| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

憑依貴族の抗運記

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第3話、日常

 日付の変わる頃、俺はミュンツァー伯爵邸からブラウンシュヴァイク公爵邸に帰館した。

 すぐに執務室で若い副官から報告書を受け取って読み始める。社交以外の仕事は基本的に朝に済ませてしまうのだが、報告書だけは朝、昼、晩と送られてくる。

 本当に重要な事なら側近の誰かか副官の誰が注意喚起しにくるから、中身も大したことないのだろうと流し読みする。

 それから最新鋭のタンクベッドに二時間ほど入る。目覚めたところでようやく自由時間だ。

 最新のゲームをやったり、歌番組やドラマを見たりしてストレスを発散する。

 そして、四時半頃。今度は寝室の布団の上で寝た気分だけでも味わおうと寝室に向かう。

 幸い奥様とは別の寝室だ。まあ彼女と同じ寝室ならブラウンシュヴァイク邸に寄り付かない。

 そして、寝室のふかふかのベッドの上で美味しいモーニングカフェオレをすすり、俺は門閥貴族の裏話を集めた新聞形式の報告書を読む。

 朝の報告書の中で一番好きな報告書だ。

 もともと俺は転生前の朝には政治家の汚職やマスコミのねつ造記事、大企業の不正行為を伝えたり、芸能人のスキャンダルを暴く週刊誌を読んでいた。

 銀河帝国に門閥貴族を糾弾したり、国営テレビに出演するプリマドンナと貴族のスキャンダルを報道する週刊誌がないと知り、ショックを受けたものだ。

 もっともその代用品はすぐに見つかった。諜報部の報告書の一部内容が貴族のスキャンダルと気づくと、俺は出来るかぎりゴシップ記事形式の報告書に切り替えるよう、シュトライト准将麾下の諜報部に命じた。

 箇条書きでは苦痛にしかならない貴族の醜聞も、不思議と持ち前の野次馬根性が働き記憶に焼き付く。

 そんなわけで発行者がブラウンシュヴァイク家の諜報部門で、総発行部数が予備を含めて五部という、何とも贅沢な報告書が数日前に創刊したのである。

 生きるために必要な情報収集さ、と俺はうそぶきながら楽しく拝見している。

 さて朝の報告書を全て読み終えると、ベッド脇に有る数百年前の巨匠作の机に置き、俺は備え付けの鈴を鳴らしてベッドを出た。

 すぐに老齢の家宰(首席執事長)グライデル男爵と若い執事、メイド長の美熟女が挨拶しながら入室してくる。

 若い執事の手には中世貴族風の服がある。

 彼らと挨拶して立っていると、シルクの寝巻きから素早く着替えさせてくれる。

 他人に着替えさせて貰うことに慣れないか、まるで着せ替え人形になった気分になる。

 だが、転生直後に自分で着替えたら、血相を変えた顔をした家宰の爺さんに、ネチネチと小言を聞かされてから我慢している。

 着替え終えると俺は一度部屋を出て、廊下に待機していた赤い服の護衛兵達と挨拶交わしながら別の部屋に移動する。

 そして、まるで神殿のような造りの白亜のバルコニーに出る。

 端に立っている武装した護衛兵四人にも軽く手を上げて挨拶を済まし、色とりどりの花で溢れるバロック庭園と敷地内の森林を利用した風景式庭園を同時に楽しむ。

 時刻はだいたい午前六時頃。朝日を浴び、鳥の囀りを聞きながらラジオ体操を一人で黙々とこなした。これも俺の新しい日課だ。

 再び邸宅というより城館と呼んだ方がしっくりくる自宅の中に戻り、館の主人やその家族用の食堂へ向かった。

 ここでいつも早い朝食を取っている。この時間だとブラウンシュヴァイク公の妻と娘と滅多に会わない。先週一緒に朝食を取ったのは一回きりだ。

 正直、彼女とどう接していいのかも分からない。もちろん奥様は皇帝の娘であり粗略に扱えない。なるべく自然に遠くに居ることが理想だ。

 君子危うきに近寄らずとかいうやつである。

 ちなみにに今日の朝ご飯は昨日頼んでおいたライスに、牛ステーキと焼き鮭と和風サラダ、味噌汁である。

 ここのステーキは一度噛むだけでとけるような肉を使っていて、これがまたうまい。 それから、鮭も米も味噌も野菜すら最高級らしいが、普段食べていたものとそこまで違いは無い。と思う。

 これでも私生活ではなるべくブラウンシュヴァイク公オットーの路線を引き継ぎたいと思っていたのだが、食事だけはという気持ちであっさりと洋食から和食メインに切り替えた。

 まあ仕方ない。俺にだって食事の好みはある。たぶんステーキがあるのでそこまで嗜好が変化しているとは思われないだろう。

「カーソン」

 俺は朝食時間に必ず近くに控えている次席執事長に声をかけた。カーソンという名の四十五才の執事は家宰と共に政治にも役立つ貴重な側近である。

「なんでしょうか? 公爵閣下」

「料理人にうまかったと伝えてくれ。それから、明日も同じメニューで頼む」

「承知しました。本日は昼ご飯をこちらで取る予定になっていますがいかがなさいますか?」

「天ぷら蕎麦と寿司にしよう」

 俺は食事を三十分ほどで済ますと、ようやく執務室に向かった。今度は若い執事がやってきた。

「公爵閣下。ご注文の品はご指示通り視聴室に運び込んでおります」

 ブラウンシュヴァイク公オットーになりきるため、俺は一週間ほど私的活動を自重したが、昨日から帝国成立以前の様々な古典的なゲームやアニメ、映画などの大人買いに走った。それが続々と届いているらしい。今晩から徹夜で楽しむつもりだ。

 ちょっとブラウンシュヴァイク公路線から脱線したかもしれないが単に絵画鑑賞の趣味からアニメ鑑賞に変わっただけだ。

 これも仕方ない。俺にだって個人的な趣味はある。死ぬ可能性が高いならせめて好きな物食って好きに遊びたい。

「ご苦労であった。それで例のアイドルグループのコンサートの方はどうなった」

「芸能事務所は旦那様のご都合の良い日に、最優先で邸宅を訪れたいと申しております」

「よくやった。すぐに手配してくれ」

 若い執事は「お任せ下さい」と頭を下げてから俺の許可を得て退室した。これはオペラ鑑賞の延長みたいなブラウンシュヴァイク公爵路線の継承だ。

 おっと、そろそろ高貴なる者の仕事の時間だ。歴史の一端を知る崇高な活動は一時停止しよう。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧