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剣士さんとドラクエⅧ 番外編集

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もしもルゼルが生まれていたら2

 自我というのはどこで自覚し、確立するんだろうね。個人差はあると思うけど、俺達兄妹はほぼ最初から異端児だったことは間違いないんだ。

 ぼやけた視界、今以上に言うことを聞かない体、理解出来ない言語はまさに赤ん坊の時の記憶だろうね。何故か母親の腹の中での思い出は持ち合わせていないけどね。

 一歳。既に俺は弱くて未熟な子供で、なんどか生死の隙間をさ迷っていた頃。トウカがやってきたのはその時だったね。

 門の前に捨てられていた哀れな赤ん坊。首には致命傷になりうる程大きなな傷、右目は虚ろで視力はなし。それでも左目には僅かながら理性を伺えたし、俺や母や父を本当の親や兄でないと気づき、でも受け入れて眠る姿は俺に、俺と同じだって気づかせたね。

 幸い、モノトリアを捨てて去った者の子孫だったトウカは名実ともに俺の妹になった。俺にはそうじゃないって分かったけど、喋れる年齢じゃなかったし。

 俺は彼女を、自分より幼く小さく、そして守るべき妹であると認識して、守らなければと決意した。正直なところ、そういう決意は理性的な判断というよりもどちらかといえば本能的に守らなければと感じたからってのが正しいんだけどさ。建前ってやつ。

 古くからモノトリア家に伝わる言い伝えには守護者と「真の」主という関係があるのを知ってたし……本を漁って……多分だよ、俺は一族の悲願である守護者で、最後のモノトリア。そしてトウカこそが陛下や幼い姫ではなく本当の主、つまり「真なる主」であり、この出会いは運命なんだろうってね、感じていた。

 モノトリアの歴史は古く、千年を超える。きっとその千年以上前に交わされた約束、契約なんだろうね。トウカの右目になって、トウカを守って、彼女を幸せにする手助けをするってことを、誓ったんだろう。

 兄として当然の事を使命にするなんて先祖は少しばかり失礼じゃない?俺は弱かったけど、覚えることは得意だったから、知識を組み合わせれば守れるだろうって考えてたし。……思ってたんだけど。

 俺、四歳。トウカは三歳。妹は剣に興味を示し、学び始めた。その才能は凄まじく、瞬く間に技術を吸収すると体力作りに励んだ。

 剣、勉強。努力家の彼女は何度だって繰り返したし、何度だって努力したし、覚えるのだって早かった。反復練習を怠らないからあっという間に才能と努力のハイブリッドは師を追い越し、齢五の時には国一番だったよね。

 信じてない人は多かったけど、俺は信じてた。そして、何より……俺を守るって、笑ってた。言葉通り、暗殺者からも、従姉からも守ってくれた。

 仲のいい兄妹であると思うよ。彼女は幸せそうで、それならいいかもしれないとも思っていたよ。

「私はね、剣を振るうことが楽しいんだ」
「兄上をお守りすることはとっても嬉しいことなんだよ」
「私は育ててくれた恩を返したいんだ」
「兄上は何だって、一回やったら出来ちゃうから……私は頑張らないと勝てないなぁ」

 幼子から告げられたとは思えない言葉。それは俺だってそうだけど。いつの間にか彼女は比喩でなくたくましく、そして優しく育っていた。

 反するように体の弱い俺はどんどん何も出来なくなって、勉強ぐらいしか出来なくなって、本の内容を覚えるしかなくなって、ならせめて、もしもの時に……彼女ですらなんとかできなくなる困難に陥ったらこのちっぽけな命を懸けて助けてやろう、それが俺の務めだって思うようになっていた。

 彼女は年を重ねる度にどんどん強くなる。国一番の剣士は負け知らず、周りの声で戦わされた近衛隊長との戦いにいともやすやすと勝利したのは六歳の時、七歳の時は魔導師と戦って魔法を斬り、弱点すらその力でねじ伏せて勝利した。

 そんな彼女は毎日楽しそうで、だけれども俺と話すときぐらいしか休みがなくて。八歳のときかな、城に引き取られてきて小間使いになった子……つまりエルト……と友達になった時は自分のことを棚上げして安心したぐらいだったから。

・・・・

「あ、あの……義兄さん?」
「まだ話は終わってないよ。話することしか出来ない俺の話にも付き合えないの?あと義兄さんって呼ばないで」

 トウカと似つかぬトウカの兄貴……血が繋がってないから当然だが……は不機嫌そうにベッドの上で溜息を吐いた。挨拶に来て、トウカの両親に歓迎されて、そして一番の難関であると囁かれた兄との面談はなんというか……妹自慢のオンパレードだ。

 深刻そうに語られる言葉の端々に「俺の妹強い」、「妹が可愛すぎて生きる」。そしてゾッとするほど整った顔ですごく睨んでくる。俺が色男だとしたら……神の作った人形という感じの美貌は、なんというか残念だった。

「あのね、トウカはさっきも言ったけど友達すらエルトしかいなかったんだ」
「はぁ」
「呪いを解く旅?俺もついて行きたかった!一発で死ぬけど盾になりたかった!帰ってきたら女ったらしそうなボーイフレンド連れてくるなんて!エルトは何をしてたんだ!」
「ルゼルさん落ち着いて」
「落ち着けるk……げほっ……。あぁごめんね、取り乱したね」

 ルゼル兄上の代わりにならなくちゃと微笑んだのを思い出す。今なら言えるぞ、ならんでいいと。出生のすべてを知った今、むしろ逆なのはよく理解出来た。

「トウカを幸せにしなかったら生霊になるし死んだら悪霊になるからね。ふぅ……結婚式いつ?」

 今にも呪いをかけそうなほど恐ろしい顔をした後、スッと無邪気そうになった彼はにこにこと……不自然なほど笑って……聞いてきた。

 あの妹にしてあの兄あり、最終的に病弱設定どこにいったと言わんばかりの恐ろしい力で腕に痣を残していったりした兄は大きな爆弾を落としていったのだった。 
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