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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第23話

~夜・特務支援課~



―――概要・沿革―――



クロスベル自治州に存在する最大のマフィア組織。その歴史は古く、自治州が成立した七耀歴1130年前後に遡ると思われる。『商会』の名を冠する事からもわかるように当初は帝国ー共和国間の密貿易で財を成し、自治州における暗部を一手に引き受けて来た。現在、その非合法なビジネスは多岐に渡り、武器の密貿易、盗品売買、地上げ、総会屋、ミラ・ロンダリング、各種風欲産業の運営、猟兵団の仲介斡旋などが確認されている。有力議員と密接な関係を持っているためその犯罪行為の多くは摘発を免れており、仮に構成員が逮捕されたとしてもすぐに保釈されてしまうことが多い。



「なるほど………よくまとまってる情報だな。」

「今案で聞いていた話が的確にまとめられている感じね。」

概要の情報を見たロイドとエリィは頷き

「しかし………改めて見るとやっぱりとんでもないですね。」

「ああ、非合法なビジネスで相当儲けまくってる感じだな。」

「うふふ、典型的な”悪の組織”って感じね。」

ティオは溜息を吐き、ランディは目を細め、レンは小悪魔な笑みを浮かべていた。



―――武装・勢力範囲―――



構成員数はおよそ300名。自治州内外の末端構成員も含めると500名以上になると推定される。猟兵団や、周辺諸国の軍隊経験者も多く、最新の導力兵器を密貿易しているため相当な戦力を保持していると思われる。広域暴力組織でないにも関わらず、その影響力はクロスベルに留まらず、帝国・共和国の有力者との繋がりも深い。最新の情報では、対抗組織である”黒月”に押され気味であったようだが、軍用犬を導入することで戦力を補強し、再び優位を取り戻したと目されている。



「こうして見ると………やっぱり大きな組織だよな。それに、軍隊経験者もかなり多そうな感じだし………」

「ああ、前に下っ端と戦った時、かなり手強かったのも納得だぜ。」

勢力の情報を見たロイドとランディはかつて戦ったルバーチェのマフィアたちの強さを思い出し

「でも、あの時の軍用犬………そのまま運用しているみたいですね。わたしたちが捕まえたのも無駄になったというわけですか………」

「そうだな……」

「ちょっと空しくなるわね………」

ティオが呟いた言葉を聞いたロイドとエリィは溜息を吐いた。

「軍用犬……ああ、レンが来る少し前にロイドお兄さん達が解決した事件ね。確かその事件のお陰でツァイトが支援課に来ることになったのだったかしら?」

「ふふ、そうね。」

「あの事件のお陰でツァイトが支援課に所属したのですから決して無駄にはなりませんでしたね。」

「ハハ、そうだな。」

レンの問いかけにエリィは微笑みながら頷き、静かな笑みを浮かべたティオの意見にロイドは苦笑しながら同意した。



―――マルコーニ会長―――



ルバーチェ商会の代表にしてマフィア組織を支配している人物。ルバーチェの会長としては5代目だが正式な代替わりをしたのではなく、8年ほど前、謀略と裏切りによって4代目を追い落として組織を掌握した。帝国系移民のためか、どちらかというと帝国派議員との関係を重視しており、特にハルトマン議長との繋がりは深い。一方、共和国方面のパイプも確保しており、その意味では、クロスベルという特異な地域で抜け目なく立ち回っているといえるだろう。なお、帝国貴族への憧れがあるらしく、悪趣味な成金趣味の服装・調度を好む模様。



「こりゃあ……なんつーか、印象的なオッサンだな。」

マルコーニ会長の写真を見たランディは意外そうな表情で呟き

「ユーモラスな外見ですけどやってる事はえげつないです。」

「それに、思っていた以上に柔軟で頭も切れるみたいね。帝国寄りなのに、共和国方面にもコネクションを持っているなんて………」

「相当、やっかいそうな相手だな………」

(まあ、レンが”その気になれば”潰そうと思ったらいつでも潰せる相手だけどね。)

ティオはジト目で呟き、エリィの意見に頷いたロイドは真剣な表情でマルコーニ会長の写真を睨み、レンは意味ありげな笑みを浮かべていた。



―――ガルシア・ロッシ―――



ルバーチェ商会の営業本部長にしてマフィア組織の若頭と目されている人物。猟兵団『西風の旅団』の部隊長だったが8年前、マルコーニが先代会長を追い落とす時に実行部隊として雇われた。その後、マルコーニに引き抜かれる形で猟兵団を抜けてルバーチェ商会に入社。マフィアの武装化、戦力強化に貢献した。猟兵時代は”キリングベア”と呼ばれ、その巨体を活かした軍用格闘術を持って数多の敵兵を屠ったと伝えられている。



「あの若頭の人………猟兵団の出身だったのね。」

(『西風の旅団』………フィーが所属している猟兵団か。)

「『西風の旅団』………どこかで聞いた事があるような。」

ガルシアの情報を見たエリィが驚き、ロイドは複雑そうな表情をし、ティオが考え込みながら呟いたその時

「………大陸西部において最強と謳われた猟兵団の一つだ。その部隊長をやってたって事は相当な戦闘力なのは間違いねぇな。”キリングベア”って名前も何度か耳にしたことがあるぜ。」

「そうか………確かに凄い迫力だったけど。でも、やっぱりランディ、そういうのは詳しいんだな?」

ランディが説明をし、それを聞いたロイドは意外そうな表情で尋ねた。

「はは………昔、噂で聞いたくらいだけどな。」

(噂どころか、直に会って殺し合ったのじゃないかしら?)

ロイドの疑問に苦笑しながら答えるランディをレンは意味ありげな笑みを浮かべて見つめていた。



―――ハルトマン議長―――



クロスベル自治州議会の議長を務めている大物政治家。自治州政府代表の一人でもあり、帝国派議員のリーダーを務めている。帝国貴族に連なる名門の出身であり、自治州にある保養地ミシェラムに贅をつくした巨大な邸宅を構えている。ルバーチェのマルコーニ会長とは旧知の仲であり、各種利権や密貿易、ミラ・ロンダリングなどにおいて密接な協力関係になると目されている。なお昨年、非公式ではあるが帝国宰相ギリアス・オズボーンと会談し、その権威を内外に改めて見せつけた。



「これがハルトマン議長……」

「なんつーか、政治家ってより帝国の大貴族って感じだな。しかし、あの”鉄血宰相”と会見したってのはマジなのか?」

ハルトマン議長の写真を見たロイドは呟き、ランディは疑問に思っている事を口にした。

「ええ、非公式ではあるけれど去年の春頃、オズボーン宰相がクロスベルを訪れたらしいの。おじいさまには会わずにハルトマン議長とだけ会談してすぐに帰国したらしいけど………一時期、各国の政界ではその話で持ちきりだったみたい。」

「そんな事があったのか………”鉄血宰相”……相当、有名な人みたいだけど。」

「何の為に訪れたのかちょっと気になりますね。」

「少なくてもクロスベルにとってはよくない理由でしょうね。」

ランディの疑問に答えたエリィの話を聞いたロイドは考え込み、ティオとレンは静かな表情で呟いた。そして全ての情報を見終えた為ロイド達は閲覧をやめた。



「―――なるほど。今まで漠然としてたところがかなり見えるようになったな。」

「ええ………冷酷かつ抜け目ないトップと歴戦の猟兵だった若頭の存在………そしてハルトマン議長との関係ね。」

「しかもその議長ってのはあの”鉄血宰相”とも何かしらの関係があるんだろ?確かにクロスベルの警察が全く手を出せないのも納得だぜ。」

「まあ、相手は皇帝に次ぐ権力を持つ宰相だものね。」

「………そうだな………」

閲覧を終えたロイド達が相談しているとティオが何かに気付いた。

「………待ってください。渡された記録結晶の中に隠されたデータがありました。」

「隠されたデータ………?」

「って、隠したってんならあのガキが隠したんだろう?」

ティオが呟いた言葉を聞いたロイドは首を傾げ、ランディは目を細めて指摘した。



「ええ、どうやらわたしが気付くか試そうとしたらしいですね。………後でおしおきをしないと。」

「うふふ、その時はレンも手伝ってあげるわ♪」

「それはともかく………その隠されたデータも見れるか?」

「ええ、お茶のこさいさいです。」

そしてティオが端末を操作すると項目に”黒の競売会”が追加された。



「!!これは………」

「”黒の競売会(シュバルツオークション)”………!?」

「エステルちゃんたちが言ってた例のイベントってやつか。ハハ、あのガキ、洒落たマネをすんじゃねーか。」

(うふふ、まさか存在の名前を知って僅か一日でここまで辿り着くなんてね。)

項目を見たロイドとエリィは目を見開き、ランディは苦笑し、レンは感心した様子でロイド達を見回した。

「………どうやら本当に存在するイベントのようですね。それもルバーチェ絡みですか。」

「ああ………怪しいとは思ってたけど。よし―――とにかく見てみるか。」



―――黒の競売会(シュバルツオークション)――――



毎年、創立記念祭最終日にルバーチェが開催しているオークション。保養地ミシェラムにあるハルトマン議長の大邸宅を借り切って開催されている。出品される品は一流のものばかりだが盗品や賄賂・脱税・横流しなどに関連する美術品・絵画・宝飾品であることが多い。また、クロスベルのみならず周辺諸国の貴族や資産家が多く招待され、裏の社交界的な催しとしても機能している。ルバーチェにとっては重要な収入源であり、ハルトマン議長にとっては各国の有力者と繋がりを持つ絶好の場となっているようだ。なお、オークション会場の警備はルバーチェの構成員が厳重に行っており、”金の薔薇”が刻まれた招待カードが無い限り、中に入る事は出来ないらしい。



「こ、これは………!?」

「し、信じられない………そんなものが毎年開かれていたなんて………」

情報を見たロイドとエリィは驚き

「でも、ちょっとおかしいです。秘密にしている割にはかなり大規模な催しですけど………」

「まあ、そんな動きがあれば、警察もそうだけど当然マスコミにも感づかれでしょうね。」

ティオとレンはそれぞれ疑問に思った事を口にし

「いや、警察やマスコミには厳重に規制がかかってんだろ。でもなけりゃ、こんなモンが表沙汰にならねぇわけがねぇ。」

二人の疑問にランディが答えたその時

「―――その通りだ。」

「!?」

聞き覚えのある声が聞こえ、声を聞いて驚いたロイドが仲間達と共に振り返るとそこにはセルゲイがいた。

「課長………」

「お、お疲れ様です。」

「やれやれ………まさか自力でそこまで辿り着いちまうとはな。まあいい、ここじゃなんだ。そっちの部屋で一通り話してやろう。」

そしてロイド達はセルゲイに促され、課長室で説明を受けた。



「―――それじゃあ、あのファイルにあった情報は全て事実ってわけですか………」

「ああ、そうだ。誰が調べたモンかは知らんがなかなか的確にまとめてやがるな。」

「で、でも………警察の上層部では全て掴んでいるんですよね?」

「ああ、全員とは言わねぇがな。警部クラス以上はもちろん、一課の連中は全員知ってるハズだぜ。遊撃士協会だって受付やアリオスあたりだったらとっくに承知しているだろ。」

「くっ………これも”壁”ってわけですか。」

セルゲイの話を聞き、今までクロスベル警察が”黒の競売会(シュバルツオークション)”に対して何もしなかった事情を察したロイドは唇を噛みしめた。

「ああ………とびきりデカイ”壁”だ。基本的に俺は、お前達の行動に制限を付けるつもりはないが………”黒の競売会(シュバルツオークション)”にだけは手を出すのは止めろ。お前達には荷が重すぎる。」

「で、でも………!」

セルゲイの話を聞いたロイドは悔しそうな表情で反論しかけようとしたその時

「おいおい、課長。言葉を間違えてんじゃねえよ。俺達に荷が重いってより、警察そのものが動けねぇんだろ?」

ランディが目を細めて尋ねた。



「………………………」

尋ねられたセルゲイは黙り込み

「それだけの有力者を招待して、しかも実質的な主催者の一人があのハルトマン議長………そんなの動けるわけがないわ。」

「民間人に危険が迫らない限り、遊撃士協会も動けませんし………誰も手が出せないという事ですか。」

「そうね。それこそ非合法な人達―――例えば”黒月”あたりが非合法な事でしか手を出せない状況ね。」

エリィは複雑そうな表情で、ティオは疲れた表情でそれぞれ推測し、二人の推測に頷いたレンは意味ありげな笑みを浮かべた。

「だ、だからと言って………!」

「………悔しい思いをしてんのはお前達だけじゃねえ。特に一課の連中は毎年、歯軋りするような思いだろうさ。非人道的な催しだったらそれこそギルドに動かれる前に意地でも突っ込むところだが………どうやら出品物が”黒い”以外は豪華なパーティーってだけらしいからな。」

「くっ………」

「実際、下手に手を出しちまったら支援課ごと潰される可能性は高い。だから今回ばかりは俺もお前らを止めざるを得ない。ま、そういうことだ。」

「「……………………」」

「ハッ………」

「……やれやれです。」

「………(さて、このまま本当に諦めるのかしらね?)」

セルゲイの指示に反論せずそれぞれ悔しい思いを抱えて黙り込んだロイド達をレンは興味ありげな表情で見守っていた。



「―――納得しろ、とは言わん。」

するとその時セルゲイがロイド達を見回してロイド達にとって予想外の答えを口にした。

「え………」

「だが、現実を直視し、自分達に何がどこまで出来るか見極めるってのも時には必要だ。そして、その悔しさを忘れない限り、いつかきっとチャンスは来るだろう。お前達の諦めがなけらば、な。」

「………わかり、ました………この件に関しては………手を出すのは止めておきます。」

「ロイド………」

「ロイドさん……」

「やれやれ……だな。」

「ま、こればかりは仕方ないものね。」

こうして……記念祭3日目は過ぎて行った。ティオの過去、知られざる兄の話、仔猫と言う謎のハッカー、ルバーチェに関する詳細な情報………―――そしてクロスベルの歪みを体現したかのような”黒の競売会”。それらがグルグルと頭の中をめぐり、いつしかロイドは眠りに落ちていった――――




 
 

 
後書き
次回はご存知、レンとユウナにとっての”壁”であるあのイベントが開始します。 
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