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おぢばにおかえり

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第三十話 春季大祭その十一

「あら、男前じゃない」
「その男前って僕のことですか?」
「ええ、そうよ」
 にこりと笑って阿波野君に言うのでした。その笑顔がまた百万ドルといいますか。とにかくもう誰もがそれだけでノックアウトされそうな位です。御顔は奇麗だし表情は明るいししかもお肌は白いしで。長池先輩といいどうしてこんなに二物も三物も与えられているんでしょうか。
「君のことよ。ねえちっち」
「はい」
「この子でしょ」
 今度は私に顔を向けて尋ねてきました。
「その後輩の子って」
「そうです」
 憮然とした顔で先輩に答えました。
「この子のことです」
「やっぱりね。ねえ君」
「はい」
「名前何ていうの?」
 阿波野君に直接尋ねられました。
「名前。よかったらクラスも教えて、天高生よね」
「はい。阿波野新一です」
 まずは名乗った阿波野君でした。
「クラスは一年D組です」
「ふうん、Dなのね」
「ええ。どうやらいいクラスみたいで何よりです」
「担任の先生は?」
「有田先生です」
 そういえばそんな先生もおられるような。天理高校は大きな学校なので先生も多いんです。ついでに言いますとグラウンドは二つ、柔道場も二つあります。体育館は今度三つになります。校舎も幾つもあります。職員室なんてどれだけあるのかわからない程です。
「数学の」
「ああ、その先生なら私知ってるわよ」
「あっ、そうなんですか」
「私の一年の時の担任だったのよ」
 本当に何でこんなにおぢばというのは広い筈なのに狭いんでしょうか、天理教の世界も。とにかく出会いが重なる確率が半端ではありません。それこそ歌舞伎か北斗の拳か平成仮面ライダーか。思わぬところで意外な人達が顔を合わせて、ってことが異常に多い場所なんです。
「何かと堅苦しい人でしょ」
「そうですね。そんな感じの人です」
「あの人には随分怒られたわ」
 高井先輩はうんうん、と頷きながら感慨深げに仰います。
「私も。結構以上に我儘やってたし」
「そうなんですか?」
 これは私の問いです。
「授業中にお菓子食べたりね」
「それ佐野先輩じゃ?」
「佐野もやってたのよ。このこと前に言わなかったかしら」
「そうだったでしょうか」
 この辺りの記憶は曖昧です。実際のところそんなことも聞いたような聞かなかったような。どうもはっきりと覚えてはいません。
「何かそういえば」
「まあそれでね」
 先輩はここでまた仰いました。
「あの先生には迷惑かけたわ」
「先輩がですか」
「その有田先生なのよね」
「はい」
 先輩はまた阿波野君に声をかけて阿波野君もそれに頷いています。
「そうなんですよ」
「頑張ってね。あの先生堅苦しいけれどいい人だから」
「そうみたいですね」
 それはわかっている感じの阿波野君でした。
「だから色々よくしてもらっています」
「何かすっごく迷惑かけてそうなんだけれど」
 私はいつも通りの阿波野君の能天気な受け答えの声を聞いてその辺りが滅茶苦茶心配になりました。それで思わず言葉に出してしまいました。
「その辺りどうなの?」
「全然オッケーですよ」
「そうは聞こえないし」
 それも全然です。
「全くいつもいつも」
「いつもいつも?」
「いい加減なんだから。昨日もさっきも」
「まあまあ」
「昨日って?」
 先輩が今の私の話に顔を向けられてきました。 
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