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立ち上がる猛牛

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第三話 二つの過ちその三

「ちょっとトレードしたいんや」
「トレード?」
「トレードするんですか」
「阪急を抑えられるピッチャーが欲しい」
 西本は真剣な顔でコーチ達に言った。
「あの打線をな」
「阪急ですか」
「あそこの打線をですか」
「阪急の打線は強い」
 西本は言い切った、伊達に彼が十一年間率い一から育て上げ五度のリーグ優勝を果たしてきた訳ではない。
「パリーグで一番や」
「その阪急の打線を抑えられるピッチャー」
「それが必要ですか」
「うちでそれが出来るピッチャーはや」
 それは誰かとだ、西本はコーチ達に話した。
「やっぱりな」
「スズですな」
「あいつだけですな」
「そや、けどそのスズでもや」
 エースの鈴木啓示でもというのだ。
「前のシーズンでは打たれてたやろ」
「はい、確かに」
「スズも結構打たれてました」
「あとはタミですか」
 神部民男だ、近鉄のもう一人の左腕だ。
「あいつ位ですが」
「あいつも打たれますし」
「阪急を抑えられるピッチャーは」
「うちには」
「他のチームにはおる」
 ここでこう言った西本だった。
「太平洋クラブにおるやろ」
「太平洋?」
「あのチームにですか」
「柳田豊や」
 このピッチャーだというのだ、右のサイドスローの技巧派だ。
「あいつは阪急に滅法強い、そやからな」
「その柳田を獲得しますか」
「トレードで」
「そうしますか」
「そや、あいつを獲得するで」
 山口は諦めたがというのだ、こうしてだった。
 西本は柳田の獲得を決めこのことを太平洋クラブのフロントに話した。
 その話を受けてだ、太平洋側はこう西本に話した。
「それでしたら交換で」
「交換トレードやな」
「土井をくれますか」
「土井!?」
 そう言われてだ、西本は思わず声を挙げた。
 そのうえでだ、太平洋側にすぐに問い返した。
「土井正博のことか」
「はい、その土井です」
「あいつをか」
「土井との交換でしたら」
 それならというのだ。
「柳田をそちらに」
「他の選手やないとあかんか」
「柳田は今は対して勝ってません」
 実績を挙げていないというのだ、柳田はまだ若手で無名だ。もう鈴木と並ぶ近鉄の看板選手の一人である土井とは全く違う。
「けれど実力は折り紙付きです」
「その通りや」
「その柳田を出すとなると」
 それこそというのだ。
「こちらもです」
「土井か」
「それ位の選手が欲しいです」
「そうか」
「どうされますか」
「少し考えさせてくれ」
 西本は太平洋側にこう返した。
「それから返事出すわ」
「では待たせてもらいます」
「そういうことで頼むわ」 
 西本はここから熟考した、まずはチームの打線を見た。
 そのうえでだ、コーチ陣に問うた。
「今のうちの打線どや」
「はい、やはりです」
「阪急と比べると今一つです」
「どうにも」 
 コーチ陣はすぐに西本に答えた。
「土井とジョーンズには長打がありますが」
「この二人だけです」
「羽田、佐々木、栗橋、梨田、有田、石渡、平野、吹石がいますが」
「この連中まだまだ若いですし」
「育つのはまだ先やと思います」
「しかもジョーンズは三振多いですし」 
 実は昨シーズンホームランを獲得した、だが彼は南海にいたがこの時に問題視されていたバッティングの荒らさが問題なのだ。 
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