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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第二十五話 麻薬撲滅捜査を展開します。

 イゼルローン要塞内にて、食事中に暴漢(?)を撃退したティアナとフィオーナは、その男を追ってきた憲兵隊とその指揮官である軍務省監察局監察課所属のカール・グスタフ・ケンプ中佐に出会うこととなった。


「ええ、知りません。面識のない人です」

 ティアナがケンプに受け答えしている。こうしてはたから見ている分には上品に答えている。とても普段の姿を想像できないとフィオーナは思った。

 「貴官もそうか?」

 ケンプがフィオーナに水を向けた。

「はい。全く面識のない人です」
「そうか、一応聞いておいただけだ。手数をかけたな」

 案外あっさりとケンプが引き下がったので、二人は不思議そうに顔を見合わせた。

「と、言いますと?」
「彼はカイザーリング艦隊に所属している少尉だからな。先の戦闘で敗北した残存部隊の一艦に乗り組んでいた。ずっとイゼルローン要塞にいる貴官たちとは、面識がなかろう」
「カイザーリング艦隊に?」

 不思議そうに首をかしげたフィオーナがふと、何かを思い出した顔をしてあっと言いかけたが、危うく自制した。一つにはフィオーナの顔色に素早く気が付いたティアナがそっと、そのすらっとした美脚でつついたためでもある。

「どうかしたかな?」
「あ、いいえ。何でもありません。カイザーリング艦隊の方がどうして要塞の尉官食堂に来ていたのかと思いまして・・・」

 ケンプは太い吐息を吐き出した。

「奴は逃げてきたのだ。艦内で暴れだし、抑えようとした兵数人を死傷させてな」
「どうしてですか?」

 ケンプは鋭い目つきでフィオーナとティアナを見た。

「それを尋ねるからには、これからいうことは一切他言無用とされたい。そうでなければ、この先の話は聞かないことだ」

 二人は顔を見合わせたが、その一瞬で充分だった。カイザーリング艦隊と先ほどの常態を逸したあの大男の暴れようで、だいたい先の展開は見えてきている。二人はすぐにうなずいた。

『はい』
「よし、では端的にはなそう。サイオキシン麻薬が原因だ」

 やはりそうか、というような眼で二人は互いを見かわした。

「サイオキシン麻薬?」

 不思議そうな顔を見せて尋ねるティアナに、

「まぁ、無理もない。通常の一般人や軍属ではまず目にしない麻薬だからな。もっとも、麻薬というものは、土台触れることがないように願いたい代物だがな」

 ケンプはそう言ってから、その麻薬の効果を端的に説明した。曰く、陶酔効果をもたらすが、強烈な依存作用と幻覚を生じさせること、曰く、長期間服用していると人体に多大なる影響が現れること、曰く、サイオキシン麻薬の患者だった母親から生まれた新生児は奇形児にさえなること。等・・・・。

「そしてこの麻薬の一番の恐ろしい点は」

 ケンプは鋭い目で二人を見た。

「人工的に精製されているという点だ」
「人工的に・・・・」
「そうだ。だが、これまでイゼルローン要塞内ではそういった麻薬中毒患者がいた形跡はない。要塞内に寄港している部隊からもだ。ところが今回のカイザーリング艦隊が寄港し、しかもその兵が麻薬中毒患者だった。となると・・・・」
「そのカイザーリング艦隊には、麻薬中毒患者がほかにもいる可能性があり、もっと掘り下げれば、カイザーリング艦隊内部で麻薬が精製されているかもしれない、ということですか?」

 フィオーナの問いかけにケンプはうなずいた。

「その通りだ。もっとも、精製に関しては大っぴらにできないから、どこか秘密裏に軍用基地などで作っている可能性も否定はできない」
「特定は、できないのですか?」
「残念ながら、残存艦隊と言っても3000隻を超える。40万人近い人間をしらみつぶしに取り調べていくのは、中々難しい」
「それについては、全員を取り調べる必要性はないと思いますが」

 ティアナが澄んだ声で言う。

「それはどういうことかな?」
「麻薬を艦隊内に蔓延させるには、それなりの組織が必要だということです。そしてそれを構築するにはある程度の人脈・人望がある者でなければなりません。そして、艦隊規模に蔓延しているということは、それなりの地位の者の黙認を得ているということでもあります。あるいはその者自身が元締かもしれません。例外はあるでしょうが、まず常識的に見て軍の中で高官を優先的に調べるべきでしょう」
「となると、将官クラスか。ふむ・・・・」

 ティアナの言葉にケンプはしばらく考えていたが、やがておおきくうなずいた。

「貴官の意見、実に参考になった。感謝する。それと・・・・」
「???」
「先に聞いたところだと、貴官らは要塞憲兵隊事務官だそうだな。私から上司には話しておくから、どうかサイオキシン麻薬の取り締まりに協力してもらえないだろうか?要塞内部の秩序を預かる貴官ら憲兵隊にとっても今回の事は放置できる問題ではなかろう」
「私たちは別にかまいませんが・・・・・」

 ティアナと顔を見合わせた後に、フィオーナが当惑そうに答えた。ケンプは苦笑しながら、こういった。

「貴官らの上司には迷惑をかけんさ。代わりに私の方から手不足分は部下たちを補充しておく。申し訳ないが、どうやらうちの部下たちよりも貴官らの方が頼りがいがありそうなのでな」
「それは、光栄ですが、ひとつ気になります」
「なにかな?」

 フィオーナの問いかけにケンプが顔を向けた。

「将官クラスの取り調べとなると、どなたか軍の高官の後ろ盾がない限りはうかつに手を出せないのではないかと思います」
「その点は心配しなくともいい。今の軍務省憲兵局の局長はグリンメルスハウゼン子爵閣下で、皇帝陛下のご学友として御覚えがめでたい方だ。ご本人はいつも居眠りをしていらっしゃるが、部下任せにして責任をないがしろにさせる方ではない」

 グリンメルスハウゼン子爵閣下か、と二人は目を見合わせた。一見ぼんやりとしている老人ではあるけれど、おそらく大丈夫だろう。

「では、早速――」

 そう言いかけたティアナを、今度はフィオーナが美脚でつついた。顔を向けたティアナにフィオーナがそっと口パクして見せている。かすかにうなずいて見せたティアナは、ケンプに、

「・・・の前に、ご覧のとおり私たちも昼休みのみのつもりでしたので、書類などの整理が終わっていません。すぐに伺いますから、デスクの上の整理だけさせてもらえませんか?」
「いいだろう」

 二人は立ち上がり、敬礼してケンプの元を辞すると、すぐにフィオーナの自室に向かった。書類整理は普段二人にとっては日常茶飯事のことなので、とっくに終わっている。ケンプの元を離れたのは口実で有り、イルーナ・フォン・ヴァンクラフトとアレーナ・フォン・ランディールにすぐに連絡を取るためであった。
 暗号化された低周波端末を起動させると、すぐに二人がスクリーン上に現れた。
 事の顛末を簡潔かつ正確に述べたフィオーナが、

「・・・・以上ですが、ここで問題は、私たちだけがサイオキシン麻薬の捜査に当たってよいものかどうかです。ラインハルトとキルヒアイスを加えたらよいかと思います」
『理由は?』

 と、イルーナ・フォン・ヴァンクラフト。

「はい、将来的にサイオキシン麻薬を媒介として地球教がラインハルト側の中枢に食い込むことは、原作から明らかです。ですが、今の彼はサイオキシン麻薬、地球教、その恐ろしさを知っていません。ここで参加してもらうことで、その恐ろしさを事前に知っておけば後々の対策が先手先手にまわりやすいかと」

 イルーナはしばらく考え込んでいた。

「むろん、12月には例のヘルクスハイマー伯爵の亡命事件もあることは承知しています。ですので、それまでにはめどはつけたいと思っています。いかがですか?」

 イルーナは顔を上げた。そして、いいでしょうと承諾した。

「アレーナさんはどう思いますか?」

 フィオーナが尋ねる。

『私も異議なし。なんなら今すぐにでも取り掛かってほしいわね』
『アレーナ、それはいいけれど、でも、問題もあるわ。彼は巡航艦の艦長として猛訓練中よ。出撃指令も当然ある。イゼルローン要塞にいるとはいっても、いずれすぐに出てしまうわ。一介の巡航艦の艦長をどうやって麻薬捜査に協力させるの?』
『あ~イルーナさ、それに関しては、私から提案があるんだけれど』

 アレーナが言う。

「何かいい考えが?」
『グリンメルスハウゼン子爵閣下がケンプの上司なんでしょ?だったらそのグリンメルスハウゼン子爵閣下からのラインハルトの推薦をしてもらうわけよ。その方面は任せておいて。あなたたちの方はラインハルト・キルヒアイスサイドを説得してもらえればそれでいいから』

 ティアナとフィオーナは顔を見合わせた。確かにそれならばケンプも他の皆も納得はする。だが――。

「提案しておいて何なんですが、ラインハルト、キルヒアイスは協力するでしょうか?」
『何言ってんのフィオーナ。そこを何とかするのがあんたたちの仕事でしょ?』

 しれっというアレーナに、やっぱりそう来たかとあきれる二人だった。

 だが、案外二人の不安に相違して、ラインハルト、キルヒアイス、そしてケンプはあっさりと承知したのである。グリンメルスハウゼン子爵閣下直々の推薦だということで、ケンプは承知した。
 こと、ラインハルトとキルヒアイスは、サイオキシン麻薬について、蔵書で読んだことがあると言い、その弊害についても、実地で病棟などで見学したことがあると言ったので、フィオーナとティアナは驚いた。

「何を驚いている?」
「いや、だって、その、普通軍人がそこまでするかなって思って・・・」
「フロイレイン・ティアナらしくない言葉だな」

 ラインハルトが軽く笑った。ついでながら、軍属になった女性を性で呼ぶというのはどうかという問題が持ち上がり、かといってフロイラインでは「お嬢さん」となってしまうとなり、したがって「フロイレイン」という似たような呼称で呼ぶことになったことを付け加えておく。

「イルーナ姉上やアレーナ姉上に言われたことは『何事も自分の意志で探求せよ。』だ。俺はそのことを片時も忘れたことはない。フロイレイン・ティアナやフロイレイン・フィオーナもそうなのだろう?」

 フィオーナとティアナは顔を見合わせた。イルーナが何を話したかわからないが、今の話からすると、ラインハルトはうすうす3人の関係について真相めいたことをつかんでいるのではないだろうか。

「とにかく、サイオキシン麻薬の実情は放置していい問題ではない。俺も全面的に協力する。だが・・・・」

 ラインハルトはキルヒアイスを向いた。

「ええ、私たちが今指揮している艦を退艦することは禁じられています。どのようになさるおつもりですか?何か高官の後ろ盾があれば、いいのですが」
「それについては心配いりません。グリンメルスハウゼン子爵閣下が憲兵局局長ですから、その方を通じてイゼルローン要塞の上層部に話を通してもらいます。もうすでに教官・・・あ、いえ、イルーナ先輩を通じて連絡が言っているかと思います」

 呼びなれない言葉をぎこちなく発したフィオーナが、次に、ケンプ指揮官に会いに行きませんか、と提案し、ラインハルトはすぐにうなずいた。

「グリンメルスハウゼン子爵か、あの狸爺だな」

 歩きながら突然ラインハルトが言ったので、またまた二人はびっくりした。

「あの昼行燈の顔の裏には、人の心理を見抜く洞察力があるのを俺は知っている」

 不思議そうな顔をしている二人に、アレーナ姉上から散々聞かされたのだとラインハルトは補足した。

「それに、駆逐艦ハーメルン・ツヴァイでのこともある。あの時ほど身につまされたことはない。つまりは、一瞥しただけでは、人の真価を全面的に見たわけではないということを教えられた。また、欠点があっても、他の面で人より抜きんでている者を蔑視すべきではないということも教えられた。反対に、利点はあっても連帯面で害をなす者については、放逐すべきことも、な」
「はい。今後ラインハルト様の周辺の人材登用面で、大いに参考になる事項です」

 話が過ぎたな、それでは行こうか、とラインハルトは再び歩を進めた。

「ねぇ、フィオ」

 歩き出していく二人の背中を見ながらティアナはフィオーナに話しかけた。

「なんだかラインハルト、原作よりも視野が広くなってない?」
「そうね。これもきっと幼少期から一緒にいた教官やアレーナさんのおかげだと思う」
「ハーメルン・ツヴァイの時も言ったけれど、私は今のラインハルトの方が好きだわ。助けて支えていきたいって思ってる。でも、それがいい方向に行くかしら?」
「えっ?」

 突然ティアナが不吉なことを言ったので、フィオーナは思わず問い返していた。

「ラインハルトの持っている本来の美点を損なうのではないかということよ。人を魔改造するのもいいけれど、成功例って少ないのよね。そりゃ、イルーナ教官やアレーナさんの腕前は良く知っているけれど、それでも私は不安なのよ。心のどこかでね」

 フィオーナはにわかに胸の中に暗雲のような物が立ち込め始めたのを感じていた。ここまではラインハルトとキルヒアイスは順調に成長していき、階級も上がってきている。転生者たちも自由惑星同盟に亡命して、今のところほかの転生者たちが現れて、活動する様子もない。その方面についてはアレーナが逐一監視している。
 だが、確かに順調すぎるのも怖い。どこか知らないところで破綻をきたしていなければいいのだが、とフィオーナは祈るような思いだった。

 
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