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SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
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3,復帰戦

 
前書き
ようやく、SAO内に入ったよ
いや~長かった(笑)
お待たせしました。これより本編?です。 

 
澄んだ空気を吸い込んだ。
ナーヴギア内での設定でしかないが、再現度は大したもので、混じりっ毛のない田舎の空気を思い出す。
ふと行ってきたアメリカを思い出すが、俺のステイ先も勝ち目なんて無い。なんせこっちは中世の世界なんだから。

ガヤガヤと活気あふれる街だった「始まりの街」は、亡霊のようなプレイヤーがチラチラと見え隠れするゴーストタウンへと成り果てていた。

恐らくは攻略のする気のない低レベルプレイヤーの引き篭もりの場となっているのだろう。
それも仕方ないとは思う、俺だって生まれて初めてのゲームとかならひきこもりを選ぶだろうし。

後ろを振り返れば、同時にログインした二人は既にキャラメイク(と言っても名前だけだった)を終えて、俺の後ろでポカンと口を開ている。一人はヤヨイさん。もう一人はアーガス側の社員とかいってたな。
生まれてはじめてのVRMMO。俺や他のβテストプレイヤーも最初の一時間はこうやってポカンと現実よりも精巧な世界を眺めて過ごしたんだっけか。

今となれば、懐かしい光景を思い出し、同時にあの時の仲間たちも思い出す。
右手を振ってウィンドウを出す。久しぶりの動作もしっかりと反応してくれるようで、慣れた手つきでメッセージを送る。

――アルゴ・それにディアベル。
前の世界で知り合いだった連中はきっと名前を変えてないはずだ。きっと届いてくれる。

思い返して探してみたが、前情報通り一番下にあったログアウトのボタンはなくなっていた。
強烈な違和感と後悔は一瞬だけ。

どういうわけか、俺の胸にはそれ以上の感動の方がこみ上げてくる。

やっとこの世界に戻ってきたんだ!!!





まず、俺達がやってきたのは、裏通りにある小さな武器屋だった。
βテストの時と変わらず、ボロっちくて周りからは気付かれない寂れた空間。それでもココの武器はこの「始まりの街」の中で、最も性能がよく、また安い。

俺はありったけのナイフとレザー系の鎧を購入していく。
ビルドは昔と変わらず、AGI極振りのスカウトスタイルでいく予定なのでこんなもんだ。

連れてきた彼らも思い思いの装備を購入していくが警察出身のヤヨイさん(本名で作ったらしい)はよく分からないといった感じで作業が進んでいない。
アーガス側の社員だと言っていたレイズさんは順調に装備を購入していた。どうやら、タンク型の両手剣士を目指すようだ。

「ヤヨイさん、装備の見繕い手伝おうか?」
近くにいた橘さんに声をかける。キャラネームはヤヨイというらしいのが左端のパーティーメンバーから見て取れたからだ。

「ああ済まないな、烏合くん」
「初心者だし、構わないよ。それとゲーム内はリアルの名前を呼ぶのは禁止。クロウって呼んでよ」
「そうなのか、済まなかった、う……クロウくん」
君もいらないよ、と言ってから彼女の見ていたものを視覚化してもらい、見せてもらう。

主装備も決まっていない様で、見ていたものは重装備から軽装備まで様々だ。

「剣道はあっちでやってた?」
「ええ、一応五段です。」
「なるほど、五段……五段!!?」
思わず後ずさる。確かにそう言われるとこの佇まいや仕草から簡単に剣道着姿の彼女を思い起こせるから不思議なものだ。

「じゃあ曲刀はどう?確かそこら辺はそりがあって微妙に刀に似てると思うし」
「そうですか?それではそれでお願いします。防具はどうすればいいですか?」
「躱すのは初めてだと難しいから、少し軽装備のほうが躱しやすいよ。ここらへんかな」

そういってお勧めの装備を次々とピックアップして、良い感じの装備を選んでいく。
俺が投剣と近接攻撃で撹乱できるし・レイズさんは両手剣だから攻撃力が期待できる。盾持ちがいないのはきついが、しばらくはなんとかなるだろう。

「まあ、暫定タンクはレイズさんで俺がサポートします。ヤヨイさんはダメージディーラーで立ち回ればなんとかなるっしょ」

「そのことなんだが、クロウ君、レイズさん。ひとつ頼みがあります」
装備を選び終えたヤヨイさんがコチラのことを見て口を開く。

「君たちは戦わないで欲しい。攻略は私ひとりで行います」

な、二人して唖然とした。今、なんて言った。一人で攻略を行うだと?

「正直、君たちは足手まといです。基本だけレクチャーしてもらえれば、安全なこの街にいてもらって構わない」

平然とそれを言ってのけるのは無知かそれとも自信なのか。しかし、ベーターテスターの俺ならともかく、ゲーム初心者のヤヨイさんでは攻略なんて無理もいいところだ。

「それは無理ですよ、一般的なユーザーは六人でパーティーを組む。三人なんて少ないほうだ。」
レイズさんがもっともな反論を述べるが、意にも介さずヤヨイさんは続ける。
「しかし、一人で攻略を行うものも居ると以前聞きましたが?」
「それは、このゲームを知り尽くした玄人です。素人のあなたじゃ無理だ!」

「では、私が慣れれば問題ないな。実戦経験はある。この世界の誰よりも私は強いよ」

なおも説得をしようとするレイズさんを左手で制した。同時に慣れた手つきで右手を振り、メニューから一つを選びだす。

ヤヨイの眼の前に現れたのは「決闘が申し込まれました」というメニューバーだ。

「日本での経験なんか、この世界じゃ意味が無いってのよ教えてやるよ」
可逆的な笑みを浮かべ、俺はこの世界での復帰戦の舞台を決めた。


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二人してコツコツと外に出た。レイズさんも後ろから外に出るが、気をもみすぎているようで、所在なく武器屋の前をウロウロしている。

「モードは初撃決済モードを選んで。それなら本気でやっても死なないから」

頷いてタッチするその顔には自分のではなく、こちらの心配をしているようだ。
俺が本気を出せる、ということに気づいていないらしい。

カウントが目の前を過ぎていく。自然と気持ちが落ち着いていく。数カ月ぶりの戦闘なはずなのに、体は数秒前のように何をすべきかを覚えている。

「私が勝ったら、この街から出ないことを約束してくれないか?」
「じゃあ、俺が勝ったらこれから先、あんたは俺の奴隷な」

奴隷、という言葉を聞いてヤヨイの顔が明らかに歪む。これでいい、作戦通りだ。
勿体ぶったように右腕で短剣を抜き放つ。鞘を捨てる動作に隠れ、バレないように腰からもう一本のナイフも抜いた。

決闘の合図とともに、ヤヨイが前へと出る。初心者ならではの自身の筋肉だよりの突進。あくびが出るほど間延びしている。

「ハァァァァ」

突進に合わせて右腕でシングルシュートを放つ。急加速したライトエフェクトは残像を輝かせ、何も守りのない首筋へと向かう。

反射的に、ヤヨイは躰を捻ってその光弾から身を逸らした。未知への恐怖のあまり横っ飛びに近いモーションになってしまい、俺の前にズサァ、と倒れこむ。砂埃がモウモウと立ち込める中、俺は馬乗りになってもう一方のナイフを首筋に突きつけた。

「俺の勝ちでいい、自称最強さん?」

「……まだ……まだだ」

俯いたまま、うずくまったヤヨイは俺の手を払おうと藻掻く。
だけど、体勢の差を払いのける筋力値なんて初期レベのステ振りではあり得ず、ただもぞもぞと暴れまわるだけにすぎない。

「いや、今のでわかったっしょ。ソードスキルも使えないのに……」
「もう一度だ!!」

顔を上げたヤヨイの瞳には何やら液体が。SAOでは感情再現がオーバー目に表現されるはずだが、泣くってどういうことよ。

「私が、負けるなんて有り得ない。有り得ないんだ」
「--呆れた。自分で自分の負けすら認められねぇのか。オマエは」

警察というからどれだけ出来た人間なのかと思えば、何の中身もないただの負けず嫌いだなんて。
余りに喚くので辺りには少しづつ人が集まってきている。外から見れば完全に俺がいじめてるだけかもしれない。

めんどくさいので俺はメニューからリザインを選び、腰を上げる。

吹き出してくるWINNERのウィンドウは何たる皮肉か。ヤヨイの瞳からはとうとう堪え切れず涙が吹き出した。

「ック」
涙をさっと拭って俺を睨んだ彼女は、脱兎の如く走りだした。敏捷ステータスは初期のままのはずなのに、恐ろしく速い。群衆を掻き分け、曲がり角を抜け、そして見えなくなった。

そんなに屈辱だったのか?

「フォロー、とりあえず行ってきますね」
レイズさんがトコトコと歩き出す。どうせもうパーティー登録はしているから見失うことこそ無いが、それでも圏外に出られでもしたら困ったものだ。

「お願いします、俺はちょっと昔馴染に挨拶行ってきます」

先程返信の来たメッセージに目を通す。
やはり最初に食いついたのはアルゴのやつだ。

場所は始まりの街の広場に集合か。美味しいネタへの嗅覚は恐ろしく鋭い。
ヤヨイの方はやぶ蛇っぽいし、とりあえず顔を出すとするか。
 
 

 
後書き
戦闘描写がこれだけ、しかも圧倒だと……まあデュエルだししょうがない。
次からは先頭要素が徐々に増えていく……はずだったのに。。。 
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