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硯の精

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第五章

「あまり」
「ならすぐに書くのを再開してね、勿体無いから」
「勿体無いですか」
「貴女みたいな可愛い書道家を失うのは書道界の損失よ」
「可愛いですか」
「凄くね、私が見てもね」
「顔も」
 姫はこう言うがまた奈々が言った。
「だから変な奴の言葉は気にしないの」
「ブスとか幼児体型とか」
「言った連中の方がずっとブスで酷いスタイルだったでしょ」
「それじゃあ」
「そうよ、そっちもそれなりに自信を持って」
 そのうえでというのだ。
「これからやっていってね」
「じゃあ」
「自信よ」
 奈々は微笑んでだ、姫に言った。
「あんたに必要なのは。あんたは何もないんじゃないわ」
「書道があるのね」
「それに私変な奴とは付き合わないわよ」
 こうもだ、奈々は姫に言った。
「性格がいいからよ、姫が」
「私が」
「いつも私のこと気遣ってくれて困ってたら助けてくれるでしょ」
「友達だから」
「その心が好きよ、だから友達もいるし」
 それでというのだ。
「しっかりとやっていってね」
「じゃあ」
「何時でも来て」
 先生も姫に言う。
「書道は続けていってね」
「はい、じゃあ」
「その才能、眠らせないでね」
 このことを強く言った先生だった、そしてだった。
 この時から姫はアルバイトだけでなく書道も再開した、するとすぐに六段七段となっていき個展も開ける様になった、熊のぬいぐるみを愛するゴスロリファッションの美人書道家として話題にもなった。
 その姫にだ、奈々はこの日は大学の食堂で一緒にラーメンを食べつつ言った。
「ほら、私と先生の言った通りでしょ」
「引っ込み思案で言われたこと気にするよりも」
「自分のやってることをやってね」
「自信を持てばいいのね」
「そういうことよ、じゃあ今度はいい男の人紹介するからね」
「彼氏の人?」
「タチの悪い男じゃないから」
 このことは保証するのだった。
「しっかりとした人だから」
「その人を紹介してくれるのね」
「私の兄貴よ、平凡なサラリーマンだけれど」
 それでもというのだ。
「少しアホなだけでいい奴だから」
「奈々ちゃんのお兄さんね」
 奈々の呼び名は親しいものになっていた、今の姫のそれは。
「その人をなの」
「恋愛も自信を持ってね」
「うん、引っ込み思案よりもね」
「自信を持つことよ」
「私も場合は」
「そう、そうやっていってね」
 こう姫に言うのだった、共にラーメンを食べながら。見れば姫のラーメンを食べる勢いは奈々と同じ位のものになっていた。仕草は彼女よりも女の子のものだったが。


硯の精   完


                         2016・7・28 
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