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剣士さんとドラクエⅧ 番外編集

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もしもルゼルが生まれていたら

 
前書き
ルゼルとは、生まれなかった本当のモノトリア家の末裔です。トウカの兄となります。
 

 
「俺のこの状況は、簡単に言うと遺伝子疾患だよ」
「……?」
「差別的だけど、近親相姦の繰り返しだから、貴族は。だから俺みたいに体が弱かったりするんだよ」

 ルゼルはそういいながら、僕の肩を叩いた。笑いは弱々しく、力も弱い。トウカと似つかぬ灰色の目は爛々と輝いていたけれど。彼は、自負する通り体が弱かった。生きることに精一杯で何度も何度も死にかけたぐらいだった。

「なんかあったらトウカをよろしくね?」
「何言ってるの、冗談きついよルゼル」
「エルトには荷が重いのは知ってるけど、それでも頼むよ……トウカはあのままじゃ結婚できないし」

 目線の先には、年上の兵士を伸す剣を持った貴族の令嬢がいた。兄の目線に気づいて笑顔で手を振ってくる。僕の親友、ルゼル・モノトリアの妹で僕の、同い年の友達トウカだった。

 確かに、兄を守ると決めている勇ましい彼女は……困ったことに「世界最強の剣士」の名を欲しいままにしている。そんな彼女の婿になりたい男……いるだろうか。ちなみに僕にはトウカがただの友達にしか見えない。それはルゼルも分かりきってることだから、紹介を頼んでるんだろう。
 
 すごく悪いんだけど、まったく自信もないしどうにもなりそうにない。それに、庶民の僕に言うよりも貴族でいい人さがしたらいいんじゃないかなぁ……。

「トウカに殴られて生きていられる貴族の坊ちゃんがいるの?」
「トロデーン近衛兵でも生きていられる人の方が少ないんじゃないかな……」
「ねぇ、やめてよ。兄ちゃん心配なんだから」

 まゆをへの字にして困り顔を作ったルゼルは、杖をつきながらトウカの元へ歩こうとする。それを支えながら輝かしい戦果を打ち立てるトウカの剣が無慈悲に兵士を叩きのめすのを眺めていた。

 今日も無敗だったよと笑いかける彼女と、それを褒める兄の姿は家族のいない僕には少し眩しかった。

・・・・

「なんでさ」

 ピンクのドレスを着たトウカは振り返った。目には深い悲しみと怒りが浮かんでいた。涙は、ない。激情にかられているだろうに、怒りや悲しみでおかしくなってしまいそうだろうに、彼女は声をかすかに震わせただけだった。そういえば、彼女が泣いているのを見たことがない。

「なんで、私は無事なの?兄さんはなんで、動かないの?」
「…………、」
「ねぇ、エルト。あなたの親友の兄さんが茨になってるっていうのに、なんで出来損ないの妹だけが無事なの?」
「君は出来損ないなんかじゃないさ……」

 やっと絞り出した声はしゃがれていて、とても頼りなく響いた。なんで、なんでと繰り返す彼女は、白い手袋をした手を大理石の床に叩きつけた。びしりと大きな亀裂がはいり、彼女の強大な力が伺えた。

 親友ルゼルは、ベッドの中で茨と化し、白い頬を薄緑に染めて目を閉じていた。他の城の人々と同じように。

 呪いで姿を変えられてしまった姫と陛下と共に、動ける者が他にいないか確かめに回っていたとき、僕はバルコニーで倒れていたトウカを見つけた。散乱していた剣を見るに、素振りでもしていたんだろう、星を見ながら。目を覚まして直ぐに大好きな兄を心配して城の二階から飛び降りて屋敷に向かった彼女を追いかけて、見つけたのは兄の前で絶望していたトウカだったんだ。

「……誰だっけ」
「何が?」
「元凶さ。私の兄上をこんなにして、城をめちゃくちゃにした奴のこと……」
「ドルマゲスという、道化師らしいよ」

 聞いた瞬間、トウカからぶわりと殺気が巻き起こった。肌を刺すように鋭い殺気は、この場にいないドルマゲスに向かって荒ぶった。

「そう……絶対に倒そうね」
「……え?」
「私は剣士。戦わない道理があるかしら?」
「そこだけ女の子らしくしても無駄だよ……でも、分かった」
「滅多切りにしてミンチにして、踏んずけてヒールの下敷きにしてやる。腕が疼く……」

 パキリと指を鳴らしたトウカが、五分後にはドレスを脱ぎ捨てて鎧を纏った剣士になっていたことにはちょっと引くことになるのだけど。剣士を名乗る貴族の令嬢のお陰でこの先の旅が楽だったことには違いない。

 余談だけど、旅でトウカに惚れた聖堂騎士に向かって呪いが解けたルゼルが複雑そうな顔をしながら頭を下げていたことが記憶に残っている。 
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