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GATE 株式会社特地電工 ~彼の地にて 斯く戦えり~

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序章

 
前書き
辞令「特地電工への出向を命ず」 

 
 それは晴天の霹靂だった。

 朝、いつも通りに出社し、ラジオ体操、朝礼、自分の机について、いつもどおりPCの電源を立ち上げてメールのチェックを始めたところで突然課長にこう呼ばれた。

 「大村主任、ちょっと時間、いいかな?」

 良いも悪いもない。ここで「ダメです。いまちょっと時間とかありません、忙しいので」などと上司に刃向かえばとても良くないことが起きる。評価を落とされ、ただでさえ遅い出世もさらに遅れるかもしれない。悪くすれば希望しない勤務地への転勤やダメな関連子会社への出向へと繋がりかねない。



 「はい!何でしょう?」

 にこやかに半笑いの営業向けの表情を即座に作って、呼びかけてきた上司にそういえば良いだけ。

 椅子から腰を浮かし、「言うことをすぐによく聞く良い部下」を演じれば良いだけ。

 誰にでも出来る簡単なお仕事、新入社員だってそれぐらいそつなくこなす・・・。



 しかし、この日の私、大村貴之(38・主任)にとって、それは出来ない相談だった。

 「うええっ?!」

 ・・・思わずそうあられもない声をあげてしまう。


 ちょうど開いた総務からのメールには本文もタイトルもなく、ただ、添付ファイル名に、課長に呼ばれたその理由を察するに十分な文字が並んでいた。

 「社 宅 退 去 届.xlsx」

 入社して15年、未だ独身。同居家族は居なくて身軽ではあるものの、社宅を退去するということは転勤でどこかへ引っ越すことを意味する。しかも、異動を命ぜられる前に総務から届いた白紙の届出様式ファイル。順番があべこべじゃないか?

 会社が組織ぐるみで俺に内緒で異動を決めていやがった?!

 なんじゃこりゃ?怒って良いのか?怒るべきでは?
 
 先に言ってよ~。日取りとか順番とかあるでしょうよ~。いろいろデリカシーがなさ過ぎだよ~。



 こちらの様子がおかしい事に気づいた上司が、さらに一言言った。

 「あぁ、もう気づいちゃった?うん、転勤だから。さっき決まったから。あと、出向だもんね?」

 部下の進路をあっさりと・・・。しかも続けて、

 「総務からいろいろメールで来たでしょ?、記入して提出しといてね。今日午前中ぐらいで。」

 事務所の真ん中でそれ言う~?言っちゃう~?みんな聞いてる~!普通、別室とかで個別で重く話してくれるよね?



 さすがに急すぎる展開について行けなくて、こう言った。
 
 「私はどこへ飛ばされるんでしょうか?」



 上司は一瞬ポカンとして、それからわざとらしく頭をかきながら、

 「あれ、まだ言ってなかったんだっけ?」

 そうトボけた感じで言って、咳払いをして間を置いてから低い声で、

 「株式会社特地電工への出向を命ずる。勤務地は東京銀座のちょっと向こうの異世界だ」

 と。



 同じ部署の同僚たちが目を点にし、唖然として見守る中で、軽く私の進路が決まった。
 




 
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