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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第47話 テレスティーナ

AIM拡散力場制御実験により意識不明の重体となった、かつての教え子を救うため取引、脅迫という楔で結託したサソリと木山が潜入している研究所に一台の高級車が停車した。
車のドアが開いて、中からスーツをビシッと決めて、眼鏡を掛けた女性。
髪は茶色のロングヘアだ。
所謂、キャリアウーマンに近い風貌の女性が落ち着いた様子で顔を扇ぐ。

「ったく暑いわね。これだから夏は嫌いなのよ」
車からカバンやパソコン類を取り出していると、背後に人の気配がして振り返ると奇妙な仮面を付けた金髪少女がしゃがみ込んで、熱心に眼鏡を掛けた女性の臀部を観察していた。

「な、何をしているのかしら?」
女性は、やや不機嫌そうに後ろにいる金髪少女を威嚇するように言った。
「へーここから、うんこが出るんすね!」
仮面から覗くキラキラした紅い瞳で眼鏡の女性を見上げた。
そして、手をワシャワシャさせながら
「触ってみて良いっすか?」
「誰が良いか!」
後ろ蹴りを金髪少女にぶちかまして、勢い良くゴミ捨て場に突っ込んでしまう。
「あちゃー、減るもんじゃないのにケチっすね」
「その前にアンタ誰よ?ゼツの仲間?」

「おおー!アンタが......?名前忘れたっすね」
散乱したゴミ袋の中からひょっこり顔をだして、スカートに付いたビニールテープを剥がしていく。

「テレスティーナよ。全くこんな時間に呼び出して」
やれやれと言った感じに首を横に振った。

テレスティーナ•木原•ライフライン
警備員(アンチスキル)の一部署「先進状況救助隊」の隊長及び付属研究所所長を務める人物。

「ああ!でも呼び出したのはオイラじゃないっすよ」
パンパンと服を払いながら立ち上がった。
「オイラはトビっす」

「へえ、まあどっちでも良いわ。それよりも『ホルスの眼』については本当なのよね」
「ホルス?......」
トビフレンダが腕を組んで首を傾げた。

「万物を見通す眼よ。赤い髪の少年が所有しているって確認しているわ」
「ああー。写輪眼の事っすか~。サソリ先輩なら今侵入しているっすよ」

古来より眼には不思議な霊力があるとされ、眼をモチーフにした伝説が数多く存在している。
眼を合わせた相手を死に至らしめる『バジリスク』
相手を石化させる怪物『メデューサ』
開眼すれば超頭脳を見せる『三つ目族』
そして、古代エジプトの神に宿る万物を見通す『ホルスの眼』

「そう、私はそれが手に入ればこんな場所に用はないわ。はい、これをお願い」
車のトランクから人一人が簡単に入れそうな大きな箱を叩くとトビフレンダに言いつけた。

「?それをどうするっすか?」
「運ぶのよ。一応使うかもしれないし......それに、あの木山博士もいるみたいじゃない......確認してみたらね」
にやりと笑みを浮かべると狡猾そうな企み顔をする。

「重いっすね〜!あっ、聞き忘れていたことがあったっす!」
トビフレンダが発言とは裏腹に軽々と持ち上げながら、ヒールで先を歩いているテレスティーナを呼び止めた。
「?」
かなり深刻そうに沈黙するトビフレンダにテレスティーナは、何か良くない可能性を高め予想し、用意した。
「あの......」
仮面を付けている事が何か重要な案件を言うかもしれない。

何かしら?
逃げられたとかかしら?
それとも......

スカートが風にはためきながら、トビフレンダは意を決して口を開いた。
「......うんこをする感覚ってどんな感じっすか?」
「!?」

ドサリとナチュラルにびっくりし過ぎて転んでしまうテレスティーナ。
完全に思考の外からの質問にもはや文句を言う気力も削がれてしまった。
「どうなんすか!?」
「セクハラで訴えますわよ」
それだけを吐き捨てるように言うと重い荷物を持っているトビフレンダを置いて、早足で研究所に入っていく。

「あ!?待ってくださいっす。何で質問に答えてくれないんすかー?うんこしたことあるんすよねー?うんこが一度に出ない時のいきむのも知りたいっす!」

コイツ嫌い
会ってからずっと『うんこ』しか言ってねぇし!

******

サソリが麦野と交戦している間に木山は物陰に隠れながら研究所のコンピュータルームへの侵入を試みる。
サソリの時空間忍術を使い、侵入に成功した木山は屋上でのサソリの言葉を思い出していた。


「今回は陽動だな」
「ようどう?」
「そうだ、オレが囮になるから木山はなるべく多くの情報を探れ」
「囮か......」

木山はそこで暗い表情となった。
勢いで脅迫してしまったが、この子だってまだ子供だ。
囮になって敵の注意を引くことは、かなり命の危険が付きまとう。
これでは、前と同じだ。
実験で重体となった教え子。
レベルアッパーを使った実験でも学生を巻き込み、今回の作戦でも赤髪君を......

そんな心配を悟ったのか、サソリは薄い笑みを浮かべて木山の額を小突いた。
「大丈夫だ。オレは簡単には殺られん」
「でも......」
「オレを脅迫してんだろ?だったらもっと堂々としていろ。先生」

ああ、この揺るぎない自信だ
どんな相手にも弱音を吐かずに立ち向かい、必ず倒してしまう力強さ

一度、敵にした事がある木山だからこそ感じたサソリの特性だ。
最後の最後まで計算を止めずに突き進むサソリの底知れぬ力に木山は惹かれていってしまう。

赤髪君を見ていると、なんだかやれそうになってしまう
これではどちらが歳上か分からないな

「そうだな......ただし、もう一つ条件を加える」
「は?このタイミングでか!?」
「必ず、生きてここから出る事だ。くれぐれも無茶をしないでくれ」
「クク、分かった。お前もな」
サソリと木山は手を叩いて、決起の気持ちを新たにする。
そして、サソリの指から細いチャクラ糸が木山の手に付着した。

「それと何かあったら、よっと」
サソリが外套のポケットからテッシュに包まれた何かを差し出した。
木山が中身を開いて確認する。
「これは?」
「砂鉄だ」
砂鉄!
テッシュを開いて、サラサラとした砂鉄を掌に乗せる。

うん
正真正銘の砂鉄だ
理科の授業で使った代物だ
なんの変哲もない砂鉄だ

木山は、昔やったドット絵の有名テレビゲームを思い出す。
社会現象にまでなったゲームだから、木山も落ち着いてから購入したのだが、それなりに楽しめたな。

しかし、冒険に出る前にドラゴン討伐を依頼した王様から旅の役に立つモノとして渡されたのが......
たいまつ(洞窟探索用)
120ゴールド
だけだった時のなんとも言えぬ感覚。
王様......これでどうやってドラゴンを倒せと......

木山は渡された砂鉄をティッシュに戻しながら、サソリに問う。
「サソリ君......どうやってドラゴンを倒せと」
「は?」
盛大に素っ頓狂な声をあげました。


まあ、多少のボケや発言は簡略しておいて、現在に戻る。
非常時になんか能力が発動するみたいだが......あの砂鉄が私を守ってくれるのか怪しい所だ

未だに信用ならない黒い砂をポケットに入れながら木山はコンピュータ室前の画面を見た。

「可能性は低いが......」
木山は、電子ロック画面に手を翳し指紋認証をし、パスワードを打ち込んだ。

認証中

と映しだされた画面を見ながら、自嘲気味になり出した。
「どこまでお花畑の話をしているのだろうか?あの実験から数ヶ月の月日が流れている......さすがに」
と呟き、画面の隣に手を置いて自重を支えて、息を整える。

ダメだったら、ハッキングをしてでも良いし
関係各所を襲撃し、強引に近いやり方でも構わない
もう、それくらいしか思い付かない
そうなれば......あの子も止めに来るだろうか......

友人を助けるために単体で私に接触した、頭に花飾りをした子
学園都市第三位の実力『超電磁砲(レールガン)』の御坂美琴
そして、赤髪君も......

ピンポーンと認証が完了した音を聴き、木山は顔を上げた。

認証完了
ロック解除

と表示されて自動ドアが開き出した。
コンピュータルームでは常に冷房が効いており、涼しい風が呆気に取られる木山に流れ込んだ。

入れた
入れてしまった

木山はコンピュータ室の中に入り込んで、内部を観察する。
かなり長期間放置されているのか、真っ黒なディスプレイに埃が溜まっていて、指でなぞるとこそげるように埃が取れていく。

「使われていない?」
木山は電源ボタンを押してみる。
「......点かないか......そんなに都合通りにはいかないみたいだ」
来る途中で所々に非常用通路を示す光があることから、電気は来ていることは間違いない。

この部屋に供給されていないか
もしくは、コンピュータの故障か

木山はキーボードの下にある修理用の戸を開けて中に頭を突っ込んだ。
「私で直せるとは思えないが......ハードディスクだけでも回収しておきたいものだ」
先ほど拾った懐中電灯を口に咥えて、両手で夥しい数のコードを伝っていき、因果関係を確かめる。

「これは電源で......こっちがマザボか......だが、分からない部品も多いな」

放置されていたのなら、こちらでも好都合だ。
あの時の凄惨な実験の情報があるかもしれない。

非常事態のアラームが鳴り響き、職員のパニックを横目で見ながら元締めの老研究者は、傷付いていく子供達を一瞥もせずに......
「あー、良いから。データを取りなさい」
元締めの老研究者「木原幻生」は確かにそう言った。
子供達が血反吐を吐き出して、苦しみよがっている姿をまるで書店に流れているBGMのように意に介さない音源として当たり前のように言ってのけた元凶。

奴が残した手掛かりがきっとあるはず......

暗がりの中で懐中電灯の光を頼りにコンピュータの核となるマザーボードを読み解いていく。
全てのパソコンが同じ配列になっている訳ではないが、何回かパソコンを開けた経験から位置を割り出してハードディスクを特定しようと苦闘している。

「あら、珍しい物があるわね」
装置の外部から女性の声が響いてきた。
「?!」
木山は冷や汗をじんわりかいた。

見つかったか......
敵は複数の組織や人が絡んでいる
その全てをあの赤髪君が、対応できるものではない
落ち着け
冷静にならなければ

木山はポケットにある砂鉄の有無を確認し、ゆっくりと修理口から這い出た。
目の前には眼鏡を掛け、スーツでビシッと決めたテレスティーナがパソコンを抱えて立っていた。
這い出て来た木山と目が合うとニコリと笑う。

スーツ姿で背筋を伸ばしたテレスティーナとヨレヨレの白衣を着て、まるでずっと寝ていない程の深い隈をした木山。
その対比は強弱の関係を緩やかに呈していた。

「これはこれは、木山春生さんではありませんか。先の事件の主犯が何でこんな場所に?」

「テレスティーナ•木原......」
研究職をしていた時に何度か会って話をした程度だが、木山は苦虫を噛み潰したかのように悔しそうにした。
あの実験の主犯である『木原幻生』と血縁を持つ人物だ。

厄介な奴に見つかった......

「もしかしたら、お探しのデータはこちらですか?」
テレスティーナが抱えていたパソコンをラックに置こうとするが、既に数台の埃を被ったパソコンがあり、舌打ちをしながら腕を使って乱暴に落としていく。
ある程度、綺麗になった所でテレスティーナは自分のパソコンを置いて起動させた。

「どうぞ、確認なさって結構ですよ」

木山は警戒しながらもテレスティーナな起動したパソコンと向き合った。
パソコンメーカーのロゴが表示され、デスクトップが表示される。
ただ一つのファイル『実験』だけが片隅に置いてあるだけの簡素なデスクトップだ。

震える手で中身を開く、日付はあの忌々しい実験の日だ。
実験の概要と子供達のデータがエクセルに入力されている。
更に音声データや映像もあり、木山はその言葉だけでも吐き気を催した。
胃が捻じ切れそうになる程の痛みを感じる。
しかし、ここは木山も同行していたのでこの映像よりも遥かに知っている。

知りたい情報はこれではない
「この先は......あの子達をどこに連れて行った?!」

「んー、死んじゃいないわよ。それは私の質問に答えたらかしらね」
カバンからペラリと写真を数枚見せた。
原子力実験炉に仕掛けてあった監視カメラの映像を連続写真のように画像印刷をしている写真だ。
そこには、深紅の眼をしたサソリが現れた怪物の胴体を渦状の中に引き摺り込んで行くように映っている。

「彼についての情報が欲しいのよ。世の中はギブ&テイクよ。取引よ」
「!?」
木山は渡された写真を見ながら浅い呼吸を繰り返す。

教え子を助けるために、自分に協力しているサソリを売るのか?
サソリをあの実験と同じように、苦しませないといけないのか......

「早くしてくれないかしらね。これでも忙しい合間を縫って来たんだから」
「......」
教えてしまったら、あの特質的な力を持つ赤髪君でも、学園都市の科学的な発展に貢献という形でバラバラにされてしまうだろう......そんなことはできない。

「............私はフェアな取引をしたいのよ。大人のやり方ってもんをね。木山先生っ」

実験協力感謝するよ
木山先生

実験が終わり元締めの老研究者に詰めよった時に最後に言われた言葉だ。
これが大人になると云う事なのか......何かを得る為に何かを犠牲にしないといけない世界なのか?

木山は舌唇を噛み締め、膝を曲げて床に手を付いた。
「お願いします」
「はい?」
「彼の事は分からない、お願いします私の教え子の現状だけでも教えてください」
木山は頭を下げて、土下座の体勢となる。

取引なんか出来ない
これ以上、負い目なんて作りたくない

「はあ?」
テレスティーナは不快そうに舌打ちをしながら土下座をしている木山の頭を何度も踏み付けた。
「分からない?だけど、ガキ共の情報を寄越せだと!?舐めた口聞いてんじゃねーよ!」

「......おね、がいします」
木山が目を閉じながら必死に耐え続けている。
テレスティーナが履いているヒールをグリグリと木山の頭にねじ込んだ。

ねじ込みながらテレスティーナは、高笑いを始めた。
もはや、先ほどの整った美人からは程遠い歪んだ笑顔を浮かばせている。

「んはははは!傑作だな。エリートと云われた木山春生もここまで落ちぶれるとはな。ガキの駄々かよ」

「彼は私と関係ない。頼む!私はどうなっても構わない」
クリスティーナは、土下座をしている木山の頭を更に踏み付けて床に木山の顔を擦り付けた。
「答えは、嫌だよバァーカ」
「うぐぐ」

木山は悔しさで打ち震えた。教え子も救えぬ
かと言って、この取引を平然と行う度胸は残されていない。
自分の無力さを嘆いた。
ここで赤髪君を呼んでしまえば、好転するかもしれかいが......逆もあり得てしまう。巻き込む訳には......
何も打つ手が見つからない。

「あーあ、なんかどうでも良くなってきたわね」
テレスティーナが木山の頭から足を退けると、ドサッと上から何か箱のようなものが放り込まれた。
木山の隣に落ちてきた物体を頼りに振り返ると入り口のゲートに物見のように二階があり手摺がある。
そこにグルグルの面を被った金髪少女がいた。
「ちょっと!丁寧に扱いなさい」
「ここまで運んできたっすから、それは無しっすよ」
「それに随分遅かったわね」
「まあ、野暮用っすけどね」
テレスティーナは、投げられた箱を開けると紫色の装置『駆動鎧』を身体に装着し始めた。
それはパワードスーツのようにテレスティーナを覆うと力任せに目の前の巨大なコンピュータを拳で粉砕した。

「!?」
「言い忘れたけど、上層部じゃあ、アンタの処分が決定しているわよ。永久追放みたいね」
すると、駆動鎧を着たテレスティーナが木山を踏み付けると、手元からワイヤーを取り出して木山の首に巻きつけた。
「がはっ!!こ、これは!?」
木山は上に乗っている駆動鎧に身を包んだテレスティーナを見上げた。
この上なく最高の表情を浮かべている。
「さっき、吐いておけば良かったと思いなさい。シナリオは、事件を起こした事による自責の念で自ら命を絶つ......みたいな感じね」

食い込んでいくワイヤーに必死に指で抵抗をするが、駆動鎧の力に勝てるわけもなく、ワイヤーが首に入っていく。
「が......はあ!」
「女の形じゃあ、力に限界があるからね。これならジワジワ苦しむのを堪能出来るわ」
テレスティーナは、ジワリジワリと力を強くして木山の身体を反りかえらせる。
「悪名高いニューゲイツ方式の処刑法よ。光栄に思いなさい」
「ぐぐ.......あ......ああ」
テレスティーナは更に引っ張り上げる力を強くし、木山の苦しむ所を間近にしながら甚振るようにワイヤーの強弱をつける。

く、苦しい......
このままでは

木山は、白衣のポケットに入れてあった砂鉄を取り出すと駆動鎧を着込んだテレスティーナ目掛けて投擲した。
「くっ!」
「?!」
パワードスーツに付着した砂鉄を払い退ける動作をするが、ただの黒い砂に拍子抜けをした。
「ふ、あはははははは!なんだこの最期の攻撃は?こんな砂ごときで何が出来んだ!」
「ぐ、ああああ....ああ......」
トドメを刺すために更に強く引っ張り上げようとするが、駆動鎧の動きが鈍り出している事に気がつく。
ガシンッ!
「?」
動かそうとしても油が切れたかのように動作に滑らかさが無くなり、木山を締め付けていたワイヤーを握っていた指にも力が入らなくなり、木山の反りかえった身体がバネのように床と平行になって倒れ込んだ。

「ぜぇぜぇ!はぁぁはぁぁーはあはあ」
しっかり呼吸を確保するかのように喉に手を当てて、蹲りながら生涯で最大の呼吸をした。
「おらっ!おらっ!どうしたなぜ動かない......!?」
目の前に黒い影が飛び出して来て、テレスティーナが乗り込んでいる駆動鎧ごと殴り付けた。
「がっ!?」
「この攻撃は受けるんじゃなくて、躱すんだったな」
木山の目の前には、赤い髪を靡かせたサソリが黒い砂を纏いながら姿を現した。
 
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