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ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~

作者:akamine0806
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第11章 フェザーンへ 前編 

 宇宙歴793年 6月1日
私は統合作戦本部出頭を命ぜられた。
つい2日前までは延長休暇申請をしてニコールとともにハイネセン南部のシルミオーネで休暇を取っていた。
ニコールの勤務地着任は6月1日付となっていた。
エル・ファシル掃討作戦派兵での戦力移動に伴う混乱のせいであった。
シルミオーネではコテージを借り切ってして生活した。
ニコールと一緒に散歩したり料理を作ったり夕日を見に行ったり本当に至福の時であった。
そして何よりも私を落ち着かせたのは一切の軍と関係あるものを見なかったことである。
シルミオーネは非武装都市であるためこの都市の行政区画内には一切の軍事施設、訓練所、駐屯地が存在しない。
そんな中で私たちは一日一日を過ごしていた。

戦死したヒロキ・ルブルック中佐のことを思うと必然と軍務から一切離れた空間が無性にありがたくなってしまうのだった。
私はハイネセン帰還後1週間戦死した第3中隊員たちの報告書と戦闘報告書をまとめていた。
それと合わせてルブルック中佐の遺族に関しての手続きも行っていた。
ルブルック中佐の奥さんはエリー・ルブルック少尉であった。
そして、遺児のエリック君はまだ0歳
ルブルック中佐にはいろいろと世話になったし何よりも我々は戦友であった。
だからこそ彼と彼の遺族のために働きかけなくてはいけなかった
私は統合作戦本部の人事部に勤める旧知の友人を頼った。
それは、フョードル・パトリチェフ少佐である。
パトリチェフ少佐は私が士官学校4年生であったときの近接格闘戦技教官であった。
士官学校を卒業して少尉任官後も何かとお世話になっていた先輩であった。
お世話になった時に礼をするといつも
「おう!いつでもまた来いよ!出世払いでな!」
といったいい人なのであった。
統合作戦本部人事課にはいろいろと因縁があるので行って睨みつけられるのもしゃくなので、パトリチェフ少佐と近辺のパブへ飲みに行ったときに話をすることにした。
「パブ・チキン」
というふざけた名前のパブは士官学校時代によく飲みに行ったところだった
ここではフライドチキンが名物なのだ。
先にいた少佐の隣には若い大尉がいた
私は敬礼すると
少佐は
「おう!来たな!」
と言って隣でスコッチをすする大尉を指して
「こいつはダスティー・アッテンボローだ。」
するとアッテンボロー大尉は
「彼ですか?あの噂の中尉君は?」
そしてひょろ長い腕を差し出してきて
「ダスティ・アッテンボロー大尉だ
今は統合作戦本部作戦課勤務だ。
よろしく。」
と言って私はその手と握手した
とてもでかい手だった
自己紹介等を済ませて本題に一気に切り込んだ
「…ということなんです少佐」
と一気にしゃべりきった
少佐はちょっと考えてから
「たぶん行けると思う。
遺族年金に子供の高校までの養育費と奥さんの給料に戦死した中佐の給料の半分をつけるという手続きで行くぞ。
こっちでどうにかするよ。」
とメモ帳にごちゃごちゃ書き込んでからポケットにそれをしまった。
少佐はビールを一気に飲んだ後、ため息をつく
そして、
「まったく困った世の中だ。
上官のあまりにも無理な命令のせいで小さな赤ん坊と奥さんを残してあの世に召さざるを得ないなんてな」
するとアッテンボロー大尉は
「まあ、我々はこれでも国家と国民を守る軍人ですから。
義務と言われれば仕方ないですな
ただ、私のような清廉潔白な大尉は除いてほしいけどな。」
と笑いながら毒舌なのかなんなのか判断しにくい言葉を吐いて思いっきりスコッチをあおった。
のちヤン艦隊の分艦隊司令官の一人として名をはせることとなるダスティ・アッテンボロー中将との出会いであった。
その後、1時間ほど飲みながら士官学校時代の話などに花が咲いた。
少佐たちと別れた後その足でシルミオーネに向かった。
長期休暇中に少佐から申請受領完了の報告が来て、自分の肩の荷が少しは軽くなったと感じられた。
ルブルック中佐の奥さんのエリー少尉は現在第1艦隊後方支援集団司令部に所属している。
軍の方針として夫が戦死した女性軍人は優先的に後方勤務や本部勤務なる。
もともと、少尉は第2艦隊第12特別陸戦隊の小隊長であったがこういった事情から転属になっていた。

 私は統合作戦本部出頭のついでに一言エリー少尉に中佐のことを話しておきたかったので断られること承知でいってみようと思っていた。
しかし、私の計画は人事部人事課の人事課長代理ムライ大佐によってもろくも崩れ去った。
ムライ大佐について少しふれておきたい
大佐は主に教育・人事畑を歩んできた軍人である。
巡航艦艦長や艦隊司令部作戦課勤務など軍歴の半分は作戦にも携わってはいたが、やっぱりこの人といえば教育であった。
私が初めてお世話になったのは士官学校時代。
士官候補生たちの間では
「ムライの小うるさいおっさん」
とあだ名されるくらい骨の髄まで「軍人常識」が染みついた人であったが時に厳しく、時に優しく我々を教育してくれたことを覚えている。
その後タナトス警備管区の参事官 中佐として転任されていったが現地でのエコニア捕虜収容所暴動事件の対処が迅速であったため中央へ早くも呼び戻されついこの間大佐昇進となっていた。
この人はのち第13艦隊続くイゼルローン駐留艦隊そして、ヤン艦隊参謀長として活躍した。
今思えばいろいろとありがたいことが多いものの当時は士官学校時代のイメージが抜けきらずに人事課長室に入った瞬間は本気で逃げようかと思った。
そういうわけにはいかなかったのであきらめて入ってくと
いつものド渋い顔をした大佐が座っていた。
一ミリもずれのない制服の着こなし
左胸につく略綬は私より少ないもののすべてに磨きがかかっていた。
部屋に入って敬礼すると
大佐は
「よく来たな。
今から貴官の今後半年限定の任務を通達する。」
といきなり本題に入ってきた。
言い出しの仕方も驚きだったが、もらった内容はさらにその上を行った
それは
「フェザーン駐在武官付情報将校を命ず」
であった。
情報戦自体は士官学校で学んだが、情報戦の本論は学んだことはなかった。
私がぽかんとしていると
大佐は
「今年度の軍の方針で陸戦部隊士官数名を選抜して特殊作戦・情報戦研究をやらせることになった。
貴官はその一人に選ばれたのだ。
フェザーンでは中央情報局の主任情報官の指揮のもと実際の情報戦に従事してもらう。
フェザーン赴任までの2カ月は後期情報戦士官特修課程に入ることに貴官はなっている。」
私はその時点で納得した。
「後期」情報戦士官特修課程は中央情報局の暗殺部隊指揮官・特殊作戦コマンドの士官たちが受けるための課程であることはあまり表に出ていない
表に出ている(「前期」)情報士官特修課程は確かに情報士官を養成する過程であるが、後期課程はないものとされている。
しかし、うわさでは聞いていたし特殊作戦部隊にいればそれが存在することは当然耳にすることであった。
ということで、ムライ大佐のこまごまとした説明を聞かされ這う這うの体で統合作戦本部を脱出できた時には21時になっていた。朝の7時に出頭して、14時に人事部への出頭命令だったのに…
 官舎へ帰った時には22時になっていた
自分の官舎の前に合った電灯の前で何かが箱に入ってもぞもぞ動いていた。
一見すれば何も驚くべきことではないのだが、エル・ファシル帰りの兵士にとっては箱はかなりの警戒心をあおる。
というのも、帝国軍ゲリラがよくとる攻撃方法として路肩に目立たないように箱やごみの中に即席爆弾を仕込んでいるという方法が多発していた。
私もその警戒心をあおられた一人であったことは言うまでもない。
思わずブラスターを引き抜いて接近する
そして、毛布に包まれた物体をブラスターでそっとそっとめくってみたものに私は面食らった
それは
子犬だった。
犬種はシェパード
寝息を立ててすやすや眠っていた。
箱を見ると手紙があった。
手紙にはかなり辛辣な現実が書いてあった
内容は詳しく覚えていないが、両親をエル・ファシルで亡くしたハイスクールの学生が引き取り先では飼うことができないので拾ってほしいということだったと思う。
私はそっとそのシェパードを毛布に包んだまま持ち上げて赤ちゃんをだっこするように持ち上げてみた
私の胸の前ですやすやと寝息を立てて寝ていた。
すると横からいきなり
「この子どうしたの?」
と声をかけられる
びっくりして振り向くとニコールがいた。
ニコールと私はエル・ファシル掃討作戦後から同じ官舎に住んでいた。
士官用官舎は申請さえあれば2人までなら住んでも構わないのであった。
私は彼女に事情を説明し、どうするかを話して、
結局
路肩においておくのもかわいそうだし、このままほっておくのもかわいそうだから、とりあえず家に
ということになった。
毛布にくるんでそのシェパードを官舎に入れてとりあえず何かあるといけないのでベッドの上でその日の夜は過ごさせることにした。
とりあえずシャワーで洗ってあげるとお湯が気持ち良かったのか桶の中でまたすやすや寝始めた。
それには思わず苦笑してしまったが暴れられるよりは良かった
しっかり体を拭いて新しい毛布にくるんで赤ちゃんを抱くようにして寝室に入った。
先にいたニコールが
「ちょっと貸して」
と言ってすやすや寝ているシェパードを持ってでこに持っていくのかと思ってみていたら、まさかの私とニコールの間においたのだ!
私は内心困惑したが、そのままベッドに入ってニコールと向き合うようにして体を横にした。
ニコールはシェパードをなでながら
「なんか子供みたいね。」
と言ってきた。
私は相槌を打ちながらも頭の中はこの犬をどうしようかで頭がいっぱいだった
ニコールは私の考えを見抜くのがうまい
なぜかは知らないが
今回も例外なく見抜かれ、どうするかをじっくり話し合うことになった
結局午前1時まで話して
このシェパードを飼うことになり、
名前はリリーになった
「リリー」は私とニコールにとっての共通の友人であり戦友であったリリー・ボールドウィン大尉からとってきた。
名付け親になったニコールが言うには思いついたように首をかしげる仕草がリリーに似ているからということであった。
リリー大尉は宇宙歴792年5月7日第5次イゼルローン攻略戦で戦死した。
ニコールとリリーは訓練課程が同じであったらしい。
もともとリリー自身通信兵であったが基礎訓練課程が同期で同じ訓練中隊にいたそうだ。
そうなると自然とヘンシェルの話になってしまう。
ヘンシェルは我々二人が生き残ったのですら奇跡に近いような戦場であった。
ニコールは話しているときにどんどん悲しそうな目になってきたのを見て私はいきなり申し訳なくなってしまった
そういうこともあって、ニコールの近くに行って抱き寄せた。
すると、ニコールはこらえきれなかったように泣き始めた
今にも途切れそうな声でニコールは
「本当に心配だったのよ
あなたのことが
毎日のようにテロ事件は起きてるし、戦死者報道は続くし
ローゼンリッター第3中隊戦死者数の中にあなたが入ってないかどうかが心配で
あのヘンシェルやイゼルローンを何度も想像してしまうの…」
と泣き声交じりで私に訴えた
私は彼女をやさしく包み込んで
「僕は死なない。君がいる限り死ぬことはない
だから、いつも帰りを待っててくれ
この子と一緒に。」
と言って私とニコールの胸元でもぞもぞと寝返りを打つリリーを見ながら
その晩はニコールが離さないでほしいといったのでそのまま寝ることになった。
その時私は久しく忘れていた自分の帰りを待つ人の存在を実感した。

翌日、起きるとニコールはまだすやすや眠っていたが、シェパードのリリーは起きており私の腕をしきりになめていた。
私がクローゼットの中から軍服を取り出して着替えているとニコールがリリーをだっこして起きてきた。
なかなか絵になっていたことに驚いたが、見ているとどことなくほほえましかった。
その日から私はまたローゼンリッター連隊より出向という形で今度は中央情報局出向になっていた。
中央情報局はハイネセンポリス郊外のアルジェにある
私が当時住んでいた第4艦隊官舎地区からアルジェまではハイネセンポリス中心街を通過してさらに向こうなのでかれこれここから2時間近くかかる
ただ、初日であるので中央情報局出頭は9時でよいといわれていた。
ニコールの勤務するハイネセン同盟軍中央病院はハイネセンポリスのほぼ真ん中にある。
ここは一応軍の病院であるが一般人も利用可能である。
そのためハイネセンポリス中心で起きる救急はすべてここに回ってくることになっており、昼夜問わず大忙しであるという。
昨日が勤務日初日であったニコールであったがその日だけでも4時間に及ぶ手術を2件も担当したといっていた。
その4件とも交通事故によるものの救急手術であったそうだ。
しかし、そんなのを毎日やっていたら患者より医者のほうが先に死んでしまうので
ハイネセン同盟軍中央病院を含めた各中枢都市におかれる軍病院の医療従事軍人の休暇を含めた福利厚生はかなり充実していた。
ニコールはその日は当直はないと言っていたので早く帰ってこれるとのことであった。
一方で私は何時までかかるかわからない上に、中央情報局でどんなことがあるのかを詳しくは知らなかったので遅くなるとだけ伝えてあった。
そういうこともあり、リリーの世話は基本的にニコールが見ることになったが彼女は喜んで受け入れてくれた。
そのあと、一緒に朝食を作って、食べながらリリーにミルクをあげて、ニコールといつものキスを交わして私は家を出た。
普通の一般家庭で起きていることが私にとってはとても新鮮であった。
いつもは夜間当直の報告を起床後受けて、その後食堂へ行って適当に食べながら副中隊長のマックス・リューカス中尉とその日の訓練内容を確認しながら中隊室へ向かう。
作戦従事の最中はいつも気が抜けず交代で歩哨に立ち、敵襲があればトマホークをふるい、夜間作戦では逆襲を警戒し、いつ眠って、飯を食ったなんか記憶になかった。
自分の指揮で1個中隊分の命が左右されると思うと、自分のことより全体のことのほうが優先になるのはある意味で当然であった。


ハイネセンポリスのはずれにあるアルジェはもともとは何にもない農業都市であった。
同盟軍創設と同時に中央情報局が設立され初代中央情報局局長ビル・マスカーニ少将が統合作戦本部と仲が悪かったというだけで、郊外に本部を置くこととなり、マスカーニ少将の生まれ故郷であるアルジェに本部を置こうというふざけた理由でアルジェに本部があるというのは本当である。
しかし、本部をアルジェに置くことで巨大な通信設備や傍受設備を本部近辺に設置することが可能となっていた。
しかも、同じアルジェ市には首都防衛軍司令部とその指揮下にある第72空挺師団、第108空挺師団、そして第444装甲空挺師団の駐屯地とこれらを基幹部隊として構成される第19空挺集団司令部もある。
まあ、そういう都市であったので自然と警備はきつくなる。
アルジェ市の住居者は100%軍人または軍属であった。
この市に入るためには3回も検問を突破しなくてはいけない
そんなめんどくさいところに中央情報局はあった。
宇宙歴793年当時の中央情報局局長はマンデラ・グレゴリー中将
士官学校卒業後から情報士官としてフェザーンや帝国に派遣された経験を持つ生粋の情報士官であった。
それにもかかわらず、大尉の時統合作戦本部作戦課勤務、少佐の時第3艦隊人事参謀・第9方面軍司令部作戦課長代理、大佐の時第10艦隊第134駆逐群司令、准将の時第9艦隊参謀長、と艦隊・統合作戦本部勤務経歴を持つつわものでもあった。

中央情報局本部
IDカードをかざして第108空挺師団の部隊章をつけた警備兵が両サイドに立っていた。
私は敬礼すると向こうはさらにきれいな敬礼を返してきて、すぐ後にはまた元通りに戻った。
エントランスは無機質なで真っ白な空間で、待ち合い用のソファーとテーブルそして、受付がある以外何もなかった
ふと、右を見るといくつもの星が規則正しく並んでいるのが見られた。
その両サイドには中央情報局旗と同盟軍旗が掲げられていた。
私がそれを見ていると、横から
「彼らは同盟軍と中央情報局の秘密作戦で戦死した兵士・職員よ。」
と女性の声が聞こえた。
ふと振り返ると、スーツをきっちりと着こなした女性職員が立っていた。
私は彼女の顔を見るとはっとした。
それはレナ・アボット少佐であった。
思わず、敬礼をする
すると少佐は苦笑して
「よしてよね。
今は予備役中佐よ。」
と言いながらもいつも通りのきれいな敬礼を返してきた。
レナ・アボット少佐、いや、予備役中佐は当時中央情報局特殊作戦課教育班主任であった。
彼女は第5次イゼルローン攻略戦ののち特殊作戦コマンド司令部の中でも最精鋭である第1特殊作戦コマンドを自主引退し、その後リン・パオ特殊作戦学校教官勤務となったが軽度のPTSDと診断され現役を退いた。
彼女の生まれ故郷であるハイネセン南部大陸のマルセイユに帰ってゆっくり暮らそうと考えていたらしいが、中央情報局がスカウトしにきた。
当初は当然断ろうと思っていたが、断りきれずに成り行きでなってしまったそうだ。
しかし、PTSDがあったため治療完了までは現役復帰は見込めず銃の携帯も許されていない。
中央情報局としては彼女をそのまま中央情報局職員としておきたいらしいが彼女としてはこのまま3年間予備役を続けて退役するか、PTSD完治ののちに現役復帰したいそうだ。

宇宙歴793年後期情報戦士官特修課程に入る学生は合計9名
それに対して教官陣はレナ予備役中佐以下15名もいた。
というのも、この課程では特殊工作情報士官として必要な事項をすべて習得することを目標としているため、科目数が多いのだ。
そうなると必然とこうなってしまう
課程は8週間
約2か月といったところだった。
8週間のうち前半の2週間は教習課程で後半6週間は実技課程となっている。
そこで習うのはヒューミントを基本とした情報収集活動、破壊工作を基本とした特殊工作活動など合計17科目にも及んだ
その中に今でも不思議な科目があった
それは「対人コミュニケーション戦術」の中にあった「スリ」戦術講座である。
ここでは、「スリ」のプロいわゆるスリ等の軽犯罪で捕まっている人たちでも特にぬきんでた逮捕者を連れてきて講習が行われた。
彼らの技を見たとき、開いた口がふさがらなかった。
彼らは、対象物が持たれていようがポケットに物が入っていようが一瞬で奪っていく。
この課程ではそういった変わったものではほかに、「口説き」・「マスクを使った変装」・「マジック」といったものが存在した。
しかし、私としても周りにいた学生にしても何よりも楽しみだったのは「破壊工作戦術論」であっただろう。
これは、銃・ナイフ・吹き矢・毒薬を用いた暗殺方法、数Kgの爆薬で効率的にビルを崩壊させる方法、通信妨害装置による妨害戦術、通信傍受戦術、サイバー戦術など多岐に及ぶ破壊工作戦術が教えられた。
前半の4週間は見るもの聞くものすべてが新鮮で興味深く士官学校の戦術講義が消しカスくらいにしか思えないくらい面白かった。
私の周りにいた士官は全員が陸戦士官だった。
中でもマークス・ニコルソン少尉とはよきライバルであり、よき友人となった。
彼は第9方面軍第189空挺連隊戦闘団から来た陸戦士官だった。
目立った戦功もないためか周囲の特殊部隊、空挺部隊、艦隊特別陸戦隊の猛者たちとは略綬の数も見劣りするが彼には誰にも負けないアドバンテージがあった。
それは若さである。
当時彼は18歳であった。
私は当時書類上では22歳であった。実際は20歳だったが
宇宙歴792年より同盟軍は士官学校・予備役将校訓練課程・幹部養成所課程・技術士官養成課程の4種類からなる4種類の士官養成コースに新たにもう1つ士官養成コースを加えた。
それは、トラバース法における若年兵で兵士を士官候補生として養成するコースであった。
彼らは早くて16歳から志願兵として入隊できる。
軍はその彼ら専用の士官養成コースを作ることにしたのだ。
士官の戦死率が高まる中で苦渋の策ではあったがそこから士官を得られるならこれはまたとないチャンスであった。
そのコースは「少尉候補生訓練課程」
と命名された。
これはのちのイゼルローン革命軍第2代軍事指導者ユリアン・ミンツ中尉が通った訓練課程である。
ニコルソン少尉は少尉候補生訓練課程第2期生にあたる。
彼の父親は第5次イゼルローン要塞攻略戦で、母親は第1艦隊に所属していたが不慮の事故で亡くなった。
その後同じく軍人であった叔母のもとに引き取られていたが16歳の時に陸戦専科学校を受験。首席で合格し、推薦で少尉候補生訓練課程に入った。
そして、若干18歳で少尉に任官した。
しかし、彼らは18歳で少尉に任官するとはいえ実戦の場では大半が使い物にならなかった。そういったこともあり彼らの大半は後方支援部隊勤務になったりしていた。
ニコルソン少尉もその例外ではなかった。
1期生の少尉任官後から使い物にならないことは分かっていたので彼は第2艦隊後方支援集団配属になっていた。
彼の父は第2艦隊第12特別陸戦隊所属であったのでニコルソン少尉は当然戦闘部隊を熱望した。
それを第2艦隊後方支援集団司令官アレックス・キャゼルヌ准将に直訴して無理やり父親と同じ第12特別陸戦隊にねじ込んでもらった。
その後、第12特別陸戦隊の中で空挺降下資格を取り、最優秀士官賞を取るなどの目覚ましい活躍を認められイゼルローン方面総軍の第9方面軍の中でも精鋭で名高い第189空挺連隊戦闘団所属となって今に至っていた。

前半2週間の教習課程はほぼ一瞬で修了した。
6月の終わりごろから実技課程ははじまった
当初予測していた戦闘訓練とはまったく異なりそれは市街地で行われた。
まず最初に行われたのはストーキング戦術の実践。
ハイネセンポリス中心街で中央情報局の局員をストーキングする。
ストーキングされている職員は何も知らない。
彼らはただただ統合作戦本部に出張ということになっていることしか知らない。
しかし、彼ら全員が特殊工作員資格をもち、数名は実際に帝国首都オーディンで任務に就いていた凄腕集団である。
作戦目標達成は彼らに気づかれないように行動を監視し、彼らの私的・公的通話を傍受し、最終的に彼らが接触する人物についての情報を集めることであった。
我々が調べる目標は設定上では帝国軍工作員となっている。
その目標も中央情報局の局員で彼らにはあらかじめ訓練であることは通達済みである。
しかし、ストーキング対象の局員たちは昼食時には友人と飯を食うかもしれないし、公的な打ち合わせで帝国軍とは関係のない人たちと話しているのかもしれない。
そういった中での訓練であった。
作戦失敗は当然ストーキング対象に気づかれることである。
気づかれた場合は当然向こうは姿をくらませるかもしれないし、抑え込まれるかもしれなかった。
一つの訓練期間は3日間
それが終わるとAARと休息を兼ねた1日を置いてまた3日間が始まる
といった内容であった。
それに3回合格すれば次のステップへ行けたが、期間中に完了しえない場合にはそのままコースアウトで失格となる。
その場合は原隊復帰となる。

確かあれは7月の初めであった
私とニコルソン少尉はそれぞれ2回の失敗と2回の合格をもらってあと1回合格すればよいという状況であった。
そういうこともあり、次で必ず上がりにしようと思っていたので、ニコルソンと共同作戦を持ちかけた。
彼は二つ返事で承諾してくれた。

5回目の実地訓練
場所はハイネセンポリス中心街
対象はグレン・マックリーニ情報分析官
フェザーンへの駐在歴があり、オーディン潜入はすでに2回も達成している工作員である。
彼の宿泊しているホテルの反対側のアパートに陣取る
窓際には小型カメラが2台
洗面台からとリビングルームから対象を見張る。
万が一の場合に備えてMP-45軽機関銃とブラスターは常に手元に置いてある。
中には実弾ではなくゴム弾を装備してある。
というのも、前回の訓練で我々とは別の訓練生が工作員の通告を受けた警察特殊部隊に強襲されて負傷するという事故が発生した。
向こうも身に危険を感じれば当然本気でやってくるのは言うまでもなかった。

想定開始の00時00分
訓練総括官から無線で
「想定開始。幸運を祈る。」
という合図で想定は始まった。
私とニコルソンは2時間交代で対象を見張った
カーテンが閉まっていて見えないがグレン情報分析官はぐっすり寝ていることがサーマル付双眼鏡から観測できた。
監視開始からわずか5時間後のことであった
グレン情報分析官は起き上がり、部屋の奥に消えていった
当初監視していた私は何も気にしなかったが明らかに様子がおかしかったのだ。
部屋の中を行ったり来たり
考え事をしているようにも見えた
そして、トランクを開けてどうやらごそごそものを取り出すというよりは操作をしているように見えた。
交代時間になって起きてきたニコルソン少尉にいうと
「確かにおかしいですね
引き続き注意します。」
と言って交代に入った。
私は2時間後にセットしたタイマーを横目で見ながら眠りにおちようと瞬間だった
ニコルソン少尉がいきなり
「中尉!
こっちに来てください!」
と私を眠りまであと一歩の淵から引きづり出してきた
私はすぐに起きて監視席に行く。
ニコルソン少尉は双眼鏡を見ながら
「中尉。
これやばくないですか?」
と言って双眼鏡を渡してきた
私も双眼鏡を見る
サーマル画面の真ん中に映るのは吸引器のような管の形をしたもので何かを吸っている人が移った。
私は双眼鏡から目を話し、ニコルソン少尉と思わず顔を見合わせた
双方ともに
大変なものに合っちまった
という感覚であっただろう
我々は独断で引き続き監視し、できる限りの情報を得て上層部の判断を仰ぐことにした。
0733時
グレン情報分析官は荷物をまとめて統合作戦本部へ足を向けた。
本来の訓練をいったん中止しニコルソン少尉はグレン情報分析官の後を追って監視
私は彼の部屋を捜索することにした。
ホテルに入るなり掃除のおばさんにわざとぶつかって部屋のカードキーを奪う
怪しまれないように転んでしまったおばさんをいかにも親切そうに偶然そうに助ける。
そして、一直線に非常階段を使って目標の部屋に向かう
ベテラン情報分析官であればあるほど注意深く、慎重だ
だからその経路に何か仕掛けがしてあっても否定はできない。
そういうこともあり、ルームサービスの更衣室に忍び込んで、制服を着て、髪形を整え、化粧を薄くして、血色の悪い感じのルームサービスになりきる
これも全般で教わった技だ
部屋の前で手袋をはめる
彼の部屋には荷物の運搬とルームサービスの朝食の回収という名目で侵入
最初に入った時に対侵入者用の仕掛けを探す。
カフスボタンに忍ばせた妨害電波をオンにする
これで部屋の中の電子機器は使い物にならなくなる
長時間付けると人体に悪影響が及ぶことを除けばかなりよく使える代物であった。
捜索10分、片付け3分、撤収2分
合計15分で作業を完了させる。
まずは問題のトランクの中身だった
開くと、中は着替え・本など普通のものが入っていたが、その中身の厚さとトランクの厚さが明らかに一致していなかった
トランクの中の板を外すとそこが開いた
私はその中にあるものを見て驚愕した
そこにあったのはサイオキシン麻薬とその吸引器だった!
予測はしていたが実際に見ると開いた口がふさがらなかった
私は小型カメラでそれを映して、元に戻そうとした時だった
下のほうから書類が数枚飛び出しているのがわかった。
私はそっとそれを引き抜くとそこには同盟語で書かれた書類が入っていた
パッと見はただの注文票のような書類であったが、よくよく光に照らしてみると特殊インクで書かれた字が浮かび上がっていた
私ははっとして、それを観察した。
その時点でタイムリミットまで3分
メモ帳を広げて内容を書きまくった
そして、時計がタイムリミットを告げるまでに書類はすべて移し終わった
こういった速記術も教習課程で習う
私は予定を2分近く早く切り上げ撤収した。
監視アパートに帰るなり印刷機でさっきの速記を書き直してプリントアウトする。
そして、その特殊インクで書かれた言語は帝国語であった
内容は支離滅裂な単語が乱立し、スペル間違えも3単語に1つ近くあった。
私は当初意味が分からなかったので、何度も何度も読み直すと思いっきり頭をぶんなぐられたような衝撃に襲われた
そう、スペルミス
これであった
このスペルミスはただのミスではなくきわめて人為的に間違えられたものだった
ベテラン情報分析官であったら一瞬で見抜けただろうが、私はこれを見抜くのにかなりの時間と、翻訳にかなりの時間を割いた
そして、その内容は宇宙歴792年のことにさかのぼる

宇宙歴792年 2月5日
アルレスハイム星域会戦
帝国軍はカイザーリング中将指揮下の部隊がいきなり暴発したため同盟軍に悟られ、6割以上の損害を払って撤退した
その真相であった
なぜ、帝国軍はいきなり暴発したのか
それである
その真相を同盟軍はつかんでいたのだ
帝国軍敗退後同盟軍は掃討作戦を展開していた
その過程で拿捕した戦艦に真相はあった
その戦艦の艦内にはサイオキシン麻薬が気化して充満しており、乗組員は艦長以下阿呆状態になっていた
同盟軍はただちにほかの拿捕船舶を調べ上げたところその実に3割の艦艇特に補給艦艇・戦艦などの大型艦艇に麻薬が搭載されていた
当然同盟軍はそれを押収したが、数tが行方不明になってしまっていた
それは私が速記した暗号文によれば、それは中央情報局の「アエルゴ」と呼ばれる組織がその数tの麻薬をもとに生成・販売を牛耳って帝国・フェザーンとの密貿易がおこなわれているとのことであった
さらにそこには前年度の利益が記入されておりその額はどこかの地方自治星系区予算並みの金額であった
その儲けはすべてフェザーン系の貿易会社と思われる口座へ分散入金されており、目立たないようにされていたことも書かれていた
そして、2段目には同盟軍技術研究開発本部における長距離レーザー砲の開発についての詳細が書かれており、その射程距離・威力などの詳細が記入されていた
2枚とも共通性のない内容であったが、これが示すのは明白であった
スパイ行為と麻薬売買を通じた帝国への資金援助である
ニコルソン少尉が返ってくるなりその内容を伝え、我々だけでグレン情報分析官を取り押さえる必要があるという結論に達した
当然中央情報局上層部へ申告の必要ありとは思ったものの、事後報告でないと内通者がグレン情報分析官に逃亡を指示すると思い、申告はしなかった
事後報告に完璧を期するために我々は彼の行動一つ一つを身のがさなった
訓練2日目
今度は私がグレン情報分析官をストーキングすることになった
彼は17時くらいまで部屋にいたがその後、タキシードを着て外出する用意をし始めた。
どうやら何かの式典に行くようであった
中央情報局・軍・政治関連の式典・パーティをざっと見るとその日はリベラル派政治家の資金パーティしかなかった
ニコルソン少尉に言ってそのパーティの招待客リストをハッキングして無理やり「エルンスト・クレメンツ」という偽装で貿易関連会社職員として入れてもらった
私もタキシードを着て、ニコルソン少尉が即席で作ったIDを持ち、「エルンスト・クレメンツ」になりきるためのメイクをし、付け髭をして変装する
そして、万一の時に備えPPK‐22と呼ばれる小型実弾拳銃とそのマガジンを腰に装着する
グレン情報分析官が用意完了するまでにすべてが完了し、私はホテルの前の車を止めて彼を待ち構えた
彼は1800時前後に無人タクシーを拾いそのまま出発した
私も追いかける
そして走ること40分程度でホテル「フェルゼン」という当時の金持ちが結婚式を開くような高級ホテルで彼は降りた
ニコルソン少尉がホテルの監視カメラをハッキングし、私を援護する
そのまま、グレン情報分析官は22階のパーティ会場へ向かった
そこでは予測通りリベラル派政治家の資金パーティをやっていた
彼は何食わぬ顔をして、受付のチェックと通過する
私も、何人ものタキシードを着た男性や華やかなドレスに身を包んだ女性に交じって受付を通過する
グレン情報分析官は「アレン・シュリーマン」という偽名と国土交通局2等事務官の偽装IDで参加していた
私は政治家の演説を見ながら、横目で彼の動きを追いかける
彼は1人の政治家と話していた
その人物はリベラルを通り越した極左政党の大物政治家であった
私は少しずつ距離を詰めていく
そして半径約5m以内の座席に座って会話傍受を開始した
音声は私の左耳についた小型イアホンを通じて聞こえ、ニコルソン少尉も同時に聞ける
この会話傍受装置は彼らが当然持っている携帯端末をハッキングし、それを音声受信装置としてこれを転送することで行われる。
話している内容は極めて私的なことであるように思われた
しかし、その中に聞こえる帝国語の単語は非常に引っかかった
それに、よくよく聞いていると3割くらいの会話が成立していないのだ
相互に決められた暗号を使って会話しているのは明らかであった
私は会話を聞きながらふと周囲を見回すと、3人ほどどこかで見かけた人物がいた。
一瞬記憶違いかと思ったが、私は思い出した瞬間にはっとした
というのもこの3人は特殊作戦部隊の第104特殊空挺強襲連隊の隊員で私がエル・ファシルで共同作戦を組んだ時の士官たちだった
彼らは全員がタキシードかスーツを着ておとなしく座っていたが明らかにグレン情報分析官を監視しているのが見て取れた
政治家の長々とした演説が終わり立食会が始まった時だった
彼ら3人が動き出した
包囲網を描くようにグレン情報分析官に接近する
私はただ見守るしかなかった
万が一に備えて腰に設置した拳銃に手をかけようとした時だった
私から一番手前にいた准尉がいきなり倒れ、残りの2名も姿を消してしまった
私は微妙に困惑していたがすぐに准尉が倒れた方向から悲鳴が聞こえた
私は遠巻きにそれを見ていたが目立った外傷はなくなぜ倒れたかがわからなかった
しかし、彼の首の右側があざのようにみるみる赤くなるのが見えた
それを見て私は悪寒を感じた
それは教習課程で習った吹き矢による毒殺方法で起きる現象だった
私はニコルソン少尉にグレン情報分析官を見張らせて残りの2人と中央情報局の訓練を受けたであろう「ハンター」を探した
中央情報局作戦部には約1個大隊くらいの人員の暗殺作戦チームが言うといわれている
特殊作戦コマンドや中央情報局破壊工作課は帝国・フェザーンの要人暗殺を請け負うが彼らは「国内」での暗殺を請け負う
対象となるのは「二重スパイ」が基本だがそのほかにも「政敵」も含まれる
彼らは中央情報局破壊工作課職員や特殊作戦コマンド隊員から「ハンター」と呼ばれている
私は危険を承知でそれに挑んだ
するとニコルソン少尉から
「非常階段方面でタキシードが3人
何か遺体袋のようなものを運んでいます。」
という誘導に従って私はそっちへ急いだ
ニコルソン少尉の誘導のおかげでやつらが来るであろう経路で待ち伏せした
やつらに監視カメラを使わせないために物理的に監視カメラを破壊した
待つことたったの3分
装飾が施された通路の40m向かい側から人影が確認された
私はゆっくりとPPK-22のスライドを引く
すぐに、3人のタキシードを着た大男が遺体袋のような袋を背負って歩いてきた
私は敵の不意を衝くためにアルコールの飲みすぎで道に迷ったようにふらふら歩いた

意を決して角を出る

向こうは一瞬びくっとしていたが何食わぬ顔で通り過ぎようとした
しかし、遺体袋に入っていた隊員が目を覚ましたのかいきなり大声を上げ始めたのだすると
左端にいた身長190近い男がいきなり胸元からサプレッサー付G12拳銃を取り出して私に向けてきたのだ!
私はすぐに柱に身を伏せた
その瞬間に私のいた横の壁に3発実弾が着弾した
私は続けざまにそいつに向かってPPK-22を2発撃ち返した
その時の敵の顔はまさに面食らったといってもいいだろう
私がまさか拳銃を持っており、まさかローゼンリッター連隊員と誰が思っただろう
その大男は胸部に2発くらったが私はその2発が当たった時に人体に当たった時と違う感覚を得た
向こうは防弾チョッキを着ていたのだ
私は瞬時にさらに1発を敵の足に向かって放った
ほんの3秒くらいのことであったが、残りの2人はすでに攻撃態勢を整えまさに銃を撃たんばかりであった
私が右側通路の柱に隠れた時にはすでに何発も実弾が飛翔してきた
向こうは3人こっちは1人
明らかに不利だった
私はニコルソン少尉に言ってスプリンクラーをその通路だけに作動させた
スプリンクラーはけたたましい警報音を上げ作動し始めた
やつらの注意を引くのにはそれで十分だった
私はすぐさまPPK-22をマガジンがなくなるまでやつらに向けてうち、マガジン交換を行って接近した
我ながら感心するくらいうまく頭部、頸部に弾丸が直撃していた
私はすぐさまやつらの死体をひっくり返して情報収集を行ったが身分証と現金があっただけで他にはなんもなかった
それでもとりあえず回収して、遺体袋を開けた
1人はマシュー・エベンス少尉
もう一人はマリン・シュトレーゼマン中尉であった
いずれも
彼らはすでに死んでいた
どうやら銃撃戦の最中にこっちに飛んでこなかった銃声は彼らに向けられたものらしい
私はすぐにその場を離れた
誰かが見つけるのは時間の問題であり、長居する必要はなかった
グレン情報分析官はそのまま極左政党の政治家と話しただけであったがその話した内容は十分にスパイ容疑を裏付けるものであったので私はすぐに引き返した
それから午前4時までかかってニコルソン少尉とグレン情報分析官の会話内容を解析し私たちは驚くべき内容を発見してしまったのだ
暗号文自体は口語ではなく帝国の文語表記であったもののそこまで難解なものではなかった。
しかし、会話中の成立しない3割近い会話の解読に手間取った
それを解読するのに中央情報局の1世紀も前の暗号表や奪取された帝国軍暗号表を参考にしたところなんと中央情報局設立当初の暗号表を用いていたことが判明した
これを用いて解読すると内容はまあ、とんでもないことだった
それは民衆暴動を要した政権奪取であった
その次の日には左翼団体による戦争反対デモが予定されていた
ここで警備する警官隊や憲兵隊の内通者が発砲し、あたかも政府命令で発砲したようにし、民衆暴動をあおって合わせて各地での反政府団体・民兵組織による暴動を発生させようというものであった
グレン情報分析官と話していた極左政党の大物政治家はいわゆる無政府主義者であった
また、グレン情報分析官自身もハイネセン国立大学法学部出身のエリートであるが、同じく無政府主義に傾倒していた時期があった。その後はその集団から離脱したと判断されて中央情報局に採用されていたのに である
この暴動によって革命を実現させようというのであった
会話内容はその準備を確認するものであった

私とニコルソン少尉はすぐにグレン情報分析官を拘束すべしという結論に達した
それのために我々はすぐに準備を整えた
防弾チョッキ、MP-45軽機関銃を装着し、ホテルの裏口から清掃員の格好をして侵入する
それに先立ち我々は報告書をまとめ、突入と同時にその報告書を中央情報局監査部と局長であるマンデラ・グレゴリー中将に直接リークというかたちで報告した
グレン情報分析官の泊まる階のスタッフルームで準備を進めた
ニコルソン少尉が端末に指をかけて
「では、送ります。」
と言って報告書はリークされた
私はMP-45軽機関銃の銃弾をセットする
銃弾は今回はゴム弾だ
私は目標の部屋の前に行くってドアノブに爆薬をセットする
「3・2・1!」
バン!
という音を立ててドアノブが吹き飛ぶ
私を先頭にニコルソン少尉とともに突入する
グレン情報分析官はテーブルの上に置かれた吸引器をまさに手に取ろうとした瞬間だった
私は
「動くな!
両手を上げて、頭の上に手を置け
そして、うつ伏せに!」
すると、グレン情報分析官は机の下からいきなり拳銃を取り出したのだ!
彼はすかさず我々に向かって打つものと思ったがなんと自分に向けようとしたのだ!
私は死なれてはすべて水泡に帰すと思ったので構えていたMP-45を5発連射した
ニコルソン少尉も同時に発砲した
グレン情報分析官は着弾の衝撃で失神してしまった
私はその場で彼を拘束し、その足で中央情報局へ向かった
中央情報局へ行ってその場に待ち構えていた監査部の職員に引き渡した

その後、監査部からの長時間にわたる取り調べを受けたが、おおむね我々のとった行動がとがめられることはなかった
そして、リーク情報に基づいて暴動は制圧されたが、それでもしきれなかった暴動で死者が出たが、それを主導した左翼政治家、無政府主義者並びに中央情報局内にあった麻薬密売組織・二重スパイは一斉検挙された。
かれこれこれがその後約3か月近く続いた。
一方で私とニコルソン少尉はストーキング訓練をクリアして残りの実地課程を4週間後修了した。
同期で修了できたのは9名中4人のみ
修了時には特殊作戦従事資格としての特殊作戦記章が授与された。
ローゼンリッター連隊本部へ修了の報告へ出頭するとシェーンコップ中佐から上級白兵戦記章を手渡された
基準は覚えていないがある一定以上白兵戦による作戦に従事するとこの記章がもらえる
シェーンコップ中佐からは餞別ということであった
よく意味が分からなかったが有り難く頂戴しておくことにした
フェザーン赴任までは言えてもそれ以上のことは言えなかったが、リンツ大尉やブルームハルト大尉、第3中隊員たちからは激励の言葉をもらった
ニコールとは毎日電話か何かしらで連絡を取ることを約束した
そして、
宇宙歴793年7月25日
私はフェザーンへ駐在武官付情報将校として赴任するためハイネセンを発った。 
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