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雷と鉄と妖と

作者:百瀬杏樹
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第三話:二人:

「ここがお前の部屋な」
ガジルはそう言って部屋のドアを閉めると、担いでいたスバルを床に降ろした。
部屋には、鏡のついたテーブルに椅子、ベッド、本がぎっしり詰まった本棚があった。
「・・・」
「何だ?」
黙って部屋を見回すだけのスバルに声をかけると、スバルは尾をへたりと降ろした。
「何で私、ここにいるんだろうな」
スバルはそう言うと、ベッドに足を進めて腰を下ろす。
ガジルはテーブルの近くで、スバルの方に顔だけ向けている状況だった。
「私はずっと森で暮らしてた。そんで急に人間が襲って来て、私や妹達や、他の弧族の皆を連れ去ったんだ」
スバルはそう言うと、部屋に微かな光を入れている窓に顔を向けた。
「人間に助けられるなんて思ってなかったし、人間の暮らす街に来る事だって想像してなかった。こんな風に、人間の部屋で暮らす事も思ってもみなかった」
それはそうだろう、とガジルは思った。元々住んでいた場所で平和に暮らしていた筈だ。だが、人間の利益の為に無理矢理連れて来られた。
「お前ら人間って、実はよく知らなかったんだよ。父様も何も言ってくんなかったし」
最後の方で、スバルの声が揺れた。泣いていたのだ。
「最初ここに入る時、不快感しかなかったんだよ、私。人間っていう気持ち悪い奴らとこれ以上関わりたくないって・・・」
スバルの声が更に震える。涙がベッドに落ちて、シーツに小さなシミが出来る。
「妹だっ、て・・・も、生きてるか・・・わかん、ないッもん・・・」
嗚咽を交えながら、途切れ途切れに言葉を発するスバル。顔を俯かせて、乱暴に涙を拭い続けるも、止まらなかった。
「・・・」
ガジルはスバルの隣に腰を降ろして、スバルの方を向かずに喋りだした。
「俺の親は(ドラゴン)だ」
「・・・・・っ、はぁ?」
俯いたままスバルがそう言うと、ガジルは更に続けた。
「俺は人間の親の顔を知らねぇ。俺を育てたのは竜だ」
「・・・レッドフォックスって、名前は何だよ」
「そういう呼び名があったんだよ。そんな感じで、俺は竜に育てられた。だから、最初は人間の仲間なんていなかった」
ガジルはそう言うと、両の手の拳をギュッと握りしめた。
「しかも、俺の親の竜はいきなり消えた」
「えっ?」
ガジルの言葉を聞いて、スバルは思わず声を吐いた。
ガジルはギヒッと笑って、スバルの方に顔を向けた。
「あん時の俺は一人だったぜ。今のお前みたいな感じでな」
スバルは涙を流したまま、きょとんとした顔でガジルを見た。
ガジルはスバルの頭にポンと手をおいて、笑顔で口を開いた。
「でも、俺は今一人じゃねぇぞ?お前だって、あん時俺が奴隷小屋から買ってから、一人じゃねぇじゃねぇか」
「・・・・ぇ・・・?」
スバルの眼から再び涙が溢れ出た。
「ギヒッ」
ガジルは笑って、優しげな笑みを浮かべてスバルの頭を撫でる。
「お前は今、一人じゃなくて二人だぞ」
ガジルの言葉が、スバルの脳裏に綺麗に焼き付いた。




———一人じゃなくて、二人————




「・・・ぅわぁぁぁあ・・・・」
今まで以上の大粒の涙がスバルの瞳から溢れ出た。
「お前、耳しょげてんぞ」
ガジルが下がっているスバルの耳をつつきながらそう言うと、スバルは小さな声で「ゔっざい」と呟いた。
その小さな声に、ガジルはまた面白そうに耳をつついた。









同じ頃、マグノリアから三つ程離れた街で、四人のフェアリーテイル団員がいた。
「あーッ!明日にはギルドに戻れるー!」
眼鏡をかけた女は、満面の笑みで背筋をぐぐっと伸ばす。
近くにいた仮面の男は、「そーだなー」と、笑顔でそう言って、側を飛ぶ人形に話しかける。
そんな二人を眺める、大きな傷が顔にある一人の男がいた。
「話に入らないのか?」
すらりとした男にそう言われるも、傷の男はフッと笑って「いい」と答えるだけだった。
「・・・何か気になる事でもあるのか?」
そう言われた傷の男は、頭をガシガシとかきながら、窓を眺めて呟いた。
「何か、ギルドに帰ったら面白くなりそうな気がしてる」
「・・・期待通りになればいいな、ラクサス」
——ラクサスと呼ばれた男は、すらりとした男に向けて、少し怪しげな笑みを浮かべた。 
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