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青砥縞花紅彩画

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7部分:新清水の場その七


新清水の場その七

侍一「おのれ」
侍二「やはり盗んでおったか。覚悟はできておるな」
赤星「もとより(観念した様子で)」
侍一「ならばよい」
侍二「今ここで手打ちにしてくれる」
典蔵「(二人を止めて)待て」
侍一「如何されたのでございますか」
侍二「盗人に情をかけられるなぞ」
典蔵「待てというのだ。先程お主達はこの者に情をかけられたのであろう。それを忘れるな」
侍一「はっ」
典蔵「それでは典蔵殿に免じて」
 二人は後ろに控える。典蔵はそれを確かめた後で再び赤星に顔を向ける。
典蔵「さあ、続きを申してみよ」
赤星「(申し訳なさそうに)かたじけない」
典蔵「先程の言葉、偽りではないな」
赤星「はい」
典蔵「左様か。なら致し方ない。(その百両を手に取って)この程度はわしにとってははした金じゃ」
赤星「それはどういう意味でござるか」
典蔵「今申したとおりじゃ。この程度の金はどうにでもなるということじゃ」
赤星「それは」
典蔵「取っておくがよい。小田の家とは切れたもののあの奥方様とは縁があった。その方が苦しまれるのは忍びない」
赤星「本気でござるか」
典蔵「戯れ言でこの様なことは言わぬ。持って行くがよい」
赤星「本当に宜しいのですか?」
典蔵「わしも武家じゃ、二言はない。さあ取るがよい(そして受け取った百両を差し出す。赤星はそれを受け取る)」
赤星「有り難き幸せ」
典蔵「礼はいらぬぞ。(後ろの侍達に向き直り)その方達も他言は無用じゃぞ」
侍一「わかり申した」
侍二「典蔵殿に感謝するがよいぞ」
赤星「(頭を垂れて)はい」
典蔵「ではこれでな。我等も用事がある」
赤星「わかり申した」
典蔵「あと一つ言っておく。このこと、奥方様にも内緒でな。今我等は三浦様と近き故」
赤星「はっ」
典蔵「さらばじゃ」
赤星「お元気で」
 こうして典蔵達は右手に消えていく。赤星は立ち上がり思い深げにその包みを見ている。そこに頼母がやって来る。
頼母「十三郎(強く厳しい声で)」
赤星「叔父上(彼の顔を見ると明るくなる)」
頼母「(だが彼の顔は険しい)うむ」
赤星「百両用意できました。どうかお受け取り下さい」
頼母「その気持ちは有り難いがな(まだ態度は厳しい」
赤星「受け取られないのですか」
頼母「見ておった。それだけでわかるであろう」
赤星「(うなだれて)はい・・・・・・」
頼母「そういうことじゃ。悪いがな」
赤星「わかり申した」
頼母「受け取るわけにはいかぬ。その百両、お主への餞別としておけ」
 そう言うと踵を返し左手へ去る。赤星はそれを止めることもできない。
赤星「こうなっては致し方ない」
 うなだれて右手に消える。それと入れ替わりに左手から主膳と別の侍達が姿を現わす。
主膳「それはまことか」
侍三「はい、この目で見ました」
主膳「話は聞いておったがな」
侍三「私もこの目で見るまでは噂だろうと思うていました」
主膳「まさか生きておられたとはな」
侍四「そして小太郎殿は何処だ」
侍三「(左手の方を指して)あの茶屋の中に。姫様と一緒に」
主膳「(それを聞いて血相を変える)姫様とか!?」
侍四「それは厄介なことじゃ」
侍三「その通り、如何致そう」
主膳「(考え込んで)ううむ」
侍四「(はたと思いつき)いっそのこと踏み込みませぬか」
侍三「踏み込むのか」
侍四「左様。とりあえず我等がそういう動きをすれば小太郎殿も驚かれて立ち去られるであろう。そして我等も姫様と御顔を会わせずにすっと去れば姫様も恥をかかれることはござらん。主膳殿、これで如何でしょうか」
主膳「(考えながら)そうじゃのう」
 暫し考えるがやがて決断する。
 
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