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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第41話 隔離区画

あの子は病気に冒されていてね
時期に歩くことも立つことも出来なくなる運命なんだよ
彼を......いや、これから出てくるであろう患者を救うために協力してくれないか?
電撃使い(エレクトロマスター)の君にしか頼めないことだよ
君のDNAマップを提供してくれないだろうか?

......うんっ


御坂はギョロ目の女性と側に居た棘の生えた奇妙な男性がいたビルから飛び出した。
階段は二段飛ばしで降りて、入り口の扉を両手でこじ開けると開けた夜の学園都市が視界に飛び込んでくる。
ムアッとした日本特有の湿っぽい暑さと御坂の嫌な予感と相まってベッタリと常盤台の制服が身体に絡みついている。

近くにあった時代錯誤のように存在している公衆電話に駆け寄り、自分の携帯と有線LANを取り付けて学園都市のネットワークにアクセスを始めた。
コンピュータを制御しているのは電気信号だ。

能力を使い、ハッキングを試みる。
布束砥信
三年生 十七歳
樋口製薬•第七薬学研究センターでの研究期間を挟んだ後に本学に復学

更に解析を進めていく。厖大な数の生徒の情報が学籍番号順に表示されており、目的のギョロ目女の情報を見終わったが
「えっ?......何これ?」
最後のページに特殊なセキュリティロックが掛かっているのを発見した。
御坂は目を瞑り、能力の演算に集中し出した。
解くべきパズルとも云うべきものだろうか?
だが、子供の玩具にしてはかなり巧妙にウイルスのトラップが仕掛けられていて、少しの気を抜くことができない。
自然に息が荒くなり、携帯端末に力が入る。
今までとは明らかに違う生々しい電気回路の連続に御坂の脳内にあるイメージが流れ込んで来る。

巨大な樹木に紅い目をした化け物。
「きゃっ!?」
いきなり、脳内の映像にノイズが走り、電流が逆流したような衝撃に襲われて御坂のハッキングが強制終了された。
「いたた?」
瞑っていた目を開く。そこには目を疑う画像が二枚保存されていた。
御坂は生唾を飲み込みながは、画像を開いた。

一枚目の画像
赤い髪の幼子が父親と母親らしき二人の大人に抱き抱えられている

二枚目の画像
一枚目に出てきた二人の大人にそっくりな人形が部屋の隅にいる

更に二枚目の画像にはメモが添付されており、御坂は目で追っていく。
もはや、何が正しいとか正しくないの次元には到達していない。
ただ、機械的にメモを開いた。

この人形は、人間を材料にした
「人傀儡」と呼ばれる武器
サソリの得意とする技術である

「何これ......人、傀儡?!」
確かに人形にしては、人間に近く。
人間にしては、人形に近い造形をしている。
御坂はめまいに似た衝撃を受けて、ガラスに頭を打ち付けた。
「えっ?」

初めてサソリの情報らしきものに触れたが容易に信じることが出来ない。
いや、むしろ強く否定したかった。
だって信じて読んだら......この文章と画像が指し示す結論は......

レベルアッパー事件の時に見せた常人とはかけ離れた身体能力に桁違いの殺気が一層疑惑を強くする。

御坂は首を横にブンブン振って、顔を手で叩いた。
「ダメダメ!まずは、ギョロ目なの女を調べて出てきた唯一の情報。樋口製薬•第七薬学研究センター。ここであたしのDNAマップを使った研究を......しているってことなのかしら......?!」
御坂の背筋に冷たい何かが走り、弾けたように御坂は振り返った。

御坂は、背後に何者かの気配を感じ取り背後に注意を向けるが、誰も居ない。
電話ボックスの電灯の直下にいる為、外を見ると顔色の悪い自分が反射して見える。
呼吸と早まる心臓を抑えながら、冷静さを取り戻そうと努めた。
御坂は携帯電話を電話から外してポケットの中に滑り込ませた。

気になるなら、行ってみたら?

ギョロ目女の隣にいた奇妙な男が言った言葉を思い出した。

「迷ってなんかいられないわ!直接調べてやるわ」
御坂は、勢い良く電話ボックスから飛び出すように走り出すと夜に包まれていく学園都市の中に姿を消した。

動き出した御坂を建物が建っている脇から白ゼツは眺めていた。先程、御坂が感じたのはこの視線だ。

「上手く行った少し情報を与えるだけで動いてくれた」
白ゼツは、コップに注がれたメロンソーダをストローで飲み込んでいく。
露点以下になり、水滴がコップから白ゼツの手に染み込んでいく。

「さてと、色々準備しないとね」
白ゼツが持っていたメロンソーダに入っている氷がピシッと大きな音を立てて溶けて割れた。

******

樋口製薬•第七薬学研究センター
御坂美琴は疑惑を確かめるために、研究センターへ単独潜入していた。
流石に常盤台の制服では、個人を特定されやすくなってしまうため、御坂はありふれた服に着替えての潜入だ。
黒のシャツにデニムのパンツなどを着ていく。
ありふれた服装だ。

それに潜入するなら、夜の闇に紛れることが出来る黒系統の方が良いしね
なんか、忍者みたいな感じになってきたわね
サソリの影響かしら?

電子ロックが掛けられた自動ドアを能力を使って解除していき、モーター音と共に噛み合わせが外されてドアが開いた。

監視カメラが御坂に照準を合わせているが御坂にとって不都合な映像(ビジョン)は、認識出来ていないようで何も起きていない廊下を映し出していた。
これほどコンピュータ制御が実用化された世界では、御坂の能力は有利に働いている。

ドアをすり抜けて先へ進んでいく。
すると、先程の画像を思い出したが、御坂は首を横に振って考えを振り払おうとした。

友人だし、黒子の好きな人だから疑いたくない!
自分に言い聞かせて、研究所のネットワークに繋ぐことが出来るケーブル受けを見つけるの携帯端末と接続し内部の様子を俯瞰する。
幾ら、電子ロックや監視カメラを操作出来ると言ってもアナログな人間に見つかってしまえば元の子もない。

防犯カメラに赤外線センサー
電子錠か......
電気的なセキュリティだから
この辺は大丈夫
むしろ、問題は所員やガードマンよね

幸いここも時代の流れに取り残されず、最先端のコンピュータシステムを導入しているようで壁に寄りかかりながら、一息ついた。

「??おかしいわね。それらしい研究部署がない?」
もしも、ここで自分のクローンを製造しているならば大規模な培養装置が必要になるだろうし、温度管理や体調管理も逐一人間が面倒を見ることもない。
ネットワークから遮断されているのかもしれない。
そう、疑念に思った所で携帯端末にネットワークから隔離された空間があるのを見つけた。
電気的なやり取りがあるので、一応電源は付いているようだ。
御坂は天井を見上げた。
御坂の感覚が何かがおかしいと告げている。

簡単過ぎる......
監視カメラは入り口付近にしか設置されていないし
見張りも配置されていない
そして、見つけてくださいと言わんばかりの遮断された部屋の存在
ひょっとして、もう使われていない施設なのかしら?
だとしたら、何で監視カメラや自動ドアが生きているのか。

誘導されているような気持ち悪さが胃からせり上がってきた。
しかし、ここまで来て止める訳にはいかなかない。
御坂はケーブルを抜くと、ネットワークから遮断された部屋へと音を立てずに移動を始めた。


階段を駆け上がり、頭に叩き込んだ内部地図を参照にしながら遮断した部屋のロックを外す。やはり、何の抵抗も無く開く。
何か罠があるかもと考えたが、そんな心配は杞憂に終わった。

「ここが......」
電灯も付いていない部屋の中でコンピュータのファンの音と点滅を繰り返すボタン。
隣を見れば巨大なガラス張りの部屋に数台のチューブが繋がった培養器が理路整然と並んでいる。

「あれは......培養器?人間が入るサイズの培養器......」
ガラス越しに培養器を見て冷や汗を流す。
夏場なのに異常な寒気が露出した脚から昇ってきた。
御坂は培養器から目を離し、使われていないコンピュータに近づくとモニター下にあるキーボードをカチカチと叩いた。やはり、コンピュータ自体に電源が供給されているようで、都合良く素早く反応してくれた。

とある消された痕跡のある研究データを復元し、中身を開いてみる。
真っ白な画面に黒文字が表示されている。


超電磁砲(レールガン)量産計画
『妹達』
最終報告


恐れていた文字列が目に飛び込んで来て御坂は息をするのも忘れながら、震える指で次の研究報告のページに移行した。


本計画は超能力者(レベル5) を生み出す遺伝子配列パターンを解明し
偶発的に生まれる超能力者を100%確実に発生させる事をその目的とする

本計画の素体は『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴である


本当にあったあたしの......
クローン計画

あの時の......
あの時に渡したあたしのDNAが使われたの?
最初からこれが目的?
いやそんな事より


しかし
シスターズの性能は素体であるレールガンの1%にも満たないことがツリーダイアグラムの予測演算から判明した

逆説の『しかし』に御坂は釘付けになった。
!?
あたしの劣化版しか作れないって事?


クローン体から超能力者(レベル5)を発生させる事は不可能
以上より進行中の全ての研究の即時停止

超電磁砲量産計画
『妹達』を中止し、永久凍結する


永久凍結
つまり、もうそんな研究はしていないということだ。
御坂が長らく止めていたように錯覚していた呼吸を深くして膝を床に付けて、立ち膝となった。
何度もモニターを確認し、量産計画がないことを確認する。

「はっはははは......何よ。やっぱ、あたしのクローンなんていないじゃない」
御坂は安心しきったように立ち上がると開いていたページを閉じていく。

「へっ!?」
突如として、モニターに夥しい数の文字列が並び出して、上から下にスクロールを開始した。

ま、まさかウイルスにやられた?

御坂が画面を注視した隙を逃さないように真っ暗な画面から、球体に幾何学模様が描かれた真っ赤な目玉が画面中央に出現し御坂を見透かした。

「!?」
頭にビリビリとした刺激が走り出して、身体をふらつかせた。
画面の幾何学模様の瞳が塵芥となって崩れていくと、コンピュータは、再び正常な画面に戻り何事も無かったかのように静かに最初の画面に戻った。

「?」
少しだけクラクラする頭を掻きながら、御坂はコンピュータに両腕を立たせて寄り掛かった。
気分は悪くない。
むしろ、気分爽快と言ったような感じだ。
「ちょっとゾッとしたわね。あの時のDNAマップがね......ま、過ぎた事を言ってもしょうがないか」
御坂は、踵を返すと自動ドアを開けて出て行こうとする。
もう一度、振り返りコンピュータや培養器を眺めた。
「さ、門限破りがバレる前に帰るとしますか」
来るよりも軽やかにスキップをするように御坂は走り出した。
何か身体が軽くなったような気分だ。
今までの悩みが解消された御坂は、慎重に出てくる鼻歌を歌い出しながら通路を横切る。

御坂の両眼に一瞬だけ幾何学模様の真っ赤な瞳が印字され、まばたきをする度に色彩が落ちて馴染むように消えて行った。

御坂がいなくなり、無人となったコンピュータ室の床から白ゼツが這い出てきた。
「目論見通り......これである程度は」
白ゼツがコンピュータを少しだけ触り出した。
既に写輪眼のデータを入力した情報はファイルごと破壊されていて閲覧することができないようだ。
ニヤリと白ゼツが鋭い歯を見せる。
「テスト前だから、どうなるか分からないけどね」

すると部屋の灯りが点き、扉が開いた。
自動ドアを正常に開けて、出て行った御坂とそっくりの女性がやってきた。
額には軍事用のゴーグルを引っ掛けている。
「あ、来たね。御坂美琴のクローン」
真っ白な外見をした白ゼツの姿に御坂のクローンは、無表情ながら少しだけ動作を止めた。
「確かゼツ様ですね。初めてですが白いですとミサカは外見を形容します」
「じゃあ、データの消去よろしくね」
「はい、早速作業に取り掛かりますとミサカは指示に従います」

御坂美琴のクローンである『ミサカ』は、コンピュータのキーボードを弄り出して、データを完全消去の作業を始めた。

実際、御坂美琴のクローン計画は、確かに凍結してあった。
しかしそのクローンの技術は別の実験の為に使われているとは、御坂にとっては夢にも考えていなかった。 
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