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雷と鉄と妖と

作者:百瀬杏樹
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第二話:妖精の尻尾:

数日してから、ガジルとスバルは、目的地であった妖精の尻尾(フェアリーテイル)に到着した。
「・・・・・」
「・・・どした、お前」
ガジルはそう言って、顔を歪めまくっているスバルに問いかけた。
「・・・人間の匂いがプンプンする。それに、酒の匂いも酷い。入りたくない。鼻がモゲそうだ」
「何だそれ。お前どんだけ鼻良いんだよ」
「弧族はみんな良い」
スバルはそう言いながら顔を歪める。時々、「酒の匂いのが酷くないか?」とか、「何でこんなに騒げるんだよ」など、ブツブツ文句を言う。
「・・・まぁ我慢するんだな。酒臭いのは認めるしよ」
「お前は鉄臭い」
「ほっとけ」
そんなやりとりをした後、ガジルはスバルの腕を掴んで中へと入った。
中へ入ると、スバルはさっき以上に顔を歪め、掴まれていない腕で右耳を塞いだ。それ程にうるさいのだろうか。
「お?ガジルじゃねーか。そいつ誰だ?」
「ナツ」
ナツ、と呼ばれた少年は、松明を片手に持ちながら、スバルの顔をグッと覗き込んだ。
突然の事に驚いたスバルは、右足でナツの、というか、いわゆる、男の弱点に、思いっきり蹴りを入れた。
「ッんぎゃあっ!!!」
いい所に入ったのだろう。ナツは悲鳴を上げて上へ飛び、そのまま地面に崩れ落ちる。
「・・・」
「スバル」
「私は悪くなんてない」
「ガキか」
ガジルがそう言うも、スバルはナツから目を逸らして、いつの間にかガジルの腕が離れていたので、それで左耳も塞いだ。
「ガジル、その子は誰じゃ?」
そう言ったのは、老人だった。
「マスター、丁度良かった」
老人は、フェアリーテイルの現マスター、マカロフだった。
ガジルはマカロフの前にスバルを押し出して、口を開いた。
「こいつ、奴隷小屋で買った」




こいつ、奴隷小屋で買った




「・・・・・・・・・・・」
沈黙。
ただただ流れる、沈黙。
ガジルのその一言で、ギルド全体が沈黙に包まれた。
騒がしさがなくなったのに気付いたのか、スバルは両耳を押さえていた腕を降ろした。
だが、すぐに騒がしさは戻って。

「「馬鹿かお前はァ!!!」」
すぐに、ガジルへの非難の声が上がった。
「何当然の如く奴隷を買ってんだよ!」
「そして何でそれをギルドに連れてくる!?」
「しかもマスターに何で言ってんだお前は!?馬鹿なのか?え?馬鹿なのかガジル!!」
「見損なったぞお前!!」
「けろっと報告してんじゃねぇ!!」
先程より大きな声で全員が怒鳴った為、スバルはバッと耳を塞いだ。だが、途中でガジルが非難されている事がわかり、深く息を吸った。
「・・ガジルは、私を救ったんだ!!」
その声と同時に、怒鳴り声が止んだ。
「ガジルは奴隷として私を買ったけど、救ったんだ!!それに、妹達を救うとも言ってくれた!!何も知らないのに、悪く言うんじゃない!!」
藍色の目でギルド内を睨みつけるスバル。ガジルは後ろで、そんなスバルをキョトンと見つめていた。
「・・・お嬢ちゃん、それは本当か?」
「当たり前だ!!弧族は嘘なんてつかない!!」
強気でそう言ったスバルを見て、マカロフは間を置いて、にっこりと笑った。
「そうかそうか。ガジルはお主を救ったんじゃな。良かった良かった。お嬢ちゃん、名前は?」
「え?ス、スバル」
「儂はマカロフじゃ。このフェアリーテイルのマスターをしておる。ガジル、妹とは何じゃ?」
「こいつの妹が別の奴らに買われてたんだってよ。だから、フェアリーテイルで探してやりゃあいいだろ?」
「ふむ。そうじゃな」
二人だけで続く会話に、全員がポカンとしていた。




「・・・なるほどねぇ。つまり、ガジルは貴方に手を出してないのね」
「あぁ」
「何回確認してんだテメェは」
12回目の確認をするルーシィに、ガジルはそう言った。
スバルは、長椅子の真ん中に座っているが、注目を浴びているのが嫌なのか、二本の尾で顔を隠す様にしていた。
「とにかく、スバル達を捕まえた闇ギルドの情報がないと何も出来ないな。そのギルドの名前はわからないか?」
エルザがそう言うと、スバルは尾で自分の前髪を避けた。
「・・・わからないが・・・何だか、奇妙な連中だった」
「紋章は見た?」
「・・・見た、と思う。十字架に蝶があったような・・・気がする」
「では、どんな奴らだった?」
「・・一人は、赤い髪で、色んな飾りをジャラジャラとつけていた女。舌にもつけていたし、何だが・・・」
言い終える前に、スバルは自分の尾を掴んだ。腕が小刻みに震えている。
「・・・その女の名前はわからないか?」
エルザの問いに、スバルは首を横に振った。
「・・・では、お前の妹の名前は?」
「・・・アカルと、アカリと、キィナ。アカルとアカリは双子で、キィナはまだ11歳だ。全員尾が一つだけ」
「わかった。部屋に戻れ。後は私達でなんとか・・・」
「見つけたら、私も行くからな」
エルザが言葉を発し終える前に、スバルはそう言った。
エルザが頷くと、ガジルがスバルをひょいっと担いだ。
「ッ、おい!!」
「部屋行くぞ」
「自分で歩ける!!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人の後ろ姿を見つめながら、ハッピーが呟いた。
「あの二人、仲良いね」 
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