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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第61話

同日、17:00――――



~夕方・特務支援課~



「「「「「……………………………」」」」」

キーアとシズクがおしゃべりをしていたその頃、ロイド達は黙ってヨアヒムの連絡を待っていたが

「だああっ!遅い、遅すぎんだろ!?あの先生、午後には連絡をくれるんじゃなかったのか!?」

ついに我慢の限界に来たランディが叫んだ。

「病院の受付に連絡したらどうやら研究室に閉じこもって熱心に調べているらしいけど……」

「薬の成分の解析に手こずっているのかもしれません。………もしくはサボって釣りでもしているとか。」

「実際仕事をサボって釣りをしているあのお医者さんを連れ戻す為の支援要請も来たことがあるくらい筋金入りだものねぇ。」

「さ、さすがにそれは無いと思うけど………」

エリィの後に呟いたティオの推測に頷いたレンの話を聞いたロイドは苦笑していた。



するとその時セルゲイから課長室から出てきた。

「なんだ、まだ例の先生からの連絡はないのか?」

「ええ、何でも調査に熱中して研究室に閉じこもっているみたいです。こうなったら直接、出向いた方がいいかもしれません。」

「ふむ、そうかもしれん。被害者が出ている以上、薬の成分を確かめておきたい所だ。ギルドからの連絡は任せて急いで行って来るといい。」

「すみません。よろしくお願いします。」

「そんじゃ、とっととバスでウルスラ病院まで行くとすっか。」

その後ロイド達はウルスラ病院に行く為にウルスラ病院へ行くバスの南口のバス停に向かった。



~南口~



「あれ………けっこう並んでるな?」

「この時間にしては珍しいわね。」

「そうね。病院の面会時間もそろそろ終わる時間でしょうし。」

バス停まで来たロイド達はバス停に並んでいる人達を見て不思議そうな表情をした。

「……おかしいですね。ちょうど5分前に前の便が出たばかりのはずですが………」

「そうなのか?」

「ふむ………」

ティオの説明を聞いたロイドは首を傾げ、ランディは考え込んだ後、バス停の前に並んでいる人達の中にいる青年の一人に尋ねた。



「よう、そこの兄さん。ひょっとしてバスが遅れてんのかい?」

「ああ、そうみたいだな。俺も20分くらい前から待ってるんだがなかなか来なくてっさ。困ったな………面会時刻を過ぎちまうよ。」

「そっか……」

青年の話に頷いたランディはロイド達の元に戻って行った。

「やっぱ遅れるみてぇだな。」

「ひょっとして………またエンジントラブルかしら?」

「その可能性はありそうですね。」

ロイド達が話し合っていたその時、ロイドのエニグマが鳴りはじめた。



「はい、特務支援課、ロイド・バニングスです。」

「ダドリーだ。そちらの状況はどうだ。」

「ああ、お疲れ様です。遊撃士協会の協力は無事、取り付ける事ができました。」

ロイドは通信相手―――ダドリーにクロスベル支部の遊撃士全員がマフィアと行方不明者達の捜索を引き受けてくれた事を説明した。

「フン……マクレインに借りを作ったか。まあいい、連中ならば何らかの成果は挙げるだろう。―――こちらはようやく、マフィアどもの姿が消えた事実に上の連中が騒ぎ始めたところだ。だが、まともに動けるにはもう少し時間がかかるかもしれん。」

「了解しました。そういえば――――今、空港近くにいるんですが爆破予告の方はどうなりましたか?」

「フン、そちらは完全にガセだった可能性が高いな。最新の導力探知器で空港内をくまなく調べたが何も出てこなかった。」

「やはりマフィアの動向と何らかの関係が……?」

「今、その線も探ってる。―――ちょっと待て、空港の近くにいるそうだが………まさかそちらの方にまで首を突っ込むつもりなのか?」

「いえ、実はこれからウルスラ病院に向かうんです。成分調査の連絡が遅れているので直接訪ねてみようかと。」

「なんだ、まだ聞いていないのか?まったく、これだから新米は。その手の連絡は、正確な時間を決めて迅速にだな………」

「す、すみません。(確かにアバウトだったな………)」

「薬の成分が明らかになればこちらも上を動かしやすくなる。その医師とやらの働きには期待したいところだが………そう言えば、何という名前の医師なんだ?」

「ああ、言ってませんでしたか。ヨアヒム・ギュンターといって神経科と薬学担当の准教授です。30代半ばくらいですけどかなり有能という評判ですね。」

「ふむ、それなら少しは期待できるかもしれんが………―――ん?」

「?どうしました?」

「ちょっと待て………ヨアヒム・ギュンターと言ったか?それは眼鏡をかけたわりと飄々とした感じの男か?」

「ええ、そうですけど………会った事があるんですか?」

通信相手―――ダドリーの反応の様子を不思議に思ったロイドはダドリーに訊ねた。



「………………」

「あの、ダドリーさん……?」

「……会ったのは2ヵ月ほど前の事だ。アルカンシェルのプレ公演で市長を暗殺しようとした犯人――――アーネスト元秘書の取調べをしている最中にな。」

「え。」

「セルゲイさんから聞いたかもしれんが、アーネストは完全に錯乱していた。そこで仕方なく、彼が以前から相談していたというカウンセラーをウルスラ病院から呼び寄せたんだ。それでようやく、まともに事情聴収ができるようになったんだが………」

「ちょ、ちょっと待ってください。ひょっとして………ヨアヒム先生がアーネストの?」

ダドリーの話を聞いて驚いたロイドは信じられない表情でダドリーに訊ねた。

「ああ、主治医という訳だ。その時は、さすがウルスラ病院の医師だと感心したものだったが………………………」

「…………………………………」

ダドリーの説明を聞いてある事に気付いたロイドは自分同様ヨアヒムに”何かがある事”に気づいたダドリーと共に黙り込み

「………わかりました。本人にそれとなく当たってみます。」

「ああ、そうしてみろ。とにかく時間は有効に使え。―――またこちらから連絡する。」

そしてダドリーとの通信を終えた。



「…………………」

「ど、どうしたの?変な話をしてたみたいだけど………」

「あの秘書の人とヨアヒム先生が何か関係あるんですか?」

通信を終えて黙り込んでいるロイドが気になったエリィとティオはそれぞれ訊ねた。

「ああ………」

ロイドはダドリーからの情報をエリィ達に伝えた。

「そ、それは………」

「ちょっと待てって感じだな………考えてみりゃあ、あの時の秘書野郎の態度と馬鹿力はどう考えても………」

「鉱員のガンツさんのケースとそっくりかもしれませんね。しかもその主治医だった人がヨアヒム先生というのは………」

「灰色どころか、真っ黒と自分で言っているようなものねぇ。」

ロイドの情報を聞いたランディ達がそれぞれ真剣な表情になっている中レンは呆れた表情で呟き、ロイド達と共に黙り込んだ。



「ちょ、ちょっと病院の受付に確認してみるわ。あれからヨアヒム先生がどこかに出かけていないか――――………」

「ああ、頼む。」

ヨアヒムの現状を調べる為にエリィはエニグマで病院に通信をしたが、コール音が続くだけで誰も出なかった。

「……駄目、出ないわ。話し中というわけでも無さそうだけど……」

エリィが通信を止めるとロイド達は互いの顔を見合わせて黙り込んだ。

「―――遅れているバスに連絡が付かない病院……そして新たに判明した意外な人間関係ですか……」

「さすがにちょいとばかり、お膳立てが整いすぎてねぇか?」

「ああ――――じきに日も暮れる。急いでウルスラ病院に向かおう。バスとすれ違ったら呼び止めてそのまま乗せてもらえばいい。」

「ええ………!」

「……………」

ロイドの提案にエリィが頷いている中レンは厳しい表情で黙ってウルスラ病院がある方向を見つめていた。その後ロイド達はウルスラ病院に向かって、街道を進んでいると停車しているバスを見つけた。



~ウルスラ間道~



「あ……!」

バスを見つけたロイドは声をあげた後、エリィ達と共に走ってバスに近づいた。

「ど、どうしてこんな場所で停車を………それに………誰も乗っていないの?」

「そうみてぇだな………ティオすけ、小嬢、周囲の反応はどうだ?」

「はい………アクセス………」

「―――アクセス………」

ランディに尋ねられたティオとレンは答えた後、それぞれ魔導杖を掲げて周辺をサーチした。

「………ダメです。周囲10セルジュに人の反応はありません。」

「こっちもダメね。」

「チッ……だろうと思ったぜ。どうやら魔獣に襲われたって雰囲気でも無さそうだな?」

「ああ……ちゃんと路肩に停車している。多分、運転手が自分の意志でこちらに寄せて停車したんだろう。もしくは停車せざるを得ない何らかの事態が発生したのか………このまま中も調べてみよう。」

「ええ………!」

そしてロイド達はバスの中を調べたが、バスの中は争った形跡はなく、花や見舞いの品だけが席に置かれていた。



「花や見舞いの品が座席に残っている……どうやら病院に行く途中だったみたいだな。」

「ええ………」

「ぬいぐるみ………子供の患者さんへのお見舞い品でしょうか?」

「ああ………そうだろうな。」

バスの中を調べ終わったロイドは仲間達と共にバスを出た後、どこかに連絡した。

「はい、はい……わかりました。連絡の方はお願いします。こちらはこのままウルスラ病院に向かいます。―――はい。くれぐれも気を付けます。」

連絡し終えたロイドはエニグマを元の位置に戻した。



「………課長はなんと?」

「とりあえずタングラム門に連絡をしてくれるみたいだ。ソーニャ副司令に協力を要請してみるらしい。」

「そう………ちょっと助かるわね。」

「ああ、副司令だったら必ず力になってくれんだろ。」

「とりあえずわたしたちはこのまま病院ですか………?」

「ああ、ここから病院までもうそんなに離れていない。ひょとしたら乗客が歩いて病院に向かった可能性もある。」

「ま、見舞いの品を置いている時点でタダ事じゃなさそうだが……」

「そうね。血痕とか争った跡がないから恐らく”生きては”いるでしょうね。」

「とにかく急ぎましょう。すぐに日が落ちてしまうわ。」

「ああ………!」

その後ロイド達はウルスラ病院に向かい、病院に到着すると既に日は暮れ、夜になっていた。



同日、18:50――――



~夜・ウルスラ病院~



「日が落ちてしまったわね………でも、あれは………」

夜であるにも関わらず照明の付いていない病院にただ事ではない事が起こっている事を察したエリィは真剣な表情で病院を見つめ

「屋外の照明はともかく建物の明かりが点いてねぇ。どう考えても様子が変だぜ。」

「………まだ早い時間なのに正門が閉じられていますね。警備員の方はどこに………」

ランディとティオは照明の付いていない建物や閉じられた正門を見つめて呟き

「くっ………とにかく中の様子を――――」

「!構えて!!」

ロイドが唇をかみしめて指示をしたその時何かの気配に気づいたレンが二振りの小太刀を鞘から抜いてロイド達に警告した。



グルルル………



すると唸り声が聞こえた後なんとルバーチェの軍用犬達がロイド達の背後から現れた!

「こいつら………!?」

「マフィアの軍用犬………!」

「チッ………気配を感じなかったぞ!?」

「うふふ、前よりは賢くなったみたいね――――!」

軍用犬達の登場にロイド達が驚いている中不敵な笑みを浮かべていたレンだったが何かの気配に気づくと後ろに振り向き

「!後ろからもです………!」

「なに………!?」

レンの代わりに後ろに振り向いて警告したティオの警告を聞いたロイドが仲間達と共に正門に振り向いたその時マフィア達が現れた!



「あんたたちは………!」

「姿が見えないと思ったらこんな所に………!?」

「てめえら………一体何をしてやがる!?」

現れたマフィア達を見たロイド達は驚いた後、マフィア達を睨んで声をかけたが

「「……………………………」」

マフィア達は無言で武器を構えた!



「くっ………」

「問答無用みたいね………」

「まあ、問答ができてもどの道展開は同じでしょうけどね。」

「気を付けてください……良くない気配を感じます!」

「来るぞ………!」

そしてロイド達は戦闘を開始した!マフィア達は以前と比べると身体能力が圧倒的に上昇していた為、若干苦戦しながらもロイド達は協力してマフィア達を制圧した。



「はあはあ………なんて強さなの!?」

「やっぱり例の薬で身体能力を強化しているみたいだな………軍用犬の方もそうかもしれない。」

「マフィア達は当然として、戦力増強の意味で軍用犬達にも投与している可能性も考慮しておくべきだったわね。」

戦闘を終えたエリィは息を切らせ、ロイドとレンは警戒した様子で地面に膝をついたマフィア達を睨み

「しかし………こいつら一体どうしたんだ?一言も喋らないで黙々と襲ってきやがって………」

「………感情の揺らぎがほとんど感じられませんでした。これではまるで―――」

ランディの疑問にティオは静かに呟き、何かを答えかけた。するとその時

「………ゥルルル………」

「………ァァア………」

なんとマフィア達は唸り声を上げた後、全身に凄まじい瘴気を纏って立ち上がった!



「こいつら………!?」

「チッ………完全に無力化したはずだぞ!?」

「これが………”グノーシス”の力………!」

「面倒な事になったわねぇ。」

「ど、どうすれば………」

立ち上がったマフィア達を見たロイド達が驚いたその時!

「フフ……―――やれやれ。面倒をかけてくれる。」

どこからか聞き覚えのある声が聞こえた後、突如針が飛んできてマフィア達に刺さり

「がっ………」

「ぐっ……」

針に刺さったマフィア達は呻いた後地面に倒れた!



「今の針は………!」

それを見たエリィは驚き

「”(イン)”――――殺したのか!?」

ロイドは真剣な表情で叫んだ。

「フ………経絡(けいらく)を突いて気の巡りを遮断しただけだ。いかに身体を強化しようともしばらくは眠ったままだろう。」

すると銀がロイド達の傍の空間から現れた!



「そ、そうか………」

「しかし、相変わらず神出鬼没な野郎だな………ルバーチェの動向を探ってここに辿り着いたって所か?」

「ツァオからの依頼でな。しかし思っていた以上に厄介な事になっているようだ。”グノーシス”………眉唾物だと思っていたのだが。」

「どうしてその名前を……」

「まあ、ルバーチェの急激な戦力増強が気になって調べていたのでしょうけど………たった2日で”そこまで辿り着く”なんてさすがと言った所かしら?」

「貴方達………何をどこまで知っているの?」

銀の話を聞いたティオは驚き、レンは意味ありげな笑みを浮かべ、エリィは警戒した様子で尋ねた。



「フフ………お前達が掴んでいる程度だ。ルバーチェどもの失踪と”D∴G教団”残党の存在………それ以上の事は私もツァオも掴めてはいない。」

「そうか………」

銀の話を聞いたロイドは頷いた後仲間達と共に構えを解いて考え込み

「―――そちらの目的がどうあれ、今は緊急事態だ。おそらく病院内は、マフィア達に占拠されている可能性が高いだろう。一刻も早く病院関係者の安全を確認しなくちゃならない。だから”(イン)”――――この場は協力してくれないか?」

驚くべき提案を口にした。

「ええっ!?」

「あら……」

「おい、そいつは………」

ロイドの提案を聞いたエリィとレン、ランディは驚き

「クク………何を言い出すかと思えば。お前達が本来、取り締まるべき犯罪者の力をアテにするというのか?」

銀は不敵な笑みを浮かべて尋ねた。



「言っただろう、緊急事態だと。それに、あんたはあんたで真相を突き止めるつもりのようだ。だったら病院関係者を助けて話を聞くメリットはあるだろう?」

「フフ………あくまで対等な協力関係というわけか。―――いいだろう。この場は力を貸してやる。だが、足手まといになるようなら私は私で勝手にやらせてもらう。それでいいな?」

「ああ、構わない。」

銀の確認にロイドは頷き

「まったくもう……思い切りがいいというか。」

「こういう時のロイドさんは大胆過ぎますよね………」

「うふふ、こういう非常事態に瞬時に判断ができる証拠だからいいじゃない♪」

エリィとティオは呆れ、レンはからかいの表情で指摘した。



「ま、ウダウダ迷ってる場合じゃねえのも確かだしな。そんじゃあ、さっそく病院内の捜索を始めるかよ?」

「ああ、とにかく病院関係者の安全を確認していこう。ついでに話を聞けば何が起こったかわかるはずだ。」

「ええ………!」

「了解です。」

「わかったわ。」

ランディの言葉にロイド達はそれぞれ頷いて病院を見つめ

(セシル姉………どうか無事でいてくれ。絶対に……みんな助けてみせるから!)

ロイドは決意の表情で病院を見つめた後仲間達と共に探索を開始した――――




 
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