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立ち上がる猛牛

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第三話 二つの過ちその四

「信頼出来るのは土井だけです」
「土井が四番におってです」
「うちの打線は何とかです」
「前に柳田獲得するって話をしたやろ」
 西本は土井の名前を出すコーチ達にこのことから話した。
「それで交換トレード言うてきたんや、向こうに話したら」
「ひょっとして」
「太平洋さん交換の条件に土井言うてきました?」
「まさかと思いますが」
「そのまさかや」
 まさにその通りというのだ。
「言うてきたわ、柳田欲しいんやったら土井くれとな」
「柳田と土井ですか」
「飛車と桂馬位の差ちゃいます?」
「それは幾ら何でも」
「出せませんで」
「そやけど柳田は欲しい」
 阪急にかなり強い彼はというのだ。
「そやったらな」
「土井をですか」
「太平洋に出しますか」
「そうしますか」
「そうしよか、土井は一枚看板やから出したくない」
 西本の本音だ、打線の一枚看板なので出せないというのだ。
「けどや」
「柳田ですか」
「あのピッチャーが欲しいですか」
「しかも考えてみるとや」
 西本は実際に考える顔で言った。
「うちの打線は土井に頼りきりや、このままやと皆奮起せん」
「若手の発奮の為にもですか」
「あえて土井を出して」
「若手に自分がという気にさせる」
「そうしますか」
「しかも土井は打つけどや」
 しかしというのだ。
「守備が悪い」
「打球への反応もグラブ捌きも」
「足も遅いですし」
「そうですさかい」
「ジョーンズも守備は悪いしや」
 彼もというのだ。
「守備悪いの二人外野で置くとそれだけで穴や」
「はい、確かに」
「外野が悪いと辛いです」
「やっぱり守れる奴が欲しいです」
「そやから出すか」
 西本は苦い顔で言った。
「土井をな」
「そして柳田獲りますか」
「そうしますか」
「そうしよか、若手中心のチームにしていく」
 土井をあえて出してというのだ。
「内野と外野はな」
「ほな柳田を獲得して」
「土井を出しますか」
 コーチ達も言う、こうしてだった。  
 四番の土井をあえて柳田との交換トレードで太平洋に放出した、このトレードを見て誰もが驚いて言った。
「四番の土井を放出!?」
「柳田って誰だ?」
「西本さん何考えてるんだ?」
「これからどうして点取るんだ」
「来年の近鉄大丈夫か?」
 誰もがこのトレードは有り得ないと思った、幾ら土井の守備が悪くともだ。
 いぶかしむ者、失敗だと言い切る者ばかりだった。だが西本はこれでやっていくしかないと決めていた。しかし。
 その西本の下にある報告が来た、西本はその報告を聞いて仰天した。
「指名打者の導入かいな」
「はい、来シーズンからです」
 報告をする若いフロントの者も驚いた顔である。
「守らんでええ、打つだけの」
「それは土井の為の制度や」
 西本は言い切った。
「土井は打つけど守備は悪い」
「はい、ですから」
「そんな土井の為のものが出来るってわかってたらや」
 西本は痛恨の顔になっていた、そのうえで言うのだった。 
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