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酒と雪女

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第二章

「これ完全に空けたら寝ような」
「そうしような」
「俺達飲む時は絶対に一本空けてるな」
「二人でな」
「まあそれ以上飲むとな」
「二日酔いになりかねないし身体にも悪いだろ」
「お互い身体が心配な歳になってきたな」
 兄にこうも言った、一升瓶を手に取って自分の湯飲みに入れながら。
「本当に」
「そうだな、もうな」
「それでその歳になってもな」
「兄弟で二人暮らしか」
「寂しいものだな」
「まあそれはな」
 喜一郎は飲みつつ少し苦笑いになって応えた、もうテレビは観ていないが点けたままだ。BGM代わりにしているのだ。
「その通りだな」
「結婚もしないでな」
「時々風俗に行く位だな」
「それ位だな、仙台までわざわざ行って」
「ここは田舎だからな」
「仕事はあってもな」 
 それでもとだ、喜多も少し苦笑いになって言う。
「本当に田舎だな」
「全くだ、一応市だけれどな」
「妖怪の出そうなな」
「おいおい、それは遠野だろ」
「同じ岩手だろ」
「それはそうだけれどな」
「じゃあ妖怪が出てもな」
 それこととだ、喜一郎はつまみの梅干を口に含んでから言った。
「おかしくないだろ」
「何か変な論理だな」
「そうか?」
「兄貴学校の成績悪かったしな」
「これでも一応大学出てるぞ」
「それ言ったら俺もだろ」
 実は二人は大学も地元だ、しかも同じ大学出身だ。
「学部もな」
「ああ、成績は御前の方がよかったな」
「それで同じ大学で同じ学部ってのも変な話だな」
「そういえばそうだな」
「とにかくな、そこで妖怪かよ」
 喜多は話を戻した。
「河童とかっていうのかよ、座敷童子とかな」
「河童?この雪でか?」
「ないよな」
 喜多は大雪の中歩く河童の姿を想像してからすぐにこう返した。
「それこそ」
「河童も風邪ひくだろ」
「それもそうだな」
「座敷童子がいたらな」
「俺達幸せになってるよな」
「もっとな」
「嫁さん貰ってな」 
 具体的にはこうした幸福だった、二人が願うのは。
「そうなってただろ」
「そうだよ、だからそういう妖怪じゃなくてな」
「具体的にどんな妖怪だよ」
「今は外雪だぞ」
 喜一郎は弟にこのことから話した。
「それならな」
「雪女か」
「やっぱりそれだろ」
 一杯飲みながら言った。
「雪だからな」
「雪女な」
「それだろ、今の状況は」
「そうか、じゃあ急に来て俺達を凍死させるとかか」
「小泉八雲の小説みたいにな」
「いい話じゃないな」
 喜多は兄の話を聞いて今度はこう返した。 
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