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消えた友

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2部分:第二章


第二章

 金は北朝鮮に移住することになった。家族と一緒にだ。
 それでだ。最後の別れの日にだ。彼はこう白川に話した。
「手紙ね。送るよ」
「うん、待ってるよ」
 夕焼けの帰り道を二人並んで歩きながらだ。白川は金の話を受けた。
「それで北朝鮮じゃどうやって暮らすの?」
「仕事は向こうで決めてくれるらしいんだ」
「じゃあ仕事を選ぶ必要はないんだ」
「多分。うちは店やってるじゃない」
「それじゃああっちでもかな」
「うん。ある程度の蓄えもない訳じゃないし」
 それでだというのだ。
「向こうじゃこっちにいるよりもずっと楽しく暮らせるみたいだから」
「日本にいるよりもずっと」
「うん。そうなるからね」
「じゃあ手紙もだね」
「楽しい気分で書くよ」
 そうなることを確信しての話だった。
「それじゃあね」
「うん。じゃあ機会があったらね」
「連絡をしてもいいそうだしいい国みたいだから」
「日本にも時々帰ってこれるかな」
「そう思うよ。だからまたね」
「会おうね」
 こうだ。二人で夕焼けの中で笑顔を向け合ってだ。別れたのだった。
 金は北朝鮮に行った。白川は彼からの手紙を待った。しかしだ。
 手紙は全く来なかった。それにだ。
 時々帰って来るという話も全くなかった。これは金だけでなくだ。
 北朝鮮に行った人間は誰も帰って来なかった。しかもだった。
 クラスメイト達がだ。怪訝な顔で白川に言ってきたのだった。
「おい、金だけれどな」
「金がどうしたんだよ」
「ああ、あいつ北朝鮮に行ったよな」
 首を捻りながらだ。こう彼に話してきたのだ。
「何か向こうに行った人から金とかもの送ってくれって手紙が多いらしいぜ」
「親戚の人にな」
「えっ、北朝鮮に行ったら何でもあるんじゃなかったのか?」
 白川はあその話に召を丸くさせた。
 そしてだ。こうクラスメイト達に問い返したのだった。
「だから着のみ着のままでいいっていうんじゃなかったのか?」
「まあ新聞じゃそう書いてるけれどな」
「あそこに行ったら大丈夫ってな」
「ああ、雑誌でも書いてるしな」
「ちゃんとな」
 クラスメイト達も話す。確かに新聞や雑誌ではそう書かれていた。
 それでだ。彼等も白川に話すのだった。
「だから嘘だって思うけれどな」
「あそこは地上の楽園で日本よりずっといい暮らしだっていうしな」
「保険も仕事も何の心配もいらないんだろ?」
「食いものだって飽きる位あって」
「肉だって食えるんだろ」
「俺もそう聞いてるけれどな」
 怪訝な顔のままでだ。白川は彼等に返した。
「それが違うのか?」
「まあ噂だけれどな」
「まあ金も向こうで元気にやってるだろ」
「あんまりにも楽しいから手紙書くの忘れてるんじゃないのか?」
「そうじゃないのか?」
 こう話す彼等だった。しかしだ。
 白川の中で不安が宿った。金は北朝鮮でどうして暮らしているかとだ。
 しかしそのことを知ることは新聞や雑誌を通してだけだった。新聞ではだ。
 やはり北朝鮮は地上の楽園であり向こうに行けば幸せに暮らせると書かれていた。彼はそのことを信じるしかなかった。それで金も幸せだと思っていた。
 だが、だ。次第にだった。北朝鮮の話題はだ。
 少しずつ出て来た。その話はというと。
 
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