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立ち上がる猛牛

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第三話 二つの過ちその七

「チームのことは西本君に任せてるからな」
「そやからですか」
「西本さんが鈴木を放出せんって言ってますから」
「鈴木は出しませんか」
「そうしますか」
「西本君には西本君の考えがある」
 佐伯はフロントの面々に言い切った。
「それやったら任せる」
「ほなこのトレードの話はなしですか」
「そうしますか」
「わしも鈴木君の力は必要や思うてる」
 近鉄、彼が創設の時から観ているこのチームにというのだ。
「そやからな」
「このトレードの話は断って」
「鈴木はこれからもうちですか」
「西本さんに預けますか」
「近鉄は彼やないとあかん」
 西本、彼が監督でなければというのだ。
「優勝する為にはな」
「ですか、ほなこの話はなしで」
「鈴木のことは西本さんに任せて」
「近鉄に残ってもらう」
「そうしますか」
「鈴木は頑固やが絶対にわかる」 
 佐伯は強い表情で言い切った。
「その時まで我慢してもらう」
「わかりました」
 佐伯は球団だけでなくグループ全体の総帥だ、ワンマンと揶揄されることもあったがその経営はグループ全体から絶大な信頼を得ていた。その佐伯が言うことだったからだ。
 鈴木は残留となった、彼はこのことに強い不満を覚えたが近鉄に残るしかなかった。それで西本に言われつつも練習を続け開幕となった。
 シーズンがはじまるとやはり阪急が強かった、昨年の覇者であるロッテを退ける勢いで実際に勝ち続けていた。
 その阪急を見てだ、ファンは唸った。
「やっぱり強いわ」
「ああ、阪急は別格やな」
「西本さんが育てただけあってな」
「それで強いわ」
「強いなんてものやない」
「半端やないわ」
 それだけの強さだった。
 とかく攻守走に隙がない、投手陣もエースである山田久志をはじめとして安定した強さを誇り前期優勝に向かっていた。
 その状況を見てだ、彼等は言ったのだ。
「阪急の強さは半端やない」
「今年は阪急やろな」
「あの山口も今はちょっとあかんが」
「やがて出て来るやえろし」
「近鉄は今年もあかんかな」
「というか今の戦力やと無理やろ」
「土井は出たし山口も獲得出来んかったしや」
 この二つの失敗があってというのだ。
「優勝出来んわ」
「この二人がおったらな」
「わからんかったけど」
「こらあかんわ」
「スズもそろそろあかんやろし」
「柳田なんか役に立つんかいな」
 首を傾げさせてだった、彼等は近鉄が優勝するとは殆どのファンが思っていなかった。阪急が優勝すると思っていた。
 しかし近鉄も奮闘した、鈴木は西本に対して強い不満を露わにしていたがそれでもだった。マウンドでは日間に投げていき。
 やがてだ、鈴木は気付いてだ。親しい者達にこう漏らしだしていた。
「監督はわしにあれこれ言うけどな」
「それはですか」
「実は、ですか」
「ほんまにわしのことを思ってな」 
 そのうえでというのだ。
「言うてるんちゃうか」
「ずっとですよね」
「去年からですね」
「監督鈴木さんに言うてますよね」
「あれこれと」
「そや、もう速球だけやなくてな」
 自慢のそれだけではなく、というのだ。
「緩急つけたりしてな」
「変化球の種類も増やして」
「そのうえで」
「わしはコントロールには自信がある」
 ただ速球がいいだけで一つのチームでエースであり続けることが出来る程プロ野球は甘くはない、鈴木のもう一つの武器はこれだ。
 このことを踏まえたうえでだ、鈴木は話した。 
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