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善意の裏

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第四章

「それではです」
「アメリカ人のものでもあるというのか」
「その通りです」
「我が国はこれまでアメリカ人を受け入れてきた」
 ただ人だけではなくだ。様々な制度や文化もだ。受け入れてきた。
 そしてそれが今に至ったところでだ。王は愕然としてだ。アメリカ人に対して言った。
「全てはか」
「さて、何のことでしょうか」
「そうした魂胆だったのか」
「陛下、宜しいでしょうか」
 アメリカ人は平然としてだ。己の周りに兵達、肌の白い者達も多く含む彼等を従えながら王に対して述べた。
「それではです」
「王権の制限か」
「その他にも色々とありますが」
「アメリカになれというのだな」
 王は苦い、このうえなくそうなっている顔で問うた。
「そうしろというのだな」
「さて。我々はあくまで市民の為に動いているので」
「アメリカの市民の為だな」
「優れたシステムや文化を取り入れるだけです」
 彼、アメリカ人から見てである。
「それだけですので。では宜しいですね」
 兵達を従えたままだ。アメリカ人は王に問うた。
「その様に」
「・・・・・・・・・」
 王はアメリカ人の言葉にだ。その顔をがっくりと落とした。かくしてだ。
 ハワイ王の権限は著しく制限されそのうえでだ。アメリカから来た者達の権限がさらに大きくなった。
 それから共和制への移行に政変等を経てだ。遂にハワイはアメリカに併合された。その象徴として。
 王宮からハワイ王国の旗が降ろされた。その代わりにだ。
 星条旗が掲げられていく。それを見てだ。アメリカ人や彼等の『友人』達はだ。胸を張って言うのだった。
「よし、これでいいんだ」
「これから我々は完全にアメリカ人となるんだ」
「ハワイにも自由がもたらされたんだ」
「悪しき王制が倒れ民衆は解放されたんだ」
「今それが完成したんだ」
 彼等にとってはだ。正義が完遂されたその時だった。しかしだ。
 その星条旗が掲げられた王宮を見てだ。かつて王族だった者達はこう話した。
「悲しいことですね」
「全くです」
「全ては。彼等を受け入れた為ですね」
「その結果として」
 こうなったとだ。彼等は嘆く。
「我々は国をなくした」
「そうなってしまった」
「最初から誤っていた」
 今になってだ。彼等はわかったのだ。
「彼等の協力を受けるべきではなかったのです」
「ただ。善意で来たのではなかった」
「善意で我々の統一を助けてくれたのではなかった」
「そこには。こうしたことがあった」
「その裏には」
 その星条旗を見ながらだ。彼等は今になって気付いたのだった。そうしてだ。
 彼等は項垂れたままだ。かつて彼等がいた王宮から聴こえる歌を聴いた。それはだ。
 彼等の歌ではなくアメリカの歌だった。アメリカの国歌、星条旗よ永遠なれだった。
 そのアメリカの国歌を聴いてだ。彼等はまた言った。
「ハワイは永遠に失われた」
「この国は今からアメリカになった」
「そしてそれは永遠に続く」
「アメリカ合衆国という国がある限り」
 このことを誰よりもわかったのだった。今ハワイは完全に消えたのだった。
 そしてハワイはアメリカの太平洋における重要な拠点になった。軍港が置かれそこから彼等の世界戦略が行われた。今ハワイは州になっている。完全にアメリカの一部としてだ。存在しているのである。


善意の裏   完


                             2012・3・29 
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