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侮ると怖い

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第五章

「ですから」
「さばさばしてるね」
「そうですか?」
「まあ僕も昔はそうだったけれどね」
 だが今は違うというのだ。どう違うかというと。
「けれどあの娘はね」
「ラターナちゃんはですか」
「いや、可愛いよ、しっかりした性格でね」
 性格についても話すのだった。本当にのめり込んでいる証だった。
「真面目でね。いい娘だよ」
「確かにそうでしょうけれど」
「メイドだっていうんだね」
「メイド喫茶ですから」
 向こうも仕事だというのだ。チャーンはこのことを言うのだった。
「本当にくれぐれもですよ」
「わかってるよ。伊達に遊んできていないよ」
「だったらいいですけれど」
「女の子に貢ぐのはいいさ」
 津田にしても経験があることだ。遊ぶ中には貢ぐこともあるというのだ。
「けれどそれでもね」
「溺れないんですね」
「チップはしても過ぎることはしないさ」
 節度は弁えているというのだ。少なくとも借金はしないまでに。
「絶対にね。だから安心してくれよ」
「だったらいいですけれどね」
「しかし。あれだね」
 ここでだ。こんなことも言う津田だった。チャーンに対して。
「今日も行くけれどね」
「やっぱりのめり込んでますよね」
「のめり込んでるけれど節度は守ってるよ」
「だといいんですけれど」
「それでだけれどね」
 津田は今の本題を話した。変えた話題のそれを。
「あの娘に最近言い寄ってる奴がいるそうだね」
「津田さん自身じゃないんですか?」
「違うよ。だから僕は遊んでるだけだからね」
「言い寄ることはされないんですか」
「本当の遊び人は言い寄る相手も店も心得ているものさ」
 少なくともメイド喫茶はそうした店ではないというのだ。ご主人様になりきってそれで満足した気持ちになって楽しむ、そうした店だというのだ。
「だから僕はあくまでご主人様だよ」
「ストーカーではなくて」
「ストーカーとご主人様は違うよ」
 それはだ。断じてだというのだ。
「僕はあくまでご主人様だから」
「ストーカーはせずに」
「そう。ただね」 
 そのストーカーについてだ。津田は難しい顔になった。
 そして腕を組んでだ。その顔と姿勢でチャーンに話したのである。
「ストーカーはまずいね」
「日本でも問題になっているそうですね」
「何処にでもいるんだね、そういう奴は」
「いますよ。インドネシアにも」
 この国にもだ。残念ながらいるというのだ。
「いない筈がないですよ」
「そうだね。だから何とかしないとね」
「警察に頼むという手がありますけれどね」
「警察はね。ストーカー被害には冷淡なんだよね」
 少なくとも日本ではそうだ。それで何度も問題を起こしている。
「被害が出てから動くんだよ」
「それじゃあ遅いですよね」
「だからね。警察はね」
 津田は日本でのことからチャーンに話す。
「インドネシアがどうかは知らないけれどね」
「うちの警察も。そう言われると」
「頼りにならないんだね」
「おそらく日本以上に」 
 頼りにならないというのだ。インドネシア、このバリ島の警察も。
「観光地なんで酒場とかでしょっちゅう騒動が起こりますからね」
「そちらに忙しくてだね」
「はい、そうしたストーカーについては」
 どうしてもだ。注意が行かないというのだ。
「そうなると思います」
「そうか。じゃあどうしたものかな」
「ラターナちゃん自身にお話しますか?」
「そうしようか」
 こうした話をしてだ。そのうえでだ。
 津田はその日も店に帰った。そうしてだ。
 チャーン、この日も別の女の子と遊んでいる彼と共にだ。ラターナ自身にそのストーカーのことを話したのだ。のめり込んでいる相手のことはどうしても心配になるからだ。 
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