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おぢばにおかえり

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第三十二話 あちこち回ってその十五

「そうして判断しろって」
「決め付けとかはね。目が曇ってしまうのよね」
「その通りですよ。けれど先輩は」
「私は?」
「お話に聞いた通りの人ですね」
 不意にこんなことを私に言ってきました。
「二年上にそんな先輩がいるって御聞きしていましたけれど」
「そんなって?」
「だから。小さくて」
 またこの話です。顔が一瞬でむっとしたものになるのが自分でもわかりました。
「って確か阿波野君と最初に会ったのって」
 あの時のことははっきり覚えています。というよりは忘れられる筈がありません。いきなり物凄く失礼なことを言われたんですから。
「一年と間違えてたじゃない」
「その前に話は聞いてたんですよ」
「そうだったの」
「はい。そうしたらその人が先輩だったってことで」
 そうした事情だったみたいです。何かこの子もこの子で奥華のことを聞いてるみたいです。
「いや、この人だったんだって思いましたけれど」
「それで驚いたの?」
「それはないですけれどね」
 驚いたってことはなかったみたいです。
「ただ」
「ただ?」
「本当にお話通りだなって」
 今度は背のことは言いませんでした。
「何もかもが」
「何もかもが?」
「はい」
「どういうことなのよ」
 阿波野君の言葉の意味がまたわからなくなりました。
「それって」
「まあそういうことで」
「そういうことって。言ってくれないかしら」
 どうしても気になって尋ねました。
「その辺り」
「まあまあ。ところでですね」
「誤魔化さないでよ」
「はい、これ」
 私の言葉を遮るようにしてお団子を差し出してきました。それは奇麗な緑色の茶団子でした。串に四個ばかり刺さっています。
「美味しいですよ、ほら」
「あっ、茶団子なの」
「お団子お好きですか?」
「ええ、和菓子はね」
 甘いものはどれも大好きですけれどその中でも和菓子は一番好きだったりします。子供の頃から和菓子があれば幸せでした。
「大好きなのよ。じゃあ」
「はい。先輩って和菓子派だったんですね」
「そうよ」
 阿波野君からその和菓子を受け取りながら答えました。手から手に。触れはしませんでしたけれどそれでも直接受け取ってそれから口に運びます。
「物心つく前からね」
「またどうしてなんですか?」
「家にいつも和菓子が一杯あったのよ。今でもだけれど」
 その辺りの事情を阿波野君に話しました。
「実はね」
「いつもなんですか」
「信者さんに八条グループの人が多くて」
 私の教会の信者さんの特徴です。総帥の方も含めて。
「それでね」
「八条グループってお菓子もやってたんですか」
「やってることはやってるけれどいつもお家にある和菓子は別のところのものからよ」
「何処からのですか?」
「地元の老舗の和菓子屋さんのものなのよ」
 そこは地元ではかなり有名なお店です。もう誰でも知ってる位に。 
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