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青砥縞花紅彩画

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9部分:新清水の場その九


新清水の場その九

侍三「ようやく行きましたな」
主膳「ふむ、厄介な御仁であった」
侍四「まああの男もいなくなりましたし入りましょうか」
侍三「うむ」
主膳「では参ろう」
 三人は左手に向かうだがすぐに慌てて出て来る。
侍三「何処にもおりませぬな」
侍四「さては小太郎殿は姫様を連れて行かれたのか」
主膳「これは一大事、すぐにお探しするぞ」
二人「はっ」
 こうして三人は左手に去る。入れ替わりに弁天と千寿が侍女を連れてやって来る。
千寿「(侍女に顔を向けて)先程はどうも」
侍女「いえ。あまりに桜が綺麗でしたので。是非姫様にもと思いまして」
弁天「茶屋でゆっくりとお話するつもりでしたが。桜を見るのもよかったですな」
千寿「(それに頷いて)はい」
侍女「丁度入れ替わりに茶屋の方で騒ぎが起こりましたし。離れてよかったかも知れませんね」
千寿「その前にも何か騒ぎが聞こえましたし。何かと騒がしい寺のようですね」
弁天「そうでしょうか」
千寿「その様です。しかし私は幸いそれには遭うておりませぬ。これも香合の御加護でしょう」
弁天「(それを聞いて不思議そうな顔をして)香合」
千寿「はい。小太郎様が結納に贈って下さったあの香合です。覚えておられますね」
弁天「はい、無論。(いささか慌てている)」
千寿「先程仏事に御供えしたのですが近頃この辺りに盗人がはびこっていると聞きましたので。それで今も持っているのでございます」
弁天「左様でしたか」
千寿「はい」
弁天「しかしそのまま姫が持たれていては何かと騒動が起こりますな」(心配そうな顔を作って)
侍女「何か御考えが」
弁天「はい。拙者が預かりもうそうか」
千寿「小太郎様が」
弁天「はい。それは元々我が信田家のもの。拙者が一時お預かりしても問題はありますまい」
千寿「(頷いて)それもそうですね」
弁天「では是非」
千寿「はい」
 千寿は香合の箱を弁天に手渡す。弁天はそれを受け取る。ここで南郷が左手から出て来る。
南郷「あ、若様茶屋におられたのではなかったのですか」
弁天「うむ、ちと気が変わって桜を見に行っておったのじゃ」
南郷「左様でしたか。それならばよろしいのですが」
弁天「何かあったのか?」
南郷「(ここでまずそうな顔を作って)はい、追っ手の姿が見えましたので」
弁天「(演技に合わせて)ふむ、それは厄介じゃのう。(ここで千寿に顔を向ける)姫」
千寿「はい」
弁天「まだ拙者は日陰にいる身、申し訳ござらぬがこれで失敬」
千寿「(驚いて)何処に行かれるのでしょうか」
弁天「少し姿を隠す為に。縁があればまた」
 立ち去ろうとする。だが千寿はその裾を掴む。
千寿「お待ち下さい」
弁天「申し訳ござらぬ。時が来れば」
千寿「来ぬかも知れませぬ。時とは気紛れなもの」
弁天「されど」
千寿「お願いです、私もお連れ下さい」
弁天「今の拙者の歩む道は暗闇の道、そこに姫をお連れするなどと」
千寿「お願いです。暗闇も怖くはありませぬ故」
弁天「されど」
千寿「全ては覚悟のこと。小太郎様、どうかこの千寿を供にお願いします」
南郷「(ここで思い入れあって)若様」
弁天「どうした」
南郷「追っ手はそれがしが引き受けまする。どうかここは姫様をお連れして」
弁天「よいのか」
南郷「主を御守りするのは家臣の務め、どうかここはお任せ下さい」
弁天「(頷いて)わかった。(そして姫に顔を向ける)姫」
千寿「はい」
弁天「参りましょう」
千寿「わかりました」
侍女「では私も」
千寿「そなたは残って」
侍女「(驚いて)どうしてですか」
千寿「迷惑がかかる故。私も追われる身ならば」
侍女「よろしいのですか?」
千寿「はい。御父様にはよろしくお願いします」
侍女「わかりました。それでは」
千寿「さようなら」
 二人は別れの挨拶をする。それが終わると弁天は千寿の手をとる。
弁天「では参りましょう。それがしの仮住まいへ」
千寿「はい」
 侍女は右手に去る。弁天と千寿は左手に。そして後には南郷只一人が残る。
 
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