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我が剣は愛する者の為に

作者:wawa
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子を愛する親

廃村した村の中で一番大きな家。
おそらくこの村がまだ栄えていた時に村長が使っていた家なのだろう。
中は手入れが行き届いていないせいで埃などが溜まっているが、他の家とは作りが違うのが窺える。
その家に二人の男と一人の少女が居た。
男の一人はこの村を根城にしている賊の統領だ。
もう一人の男は近くの村で一番強いとされている男だ。
身長は二メートル三十センチと巨大な身体。
鍛え抜かれたその身体は昔は名の通った武人である事を示していた。
その傍らには巨大な斧が壁に立てられている。
灰色の髪をオールバックさせ、眼は三白眼。
顎には髭を生やしている。
気の弱い人間と出会えば腰を抜かしてしまいそうな顔つきである。
彼は眼を閉じて胡坐をかいている。
少女はこの男の娘だ。
親子とは思えないほど顔は似ていない。
水色のような澄んだ色をした髪。
親子と言われたら真っ先に母親に似たのだろうと分かる。
今は賊の統領の傍に座らされている。

「お父さん・・・」

少女は未だ沈黙を守っている父親を見て呟く。
村が襲撃に合ったというのは既に報告されている。
少女は分かっているのだ。
自分の父親が村を救おうとしている人達を倒しに行く事を。
何とかしたいと思ってもどうする事もできない。
父親は自分が人質になっているから、したくもないことをさせられている。
何度かこの村を抜け出そうとしてが、監視の賊に見つかった。
その度に父親は必死に頭を下げ、許しを請いた。
賊達はそれを見て笑いさらに父親を馬車馬の如く働かせた。
しかし、父親はそれでも不満の一つも言わなかった。
全ては愛する娘の為だからだ。
だから娘も父親に迷惑をかけたくないと思い、賊達を刺激するような真似はしなかった。
家の外から賊達の荒々しい声が聞こえる。
声を聞いた限り苦戦しているのが分かる。
統領は抜き身の剣を人質の娘に軽く近づけながら言う。

「今回の奴は手強いそうだな。」

「・・・・・・」

統領の言葉を聞いても男は何も答えない。
慣れたやり取りなのか統領は特に気分を害することなく続ける。

「そろそろ動いて貰おう。
 俺達の村を荒らした奴を血祭りにあげて来い。」

統領の命令を聞いても男は黙って胡坐をかいている。
外から仲間の叫び声が聞こえる。
状況が切迫しているのは見えていた。
統領は苛立った声をあげながら、持っている剣を人質の首に当てる。

「さっさと行けよ!!
 この娘の命がなくなってもいいのか!?」

その言葉を聞いて眼を閉じていた男の目が見開かれ、統領を睨みつける。
鋭い眼光を見て統領はひっ、と息を呑んだ。
本来なら一目散に逃げ出したかったが、すぐ側に人質がいるという状況がその衝動を抑える。
軽く冷や汗を垂らしながら睨み合う事数秒。
男はゆっくりと立ち上がり、壁に立てかけている斧を掴み肩で背負う。
巨大な身体では狭い入口を屈んで家を出て行く。
男の強さは統領は知っている。
あれに敵う奴等いないと、そう思っている。
そんな確かな自信を持った統領の傍にいる娘は家を出て行く父親の後ろ姿をじっと見つめる。
母親は娘が生まれた時に病気にかかりこの世を去っている。
それから色んな事情があり、この村に移住する事になった。
一度、興味本位で父親に聞いた。
母親は何故父親を好きになったのか?
いつも厳しい面もちをしている父親がその時だけ照れた。
顔を赤くしながらも娘の質問に答えた。
自分の後ろ姿が男らしく勇ましいかったからだそうだ。
最初は照れていた父親だが、母親との思い出話を懐かしむような顔で語る。
今、家を出て行った父親の後ろ姿には母親が好きになった後ろ姿の名残りが一切なかった。





後ろで子供達を避難しているのを邪魔しようと賊達は追いかける。
あれは大事な人質だ。
あれがなければ村の人々は自分達の思い通りに動いてくれない。
しかし、一人の男が賊達の進行を邪魔をする。
この時代にはない剣を振るい賊達を斬り裂く。
縁はある一定のラインを保ちつつ賊達の進撃を単独で食い止めていた。
賊程度の腕なら何人かかってきても問題ではない。
むしろ今は後方に賊を向かわせない事に意味がある。
一応、星や太史慈がいるとはいえ子供達を守りながらでは厳しい戦いになる。
十人くらい賊を殺した辺りで賊が無闇に縁を攻撃するのをやめる。
賊の総数はおよそ五十といったところ。
残りは四十人。

(いきなり攻撃をやめた?)

構えのない構えをとりながら縁は警戒する。
賊の中の一人が他の賊に指示を出した。

「半分は回り込んで餓鬼共を捕まえろ。
 残り半分はこいつの足止めだ。」

「ちっ!」

思っていたよりこの賊達は頭が回った。
幾ら単独で賊達を防げる戦力があったとしても、この勝負は賊を殲滅する事ではない。
人質である子供達を無事に逃がすのが目的だ。
だから、縁は向かってくる賊を倒すだけでこちらから攻める事はしなかった。
攻めてしまえば他の賊が回り込み、子供達を取り戻しに行く。
さらに単独である以上、さっきの賊の言った通り人数を半分にされ回り込まれても対応ができない。
縁は舌打ちをして、どうするかを考える。

(俺も後ろに下がった方が良いか。
 それなら子供達が奪われる可能性は低くなる。)

そうと決まれば急いで下がろうとした時だった。
賊達の後方に巨大な男がこちらに向かって歩いている。
三白眼に灰色の髪をオールバックして顎には髭を生やした二メートル三十センチの男。
肩には巨大な斧を乗せている。
賊達はその男がこちらに近づいているのを知ると勝利を確信したような顔をする。

「あんた終わりだぜ。
 あの人がきた以上な。」

この賊達の口ぶりからするに村の人が言っていた一番強い人なのだろう。
確かに体格を見ると明らかに他の村人と一線を引いていた。
その雰囲気から察するに武人である事は一目してすぐに分かった。
その場にいた賊は左右に分かれて道を開ける。
開かれた道を男は歩き、縁から十メートルくらい開けた距離で止まる。
鋭い眼光が縁の眼を捉える。
その眼光を見ても縁は少しも怯むことなく見つめ直す。
すると、男はふっと笑う。

「儂の眼を見て、少しも怯まぬか。
 中々骨のある男よ。」

顔に見合った低い声で話しかける。

「そりゃあどうも。
 それであんたが村の人が言っていた。」

「おうよ。
 儂の名は丁奉、字は承淵。
 お主の名は?」

「関忠統だ。」

「この襲撃、村の為にしてくれたことは知っておる。
 じゃが、娘が人質に取られているのじゃ。
 悪く思わんでくれ。」

肩で背負っていた斧を両手で掴み構える。
それを見て縁も気を引き締める。





子供達を村まで避難させる為に一刀達。
縁が賊達を引き付けているおかげか、今の所賊達はこちらに来ていない。
今の内に出来るだけ遠くに逃げる必要があるのだが。

「北郷さん、賊が追って来ています。」

隣にいる太史慈が小声で話しかける。
子供達には後ろを見ずに村まで走れ、と言ってある。
先頭には星、後ろに一刀と太史慈がいる。
軽く後方を見ると、二十人はいるだろうか。
かなりの数の賊が追って来ている。
隣の村まで子供の足だと十分といったところ。
さらに森の中なので走りにくい事も合わさってさらに時間がかかるだろう。
太史慈は二刀の鉄鞭を持ちながら言う。

「私はもう少し下がって賊を迎撃しに向かいます。
 それでも全員を倒す事はできないでしょう。
 逃がした賊の処理をお願いします。」

「でも、俺は木刀・・・」

弱気な事を言おうとする一刀の言葉を遮って太史慈は厳しい言葉を投げかける。

「そんな事を言っている場合ではありません。
 これは子供達が一人でも掴まった瞬間、私達の負けになります。
 今から趙雲さんをこちらに呼んだら、子供達が不安になります。
 それに前に回り込まれた時に迅速に対応できる人が前にいないと駄目です。
 殺す必要はありません、気絶させるだけで充分なんです。」

一刀は手に持っている木刀を強く握りしめる。
あの時、縁に言われた。
天の御使いとしての仕事。

(俺ならやれる。
 あの縁と一緒に修行して来たんだ。
 こういう時に戦う為に。)

何度か深呼吸した後、太史慈に言う。

「この子達は絶対に守り通す。」

一刀の言葉と覚悟が灯った眼を見て太史慈は頷いて、後ろを振り返る。
後ろから賊の悲鳴と鈍い音が聞こえる。
子供達は足を止めて、振り返ろうとするが一刀が前を見て走れ、と言う。
後ろを確認すると三人の賊がこちらに向かっていた。
どうやら三人逃してしまったらしい。
一刀は足を止めて賊の迎撃に備える。
足にばらつきがあるのか、一番先頭にいる賊が剣を持って走ってくる。

「どけぇ!!」

そう言いながら一刀の頭を両断するかのように剣を振るう。
それを横に一歩移動して避け、すれ違い様に空いた胴に全身の力を込めた一撃を繰り出す。

「ぐぅう!!」

胴に一撃を貰い、腹を押える賊。
後ろから木刀を振るい面を打つ。
後頭部に一撃を貰い、意識を失う。
すぐさま後ろを振り返る。
次にやってきた賊は一刀が戦える事を分かったのか、突撃せずに様子を窺う。
相手は真剣、一刀は木刀。
鍔迫り合いをすれば勝敗は聞くまでもないだろう。
故に一刀は自分から仕掛ける事はできない。
だが、後ろから三人目の賊がすぐそこまで来ている。
今の一刀の実力を考えると二人を相手にする事はできない。
時間をかけるだけ不利になる。
一刀に選択している余裕はなかった。
両手で木刀を持って、賊に近づく。
賊は持っている剣を横一閃に振り抜く。
日頃、縁の剣を見ているからか。
賊の剣速がとても遅く見えた。

(これならかわせる!)

片足で地面を踏ん張り、動きを直前で止める。
賊の剣は空を切り、一刀は出来た隙を埋めるように前に進む。

「めぇぇぇんん!!」

声と共に面を力一杯打つ。
額に一撃を喰らった賊は膝を折り、仰向けに倒れ気絶する。
油断することなく最後の賊に視線を向ける。
最後の賊は一刀が強く見えたのだろう。
ジリジリ、と後ろに下がりながら様子を窺っている。
その時、後ろから賊を殲滅した太史慈がやってきた。
持っている鉄鞭で賊の頭部を凹ませる。
その一撃で賊は絶命する。

「追手の賊は何とかしました。
 そちらは?」

「こっちも何とか。」

人が目の前で死ぬのはまだ慣れていない一刀は少し気分が悪くなる。
二人は後ろにいる筈の子供達と星を追い駆ける。
村に着く前に星が槍を持ってこちらに向かっていた。

「一刀殿、太史慈殿。
 お二人の姿が見えなかったから心配しましたぞ。」

「後方に賊が居たのでその対処を。」

「子供達は?」

「無事に村まで送りましたぞ。
 これから縁殿の応援に向かうつもりです。」

「でも、残りの賊が村を襲ったら・・・・」

一刀は心配そうな声で言う。

「私もそう思って、残ろうかと思ったのですが。
 子供達は命を懸けて守るから、縁殿を救援に向かってくれと言われました。」

「少し心配ですが、関忠さんも気になります。
 ここはすぐに戻って事態を収拾した方が良いですね。」

太史慈の言葉に二人は頷く。
彼らは急いで廃村した村に向かう。 
 

 
後書き
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