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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~ 戦争回避成功ルート

作者:sorano
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外伝~帝都の決別~

同日、15:40――――





オーレリア将軍達がメンフィル軍に投降していたその頃、クロチルダの転移魔術によってグロリアスに爆撃されたバルヘイム宮から脱出したカイエン公爵は瓦礫の山と化したバルヘイム宮の前に立っていた。



~バルヘイム宮跡~





「ああっ……何てことだ……伝統を誇ったバルヘイム宮がこんな無惨な姿に…………おのれえええええええッ!薄汚い簒奪者共が――――――ッ!貴様らに受けたこの屈辱は必ず倍にして返してくれる!」

「……お気持ちはわかりますけど、肝心の”アレ”が封印されている場所まで瓦礫で完全に埋もれてしまいました。少なくとも瓦礫を取り除いて”アレ”が封印されてある場所まで行く道を確保しなければなりません。それまでは絶対にこれ以上メンフィルの逆鱗に触れるような事はしないで下さい!当然メンフィル帝国領の襲撃は絶対に厳禁です!ユミルの件を考えると各領にも軍を展開して本格的に防御を固めているでしょうから、領邦軍に襲撃させても悪戯に兵を消耗するだけです!ただでさえ正規軍も制圧しきれていない状況なのに、そこにメンフィルも加われば状況はひっくり返って、我々が劣勢になる事はお分かりですよね!?」

崩壊したバルヘイム宮の前で怒りの表情で声を上げたカイエン公爵の様子を見たクロチルダは真剣な表情で声を上げて忠告し

「グググググッ……!」

クロチルダの忠告を聞いたカイエン公爵は悔しそうな表情で唇を噛みしめて唸り声を上げた。



「無事だったか、ヴィータ!」

するとその時オルディーネが空から現れ、クロチルダ達の傍に着地した。

「クロウ!?どうしてここに…………」

「……”パンダグリュエル”はメンフィルに制圧されちまった。悔しいが俺やスカーレット達と”神速”は”英雄王”に見逃されて何とか撤退する事ができた。」

「なっ!?」

「何だと!?――――!!”灰の騎士”と皇女殿下はどうなった!?」

オルディーネから聞こえて来たクロウの声を聞いたクロチルダは絶句し、カイエン公爵は血相を変えてオルディーネを睨んだ。



「あの二人なら俺達の守りを潜り抜けてメンフィルが来る前にヴァリマールで撤退したぜ。」

「嘘でしょう!?たった一人で……しかも足手纏いもいるのに貴方達の守りを潜り抜けるなんて、一体いつの間にそんなに成長したのよ……!?」

「なあっ!?みすみすと逃がすなど、何をやっている!?この役立たず共が!」

クロウの話を聞いたクロチルダは驚き、カイエン公爵はオルディーネを睨んだ。



「るせえっ!メンフィルが”パンダグリュエル”の制圧の為に戦艦で”パンダグリュエル”を包囲していたんだ。どの道結果は変わらねぇよ。今はこれからどうするかだろうが!」

「クロウの言う通りです、閣下。まずは”アレ”が封印されてある場所まで埋まっている瓦礫を取り除きつつ、今回の件を知った正規軍に隙を突かれないように対処する事が先決です。メンフィルも肝心の二人を取り返して貴族連合―――いえ、エレボニア帝国に対する”報復”もした事で、しばらくは落ち着くと思われます。口惜しいですが、メンフィルの事は後回しにするべきです。」

「ググググッ………!おのれええええええええええ―――――ッ!!」

クロウとクロチルダの正論を聞いて唇を噛みしめたカイエン公爵は怒りの表情で空を見上げて声を上げた!



「公爵閣下!緊急のご報告があります!」

するとその時領邦軍の兵士が慌てた様子でカイエン公爵に駆け寄った。

「何だ、こんな時に!?」

「そ、それが……ユーゲント陛下達がオリヴァルト殿下達に奪還されました!」

「何ですって!?」

「何だと!?まさか殿下はメンフィルと手を組んで、陛下達を奪還したのか!?」

驚愕の報告を聞いたクロチルダは驚き、カイエン公爵は怒りの表情で問いかけた。



「殿下達とメンフィルが同盟関係であるかどうかはわかりません!ただ陛下達の無事を確認をしに行った部隊からの通信によるとメンフィル軍がカレル離宮から撤退した後、上空に待機していた”カレイジャス”が着陸し、学生達がメンフィル軍の猛攻によって進路が阻まれた影響で進軍が厳しい状況であった我らの妨害を行い、陛下達や殿下と共にカレイジャスに乗り込んで撤退したとの事です!」

「なっ!?学生って事はあいつらか!クソッ!てっきりリィンの救出の為にパンダグリュエルを襲撃すると思ったのに、完全に裏をかかれちまったな……!」

「クッ……メンフィルの襲撃に便乗して、皇帝達を救出するなんて想定外だわ……!」

「!!陛下達という事はまさか皇太子殿下まで奪われたのか!」

報告を聞いたクロウとクロチルダは厳しい表情をし、カイエン公爵は焦りの表情で問いかけた。

「は、はい……それより最悪の報告がまだあります……」

「何だと!?まだあるというのか!一体何だ!?」

「――――バリアハート並びにオルディスの防衛部隊がメンフィル軍の奇襲によって壊滅し、バリアハートとオルディスはメンフィルによって制圧されてしまったとの事です!」

「「な――――――」」

「何だとっ!?」

兵士の報告を聞いたクロウとクロチルダは驚愕のあまり絶句し、カイエン公爵は血相を変え

「そ、そんなっ!?」

「陛下達が奪われた事に加えて、バリアハートとオルディスが制圧されるなんて……!」

周囲にいる領邦軍の兵士達は表情を青褪めさせていた。



「さ、更に……メンフィル軍はバリアハートとオルディスの貴族街で破壊活動を行い、その際に貴族の当主の方々を処刑し……アルバレア公爵夫妻並びにナーシェン卿と閣下の細君を拘束したとの事です!」

「な――――――――」

「嘘でしょう!?」

「クソッタレ!幾らユミルやエリス達の件で貴族連合に対して相当な怒りを持っていたとはいえ、普通、”そこまで”するか!?」

表情を青褪めさせて身体を震わせながら報告した兵士の話を聞いたカイエン公爵は絶句し、クロチルダは信じられない表情で声をあげ、クロウは悔しそうな表情で声を上げた。

「お、おのれ……!直ちに全軍を持ってメンフィルに制圧されたオルディスとバリアハートを奪還させ、ナーシェン達を救出しろ!」

「なっ!?――――閣下!先程メンフィルの事は後回しにするべきだと言い、閣下もその意見に賛同したではありませんか!」

兵士に命令をしたカイエン公爵を見たクロチルダは血相を変えて反論したが

「黙れ!エレボニアの伝統ある”五大都市”のバリアハートとオルディスを薄汚い簒奪者共に奪われたままでなるものか!第一これも全て貴様ら”裏の協力者”共の無能さが招いた事!今回の失態の責任を取ってもらう為にも貴様らにも当然バリアハート並びにオルディス奪還に加わってもらうぞ!」

カイエン公爵は聞く耳を持たず、クロチルダを睨んで更に反論した。



「何ですって!?そういう領邦軍こそ、肝心な時に都市を守れずにむざむざと奪われてしまったのですから、そちらの失態なのではありませんか!?第一私達”裏の協力者”は内戦の”裏側”を担当する存在で、”表側”――――軍と真正面でぶつかり合って戦う存在ではないと最初に言いましたよね!?」

「き、貴様……っ!」

「お前ら、こんな非常事態に仲間割れとか何をやっているんだよ!?仲間割れなんてしていたら、(メンフィル)の思う壺だぞ!?」

互いに睨みあって言い争うクロチルダとカイエン公爵の様子を見たクロウは制止の声をあげ

「か、閣下………まだ最悪の報告は残っているのですが、続けてもよろしいでしょうか……?」

兵士は表情を青褪めさせてカイエン公爵を恐る恐る見ながら問いかけた。


「まだあると言うのか!?今度は何だ!?」

「ハ、ハッ!オルディス襲撃の報を知ったオーレリア将軍閣下がオルディス奪還の為に兵達を率いてオルディスに向かったとの事ですが…………将軍閣下達はユーディット様の呼びかけによって、メンフィル軍に降伏し、武装解除をして投降したとの事です……!」

「何ですって!?あの”黄金の羅刹”が戦う事なく、降伏したって言うの!?」

「な――――ユーディットがだと!?それは(まこと)なのか!?」

更なる驚愕の報告を聞いたクロチルダは信じられない表情で声をあげ、カイエン公爵は血相を変えて問いかけた。



「は、はい……しかもユーディット様は自らを”カイエン公爵家当主代理”と名乗り、その場で公爵閣下の爵位は既に”カイエン公爵家”によって剥奪されると共に当主を解任されている事や内戦終結後閣下の身柄をメンフィルに引き渡すと仰っていたとの事です……!」

「お、おのれ……!あの誇り高き帝国貴族の面汚しが……!今まで育て、可愛がってやったと言うのに、我が身可愛さに気高き誇りを捨てて薄汚い簒奪者共に媚を売るとは、どこまで恥知らずなのだ、あの親不孝者はっ!?」

兵士の話を聞いたカイエン公爵は怒りに震えた後怒鳴り

「う、嘘だ……あのオーレリア将軍閣下が……領邦軍の”英雄”である”黄金の羅刹”が降伏するなんて……!」

「ユーディット様は一体何を考えておられるのだ……!?」

周囲にいる領邦軍の兵士達は表情を青褪めさせて身体を震わせていた。



「……………………」

一方、冷静になって考え込んでいたヴィータは杖を掲げて転移魔術を発動した。

「ヴィータ!?どこへ行く気だ!?」

「――――カイエン公爵閣下。誠に心苦しいですが私達の関係はこれで”終わり”にさせて頂きます。閣下達のご武運を遠い地にて心から祈らせて頂きます。」

「な――――まさか私達と手を切るつもりか!?貴様ら”結社”の”幻焔計画”とやらに私達が必要ではなかったのか!?」

「ヴィータ!?まさか今の状況を放置する気なのか!?エレボニアの内戦は終結に向かうどころか、メンフィルが介入した事で余計にややこしくなっているんだぞ!?」

自分達と手を切って去ろうとしているクロチルダに驚いたカイエン公爵とクロウは血相を変えて問いかけた。



「……元より”結社”の”計画”の目的は”蒼”と”灰”の勝負の”舞台”を導く事。”蒼”と”灰”の勝敗以外は興味はないと最初に申し上げたはずです。このまま貴族連合に協力しても、計画の成就の達成は不可能だと思われますので私達はこれで失礼させて頂きます。それとクロウ、貴方の手で内戦を終わらせたいという気持ちはわからなくはないけど、悪いけどそれは諦めて……でないと”灰”との勝負すら叶わないわよ。」

「ヴィータ…………――――畜生……ッ!どうしてこうなったんだ……!」

クロチルダの話を聞いたクロウが複雑そうな表情をした後悔しそうな表情で唇を噛みしめて両手で操縦席を叩いた瞬間クロチルダの転移魔術によってクロチルダと共に転移で消えようとし

「待て!その為に”煌魔城”を具現化させ、”アレ”を復活させる必要があるのではないのか!?待て―――――ッ!!」

カイエン公爵は血相を変えてクロチルダを捕まえようとしたが、クロチルダはクロウを乗せたオルディーネと共に転移した!



「そ、そんな………”裏の協力者”の方々に加えて”蒼の騎士”までもが協力を打ち切るなんて……」

「お、俺達だけで正規軍とメンフィルに勝てるのか……!?」

「お、おのれ―――――ッ!どいつもこいつも……っ!」

「こ、公爵閣下……これからどういたしましょう……?」

クロチルダ達が去った事で領邦軍の兵士達がそれぞれ不安な思いを抱えている中、怒りによって身体を震わせているカイエン公爵に兵士は恐る恐る尋ね

「ええい、五月蠅い!今考える!!」

カイエン公爵は怒鳴った後考え込み始めた。

(フフッ………この調子ならば僕に頼る日がすぐにでも来そうだね……!)

その様子を陰から見守っていたヨアヒムは醜悪な笑みを浮かべていた。





~エレボニア帝国西部・某所~



クロチルダ達が貴族連合と決別して去ったその頃、西部で領邦軍の指揮を取っていたウォレス准将は部下から驚愕の報告――――メンフィル軍による帝都、カレル離宮襲撃、エリスやユーゲント三世達がメンフィルとオリヴァルト皇子達にそれぞれ奪還された事、そしてオルディスとバリアハートが制圧されてしまった事を聞いた。

「………まさか僅か半日で我らをここまで追い詰めるとはな……これがメンフィル帝国の”本気”か……フッ、”井の中の蛙”とはまさにこの事であろうな。今回の襲撃や陛下達が奪還された事が知られれば下手をすれば貴族連合から手を引く者達が現れるかもしれんな…………―――オーレリア将軍閣下とも今後の事について話し合わないとな。」

報告を聞き終えたウォレス准将は静かな笑みを浮かべた後、すぐに真剣な表情になった。

「そ、その………大変申し上げにくいのですが、現状オーレリア将軍閣下と接触する事は厳しいと思われます……」

「何?どういう事だ?まさか今回のメンフィルの襲撃によってオーレリア将軍閣下の身にも何かあったのか?」

「は、はい。実は――――」

そして兵士はウォレス准将にオーレリア将軍がメンフィル軍に投降した事やその経緯を説明した。



「………そうか。報告ご苦労。カイエン公と相談し、今後の方針が決まり次第すぐに指示を出す。お前は下がってよい。」

「ハッ!」

ウォレス准将の指示によって兵士はその場から去り

「……これも”風”の導きによるものというのか……?カイエン公が暴走して、愚かな事を仕出かさないとよいのだが……」

兵士が去った後ウォレス准将は重々しい様子を纏って呟いた。





~帝都近郊~



「お、戻って来たか。」

「リーダー、帝都の様子はどうだったの?」

クロチルダと共に転移魔術で現れたオルディーネに気付いたヴァルカンとスカーレットはそれぞれ声を掛けた。

「……落ち着いて聞けよ。実は――――」

そしてクロウはクロチルダと共にヴァルカン達に事情を説明した。



「何だと!?」

「嘘でしょう!?メンフィルは僅か半日で貴族連合をそこまで追い詰めたの!?」

「な、なななななななななっ!?ク、クロチルダ様……!先程カイエン公と手を切ったと仰いましたが、これからどうなさるのですか……!?これでは”幻焔計画”が……!」

事情を聞き終えたヴァルカンとスカーレットは信じられない表情で声をあげ、デュバリィは混乱した様子でクロチルダに尋ねた。

「………オルディーネの修理も必要だから、”灰”が”蒼”との勝負の準備を整えるまでの間クロスベルに滞在するつもりよ。もはや”蒼”と”灰”の勝負を見届ける事だけに妥協しないと、今回の計画の目的すらも果たせなくなってしまうわ。だから貴女もこれ以上貴族連合に手を貸す必要はないわよ。―――負け戦に付き合わせてしまって悪かったわね。今回の失態は幾らメンフィルでもさすがにそう簡単に戦争には踏み切らないと高を括っていた私の落ち度よ……こんな事ならエリスとリィン君を攫うべきではなかったわ………”怪盗紳士”に加えて”結社最強”と恐れられていた”劫炎”と”黒の工房”から出向していた”黒兎”までも失ったのは余りにも痛かったわ………盟主(マスター)への報告や今後のメンフィルの”結社”に対する動きを考えると憂鬱だわ………」

デュバリィに謝罪したクロチルダは疲れた表情で肩を落とし

「グググググッ……!メンフィルに私達の計画を滅茶苦茶にされた挙句戦力も減らされたというのに、一矢も報いる事無く泣き寝入りをするなんて屈辱ですが、クロチルダ様がそう決めたのであれば仕方ありませんわね……っ!申し訳ございません、マスター……ッ!」

クロチルダに謝罪されたデュバリィは悔しそうな表情で唇を噛みしめて両手の拳を強く握りしめて身体を震わせていた。



「そう言う訳だからオレとヴィータ達はしばらくの間クロスベルに厄介になるが、お前らはどうする?」

「―――俺はこのまま残るぜ。この内戦は俺にとってもやり甲斐があるし、元猟兵として望む所だしな。」

「私も残るわ。クロスベルに行く気なんてないし、それに”鉄血”がいなくなった今、どうでもいいしね。」

「…………そうか。お前ら二人とも、満足な”結果”で終わるといいな。」

ヴァルカンとスカーレットの答えを聞いたオルディーネの中にいるクロウは重々しい様子を纏って答え

「フフ、リーダーもね。」

「アンタが俺達のリーダーで本当によかったぜ。―――達者でな、リーダー。」

「ああ、お前達もな。――――また会える日が来るといいな。」

二人に見送られながらクロチルダの転移魔術によってクロチルダ達と共にその場から消えた。



「…………行ったな。」

「ええ…………フフ、それじゃあ行きましょうか。それぞれの”決着”を付ける為にも。」

「ああ……!」

そしてクロウ達を見送ったスカーレットとヴァルカンは歩き出した。―――――もうクロウと再会する事はないという思いを抱えながら………… 
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