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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第48話 逆手

 
前書き
下書きが長くなったので分割しました 

 
サソリの身に何か良くない事を直感した佐天は、習得したばかりの氷の能力で現場へと急行していた。
サソリが強大な闇の力に捻り潰されるような衝動に近い不安が佐天を走らせていた。

ま、まさか......
サソリが......

言いようのない不安に圧し潰されそうになりながら、佐天はスケートをするように滑っていった。

「うむむ......」
そして、とある研究所の前で佐天が入り口で唸っていた。
勢いでこの場所まで来てしまったけど、どうやってこの先に入るかを全然考えていなかった。
「サソリの気配がする所まで来たけど.......どうしたもんかしら」

初春や白井さんに連絡してみようかな
いやいや、どう説明するのよ
虫の報せです
ビビッと来ました、第六感

確実に電波を発している危ない人扱いよね

買ってきたコンビニの買い物袋を肩に掛けながら、困ったように苦笑いを浮かべた。
試しに後ろを振り向いてみるが、サソリの気配はこの建物の中にいる気がして離れる事が出来ない。
「そして、この明らかに厳重そうなセキュリティがあるわけで」

御坂さんなら電気を使って開けられるけど、あたしの能力じゃあ......
確か、氷漬けにされた物は簡単に粉々に打ち砕ける性質があったはず!
大人気の漫画にそんな描写があったのを思い出して意気込んだ。
佐天は、扉の隣にある壁に向かって掌から冷気を放出し、凍らせた。
「よし!漫画の通りなら」
佐天は右手をブンブン振り回して、振り被ると一気に迷いなく飛び上がりながら突き出す。
「(今思い付いたけど)アイスパーンチ!」

ガキンッ!!
と佐天の拳は氷を張った壁にはビクともせずに、痛みの波が右手から脳に伝わっていく。
「!?ーーー痛ったあぁぁぁぁー」
右手を左手で掴んで、脳天に劈く痛みを分散するためにその場でピョンピョンと跳ねた。
完全に骨を砕いてしまったかの衝撃に蹲ってひたすらに悶絶を繰り返す。
「痛たた、何で!?凍らせると脆くなるんじゃないの?」

凍らせ方が足らないのかな
もっと、冷気を集中かな
いやいや、ここは頭を使って侵入を試みようかしら

頭を使う......
助走を付けて、壁に向かって頭突き!

......ありふれたギャグ描写を首を振って搔き消した。

そうだ、これは頭脳戦!
そう、いわば騙し合い

ピンポーン
「すんませーん。ピザファットのもんですけど......注文の品を届けに来ました。開けてくださーい」

入り口に備えてある監視カメラにニコニコ営業スマイルを浮かべて、お辞儀をした。
「......」
沈黙の時間が数秒続き、佐天の顔から営業スマイルが崩れ始める。

だあぁぁぁぁぁー
何が頭脳戦よ!
こんな小学生レベルのアイディアで開くわけないじゃん

負傷した右手を氷で覆いながら、腫れた患部を冷やしている。
好敵手でも見るかのように左手を顎に当てながら、強気な笑みを浮かべた。
「......やるな明智君。だが、諦める訳には......」

その直後にウィーンと駆動音がして、研究所の扉が開いた。
「へぇ?」

******

首をワイヤーで締め上げられていた木山を助け出した砂鉄は、集まり出して赤い髪の少年を形成し出した。
「大丈夫か木山?」
ワイヤーを木山の首から外しながらサソリは訊いた。
息を切らし、木山は蹲りながらサソリの質問に応えようとするが、呼吸優先にした口は思うように働いてくれない。
「はあはあ、サソ......リく......ん」
動き、反応する木山の様子にサソリはホッとしたように木山の頭に手を置いた。
「良くやった。後はまかせろ」
不敵な笑みを浮かべると、駆動鎧を懸命に動かそうとしているテレスティーナと向き直った。
サソリの意表を突いた行動に目を丸くする木山。

なんだろう?
見た目は明らかに年下のはずなのに、時折自分より大人のように感じてしまう

木山はサソリの手の温もりを感じながら、サソリの頼もしい後ろ姿に見惚れた。

な、何が起きた?
何でここに急に標的(ターゲット)が出現したのよ?

テレスティーナは、些か停止しかけた頭を理解不能な事象を引き起こしている現実へとシフトさせようとする。

サソリの紅い瞳が妖しく光出して、サソリの視点移動するたびに二筋の燐光となってテレスティーナの好奇心が止まらなくなっていく。
「ふふふ......」
テレスティーナが顔を歪ませる程に破顔した表情を浮かべた。

あの眼だ
あの眼を手に入れることが出来れば
ゼツという協力者が言うには......

絶対的な力が欲しいと思わないかい?
なら、この映像を観てごらん


渡された映像には、2人の男が滝で決闘をしている映像だ。
1人は木を操り、もう1人は紅い瞳をして莫大なオーラを見に纏い攻撃をしていた。
音声は無く、映像だけが淡々と流されている。
黒い玉に蒼く燃えたぎる剣を貫かせて、鎧武者の男に繰り出した。
鎧武者の男は、指を噛み血を流すと地面に突き刺した。
すると、鎧武者の男の前に何重もの分厚い門が出現し受け止めた。
門にぶち当たると軌道が変わり、陸地の形が大きく変わった。

映像は髪の長い男の眼のアップで止まり......
「この眼を手に入れることが出来れば、この力が手に入るよ」
妙に肌が白い男がそう教えてくれた。


そして、全く同じ文様が彫り込まれた眼を持った少年が目の前にいる事に興奮を抑えることが出来ない。
「?」
笑いだしたテレスティーナにサソリが疑問符を浮かべるがテレスティーナは次の一手を打っていた。
動かなくなった駆動鎧をそのままに、リモコンを取り出して、スイッチを入れた。
「!?」
テレスティーナがスイッチを押すと、強烈な不協和音が流れ始め、サソリの万華鏡写輪眼が強制的に解除された。

「噂に聞く、キャパシティ......ダウンか......」
木山は不愉快そうに息をしながら、心配そうに少し揺らいだサソリを見上げた。

「良い材料ほど、実験途中で逃げようとするのよね。この研究所の至るところに仕掛けてあるわ」
駆動鎧から降りると、勝ち誇ったように笑いながら俯いているサソリに近づいた。
「くっ..........」
サソリは震えながら、膝を地面につけた。
「テレスティーナ......貴様」
木山が卑怯な手段を講じたテレスティーナを睨みつけるように立ち上がった。
「サソリ君!大丈夫かい」
未だに震えているサソリを庇うように前に立った。
「あら?面白い構図になったわね。レベルが高い能力者ほど良く効くのよねぇ」
更にカチカチとダイヤルを回して、キャパシティダウンの出力を上げていく。

「ぐぅぅ......テメェ」
サソリは、倒れ込もうとする身体を支えるために腕を床に立てるが、上手く力が入らない。

不協和音が部屋中に響き出して、能力者でない木山も身体の怠さを覚える。

「ふふふふ......あの時は動くことも出来なかったのにね。次々と倒れていくガキ共を見ながら茫然自失していたわね」

あの時......教え子を一気に失った悪魔の実験
忘れたくても忘れることが出来ない
何度も、何度も夢に見ては苦しんだ

木山は動けないサソリの肩に触れると、意を決したようにテレスティーナに居直った。
「?!」
「あの時の私とは違う......貴様らの卑怯な企てに踊らされる私ではね」
木山は、意識を集中させた。
先ほど繋いだ光る糸の感覚を思い出して、引き伸ばしていく。

木山の眼が真っ赤に染まり出して、サソリの演算機能と融合させた。
「うっ!」
キャパシティダウンの影響を受けて、木山は床にもたれるように倒れた。

「......フハハ、なんだ?アンタの何が変わったんだ!情けない虫けらのように這いつくばっただけじゃないの」

倒れた木山の頭を踏み付けようと脚を上げるが、横から手が伸びて来てテレスティーナの脚を握り締めた。
「そうでもねぇな」

目の前で膝を着いて苦しんでいたサソリが目にも止まらぬスピードでテレスティーナに回し蹴りをして、壁へと叩きつけた。
「なっ!?」
痛めた首を摩りながら、テレスティーナはキャパシティダウンの出力を上げていく。
しかし、目の前に悠然と歩いているサソリには全く効いていないかのようだ。
「な、何故だ......能力を封じられているはずだ!?」
カチカチとボタンを押して行くが、既に最大値に達しているキャパシティダウンにこれ以上の変化はなかった。

「なかなか良い手だ......お前にしてはな」
木山と互いに目を合わせて笑みを交わした。
「ま、まさかレベルアッパーを逆手に......?」

サソリは、一瞬でテレスティーナからリモコンを取り上げるとキャパシティダウンのダイヤルを回し出して、出力を弱めていった。

対能力者の切り札を失ったテレスティーナは、サソリから距離を取るように離れる。
「お前の話し振りを聴いていると、殺してやりたいほど憎んでいる奴を思い出すな」

「お、おい!?何黙って見てんだ!助けろテメェ!」
もはや、女子力ゼロにまで降格した顔で上から眺めているグルグルの面をした金髪少女に助けを求めた。

「えぇー!もう打つ手が無いんすか?詰まんないっすね」
ぽっかり空いた穴から紅い眼をチラつかせながらトビフレンダは答えた。
「て、テメェ」
「良いっすよ先輩。殺っても」
興味が失せたように残酷に手を振ってサソリに合図を送った。

キャパシティダウンの封印から解かれた万華鏡写輪眼がテレスティーナを見据えた。
「あ......ああ」


「!?」
気が付けば、テレスティーナは突き出した梁の上で腕を後ろで縛られて、脚もピンと張ったまま両足が揃うように縛られていた。
首には麻のロープが掛けられて、目の前にぽっかりと底が見えない穴が口を開けていた。
背後を辛うじて向くと、赤い髪の少年がロープを手に持って立っていた。
そして、縛られたテレスティーナの背中に手を置いた。

ま、まさか......このまま突き落とすのでは
両手両足が全く自由が利かない状態で落とされてしまったら......

「ま、待ってくれ!子供達の場所を教えるから、私が悪かった!」
必死に懇願するが、サソリは吐き捨てるように言い放った。
「興味ねえな」
サソリがグッと力を込めて梁から突き落とした。
「ロープの長さに達したら、首吊りだな」
首にロープを掛けられたまま、テレスティーナは自由落下をし始めた。
「ああ.......ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

全く底が見えない井戸のような場所をいつ締まるか分からないロープと共にテレスティーナは落下していった。
芋虫のように身体をくねらせるが、ロープの長さが分からない今、首が締まるのは数分後か数秒後か分からない中で突き落とされた恐怖は、筆舌に尽くし難い。


サソリの残酷な幻術に堕とされたテレスティーナを尻目にサソリが上を見上げた。
そこには、頬杖を付いて顔を振っているグルグルの面をした金髪少女がいた。
「何者だ?貴様」
「初めまして、せ•ん•ぱ•い」

新しいオモチャでも眺めるように楽しげな調べの声だった。 
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