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立ち上がる猛牛

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第四話 苦闘の中でその一

                 第四話  苦闘の中で
 昭和五十年のプレーオフで近鉄は力及ばず敗れた、来年こそはとなったがそう簡単に進める程野球も世の中も甘くはない。
 選手層の薄さ、それが何よりも出てだった。近鉄は翌年は四位に終わった。
「やっぱりなあ」
「去年はまぐれか」
「後期の優勝は」
「たまたまか」
 ファン達もがっかりとした。
「阪急と全然ちゃうわ」
「選手層が薄いわ」
「若くてもまだな」
「力がないわ」
「どの選手もな」
 西本が毎日教えている佐々木や平野、栗橋、石渡、吹石、島本、羽田、梨田、有田といった面々を見て言うのだった。
「何かな」
「今一つやな」
「ピッチャーも伸び悩んでるし」
「太田も仲根も」
「井本もな」
「阪急と全然ちゃうわ」
 かつて西本が率いていて同じ関西で親会社もまた鉄道会社であるというまさにライバル関係にあるといってもいいこのチームとは、というのだ。
「南海よりもあかんな」
「あそこもそこそこやしな」
 このチームも関西にあり親会社は鉄道会社だ。
「何かぱっとせんな」
「昔の万年最下位やないだけましか」
「百敗した頃よりもな」
「まだBクラスだけでな」
「ましか」
「あの時を思えば」
 こう言うのだった、結局去年のことはたまたまだと思っていた。投は鈴木打はジョーンズがいるが後が、だった。
 今一つだ、阪急との力の差は歴然と思われていた。ここでも土井を放出して山口を獲得しなかったせいだと言われた。
「あの二人がいたらな」
「違ったのにな」
「もう言うても仕方ないにしても」
「優勝出来たかもな」
「あの二人おったら」
 ぼやきさえ出ていた、とかく近鉄はまたぱっとしないチームに戻った。だが西本はそうした状況でもナイン達を叱咤し毎日激しい練習をさせた。
 そしてだ、グラウンドで厳しい顔で言うのだった。
「王や長嶋みたいな選手はそれこそ滅多におらん」
「はい、流石に」
「同じプロでもです」
「あの二人は別格です」
「決定的に違います」
「そや、あの二人はまたちゃう」
 西本はコーチ達にも記者達にも言った。
「プロ野球選手の中のプロ野球選手や、けど並の選手でもや」
「練習せんと」
「あきませんな」
「駄目なままで」
「進歩がないですか」
「練習していけばや」
 それでというのだ。
「芽が出る、人間努力せなあかん」
「そやからですね」
「毎日激しい練習して」
「キャンプでは野球漬けで」
「泥だらけになって野球してますか」
「走って投げて振ってや」
 そうしてというのだ。
「やってくしかないんや、幾ら今があかんでも」
「練習はしていく」
「絶対に」
「そうしていきますか」
「この連中には何度でも同じこと言うて同じことさせる」
 そして実際にそうしている、言ったことは必ず実行するのも西本だ。まさに頑固一徹と言っていい人間なのだ。
 彼は選手達を激しく叱咤し続け練習をさせた、その四位の中でも。
 眠ったままの巨獣だの未完のままの大器と言われた羽田もだ、昨年は殴ってでも教え込んだ。とにかく彼の教えられる全てを選手達に叩き込んだ。 
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