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クローバー

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第三章

「これでいい、しかもだ」
「しかも?」
「しかもといいますと」
「近頃民達の間でこんな遊びが流行っている」
 子爵はここで微笑んで言ったのだった。
「クローバーはごく稀に四葉のものがあるな」
「幸運をもたらすという」
「あの四葉のですか」
「クローバーの中からそれを見付けようという遊びが流行っているのだ」
 このことを話すのだった。
「そして見付ければな」
「幸運が訪れる」
「そういうことですね」
「そうだ、そうした遊びが流行っていてだ」
 それでというのだ。
「民達は仕事の合間に楽しんでいるのだ」
「四葉ですか」
「あのクローバーですか」
「あのクローバーを見付ける遊びですか」
「そうしたものが流行っているとは」
「それで思ったのだが」
 子爵はここで微笑んで言った。
「その四葉のクローバーをこの地の紋章にするか」
「クローバーをですか」
「あれをですか」
「当地の紋章にしますか」
「その様に」
「うむ、この地はクローバーを入れて農業だけでなく牧業も出来る様になり」
 そしてというのだ。
「そのうえで豊かになったからな」
「だからですね」
「クローバーのお陰でこうなった」
「豊かになった」
「そして民達も楽しい遊びを行っている」
「だからクローバーをですか」
「紋章にしよう、その紋章はだ」
 クローバーのそれはというと。
「わかるな」
「はい、四葉ですね」
「クローバーはクローバーでもですね」
「四葉ですね」
「四葉のクローバーですね」
「それにしよう」
 そのクローバーにというのだ。
「只のクローバーでなくな」
「そうですか、では」
「四葉のクローバーを紋章にしましょう」
「確かにこの地に相応しいです」
「クローバーで豊かになりましたから」
「クローバーはこの地に幸運をもたらした」
 微笑みだ、子爵はこうも言った。
「それならいいな」
「それでは」
「その様にしましょう」
 官僚達も微笑み頷いた、こうしてだった。
 この地の紋章は四葉のクローバーとなった、それはこの地だけでなく。
 子爵家の紋章もそうなった、しかもだった。
 子爵は王にだ、この地を豊かにした功績を認められて。
 この地の領主に任じられしかも爵位も上がり伯爵となった、家は子爵家から伯爵家にもなった。それでだった。
 彼は地に立てた自身の屋敷でだ、こう言ったのだった。
「まさにクローバーは幸運の象徴だな」
「はい、我が家にもですね」
「幸運をもたらしてくれましたね」
「この地だけでなく」
「当家にも」
 家の者達も彼に笑顔で応えた。
「この地に任じられてから跡継ぎの方も生まれられ」
「すくすくと育っておられます」
「まことにです」
「クローバーは幸運の象徴ですね」
「この地にとっても民達にとっても私にとっても家にとっても」
 まさに全てにというのだ。
「クローバーは幸運をもたらしてくれた」
「まさに幸運の証」
「それだというのですね」
「これ以上のものはない、これからもクローバーを讃えよう」
 こう笑顔で言うのだった、そして実際にだった。
 この地では誰もがクローバーを愛し続けた、幸せをもたらしてくれる草として。とりわけ四葉のそれが彼等の中で愛されていった。


クローバー   完


                           2016・2・17 
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