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Blue Rose

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第十八話 新幹線の中でその三

「けれど今日は」
「平日ですね」
「学校はどうしたんだい?」
「入院というか療養に入りまして」
 それでとだ、優花は男に素直に話した。
「長崎に行くんです」
「療養か」
「少しの間」
「そうか、君も大変だね」
 男は優花の言葉を聞いてしみじみとした口調で言った。
「結核かい?」
「いえ、そういうのじゃないです」
 優花はその病気ではないと断った。
「死ぬかっていいますと」
「そうした病気ではないんだね」
「はい」
 そうだとだ、男に答えた。
「そうです」
「ならいいがね」
「結核ってまだあるんですね」
「あるよ」
 男は優花の今の問いにはすぐに答えた。
「それで死ぬ人もいるよ」
「そうなんですか」
「気付かないうちになってね」
「それで、ですか」
「気付かないうちにね」
 その結核にだ。
「死ぬ人もいるんだよ」
「そうなんですね」
「怖いよ、結核は」
「今もですか」
「そう、気をつけないといけない病気なんだよ」
「そうだったんですか」
「昔は脚気や梅毒と並んで国民病だったんだよ」
 戦前の話をだ、男はした。
「この三つの病気はね」
「脚気ってあの」
「そうそう、脚がむくんで動けなくなる」
「あの病気ですよね」
「あの病気でも死んだんだよ」
「昔はですか」
「梅毒は言うまでもないね」
「その病気は僕も知ってます」
 優花は知識から男に答えた、自分の中のそれから。
「昔は抗生物質がなくて」
「よく死んだんだよ」
「顔に瘡蓋とか身体中に赤い斑点とか出来て」
「そう、身体が腐って鼻が落ちたりするんだ」
「そうして身体がボロボロになって死ぬんですよね」
「そうだよ、怖い病気だよ」 
 この病気で死んだ者は東西問わず多かった、一説にはシューベルトがこの病気に感染してしまい若くして死んだという。
「あれもね」
「それで結核も」
「そう、まだ死ぬ人がいるから」
「そうだったんですね」
「注意が必要だよ」
「沖田総司さんみたいに」
「あの人は有名だね」
 当時は労咳といった、咳が異常に出ることからの病名だ。
「同じ時代だと高杉晋作さんだね」
「あの人も結核でしたね」
「死ぬ人が多かったんだよ」
「それで今もですか」
「そう、死ぬ人が多い」
「そうした病気なんですね」
「まだね、けれど君は違うね」 
 男はこう優花に問うた。
「結核とかではないね」
「死ぬ様な病気じゃないです」
「なら大丈夫だよ」
「大丈夫ですか」
「人は生きてこそだからね」
「まずはそこからですか」
「そう、生きてこそだよ」
 まずはというのだ。
「そこからなんだよ」
「人は生きてこそですか」
「そこからはじまるんだよ」
「そうなんですね」
「死んで天国に行っても」
 男はこれまでの明るい雰囲気よりも真剣なものを前に出してだった、自分の隣の席にいる優花に話すのだった。 
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