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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  サスケ

 我愛羅が跳躍するのとサスケが跳躍するのはほぼ同時だった。
 
「うぉおおおおぉおおおおおぉぉぉぉおおおおお!!」
「うぁああああぁああああああぁああぁああああ!!」

 雄叫びを上げながら、我愛羅の砂色の腕とサスケの千鳥がぶつかり合う。千鳥の輝きが一層強くなり、鳴き声が一層強く響き渡った。確かな手応えと共に、サスケは我愛羅の砂色の腕を真ん中から真っ二つに引き裂く。

「うわぁああああ! ううううぅ、ううぅう、うあぁああああああッ!!」

 苦悶の絶叫を上げながら我愛羅が大樹の幹の上に倒れた。写輪眼でその姿を見据えながら、サスケは右腕を握り締める。
 ――手応えはあった……
 そう思ったその矢先に、我愛羅の体が小刻みに震えだした。くくっ、くくっと漏れ出る声は喜悦に満ちたものだ。こいつ、笑っている。
 やっぱりこの男は狂っている。そんな再認識をしながらサスケは、むくりと起き上がって歪んだ笑声をあげはじめた我愛羅をにらみつけた。

「あっははははは……あっはははははは! いーっひひひひ! かはははははは!」

 巨大な砂色の右腕を庇いながら立ち上がった我愛羅の顔は半分が狸のようなものになっており、狂気と残虐さの溢れかえった笑顔にサスケは顔を顰めた。元の顔は割りと端正でも、こんな笑い方をしていたらどんな顔だってひどく醜悪に見えてしまうというものだ。

「そうか! そうだったのか! ――何故こんなに楽しいのか? 今……わかった……!」

 覚えたてでまだチャクラコントロールのなっていない千鳥を二度も使い、かなりのチャクラを消費してしまったサスケは、写輪眼を解除した。チャクラの量はもう底をつきかけているのに、これ以上のチャクラを無駄にするわけにはいかない。今の状態のサスケでは一日に二度しか千鳥を使用できないのが現状。次はもう……ない。

「この痛み……傷つけるほどの奴を倒す! そいつの全てを奪うことが、俺により強い生の実感を与えてくれる!!」

 今まで我愛羅を傷つけることが出来たのは、傷つけるほどの強さを持ち合わせていたのは三人。何か不可思議な術を使用した狐者異マナに、自分の砂の盾すら追いつけないほどのスピードと強靭な体術で向かってきたロック・リー、そして写輪眼と千鳥を使用する、この……「うちはサスケ」。
 こいつの全てを奪えれば。我愛羅の生への実感はもっともっと強くなるはずだ。その感嘆符は無数の疑問符を一瞬で打ち払い、何のために生きるのかを思い悩む必要もなくなるはずだ。
 そんな我愛羅の狂人そのものの発言に、サスケは皮肉めいた笑みを口角に浮かべた。お前に強い生の実感なぞ与えるつもりはないとでも言うかのように。

「もっと、もっとだ……!」

 瓢箪の中から砂があふれ出した。やがてその砂は青い紋様の走る砂色の尾と化してゆらゆらと揺れる。巨大な砂色の尾の出現にサスケは目を見開いた。
 ――一体なんなんだこいつ! 次から次へと……!
 我愛羅が尾と右腕で先ほどまで横たわっていた大樹を掴み、極限まで腕と尾を伸ばすと、まるでパチンコのように自分を前に向かって発射させた。咄嗟に写輪眼を使用し、飛び上がってそれを回避する。木片が右腕に突き刺さった。痛い。
 ――動きを読めなきゃ、かわせやしねえ……! この眼がなきゃとっくに死んでるぜっ!
 我愛羅が一本の木を右腕で掴み、ブランコか何かでもするかのように前後に体を揺すり、そして勢いをつけて飛び出した。咄嗟に印を組み、己の得意としている術を放つ。

「火遁・豪火球の術!」

 吹かれた火の塊の中で、我愛羅が砂の腕を使って丸まった。炎が消えるのと同時に砂の腕を攻撃ように戻し、我愛羅は更にこちらへと向かってくる。火力が高いだけでなく防御力も兼ねそろえた砂色の体、簡単には打ち破れない。そう――千鳥じゃなければ。千鳥じゃ、なきゃ。

「死ねぇえええッ!!」

 向かってくるその姿を写輪眼で見据えて、サスケは身構える。防御するも虚しく、サスケは勢いよくぶっ飛ばされた。何本もの木々をつき抜け、へし折り、四本ほど折り、大樹に人型の凹みを作り上げたところでようやくサスケは止まった。痛みに頭がくらくらする。
 千鳥。千鳥じゃなきゃ倒せない。なのに千鳥は一日に二回しか使えない。写輪眼と他の術を同時に使用するということは体内のチャクラを一気に爆発させ、使い切ってしまうに等しい。だからカカシでさえ雷切は一日に四回しか使えない。

「お前は……甘い。憎しみが弱いからだ!」

 我愛羅の言葉が。ずくんずくんと高鳴る心臓と呼応するように耳を突き刺す。

「憎しみの力は殺意の力、殺意の力は復讐の力!」

 イタチの顔が脳裏に映る。あの横顔。最後に見たあの顔。

「お前の憎しみは、俺より弱い!」

 お前にこの意味がわかるか。問いかけてくる声に、ほぼ反射でサスケは怒鳴っていた。

「黙れッ!!」
「――お前は俺より弱い!」

 だめだ。だめだだめだだめだ。
 もしここで負けていたら。こんな狂人なんかに負けていたら。あいつに、イタチに届くわけがない。あいつを殺せるわけがない。思い出せ。思い出せ。あの憎しみを。イタチのことを。
 サスケは憎しみの炎に息を吹きかけた。それは豪火球の術を発動するよりもずっと簡単に、ずっと激しく燃え上がった。

「あいつは自分を殺させるための、復讐者として俺を選んだんだ。――俺は復讐者だ!!」

 千の鳥の鳴き声が、再びサスケの掌の中を踊る。唾液を散らしながら飛んできた我愛羅を迎え撃つ。絶えず鳴き声をあげていた掌の雷の勢いが一瞬だけ弱まる。木が爆発し、血が飛ぶ。同時に着地した二人は、暫くの間動けず、前かがみになった状態でそこに立っていた。
 残虐な笑みを浮かべたままの我愛羅の右腕が、突如として瓦解した。砂色の腕が砂の塊となって崩れ落ちていく。ばちばちと掌に千鳥を迸らせたままのサスケの顔には、地虫のように呪印が這っていた。

「ぐぅうおおおぉおぅうううぉおおおおお……!!」

 砂がまた溢れて、今度は我愛羅の左腕を覆った。余りの激痛に、我愛羅の膝は笑っていた。出し抜けに、サスケの掌の雷が消えうせ、サスケはばたりと前のめりに倒れた。
 一瞬千鳥が弱まったその時、サスケは――呪印を発動させたのだ。
 それを食い止めようとする意志があってこそ呪印を抑えられる封邪法印は、ひっくり返せば食い止めようとする意志を捨ててしまえば意味を成さなくなり、術を発動できるということだ。一時的にチャクラを増幅させることの出来るこの呪印を利用した苦肉の策だった。
 呪印のある首の付け根に手を触れる。痛い。あまりの激痛に叫びそうになった。我愛羅の雄叫びが聞こえる。なんて化け物だろうか。あんなダメージを受けたはずなのに。襲い掛かってくる砂色の左腕を見ていることしか出来ない。
 ――体がっ……動かない……!

「うぁああああああああああああああああああああああ!!!」

 しかし襲い掛かってくる我愛羅が、突然蹴り飛ばされた。誰かの足。オレンジ色。オレンジ色……
 ナルト?
 蹴り飛ばされた我愛羅が一本の木を打ち砕き、もう一本の木に深い爪痕を残してなんとか木の上に留まった。

「サスケくん!」

 サクラの声が耳に入る。こちらを覗きこむサクラの桜色の髪と、こちらに背を向けて立つナルトのオレンジ色が、ひどく鮮やかに映っている。
 うざいとしか思っていなかった少女の目が、
 ドベでウスラトンカチだとバカにしていた少年の背が、
 こんなにも美しく、
 そして、こんなにも力強く見える日がくるなんて。
 安堵と、そいつは危険だと警告しい気持ちが混ざり合う。

 孤独の臭いのする少年達が戦う場に新たに現れたのは、もう一人の孤独の臭いのする少年と、非力な一人の少女だった。
 
 

 
後書き
ナルトサクラようやく合流。次回からはナルト対我愛羅戦です。 
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