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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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雨夜-レイニーナイト-part3/狐狩り

その日は、ついに双月天女が開演する日だった。
「みんな、今日までよくがんばったわねん!サイト君もあれからやる気を取り戻してくれたみたいだし、妖精さんたちも美しさに磨きがかかったしん、お姉さんも鼻が高いわ!」
今朝の稽古を終わらせ、この日を迎えたスカロンはもちろん、誰よりもウェザリーは待ち望んだ日を満足できる形で迎えることができて安心しているようだ。
サイトはというと、ルイズからの勧めで強制的にケイン王子役にふさわしくなるようにという名目の特訓で、真面目に稽古に取り組むしかなかった。
結局先日の、自分以外のケイン王子役の件は、ひとまずみんなの…主に女性陣からの意見でジュリオに決定した。最も、サイトがめったなことで怪我などを負わない限りはサイトのままである。
舞台が開始するのはこの日の夜。最後のチャンスだ。サイトはゼロアイをなくしたその日から
できれば、そのときまでにミシェルに会って、ウルトラゼロアイの居所を聞かなければ。


舞台が始まるまで時間がある。サイトは劇場を出て、早速ミシェルおよびゼロアイの捜索に向かう。
その日は、朝から曇り空だった。時間が経てば雨も降ってくることだろう。
「にしても相棒、探すのはいいけどよ、本当に見つかるのかね?」
ふと、サイトの背中に背負われたデルフが声をかけてきた。
「何が言いたいんだよ」
「もしあの銃士隊の副長さんがよ、相棒の眼鏡を盗んだって事は、やっぱ相棒の秘密が連中にばれてるってことになるんじゃねぇか?」
秘密…それはサイトの正体が、この国をあらゆる脅威から守ってきた光の巨人ウルトラマンゼロであるということ。そして、あの眼鏡こそサイトがゼロの姿となる重要なキーであること。事情を知らない人間からすれば、換わった意匠をあつらえただけの眼鏡にしか見えないはず。それらを知った上でミシェルは盗んだのなら、おそらく彼女のバックにいるのはゼロの存在を快く思わない知的生命体たちだ。
「それに、あの眼鏡が変身に必要な道具ってことになるなら、寧ろあの場で壊しちまえば連中にとって万々歳だろ?」
『ウルトラゼロアイは俺たちの命と、絆が一つの形となったもんだ。そう簡単に壊されねぇよ』
デルフからの問いに対し、ゼロが断言した。ラ・ロシェールでの失態をきっかけにお互いに深すぎる溝を掘った二人だが、タルブ村での旅路をきっかけに、確かな絆を強固に結んだ。その証こそがあのウルトラゼロアイだ。それを壊されるということは、サイトとゼロの絆がやはり同じ体を共有しているだけの薄っぺらいものでしかないということになる。
『まぁ、その感情的な理屈を置いても、ウルトラゼロアイはかなりの強度で出来上がった宇宙金属製だ。そう言った意味でも簡単に壊されることはないはずだ』
「なるほどねぇ…」
だから盗んだ程度で済んだ。それに魔法で破壊しようとするのなら、魔法が使われた痕があの場に残っていたはず。そう言ったものがなかったことから、ミシェルは盗む程度で済ませたのだ。
「とにかく、ミシェルさんを見つけるんだ。それでなくても、アニエスさんに話を聞けばいい。ミシェルさんが今どこで何をしているのか知っているはずだ」
サイトはすぐデルフを背負いなおすと、すぐに町へ繰り出した。

銃士隊の詰め所は城にある。サイトは早速城門前にたどり着くと、そこでまさにグッドタイミングとも思える顔を見た。アニエスだ。
「アニエスさん!」
「サイト?お前、なぜここにいるのだ」
サイトが突然現れたことにアニエスは懐疑的な視線を向けるが、サイトは構わずアニエスの下に駆け寄って、ミシェルのことをたずねることにした。
「あの、ミシェルさんを見ませんでしたか?」
「……」
ミシェルの名前を聞いて、アニエスは表情を曇らせる。それを見てサイトは、もしや…と思った。
「いないん…ですか?」
「…その様子だと、サイト。お前も感づいていたとはな」
やはりというべきか、既に彼女も、自分の片腕が失踪したことを察していた。
「ただ、さきほどまではここにいたぞ」
「え!?」
意外だった。実は、ミシェルはまだ銃士隊の副長の座に就いていたのだ。そしてアニエスときっかり会っていた。
すると、城の方から兵たちが十人ほど飛び出し、騒ぎ出していた。
「陛下はどこだ!?」
なんだか戦の直前の状況であるかのような騒ぎだ。
「何かあったんですか!?」
今、陛下はどこだと兵たちが喚いているのを、サイトは聞き逃さなかった。隠すことはできないだろう。そう思ったアニエスはサイトに言った。
「…ここで話すのは不味い。サイト、着いて来い」
「え、あの…ちょっと…!?」
アニエスは詳しいことをサイトに放すため、彼を引っ張りだした。


それを、密かに追っていたルイズとハルナが見ていた。ばれないように、そしてこの日の雲行きが怪しかったこともあり、頭から雨除けのフードをすっぽり被っていた。
舞台開幕直前になって、急に外に出るサイトを怪しんだために、追わずに入られなかった。
「平賀君……」
なぜミシェルのことをそんなに気にするのか。本当にハルナが予想していた通り、ミシェルを一人の女性として意識してしまっているとでもいうのか。しかしそのとき、サイトがアニエスに引っ張られたのを見る。
「あ、あいつ…!」
アニエスがどうしてサイトを引っ張るのだ。ミシェルでもなく、今度はアニエスなのか!?
「もう~サイトの奴、最近見境がなさ過ぎるんじゃないの!ハルナ、追うわよ!」
「は、はい!」
頭に血が上り、もはや覆しようががないと判断した二人は、引き続きサイトたちを追いかけようとする。
「ちょっと待ちなさい」
しかしそのとき、ルイズたちは後ろから肩を掴まれた。振り返ると、見知った顔が自分たちの顔をのぞきこんできていた。
「き、キュルケ!それに…みんなまで…」
魔法学院の仲間たちが全員そこに揃っていた。
「陛下から仰せつかっていた黒いウルトラマンの情報集めのほうをやっと思い出したのかと思ったけど、そうでもなかったみたいね」
それを言われて、ルイズはかなり慌てた。そう、自分たちは元々アンリエッタから黒いウルトラマン…ファウストたちが街に現れ、死人こそ出していないが被害を出していることについて、奴がどこにいるのかを突き止めるべく情報集めのため、街に来ていたのだ。
「べ、別に忘れたわけじゃないわよ!」
「…どう見ても忘れてたわね。稽古に夢中で」
「やれやれ、ルイズは頭に血が上ると周りが見えなくなってしまうからな」
「女が目に映るとすぐ口説きにかかるあんたに言われたくないわよ!それにモンモランシー、あんたこそ彼氏もちの癖に、ジュリオに目が行き過ぎて周りが見えなかったじゃない!」
モンモランシーとギーシュはルイズの動揺ぶりにため息を漏らした。だが言われっぱなしが悔しかったルイズは二人に対し、痛いところを突くように怒鳴りつける。それを言われ、二人はうぐ、と息を詰まらせるのだった。
「だ、だいたいあんたたちも、今夜が本番でしょ?こんなところで何しにきたのよ」
「あたしたちはようやく時間が開いたから、忘れていたあなたの変わりに黒いウルトラマンの情報を得るために街に繰り出すことに下のよ。ウェザリーには、本番前の息抜きって言い訳しておいたから」
じろっと睨んでくるルイズを、いつもの余裕の態度でキュルケは説明した。
「それよりいいのか?君の使い魔、もう居なくなっているぞ」
「あ!?」
レイナールから指摘を受け、ルイズとハルナは後ろを振り返る。そこには既にサイトの姿はなかったのだった。
「油断大敵」
タバサのその何気ない一言もグサッと来る。
本当に周りが見えなくなるのだ。ルイズのサイトへの思いの強さを改めて知り、どこかほほえましくも思えるキュルケだった。
「ぐぅぅ…いいなぁ、あの平民…女の子にモテモテじゃないか…」
一方で、マリコルヌは美少女二人に熱を受けているサイトを羨んだ。
しかしそのとき、城の方からさらにあわただしく兵たちが飛び出し、街の方へ駆け出した。
「ブルドンネ街にむかったかもしれん!探せ!」
「何があったのかしら?物々しいわね」
モンモランシーが言った。ただ事ではないことが誰の目にも分かる。
「もしかして…!例の黒いウルトラマンが…!?」
「兵たちに聞いてみようか」
悪い予感を感じたルイズ。レイナールも後押しするように言い、一同は真っ先に目に入った一人の兵士に何が起こったのかを尋ねた。サイトのことは、ひとまず後回しにした。
「ねぇ、何があったの?」
「何だ貴様ら、我々は小娘などに構っている場合ではない」
まだ10代半ばのルイズたちは、兵たちにとって無関係な子供程度の認識でしかない。追い払うようにその兵は言うが、ルイズは懐よりアンリエッタからもらっていた、女官としてのお墨付きの証明証を見せ付けた。
「これを見てもそんなことが言えるの?」
「こ、これは陛下の…し、失礼致しました!」
「いいわ。とにかく私たち全員に話して頂戴。心配しなくても、彼らは全員陛下からのご信頼を得ているわ」
「で、では…」
その兵は気を落ち着かせながら、ルイズたちに事の事態を説明した。
どうやらアンリエッタが『シャン・ド・マルス錬兵場』の視察を終えた後、王宮に戻る際に姿を消してしまったのだという。しかもその犯人は…。
「目撃者によると、以前にも現れた黒いウルトラマンだといわれています」
「なんですって!?」
それを聞いてルイズはぎょっとする。そんな危険な奴にアンリエッタが浚われてしまったというのか。
「どうして陛下を黒い巨人が浚うんだよ!?」
マリコルヌは訳が分からないと声を荒げると、レイナールが一つの予測を立てる。
「さあね。こっちが聞きたいさ。でも、もし理由があるとすれば…このトリステインのトップであるあの方を浚うことで、僕たちトリステインの動きを悪い方向に傾かせるつもりかもしれない。」
「そんなことをして、黒いウルトラマンに何のメリットがあるの?」
あれだけの人間相手なら絶対的ともいえる力を持つ巨人が、どうして女王を浚う必要があるというのだろうか。キュルケからの問いに、レイナールは引き続き説明する。
「黒い巨人は以前タルブの戦いで、レコンキスタが使役する怪獣とともにトリステイン軍に危害を加えたことがある。そう考えると、女王陛下を浚う理由も納得がいく」
「ッ…!」
ルイズは、かつて亡霊と化したウェールズと、二人目の黒い巨人であるメンヌヴィルによるアンリエッタ誘拐事件の悪夢を思い出す。トリステイン貴族としてもそうだが、性懲りもなく敬愛する幼馴染を浚ったのだ。許しておくわけにいかない。
「じゃあ最後の質問よ。そのときの警護を勤めていたのは誰?」
初めて見たときから知っている。あの時は惚れ薬を飲んでしまって記憶が曖昧だったが、確かファウストは変身する前は黒いローブの少女だったはずだ。もしかしたらアンリエッタの警護を勤める兵に紛れていたのでは?と考えた。
「分かりません。ただ、新顔のようでした」
「新顔?どんな姿をしていたの?」
「確か、少年だったはずです。灰色の髪で褐色肌の」
少年?少女ではないのか。となると、警護の兵の中にファウストはいなかったことになる。
しかし、灰色の髪で褐色肌…どこかで聞いたことがあるような…。
「…わかったわ。教えてくれたありがとう」
情報を教えてくれた兵に礼を言い、礼を言われた兵は遠慮しがちに謙遜しながら任務に戻っていった。
「黒いウルトラマンが陛下を浚うとはなんて不届きなことか!このギーシュ・ド・グラモンの魔法で…!」
「私たちでも敵わない相手に、あなたの魔法じゃ無理がある」
「…………」
麗しい憧れの女王への危害を企てる黒い巨人への怒りで、ギーシュは薔薇の造花の杖を取り出して意気込むが、すぐにタバサからの鋭い淡々とした突込みを受ける。現実は非情だがそれもそうだ、ドットメイジのギーシュ程度で一矢報いることができるなら、トライアングルクラスのタバサやキュルケは苦労しない。ギーシュはこれで何度目になるのかわからないくらい、肩を落とした。もはや言葉もない。
「ルイズさん、平賀君を探しましょう。黒いウルトラマンのエネルギー反応を、平賀君が操作するジャンバードっていうあの機械で追わせるんです」
ハルナが真っ先に、次に何をするべきかを思いついた。ジャンバードのサーチ性能なら、怪獣などの強大な生命反応を探知できる。しかしあれを扱えるのは、今のところサイト以外誰もいない。
「そうね、陛下のことも気になるけど、確かにその方法なら陛下を探しだせる可能性が高いわ」
モンモランシーも同意する。アンリエッタの安否も心配だが闇雲に探しても見つかるはずがない。もし見つかるようなら、今頃ファウストの居所を掴むことができたはずなのだ。
「…そうね。行きましょう」
ルイズは、ハルナの提案を最初は受け入れがたく思っていた。アンリエッタとサイト、この双方のどちらが大切か?それを聞かれると、自分でもはっきり答えることができないことを感じた。今までだったら、アンリエッタを迷わず選んでいたと思う。だが今はそれができない。選択したいとも思わない。
でも今は…仲間たちの提案が最もだ。
(姫様、ルイズを許してください。必ずお助けしますから、ほんの少しだけ…待っていてください)
さて、こんなしたくもない謝罪を心の中とは言わせたのだ。サイトには、会ったらきっちり罰を与えてやらなくては。


さて、その頃…。
「女王が黒いウルトラマンに浚われただと?」
「はい…」
そこは、トリスタニアの一角にある立派な屋敷の一室。その概観はとてつもなく立派で、一代の貴族がどれだけがんばっても稼ぎきれないほどの金を使ったことで立てられたことが伺える。主に客との会食を楽しむための大食堂の部屋にて、その二人はいた。
一人は銃士隊の副隊長ミシェル。そしてもう一人は、初老の貴族の男だった。
外は既に雨が降り始め、雷さえもなり始めていた。
「貴様、一体何をしておったのだ。このような事態を読めぬとは!幼い頃に拾ってやったというのに、無能を証明するためにこのような事態を招いたのか!?」
「申し訳ありません、閣下…」
初老の貴族…『リッシュモン高等法院長』はひざまづいているミシェルに対して怒鳴り散らす。かなりいきり立っていることが伺える。
「…ミシェル、貴様今回の作戦は忘れてはおるまいな?」
「…ウルトラマンの変身に利用する道具を奪い、奴が変身できないところで閣下が本日レコンキスタより買い取る予定となっている怪獣街で暴れさせ、その隙に私が女王陛下を誘拐、陛下の身柄とウルトラマンから奪った特殊な眼鏡を連中に売る…です」
そして女王が失踪した状況下にて、その金でトリステインをリッシュモンが自らの名において再建して国内の信頼を獲得する。後はマザリーニ枢機卿、アンリエッタの母であるマリアンヌ大公…他にもわずかに女王の味方で居る貴族や、自分を快く思わない政敵といった邪魔者を排除することで、リッシュモンはトリステインの新たな支配者となる。それがリッシュモンの作戦なのだ。
「その通りだ。だがこれにはアンリエッタを貴様の手で誘拐する必要がある。しかし、銃士隊の副長として貴様をもぐりこませた貴様がその役目を全うできないとは…まさか、気取られたのではあるまいな」
「そ、そのようなことはありません!私は閣下のご命令どおり、女王の臣下たちに怪しまれぬよう銃士隊の副隊長としての任務を全うし続けておりました」
「ならばなぜ、貴様より先に黒い巨人が女王を浚ったのだ!」
まさに八つ当たり。そんなことを言われても、予測できなかったミシェルには言い返す言葉がなにもない。そもそも自分でもこんな事態が起こるとは予想もしなかったのだから。
リッシュモンは焦った。自分の脚本にはない展開が起きたのだから。だが、これ以上ミシェルに当たり続けたところで、軌道修正することもできなくなる。
「…まぁよい」
リッシュモンは杖を振ると、一本のペンが彼の手元に飛んでくる。それをとった彼は一枚の紙に、戒厳令の許可を記した。
「ミシェル、街道の封鎖許可を与える。その間にアンリエッタを見つけ出し身柄を確保せよ。その後はわしの護衛として例の場所へ先行し、待機せよ。
よいか、このトリステインを新たに生まれ変わらせるための大儀ある作戦だ。今度こそ失敗するでない」
「はっ」
戒厳令の許可証を手に取ったミシェルは頷く。
この人の前で失態を犯すことはできない。ミシェルは直ちに大食堂から、そしてリッシュモンの屋敷から雨夜の街へ飛び出していった。
(おのれ…誰にも邪魔はさせんぞ。わしはこの国を手に入れて見せる。どんな手を使ってでもな…!)
雨に濡れた窓ガラス越しに街を見るリッシュモンは苦々しげに歯噛みする。自分もそろそろ動かなくてはならない。
自分も例の場所へ急ぐとしよう。
そう思ったとき、リッシュモンの顔が、窓ガラスから入り込んだ雷の光によって照らされた。


その頃…姿をくらましたアンリエッタはというと…。
「すみません、私のわがままにお付き合いさせてもらうことになってしまって…」
安い木賃宿の一室にあるベッドに腰掛けていた。だが一人だけではない、フードを被った少し小柄の少年が傍においてある椅子に座り込んでいた。
「何言ってんだよ。俺は政治には興味もねぇし詳しくもねぇが、今回の一件はあんた一人のわがままで済む話とは言えねぇだろ。なんたって、裏切り者を成敗しなけりゃならねぇんだからな」
女王相手に、かなり軽い口調である。その素顔は暖炉の火の光からもフードで隠れて見えないが、アンリエッタが強く信頼を置いていることが伺える。。
「…えぇ、今回のきつねはかなり狡猾ですから。でも、レコンキスタはチュレンヌに怪獣を密売して内部から我が国を崩壊させ居ようとしていました。ここしばらく、トリステイン貴族の汚職が明るみとなっている以上、例のきつねももしかしたら…」
「それを考えたから、俺も呼びつけたって訳だな?」
「はい、お力を貸してくれますね?」
「…当然だぜ。俺も、連中の小ずるいやり口には頭にきてんだ」
フードの人物も、迷うことなく頷いた。
「…にしてもよ、その格好寒くねぇか?」
ふと、彼はアンリエッタの格好を指差して指摘を入れる。今のアンリエッタの格好、いつものドレス姿ではまずいので変装することになった。しかしその格好が…思った以上にきわどい。後ろ紙をポニーテールに結っている、化粧はやや濃いめにしたまではいいが問題は服装だった。シャツが本人の体のサイズに合わず、豊満な胸による谷間がくっきり見えてしまっている。
「ちょっと恥ずかしいですが仕方ありませんわ。平民のふりをして身を隠さねば成りませんから」
すると、ガタガタ、と扉のドアノブが動き出す。
「あけろ!非常時ゆえ、無理やりにでもこじ開けるぞ!」
アンリエッタ捜索に当たっていた兵たちの声だ。部屋には内側から鍵をかけていたのですぐに開けられなかったが、いずれ乱暴にでも開けてくるに違いない。いくら味方でも、ここで姿を見られてしまっては女王としての面目もそうだが、作戦が台無しになる。
「そろそろ時間ですわね。警邏の兵が来たようですわ」
アンリエッタは雨具用のフードを被って素顔を隠した。
「んじゃ、逃走劇の再開だな。誘拐犯らしくな」
「汚名を着せてしまっているというのに、どこか楽しそうですわね」
「そうか?ま、そう見えるならそうだろうな。なんたって俺は…」
それから数秒後のことだった。兵たちによって扉はこじ開けられた。しかし、そこには誰もおらず、開けっ放しの窓がさらされているだけだった。
「くそ、やはりここに…急いで後を追うぞ!まだ近くに居るはずだ!」



同時刻、サイトは、人目のつきにくい裏路地にてアニエスから事の事情を説明されていた。
「女王陛下は、レコンキスタに媚を売る裏切り者の貴族を特定することに成功なされたのだ。そやつがアルビオンに送りつけていた密偵を捕えて情報を聞き出したところ、劇場で、落ち合うことになっているというらしい」
「劇場!?もしかして…タニア・なんとか座でしたっけ?」
「タニアリージュ・ロワイヤル座だ」
思わぬ場所名を聞いて、サイトは声を上げる。アニエスは適当な地名を口にするサイトに軽く訂正を入れる。
『お前、世話になっている場所の名前くらい覚えとけよ…』
ゼロまでも突っ込みを入れてきて、サイトは『うるさい…』と心の中で言い返した。
「えっと…もしかして裏切り者を、いぶりだすため…ですか?」
「その通りだ」
ワルドの例もある。奴のせいで辛い思いをしたアンリエッタが、裏切り者なんか自分の手元に誰が置きたがるわけがない。しかしサイトにはまだわからないことがある。
「それはいいんですけど、何も女王様自ら城から離れて隠れなくても…かえって危ないじゃないですか」
「私もそう言ったのだがな、陛下は『鳥籠の中でお飾りの姫を続けるのはもうたくさん』だと仰って聞かなかったのだ」
本人ではなくアニエスの口から言い放たれた言葉だが、そこには確かな信憑性があった。アンリエッタはかつてゲルマニアとの同盟のために、愛するウェールズではなく、同盟のためにゲルマニアの皇帝と結婚するかもしれなかった。そして先日、ウェールズを利用した誘拐事件。周囲の者から自分が道具のように利用されることへの嫌悪感が取れた。
「元々、今回お前たちに話していた黒いウルトラマンの口実も、陛下が考えた口実なのだ」
「え!?じゃあ、ファウストが現れたって情報は…」
「あぁ、陛下が奴に浚われたという偽情報を流すためのデマだ」
「マジっすか…」
なんて嘘を思いつくのだろう、とサイトは思った。あのお姫様は。自分が浚われたふりをするために、そんな大仰な嘘をついてくるとは。
「じゃあ、街の一部が壊れてたのは…」
「あれはまだ復興が済んでいないだけだ。何せこの街は、たった一度だけの怪獣災害で過去にないほどのダメージを負わされた。それが二度以上も起こった上に、だからこうなってもおかしくない」
なるほど…そういうことか。しかし、あのお姫様は本当にお転婆な人だと改めて痛感する。
「役目を忘れないようにしろよ。今の陛下は、貴族に信用に値する者たちがほとんどおられぬのだからな。お前は口が堅そうだからこそ伝えたが、無論誰かに口外するようなことがないようにな」
「は、はい…わかってます。お姫様たちに迷惑はかけたりしたくないですから」
厳しい視線にさらされ、サイトはすぐに二つ返事で頷く。
「それでいい。それを聞いて安心した」
「でも、いくらお姫様一人じゃ危険です。護衛は居た方が…」
「いや、心配いらない。陛下は万が一に備え、ミシェルも知らないある護衛を引き連れている」
「護衛?」
護衛を引き連れているなら安心できるが、サイトはその護衛のことが気になった。さっきアニエスは、アンリエッタが貴族に信頼するものが少ないといっていたじゃないか。大丈夫なのかその辺りが不安である。
「それも問題は無い。お前も一度は会ったことがあるはずだ」
それも姫様がちゃんと信頼を置いていて、俺が知っている奴?そんな人間がいただろうか?
「さて、それはそうと、お前はミシェルに会いたがっていたな。何か用でもあるのか?」
「…はい。理由は詳しくはいえませんけど、俺、どうしてもミシェルさんに会わないといけないんです。絶対に」
アニエスははっきりと言ってのけたサイトの眼を見る。銃士隊の隊長に任命される以前の頃から培ってきた洞察眼から、相手が何を考えているかをある程度は察することができた。
「どのような理由で会いたがっているかは分からんが、彼女もいずれ尻尾を掴むことができる」
「ど、どういうことです?」
それは、ミシェルにいずれ会うことができるということを意味しているのか?
「ミシェルは、これから我々が捕まえる相手を崇拝しているからな。奴を守るために、彼女もまた劇場で変装して奴の傍に控えている可能性が高い」
「劇場…」
思えば、まさか自分たちが今夜公演を行うことになっている場所で、今回のアンリエッタの敵と戦うことになるのか。
「しかし、ミシェルからの報告で聞いたとはいえ、情報を集めるために劇場での世話になっているとはな。最初は一言私から何をしているんだと叱り飛ばすところだったが…まぁ、敵の動きもその場所にあるし、陛下が命じられた任務をお前たちなりに果たそうとしている心がけに免じて、今回は不問にしておこう」
「す、すみません…」
サイトは申し訳ない気持ちからアニエスに謝るが、彼もまたちょうどいいと思った。アニエスの言っていることが事実なら、ミシェルも自分の主を守るために劇場を訪れる可能性が高い。だとしたら…そこでウルトラゼロアイが取り返せるか、最低でも居所をつかめるチャンスをつかめるかもしれない。
(けど、信じたくなかったな…)
一方で、今回の裏切者の味方に、ミシェルが加わっていることが今でも嘘だったら…と思っていた。一度は共に戦った人だし、あの人なりに国を思って剣をふるっていた。そんな人がまさか…レコンキスタと内通している売国奴の部下だったなんて。
と、そのときだった。
「サイト、そこにいたのね!」
聞き覚えのある声。思わず身をこわばらせながらもサイトは振り返る。そこには、ルイズたち魔法学院の仲間たち全員がいた。
「はあい、ダーリン♪」
「ルイズに…みんなまで!なんでここに!?」
サイトの問いには答えようともせず、
「あんた…今夜が公演当日だってのに、よくもまぁこんなところで女の尻を追っかけられるわね!」
「は、はあ!?」
意味が分からないと声を上げるサイト。しかし、ハルナもルイズに続いて一歩前に出る。
「平賀君、はっきり言って。ミシェルさんのこと、どう思ってるの?」
「え?どうって…なんで二人がそれを気にしてるんだよ?」
さらに意味が分からない。なぜ二人までもがこうもミシェルのことを気にしているのだ?
キュルケはなにかを期待しているような荷や突いた顔を浮かべているし、ギーシュ・マリコルヌはどこか羨ましそうに、タバサは相変わらず我冠せずといった様子。レイナールとモンモランシーにいたってはやれやれ、と呆れた様子を見せている。
「さあ、サイト。答えてちょうだ…」
ルイズがさらに詰め寄って返答を求めたとき、アニエスが彼らの間に割って入って口を挟んできた。
「お前たち、無駄話はそこまでにしてくれ」
「何よアニエス。今から私たちは姫様を探さないと…」
そう、これから唯一ジャンバードを扱えるサイトの力を借りて、黒いウルトラマンに攫われたアンリエッタを探さなければならない。ルイズがアニエスの言葉を遮ろうとする。
「安心しろ。陛下はご無事だ」
「…え?」
即効で思わぬ発言を聞いたルイズは、思わず間の抜けた声を漏らした。
「今から今回の事情と、お前たちに陛下からの…真の初任務についての説明を行う。ここではまずい。劇場へ行く…」
とアニエスが言ったそのときだった。

「ッ!危ない!」

タバサが声を上げた。彼らの頭上から突然、窓ガラスが落ちてきた。すぐに杖を構えて吹き飛ばそうとするも、あまりに突然すぎて間に合わない。
「!」
咄嗟に二人を腕の中に抱えたサイトはすぐに後ろへ飛び退くも、雨脚でうまく着地できず、三人揃って地面に溜め込まれた水をかぶってしまう。アニエスの方は何事もなく落ちてきたガラスを避けた。
「大丈夫か!?」
ギーシュがサイトたちの安否を問いながら駆けつける。
「マリコルヌ、今誰かいなかったか?」
「み、見えなかったよ…」
もしや、誰かが狙ってきたのか?レイナールは頭上を見上げ、窓ガラスを落としてきた犯人を捜しながらマリコリヌに問う。しかしマリコルヌも犯人らしき人物の姿を目撃できなかった。
「危なかったわね…ウェザリーの発声練習の甲斐があったんじゃない?」
「……自分でも驚いた」
キュルケがほっとしながらタバサを見る。タバサはいつも通りリアクションが薄めだったが、自分でも驚くくらい大きめの声が久方ぶりに出せたことに戸惑いを覚えたほどだ。これもキュルケの言うとおり、ウェザリーの指導のおかげかもしれない。
「う…」
サイトが起き上った時、ハルナの口からうめき声が漏れる。
「ハルナ!?」
サイトはすぐハルナの姿を見る。雨水まみれなのは仕方ないが、彼女の足もとから血が流れおちている。転んだ拍子に、ガラスで足を切ってしまったのだ。
「大丈夫か、ハルナ!?」
「う、うん…平気…」
ハルナは心配の視線を送るサイトに頷いて見せる。急所を切ったわけではないので命にかかわることはなかった。
「このままだと跡が残ってしまうわ。モンモランシー、お願い」
「わかったわ。ハルナ、ちょっとじっとしてて」
「はい…」
ルイズからの頼みを聞き、モンモランシーはただちにハルナの足を魔法で治療し始める。
「この傷じゃ、ノエル役は厳しいわね。このまま劇に出ると足が痛んで舞台に支障がでかねないわ」
しかし、切り傷が思いの外深めに刻まれており、モンモランシーの治療で塞がり始めてはいるが、動き過ぎればまた傷が開いてしまう可能性が懸念されるほどだった。
「そ、そんな…!!せっかく稽古を頑張ったのに…」
それを聞いてハルナは、かなり落ち込んだ。ヒロインに選ばれたと聞いたときは緊張していたのだが、それ以上にケイン王子役であるサイトの相手になれたのが嬉しかった。だが…。なんてドジをこいたのだろう。仲間たちにも…サイトにも迷惑をかけてしまい、舞台に支障をきたすような怪我を負ってしまうとは。自分の鞄のことで
「平賀君、みんな…ごめんなさい」
「ハルナ…」
迷惑を次々と懸けて、いたたまれない表情を浮かべるハルナに、サイトは何か言わなければと思った。が、サイトが言う前にそんな彼女を気遣うようにキュルケが彼女の肩に手を添えた。
「落ち込まないの。足を怪我したのは残念だけど…」
それ以上は、大きな声では言わなかった。ハルナの耳元で、彼女にしか聞こえない小さな声で囁いた。
「だからってサイトがあなたから離れるわけじゃないでしょう?」
「キュルケさん……」
まだ落ち込みムードから立ち直りきれていないが、キュルケの優しさに触れたハルナ。サイトを狙っている恋敵であるはずなのに、こんな言葉をかけてくれるとは意外だった。少し、気持ちが楽になった。
「キュルケ、ハルナになんて言ったんだ?」
「それは…乙女の秘密よ」
「なんだよそれ…」
サイトに対し、人差し指を唇に当てるキュルケ。隠さないといけないことなのか?
すると、サイトの右腕に着けていたビデオシーバーから音が鳴った。ここから連絡を入れてくる相手は一人だけしかいない。
「シュウか!?」
久しぶりのシュウからの通信からだと思った。まさか、このタイミングで連絡が着くなんて!思い切ってビデオシーバーの蓋を開いてモニターの画面を見る。
が、違った。その内容は、あまりにも予想外な着信だった。















       ア レ ハ 警 告 ダ
















「…!?」
日本語で、それもバックが真っ黒な画面に、ちらつくように動く白い文字。あまりに不気味な演出で現れた、たった一言の文面に、サイトはぞっと背筋が凍りついた。
(警告…!?)
思わずサイトは、さっき窓ガラスが落ちてきた頭上を見上げる。だが、ここでおかしいことに気が付く。ここは確かに建物に囲まれている。だが…。
「妙だな。ここは…」
アニエスも、辺りを見渡して窓ガラスが前触れもなく落ちてきたことに妙な違和感を感じた。サイトたちがいる現在地点は、半径10数メートルの範囲内には二階建ての建物がなかったのだ。誰かが窓ガラスを蹴破ったのだろうかと思ったが、その予想さえも外れた。二階建ての建物が自分たちのすぐ近くにはないのに、落下してきたというのは、あまりにも不自然だった。
「サイト、どうしたのよ?」
「今のそれ…黒崎さんからの連絡でしょ?」
ルイズとハルナも、シュウから何かしらの連絡が来たのかと思ったがサイトが首を横に振った。
「い…いや、ちょっと誤作動を起こしただけだよ。気にしないで」
そう言って、何事もなかったかのようにビデオシーバーを閉じた。
(なんつー心臓に悪い着信だよ…)
しかし、内心ではたった今の謎の不気味な着信に対する動揺と、形のない恐怖を抱いていた。そして、これから先の自分に降りかかる未来に…強烈な不安を抱いた。

それから、ルイズたちも劇場に戻り次第、今回の騒動について説明されることになった。ルイズは不満を漏らしていたが、これもアンリエッタからの任務だと思って飲み込むことにした。
「あ~あ、まったくもう、銃士隊の隊長さんは空気が読めないわね…」
キュルケはというと、いつもの修羅場的展開に期待をしていたのだが、残念ながら野暮が入ってしまったことで今回は見送りとなったことにちょっと残念そうにしていた。

 
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