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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§70 怠惰の魔王あとしまつ

 
前書き
ごめんなさい短いです
あと食事中注意(爆

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「あはははははははっは!!!!!」

 大爆笑で、水羽黎斗は目を覚ます。場所が場所なので「目を覚ます」なんて表現でいいのかなんてわからないけど。

「ウンコ、ウンコ使う権能って!!!!!!!!!!」

 腹を抱えて下品な言葉を口走り、しかし高貴さは喪わず。汚らわしさは背徳感へと変化して。眼前で笑う蠱惑的な女神に黎斗は頭を抱えてしまう。マジか。マジなのか。

「義母さんが言うっつーことはマジかよ……」

「ぷぷっ、なんであんたよりにもよってベルフェゴール様から簒奪した権能がそれなのよ。私を笑い殺しても権能簒奪出来ないわよ?」

 うんこ魔王とか小学生みたいな仇名つけられそうで憂鬱だ。この権能は伊邪那美命とは別ベクトルで極力封印するしかなさそうだ。

「掌握進んでないからわかんないけど、出来ることは便意操作と汚物強化及び操作、汚物の位置把握ってとこか?」

 なんだこの極悪な権能。

「……アンタ、もうそこまで察したの?」

 慣れてるというかなんというか、などと呟く義母(パンドラ)と阿呆な会話をしているうちに、思い出す。

「あれ? そいや僕権能封印されてるんじゃないっけ?」

「あー、それよそれ。封印が復活したころに私の術式が起動する、って形式になっちゃったのよねぇ。だから封印されててもウンコは使えるわよ」

「他のが使いたかった!」

 畜生神はいないのか。いや今まで散々倒してきたけど。

「ウンコであの魚モドキ潰せってかおい……」

 超新星爆発で倒せない相手を汚物で倒せとか無茶苦茶すぎる。無理無茶無謀は神殺しの本懐とはいえ、これはいくらなんでもあんまりだ。

「せめて機械操作とか怠惰系の精神操作ならよかったんだけどなぁ。無い物ねだりは意味がない、か」

 不死も無く。呪力もない。具体的にはもう幽世との扉を開けないくらいに。おまけに権能はウンコのみ。今までで一番ヤバいかもしれない。

「っーかショタ化してるから高校行けないよやべぇよ授業どうしよう!?」

「……あんたホントに脳内お花畑よね」

 呆れ果てるパンドラの隣で黎斗の悩みは加速する。

「はやく魚野郎潰さなきゃ」

 潰して、護堂の山羊を借パク……一瞬借りて呪力回収からの脱ショタ化しか道はない。ウダウダしてると留年する。中間に期末と控えているのだ。こんなところで欠席するわけにはいかない。

「それに反町どもが暴走したら先生に泣きながら縋られる……」

「相変わらず愉快なことしてるのねぇ。というか、アンタまだ封印なさったお方の正体把握してないの?」

「HAHAHA,何を言ってるかわかりませんなmy,mother」

「とりあえずわかってないことはわかったわ。もっとも、あの方に関してはその方がいいかもね。だいぶ変わってるみたいだし」

 でも普通わかるでしょ、と呆れつつパンドラが離れていく。

「まーそろっと限界だからお別れだけど、頑張んなさい。」

 そんな会話をしたのが、何日か前の話だ。打倒魚神、という目標を掲げたまでは良かった。良かったのだが――――



「で、こうなると」

 嘆息する黎斗は砕け散ったドアを跨いで部屋を出る。鮮血と鉄塊、悪臭に包まれた廊下をひたすら歩き。通路を屠殺場という非日常空間に変えていた二人と合流を果たす。探索どころか雑魚狩りしかここ半月出来てないんですが。ホントどうしてこうなった。

「……正直、かつての自分を見ているようで恥ずかしい限りです。神を弑した御身に我らが敵う筈などないというのに。権能が無い程度で王を打倒できるなど、なんという思い上がり」

 苦虫を潰したようなダヴィデが呻いた。ゴーレムに全ての戦闘をさせていた彼は返り血の一つも浴びていない。凄惨な光景であるにも関わらず、彼の振る舞いは優雅そのもの。堂々とした佇まいに一瞬ここがどこかわからなくなる。まぁ飛び散る肉塊が雰囲気を台無しにしているのだが。

「ってかさー。れーとさんワイヤーだけで叢雲ぼっこぼっこにしてたじゃん。剣の王様相手にしても戦えるんでしょたしか。普通に考えたら戦えるわけないじゃん。大体この人たち恵那達を瞬殺出来ない時点で……」

 呆れたように巫女服の少女が剣についた血糊を拭う。こちらは青年と異なり血塗れの巫女服だ。彼女の美貌と相まって危険な魅力を放っている。

「巫女殿よ。敢えて進言させていただけるのなら――――それでも。彼らは勝てると思っているのだよ。神獣を倒すことなら、聖ラファエロやパオラ卿。陸家の御曹司といないわけではないからな」

 それに異を唱える青年は、憐みを湛えた瞳でそれらを眺めて。

「権能が無い、つまりはただの聖騎士になら勝てると踏むのさ」

「聖騎士に勝つって。この人たちそんなに強くないよ? 恵那が無傷で切り抜けられるんだから多分エリカさんやリリアナさんでも無傷でしょ? で、二人ともたしか大騎士だったよね」

 大騎士にも歯が立たない存在がどうしてそんな無謀を考えるのか。恵那でなくてもそう思うだろう。

「それは比較対象が悪すぎるな。彼女たちを相手にしては可哀相だ」

 青年は肩を竦め苦笑するも。否定の言葉をそれに続ける。

「第一、彼らが十全の状況だったならば彼女達でも手こずっただろう。巫女殿や私でも無傷で突破とは至らなかったかもしれない。まぁ、私たちに負ける、という結果はどちらにしろ変わらなかっただろうがね」

「十全の状況?」

 首をかしげる恵那にダビィデは再度苦笑。今度の先ほどの苦笑とは僅かに違う意味を込めて。

「天性の勘を持つ巫女殿でも流石に察することは不可能だったか。……あぁ、失礼。軽んずるつもりはないのだ。気を悪くしたら許していただきたい。地脈を読むことにそれなりの自信がある私でも気づくのが遅れたから、そちらに疎い巫女殿では察することは厳しかろうというだけの話」

「いや別に恵那は気を悪くしたりなんかしないけどさ。地脈ってこと? 確かにこのマンション異界化してたり使い魔放ってたり罠仕掛けてあったり事前準備は入念にしてたけどさ。全部微妙なカンジじゃなかった?」

 疑問を浮かべる恵那に対するダビィデの反応は至極単純。微妙な視線を黎斗に向ける、それだけだ。それだけで、恵那も大体察したらしい。

「……あぁ」

 いつものことか、とばかりの視線で黎斗を眺め、それをダヴィデが肯定する。

「突入前のワイヤー、アレがおそらく地脈を一時的に破壊したのだろう。……多分。きっと」

 自信が無いのか語尾が尻すぼみになっていくダビィデ。地相術、という一点に置いてはエリカですら認めうる才能を持つ彼だから気づけたようなものだ。ただ、それは常人に聞かせたところで一笑に付される代物。考慮するに値しない狂人の妄想に等しい。理論上不可能ではないかもしれない、程度の可能性。

「……あら。バレた?」

 二人の会話を聞きながら、血を踏まないように歩いていた黎斗が振り向いて目を丸くする。まさかこんなに早く気づかれるとは。

「……本当にそんなことが出来るとは今この時まで思っておりませんでした」

 もしかしたら程度の可能性だったのですが、などと諦めた目をする彼に向って黎斗は言う。

「やー、地脈ちょこっと弄ってみた」

 位置を微妙にズラすだけでも致命傷な術式の組み方だったから位置をズラした、ただそれだけだ。

「そんな簡単に出来るの?」

 純粋な目で見てくる恵那にダヴィデは思わず苦笑する。

「無茶言ってくれるな巫女殿。私が二桁いても半日はかかるぞ」

「だいたいわかった」

 変な目で見られる。心外だ。

「だいたい、何故弓引いた愚か者どもを抹殺しないで半死半生に? いえ、それを言ったら私など既にこの世にいないのですがね」

 疲れたような顔で笑うダヴィデに、曖昧な笑みで黎斗は返す。

「殺るより捕虜にする癖が基本的についてるんだよね」

 捕虜交換で金を稼いでいた遙かな昔の記憶が蘇る。死体から装備を剥いで、脱走した馬を捕獲して、捕まえた貴族を返す代わりに金を貰う。やったことだけ羅列していると魔王というよりチンケな悪党だ。三流チンピラともいう。

「王たる貴方様がそんなことをなさらずとも。手足となる者どもを見繕えば済む話でしょうに。御身でしたら跪いて忠誠を誓うものに事欠かないでしょう。世界のすべてを手にすることも出来る筈です」

 本心から言ってそうなダヴィデ。だめだこいつ、なんていいたいけれどそれを言ってもきっと無意味だ。黎斗には表だって動けないワケがあるなんてこと、他の誰かが知るはずもない。

「……歴史を変えすぎるワケには行かないんだよ」

 黎斗は歴史(みらい)を知っていた。だからやろうと思えば色々なIFを作れた。

――――レコンキスタに参戦していたら
ロンギヌスの真の力を見せつけていたならばどうなっていただろう
――――チンギスハンとひたすら馬を乗り回していたら
あの気弱な少年に最後まで付き合うのも悪くなかったかもしれない
――――大阪城で豊臣方について夏と冬を戦っていたら
黒衣の僧正相手にどこまで策を突破できただろう
――――第二次大戦で暴れまわっていたら
戦艦とか軍艦をコレクションに加える気が起きないから引きこもってはいたけれど

 歴史を弄ぶな、なんて彼の老人に頼まれたからだけではない。せめて、元の家族がいる可能性を。そんな女々しい感傷。

「れーとさん?」

「ん、なんでもない」

 未練だね、などと内心思いつつ。黎斗は廃屋を後にする、あとは甘粕達がやってくれるだろう。
 
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