナインの奮起もあり勝負は第七戦にまでもつれ込んだ。その第七戦において。
 ヤクルトの主砲大杉勝男のホームランの判定を巡って上田は猛抗議した、その抗議は一時間以上続いてだった。
 コミッショナーまで出て来て上田を説得にかかったが日本一がかかっている試合だ、上田も退かない。それでコミッショナーも激怒する事態にまでなった。
 そうした騒動もあったがヤクルトは日本一になり阪急は四連覇を逃した、この抗議のこともあり上田はリーグ優勝を果たしながらも監督を辞任し後任には阪急の左のエースだった梶本隆夫が就任した。
 阪急は優勝しながらも騒動が起こったがこれは日本一になったヤクルトもだった。広岡は確かに理論派でありその理論は正確だ。そして誰よりも野球を愛している人物でもある。
 だが難を言うとあまりにも我が強いということか、とかく己の理論を引っ込めない。己の意見を言わずにはいられず監督等の要職にあるとその主張の実践をせずにいらないのだ。
 それはこの時も出ていた、後にも出るが。
 守備力を重視していることからだ、大杉と並ぶチームのパワーヒッターであるチャーリー=マニエルについてだ。 
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