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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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雨夜-レイニーナイト-part4/悲劇の序章

 
前書き
ついにゼロ魔が完結!そう聞くとなんだかさびしいものがありますね…
少しでも今回のお話を楽しみつつ、それが紛れたらなんて、自分でも差し出がましいことを考えてたりします。

では、どうぞ。 

 
その夜…。
サン・ミレ聖堂の11時を示す鐘が鳴り響いた。
予定通り…とは少し違ったが、リッシュモンも予定の時間通りタニアリージュ・ロワイヤル座へ来た。
「今宵お集まりの皆様、今夜は…」
彼が来た時点で、すでにサイトたちが執り行うことになっていた劇は始まっていた。今はジェシカが演劇の開始前の挨拶を、観客たちを相手に行っている最中だった。座席に座るリッシュモン。隣の席はまだ空いていた。
(…)
アンリエッタが黒いウルトラマンに突然誘拐されるという事態は想定されていない。そんな非常事態も知らず、この劇場に集まった人たちは今夜の演目を楽しみに待っている。客の大半は女性だが、その中には何人が男性も混ざっている。
だがリッシュモンは劇を見に来たわけではない。密談の約束を果たすためである。
例のアルビオンからの間者はまだ来ていない。さっさとこないか、苛立ちながらもリッシュモンは待ち続けた。
そう思っている間に、『双月天女』が始まった。
「ノエル王女、ぜひこの私めとご結婚を!」
さて、ウェザリーによって選ばれたノエル王女役。ハルナは足の負傷が原因で今回の舞台に参加することができなくなってしまった。
よってノエル王女役は…。
「ごめんなさい。私はあなたと結婚することはできません」
「ですが、あなたはこれまでどれほど噂に名高い方々との結婚を拒まれる。その理由をお話成されぬのなら、諦めようにも諦めきれませぬ」
ルイズが抜擢された。以前、サイトとの舞踏会で来ていたように、ウェーブのかかったピンクブロンドの髪をポニーテールで結い、衣裳も見た目はあの時のドレスにも引けを取らない気品にあふれたドレスを着ている。
ちなみに今の求婚者の役はレイナール。彼もまた立派な貴族用の紳士服を着ている。
今は、ノエルが求婚者の一人から結婚を迫られ、それを適当な約束であしらう一場面だ。
「では、こういたしましょう。私は実は、あるものがほしいのです」
「ほしいもの、とは?」
「かつてここから遥か東方にある大地には、古代文明が遺した空を飛ぶ乗り物があるという話を聞いたことがあります。それは竜よりも早く飛び回り、昼時でも流星のように輝くことから『銀色の流星』と呼ばれておりました」
「それを、見つけてくれたら、私とご結婚してくださるのですね」
「はい。約束いたしましょう」
「では、さっそく探しにまいりましょう!」
レイナールの演技も、悪いものではなかった。彼もまた貴族としての面目を気にしていたことから演劇に参加することを渋っていたがmこれもウェザリーの指導のたまものだろう。
「はあ、毎日毎日こう言い寄られ続けると嫌になるわ…」
ルイズの演じるノエルはため息を漏らしながら、バルコニーから外の景色を眺める。これまでノエルは何人もの求婚者と対面しては追い払っていた。ノエルには、人には言えない重大な秘密がある。それは、彼女は元々敵国の王の隠し子であるということ。幼い頃権力争いから逃れるために、敵国にわざわざ逃れ、老貴族夫婦に拾われたこと。もし自分の正体が明るみとなったら、あの求婚者たちも自分を憎悪の対象とするだろう。そう思うと結婚などしたくてもすることができない。
だが、そんな彼女だが自分の想いをどうしても抑えられない相手がいる。
一人のメイドがノエルの部屋を訪れてきた。ちなみにそのメイド役はモンモランシーである。
「ノエルお嬢様、ケイン王子がご来訪ならいましたわ」
「け、ケイン様が!?わかったわ、お通しして」
その国の王子、ケインだ。彼は聡明で民を強く思う、まさに王族の鑑といえる将来有望の王子だ。
ケイン王子は予定通り、サイトが演じていた。
ケインはノエルの部屋を訪れると、ノエルの傍に寄ってくる。
「その顔、もしや悩み事かい?」
「…ッ。すぐお分かりになるのね」
それからノエルは、毎日自分に言い寄ってくる求婚者の対処に苦労していることを明かした。とりあえず無理難題をその場で考え、そして帰させる。
「しかし、君も意地悪だな。ありもしない財宝を探しに向かわせることで、結婚を諦めさせるとは」
「私は好きで嘘をついているわけではありませんわ…ただ」
「ただ…?どうしたんだい?」
「…いえ、なんでもありません。それよりも、あなたも私のことをいい加減諦めたらどうなのです?」
「そうだな。君が僕のことを嫌いだとはっきり言ってくれれば諦めるさ」
「…そんな酷いことは言えませんわ。いくら相手が意中の方じゃないとしても言い方というものがございますもの」
サイトの演技は素人にしては、ちゃんと自分の役に徹している一生懸命な若者の姿だった。少しでも王子らしく見えるよう徹底された稽古を受けたものだ。
(…ふふん、サイトにしては頑張ったじゃない。最初と比べて佇まいが様になっているわ)
本物の貴族であるルイズたちからも手ほどきを受け、あまりに慣れない行為に体が悲鳴をあげそうになったほどだったのは記憶に新しい。
(それにしても姫様、大丈夫かしら…)
二人は演技中、あまり目立たないように時々視線を客席の方に向けていた。
アニエスが言った通りなら、今頃アンリエッタは客席にいる。そして自分と同じように客席で構えている裏切り者をその目で確かめようとしているはずだ。当然銃士隊のメンバーが客に変装して彼女の周りを警護しているし、アニエスからこのことを聞いたルイズたち魔法学院の生徒及びUFZのメンバーたちも構えているが、万が一のこともある。
(アニエスさんからの話だと、銃士隊の他にももう一人、俺たちの知っている奴が護衛に着いてるって聞いてるけど…)
そう思うとそわそわしてしまうが、今は演劇の途中だ。あまり不自然な動きをとると怪しまれてしまう。
それにサイトにはもう一つ気になることがある。
(ミシェルさん…)
ゼロアイを盗んだ容疑者…ミシェル。彼女もここにいるのだろうか。
客席のどこかにいるアンリエッタや裏切り者たちを念頭に置きながらの演技は、結構気を使うが、だとしても台無しにするわけにもいかないので二人は精神面でのキツさを堪えつつ演技を続けた。


その頃の舞台裏は…。
「ふぅ、ハルナちゃんが足を怪我したって聞いたときはひやひやしたわん」
次の出番を控えた者、すでに役割を終えた者など、たくさんの共演者たちがそこからサイトとルイズの演じる、王子と姫の場面を眺めていた。
「すみません、ウェザリーさん、スカロンさん」
「突然のアクシデントは役者にはつきものよ。なってしまったものはしかたないわ、気にしないで」
ウェザリーは、謝ってくるハルナに気にしないように言う。
「それよりも、見守ってあげなさい。あなたの分も頑張っているあの子たちを」
「…はい」
ウェザリーに言われた通り、ハルナは自分に代わってノエルの役に徹するルイズと、その相手となっているサイトの姿を目に焼き付けようと、舞台の続きを見る。
双月天女。その内容は、まるで『ロミオとジュリエット』と、『かぐや姫(竹取物語)』の二作品が組み合わさったかのような物語だ。ハルナは、これら作品自体は決して嫌いとは思わない。でも、現実でその二作品のヒロインのような結末はたどりたくなかった。前者は実家が対立していることが要因で愛する人とは結局死別、後者も地球から主役であるかぐや姫が去ってしまうという結末。後味が悪い結末という共通した点があるからだ。
自分の場合は、大好きな人と、サイトと一緒になりたいという願望が強かった。死別とか離れ離れだなんて、もうたくさんだ。だから、本当に帰れるかどうかの不安こそあるが、必ずサイトと一緒に地球に帰ると誓った。
「それにしても…」
ハルナは客席の方にも視線を寄せた。アニエスの話だと、トリステインを売ろうとする売国奴をここで逮捕するという。だとするとこの劇も途中で止められてしまうだろう。
まだウェザリーにはそのことまでは話していない。知られたらきっと反対するからだ。
(後で怒って、鞄のことなかったことにするなんてことないよね…?)
皆が自分の鞄を取り戻すことに力を貸してくれたのだ。もちろん、舞台のこともせっかくだから成功させたいのだが、その辺りもまたハルナは不安だった。しかし時計の針を今更戻すことはできない。せめて、誰も悪い結果にならないことを祈ろう。


だが、その夜はある一つの悲劇が…展開されることになる。


サイトたちが双月天女を続けている間、客席にて待っていたリッシュモンのもとに、ようやく彼が待ち望んでいた人物と思われる男が現れる。
「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
「いやはや、もうしわけない閣下。だが、そちらも手こずらされたようで」
現れた男は、シルクハットを被った色白の妙な男だった。その雰囲気はどことなく怪しい。リッシュモンはこの男がカタギではないことを察した。
「…あの小娘が、すでにわしの動きを見抜いていたとは思い難いが手を焼かれたのは事実だ」
苦々しげに、男に対してリッシュモンは愚痴をこぼす。
「しかしこれはどういうことだ。なぜアンリエッタが姿を消した?」
そういったとき、男に向けてリッシュモンの鋭い視線が突き刺さる。男はとぼけたように首を傾げている。
「なぜ私に聞かれるのだ?」
「わしは圧倒的力を手にした貴様ら(レコンキスタ)こそ勝者となると予想し、わしの財をよこしてやったのだ。わしの身の安全を貴様らが保証するとの約束を忘れたわけではあるまい」
「ええ、もちろん。ですがおっしゃる意味がわかりませんな」
「わしは今回のアンリエッタの失踪が、わしにも知らされておらん貴様らの独断ではないかと見たのだ」
「とんでもございませんな。我々はあなた様からアンリエッタ姫の身柄と、ウルトラマンゼロの変身道具を奪うように頼んだだけです。約束を破ろうなどとは思っておりませんよ」
ゼロの変身道具を奪え。そんなことを言えるのは、普段のウルトラマンゼロが人間の姿で息をひそめていることを知っていなければ言えないことだ。だが、リッシュモンの内通相手はレコンキスタ、そしてそのレコンキスタのバックにいるのは…ハルケギニアと比べ圧倒的な文明力に富んだ星人と、奴らとのコンタクトを可能としたシェフィールドがいる。ゼロの正体も、突き止めていてもおかしいことはない。おそらく、この男もまた…。
「本当か…?だが、黒い巨人の目撃情報は流れている。そして黒い巨人は貴様らとは密接な関係にあるのでは?」
「そのようなことをおっしゃるとは、リッシュモンどの、我々が信頼できぬということですかな?」
「そんなことは言っておらぬ…!それよりも、約束のものの一つは持ってきておる。それと引き換えに、例のものを渡してもらう」
「そうですな。姫など、我々の手にかかれば代わりが効きます。ウルトラマンゼロさえいなければ、こんなちっぽけな国、一瞬で潰せますぞ」
「それを期待できるほどの怪獣を用意したというわけだな?」
「もちろん」
「よかろう…、おい。あれを」
「はっ」
リッシュモンは、男とは反対側の座席に座っている人物に命令する。そこにいる人物は深々とフードをかぶった女だった。彼女は胸元部分が切り開かれた服から露わになっている谷間に手を入れる。男なら…特にオスマン学院長やギーシュほどのスケベ男が見れば扇情的な光景だが、リッシュモンたちは今はそんな光景を見ても今はそれど頃じゃないので興奮していない。彼女が胸元から取り出したそれは…サイトが捜していたウルトラゼロアイだった。
「約束通り持ってきてくれたようですな。では…」
男もまた、懐からあるものを取り出す。それは、手のひらに載るほどの小さなカプセルだった。それを見てリッシュモンは目を細める。
「なんだこれは?」
「我々の技術をもってすれば、このような小さなカプセルの中にも怪獣を閉じ込めておけるのです。」
「ほぅ?にわかには信じがたいが」
そのカプセルを手に取って怪しむリッシュモンだが、男は続ける。
「なんなら、今ここで試されてはいかがかな?女王は姿を消した状態。そしてウルトラマンゼロは変身ができない。なれば、今が好機」
なんと、いっそのことここで試してしまえと勧めてきた。だが奴の言うとおり、リッシュモンにとって最大の邪魔者となるであろうウルトラマンゼロはおらず、もう一人噂されているウルトラマン…ネクサスも現在シェフィールドが行方不明であることが分かっている。そしてアンリエッタもまた行方知れず。なれば…計画通り、この故郷から受け取った怪獣で町を適当に破壊させ、自分の財力でわざとトリスタニアの町を再建し民衆からの信頼を獲得、さらに自分はトリステイン国内で上の立場に上り詰めていくことができる。いずれ内部からトリステインを乗っ取り、アルビオン=レコンキスタとの連携を強め、この国を支配できるのだ。
シルクハットの男にとっても、リッシュモンの持つ財力は魅力がある。奴はトリステイン国内でも莫大な財力の持ち主であることがわかっている。そんな立場の相手から高い金で怪獣を売りつければ、がっぽり儲かることができる。ゼロや女王という邪魔者がいない今がチャンスだった。
「そうだ。閣下、もう一つサービスを加えてやってもよろしい」
「うん?」
シルクハットの男はにやっと嫌な笑みを見せ、リッシュモンに新たな話を持ちかける。
「噂になっている虚無の担い手…その娘がここにいるとお聞きしています。彼女も加えてお支払するのなら、もう一体おまけで差し上げますぞ?
この怪獣は自慢の一品でしてな。たとえウルトラマンが相手であったとしても…」
そういって男は、さらにもう一つのカプセルを見せる。その中にはおそらくもう一体の怪獣がいるのだろう。
「ふふ、虚無の担い手だろうが、所詮たかが小娘一人。簡単よ」
ぜひとも手に入れたいと思ったリッシュモン。さらにもう一体いればもはや自分に敵などいない。
しかしその時、二人のすぐそばから突然突風が飛び、リッシュモンと女の手に握られていたカプセルとゼロアイが宙を舞った。
「な!?」
「お話しは聞きましたわ、リッシュモン高等法院長」
その声に、リッシュモンたちは反射的に背後を振り返る。そこにはリッシュモンの傍で控えている女と同じようにフードを深々と被った少女がいた。彼女は立ち上がり、そのフードの下の素顔をあらわにする。
「へ、陛下!!?」
そこにいたのは、なんとアンリエッタだった。さすがにリッシュモンを目を丸くし、彼の隣にいた女とシルクハットの男も驚く。
「どうやら私の策が効果を表したようですわね。街を数件にも渡って荒らす黒いウルトラマンに私がかどわかされたと偽情報を流し、私が姿を消せば、あなたはレコンキスタの者との接触の予定をずらさねばならないと見ました。狡猾な狐も慌てれば尻尾を出す…本当だったようですね」
「なるほど…すべては私をいぶり出すための作戦だったというわけですか!」
驚きはあるが、それでもリッシュモンは邪気のこもった不敵な笑みを浮かべていた。敵なら見事とは思っているのかもしれないが、自分の行ってきた、そして行おうとしていた悪行にまるで詫びれる様子がなかった。それは、アンリエッタに失望の念を強めさせた。
「あなたは幼いころから、王室に貢献してくださいました。私もかわいがってもらいました。ですが…王国の権威と品位を守るべきあなたもまた、この国の平和を脅かす侵略者に手を貸す売国奴だったとは」
小さい頃、ルイズと初めて友達になったころから、アンリエッタはこの男を知っていた。そして祖父と孫のように親しく接した頃もあった。だがそれは…幻だったのだ。
奴は、この場で侵略者から買い取った怪獣で町を破壊しようとした。そして悪質なマンチポンプで権力をさらに高め、この国を…。その事実が、アンリエッタの心を固めた。
「売国とは心外ですな。わしはこのトリステインをあるべき姿にしようとしたまでのこと。つまり、我々が行おうとしていることには正義があるのですぞ。あなた様も、私のことを調べる際に腐るほど知ったはずでは?」
全く詫びれもせず、自分には大儀があることを主張するリッシュモンだが、それでもアンリエッタの視線は冷ややかだった。確かにこの男が言うように、今のトリステインにはまともな貴族らしい貴族は減少傾向にある。平民を見下し、自分の権力と財産に胡坐を掻くものだらけ。魔法衛士隊で功績を上げてきたあのワルドでさえ非道な裏切りで、アンリエッタにとって大切な二人の人間を殺そうとしたほどだ。
だが、だからと言ってこの男が口にした『正義』という言葉を全く信用できない。できるわけがないのだ。
「リッシュモン、あなたを罷免します。そこのお友達二人とも共、逮捕されなさい」
だが、リッシュモンは動じない。
「ふん、甘いですぞ陛下。わしがこのような事態を予想しなかったとでも?」
彼が席を立つと同時に、バッ!とリッシュモンの周りに武装した男性兵士たちが、さっきまでのお客の姿から一瞬にして姿を変えた。思った通り、客に紛れ込んで奴の部下が入り込んでいたのだ。
そのなかには…アニエスやサイトが予想していた通りだった。
ミシェルがリッシュモンのすぐ傍でその顔をあらわにした。
「ミシェル…やはり」
アンリエッタは、銃士隊にまでスパイを潜り込ませていたリッシュモンの用意周到さに、彼の狡猾さを痛感した。
「今度はあなたを人質にとり、アルビオンへの亡命切符とさせていただく。少々予定が狂わされましたが、わしの喜劇は大団円で終わるのです」
ニタッと笑うリッシュモン。でも、怯むわけにいかない。
「あいにく…私はこのような猿芝居ではなく、悲劇が好みなのです」
アンリエッタが立つと同時に、彼女の周囲にいた、客に変装していた銃士隊の隊員たちが剣を取って立ち上がった。
「陛下をお守りしろ!」
「「「「はっ!」」」」
「アンリエッタを斬れ!」
「「「はっ!」」」
銃士隊とリッシュモンの兵士の交戦が始まった。


「姫様!」
「ギーシュ、デルフを投げてくれ!」
もはやここまで来ては、舞台などやっている場合ではなかった。ルイズも常備していた杖を取り、サイトは舞台裏にいる仲間に向けて叫ぶ。わかった!との叫び声でギーシュがサイトにデルフを投げ渡す。
「平賀君…!」
ルイズは詠唱を開始、サイトは舞台から飛び降りて銃士隊たちの加勢に入った。ハルナは舞台裏からそれを見送るしかできなかった。
「どうやら、やっと私たちの出番みたいね。行きましょう、タバサ」
「(…こく)」
だが参戦するのはサイトたちだけじゃない。無頼裏に控えていたキュルケやタバサも杖を手に取ってさっそく詠唱を開始した。


「ちょっと、これはいったい…」
不測の事態に、ウェザリーは混乱しているようだ。自分の劇の途中で、まさか女王と高等法院長の争いが始まるとは。
「ウェザリー、あなたはハルナや妖精亭たちの皆と一緒に下がっていてください!マリコルヌ、彼女たちを頼む!」
「ま、待ってくれよ!」
慌てるマリコリヌだが、結局置いてけぼりにされてしまい、やむなく舞台裏の妖精さんたちやウェザリーたちの警護に回された。
「サイト、僕も加勢するぞ。モンモランシー、君はここで」
「ギーシュ!」
ギーシュもまたモンモランシーに一言声をかけたのち、戦いに参戦するのだった。


「お覚悟、陛下!」
リッシュモンの兵の一人となったミシェルが、アンリエッタに向けて杖を振り下ろしてきた。奴の杖はレイピアの形状を取っており、魔法『ブレイド』を使って剣と同じ用途が可能となっていた。これがアンリエッタに当たれば、彼女の体は切り裂かれてしまう。
だが彼女は身構えはしたが動じなかった。直後に、彼女を守るべく、一つの影がミシェルに向けて飛んできて、彼女を蹴飛ばした。
「だあありゃああ!!」
「な…がは!?」
客席に激突するミシェル。彼女と入れ替わるように、新たなメイジたちがアンリエッタの首を取ろうとするが、彼女の前にさっきミシェルを蹴飛ばした人影が現れ懐から一本の棒を取り出す。その男は、その棒を扇風機のようにぶんぶんまわしながら、アンリエッタに襲いくる兵たちを次々と叩きのめしてしまう。
「な、なんだと…」
壁や床にたたきつけられたメイジたちを見て、リッシュモンは驚く。たかが棒術ごときに、自分の護衛を勤めさせていたメイジたちを圧倒するとは。
「おいおいおい、その程度でこのお姫さんを討ち取るつもりだったのか?呆れるぜ」
フードの男がその素顔を見せる。灰色の髪と褐色肌の、少し小柄な少年だった。
「ぐ、グレン!?」
ちょうどリッシュモンの配下の一人と鍔迫り合いをしていたサイトは驚く。
そう、今回アンリエッタの護衛を勤めていたのは、ラグドリアン湖にてウェールズの眠りを見守ってきた、炎の空賊団の用心棒グレンだったのだ。
「グレン、ありがとうございます」
「いいってことよ。ウェールズの未来の嫁さんを傷物になんざさせられねぇからな」
ニカッと笑うグレンに、アンリエッタは少し頬を染めながら「意地悪な方ですね」と笑みを返した。
「ぬぬぅ…何をしておるか!あのような小娘と小僧ごときに!早く殺してしまえ!」
まだ生き残っている、戦闘が続行できる部下たちに向けてリッシュモンは苛立ちを募らせ怒鳴り散らす。
リッシュモンの兵たちは全てがメイジだった。あらかじめ詠唱を完了させていたのか、銃士隊の隊員たちも平民の女性とはいえ、彼らに引けを取らなかった。詠唱よりも早く銃声が鳴り響き、撃たれたメイジたちは信じられないと言っているような絶望の表情を浮かべ、絶命していった。彼らの中にはまだ、魔法を扱えるメイジは平民の使う銃や剣よりも強しと考えていたのだろう。その油断が命取りだった。
さらに、ダメ押しにサイトたちもいる。
「フレイムボール!!」「ウィンディ…アイシクル」
キュルケとタバサ、二人のトライアングルクラスのメイジ二人組の魔法がリッシュモンの兵たちに大やけどや凍傷をが残るほどのダメージを与える。
「エクスプロ―ジョン!」
そしてルイズもまた、魔法でリッシュモンの兵を吹き飛ばす。
「行け!僕のワルキューレ!女王陛下を裏切った逆賊に天誅を下すんだ!」
ギーシュのワルキューレが数体、リッシュモンの兵たちに襲いくる。しかし、まだ未熟なせいか、最初こそ兵たちを足止めするくらいの善戦を見せたワルキューレたちを砕かれてしまうこともあった。
「ドットメイジの小僧ごときが…!死ね!」
「う、うわ…!」
その兵の剣がギーシュに振り下ろされかけたときだった。
「ウィンドブレイク!!」
バァン!!と一発の風の衝撃が起こり、ギーシュを殺しにかかった兵は吹き飛ばされた。
「しっかりしろギーシュ!」
「うぅ…」
今の魔法はレイナールのものだった。彼に一喝され、ギーシュは少し気落ちする。まだまだ修行が足りないと痛感した。


無関係の客たちは突然劇場が戦場となったことに驚き、恐怖し、劇場から流れるように逃げだした。
その中には、リッシュモンに怪獣を売ろうとしたあのシルクハットの男も混ざっていた。
だが、それを逃がすまいと何者かが彼の肩を掴む。
「お前か、あの男に怪獣を売ったのは」
シルクハットの男が振り返る。自分の肩をつかんできた者の正体は、ジュリオだった。
「ぐ…離せ!」
男はジュリオの腕を振りほどく。しかし、ジュリオはその男を逃がすまいと、男に向けて鋭い拳を放つ。それは、訓練された兵士にも引けを取らない、すばやく且つ鋭い一撃だった。男の顔面を殴り飛ばし、壁に激突するシルクハットの男。
しかし驚くべきなのは次だった。男は壁に激突した途端、その男の姿が、人間のそれとは大きくかけ離れたものとなった。型崩れしたような頭と、奇怪な模様を体に刻んだ怪人となった。
「おのれ…この怪獣バイヤー『チャリジャ』さまの邪魔をしおって!この星で怪獣を売りさばいてひと稼ぎするチャンスを!!」
チャリジャと名乗った怪人は、手に持っていたステッキをジュリオに向けて邪魔をされた怒りをぶつける。
このチャリジャという異星人は、その異名どおり怪獣を売りさばいて稼ぐのを生業としたとんでもない異星人なのだ。ウルトラゼロアイの強奪をリッシュモンやミシェルに頼んだのも、こいつがレコンキスタの裏に隠れた星人たちにウルトラゼロアイを高く売りつけるためである。そうすれば邪魔となるウルトラマンの一人を潰すことができる上に、自分もそれに伴ってレコンキスタから功績を買われて商売しやすくなる。だが、チャリジャは読みを誤った。ウルトラマンだけにターゲットを絞ったのが間違いだった。
「黙れ」
今の、重くドスのかかった言葉はジュリオの口から放たれた。
「…君たちのような、『世を乱すだけのゴミ星人』共は僕が殺してやる。一人残らずな」
普段の穏やかさと軽さを備え持つ彼からは想像もつかない、激しく鋭い殺気に満ちた視線が、チャリジャに突き刺さる。彼に見ほれていた女性たちがこれを見ていたら、ジュリオへの憧れが一瞬で恐怖に染まっていたに違いない。
怪獣や星人によって平和を脅かされた怒りは誰にでもある。だがジュリオのそれは、どこか異常にも思える。なぜ、彼はこんなにもさっきの籠った眼をチャリジャに向けるのか?
「ふ、ふん!そんな凄味のある視線で睨んでもちっとも怖くないぞ!来い!ヤナカーギー!!!」
チャリジャはジュリオの殺気に圧されかけるも、虚勢を張って持ち直し、手に持っていた杖を床に突き刺す。
その時、大きな地震が雨の中のトリスタニアで起こった。街の外の地面が地割れを起こし、その中から一体の巨大な怪獣が姿を現した。
「さぁ、私の手で復活した『宇宙恐竜ヤナカーギー』よ!共に大暴れしようぞ!」
「ニャアアアアアアアアア!!!」
凶暴な風貌の割に、野太い鳴き声の猫ような咆哮を上げた。
(やっぱり、万が一に備えて怪獣をひそめていたか)
ジュリオはヤナカーギーを見上げながら、目を細める。
だが、関係ない。現れた敵は倒してしまえば問題ないのだから。
ジュリオは、懐から怪獣を操るアイテム『ネオバトルナイザー』を取り出し、天に掲げると、一枚の光のカードが射出され、『古代怪獣ゴモラ』となって地上に降り立った。
「…行け、ゴモラ。奴を殺せ」
「キシャアアアアアアアアア!!!」
ジュリオの殺気に応えるように、ゴモラは獰猛な方向を上げながらヤナカーギーに突進した。



(くそ、確かゼロアイはこの辺りに落としたはず)
サイトは劇場の戦いの中で、戦いの中をかいくぐりながらリッシュモンたちが落としたウルトラゼロアイと、怪獣が閉じ込められているカプセルを探した。だが、周りは戦いの最中。この中で探し物を見つけるというのは非常に困難を極めた。カプセルも回収しなければならない。あれもまたこの町に災いをもたらしてしまう。傷だらけのこの町にこれ以上ダメージを与えたくない。
「死ね!」
「な!?くそ…!」
兵の一人がサイトを襲う。彼もまた応戦せざるを得なかったが、すでに腕を上げつつあるサイトの敵ではなかった。
「この、どきやがれ!!」
「ぐああああ!!」
サイトが峰打ちをその兵の脳天に打ち込むことで一発KOさせ、再びゼロアイを探し回る。
だが、突然サイトは突き飛ばされてしまう。
リッシュモンと、彼を連れたミシェルだった。その手には、すでに一度落としていたゼロアイと怪獣カプセルが握られていた。
(しまった…またか!!)
自分より先に、すでにゼロアイとカプセルを回収されてしまっていたとは、もっと迅速に動くことはできなかったのか!と自分の甘さを呪った。
「どけ!さあ、ご主人様、こちらへ!」
ミシェルは風魔法の壁を自分とリッシュモンの周囲に巻き起こし、近づくものを決して寄せ付けない。そのまま自分の主を連れたまま
「待て!」
「ッ!相棒!!」
ここでミシェルたちを取り逃がすわけにいかない。サイトも彼女の後を追おうとするが、デルフの声が轟くと同時に、またしてもリッシュモンの兵の生き残りが襲いかかってきた。
「この平民の小僧が!!」
「ぐぅ…!邪魔すんな!」
かろうじてその一撃をデルフで受け止め、サイトはすぐに峰打ちで目の前の男の脇腹に一撃お見舞いした。バキィ!と骨をへし折る音が響いたがサイトは気づかなかった。そんなことよりもミシェルたちの方が気がかりだった。
自分がメイジと剣を交えている間に、ミシェルとリッシュモンは舞台の上に立っていた。だが、そこにはすでにルイズが待ち構えていた。
「リッシュモン、杖を置きなさい。さもないとこのヴァリエールの魔法があんたを倒すわ!」
すでに虚無の詠唱は完了していた。いつでも奴に向けて
リッシュモンはルイズのこともレコンキスタから聞いている。あの小娘こそが奴らが求めている、伝説の系統『虚無』の担い手だと。あのような小柄な小娘ごときがそんなたいそうな力の持ち主だとはにわかに信じがたいく思っていたが侮ると今以上に痛い目を見るだけだ。
「往生際が悪いですよリッシュモン!ミシェルもおやめなさい!その男に手を貸すというのは…!」
アンリエッタが二人に向けて叫ぶ。
「そうだそうだこの腐れ爺!おとなしく縛につきやがれ!」
グレンもアンリエッタに続いて怒鳴り声を散らす。
リッシュモンの取り巻きたちもすでに銃士隊やUFZによって討ち取られたか逮捕されており、リッシュモンに今力を貸すことができる味方はミシェルただ一人だ。そして今彼らは、銃士隊の隊員たちやルイズたちから、銃口と杖の先を向けられていた。その気になれば一斉攻撃も可能だ。
「ミシェルさん、おとなしく降参してください。もう俺たち全員の武器はあなたたちに向いています。今ならまだ、罪を償える…」
サイトもまた、デルフの剣先をミシェルとリッシュモンの二人に向けた。この人からは裏切られ、しかも自分たちの命の欠片でもあるウルトラゼロアイを奪われた。だがそうだとしても、サイトは一度仲間でいてくれた人が、実は敵だったかってすぐに剣を振り下ろせるほど非情にはなれなかった。せめてミシェルにはここで引き返してほしかった。
「お前は…甘いな」
だが、ミシェルはその要求を拒んだ。忠誠を誓う主の前で飲み込める話ではなかった。もちろんサイトだって、頭では分かっていたことだ。だがそれでも、言わずにはいられなかった。
「ふん…バカな小僧だな。この女はわしが召し抱えた者よ。そんな安っぽい言葉などで傾くものか」
リッシュモンはサイトのミシェルへの説得を聞いていたが、心底不快感を催すような言い方で吐き捨てた。それを聞いてサイトは怒りを覚える。こんな男になぜミシェルさんが…と。自分が守ってきた人間に、こんな外道が混ざっていたとは。
そんなサイトの敵意を向けた視線を無視して、アンリエッタの方へ視線を向けた。
「しかし陛下、見事なご成長…このリッシュモン、嬉しく思いますぞ。そんなあなた様に、幼いころから助言した私からの最後の助言です。あなたは…」
彼は手に持っている杖で軽く床を小突いた。
「昔から、詰めが甘い」
その時だった。ちょうどリッシュモンとミシェルが立っている床が、パカッと開かれた。
「「!!」」
全員誰もが目を見開いた。そこはなんと、地下へ続く隠し通路だったのだ。
「ま、待て!!」
サイトは一気に駆け出し、自分もまた穴の中に飛び込んでいった。
「サイト!」「ひ、平賀君ッ!」
それを見たルイズや足の怪我を無視したハルナも後を追うが、彼女がたどりつく直前で隠し通路の入口は閉ざされてしまう。
「ルイズさん!」「ルイズ!!」
仲間たちが一斉に駆け寄る。ギーシュがワルキューレを数体召喚し、その入り口をこじ開けようと試みるが、扉が全くびくともしなかった。
「この、開けやがれごらぁ!!」
グレンが乱暴に、棒でその扉を誇示上げてようとするも結果は変わらなかった。
「だめ。強力なスクウェアクラスの魔法が仕掛けられてる」
タバサが開かない理由を言った。
「おそらく高等法院長は、あらかじめ自分がどこからでも敵の手から逃げられるように通路を確保していたんだ…くそ!」
レイナールは悔しげに歯噛みする。
「なんてこった…僕たちの国の上層部に、あんな人がいたなんて…」
マリコルヌはショックを受けていた。自分たちの国に、売国奴がいた。それも怪獣を買い取り、マンチポンプで周囲の信頼を勝ち取ろうという非道な手段さえも用いようとした男が、自分たちの上に立っていたなんて思いたくなかった。
「…」
アンリエッタは唇を噛みしめ、全員に向けて叫んだ。
「出口と思しき場所を探しなさい!」
だが、その時だった。銃士隊の隊員の一人がひどくあわてた様子でアンリエッタのもとにはせ参じた。
「た、大変です陛下!外に怪獣が現れました!!」
「なんですって!?」
このタイミングで怪獣が現れるとは。なんて不運だ。
ちょうどこのとき、チャリジャの手によって怪獣ヤナカーギーが外で暴れだし、それに応戦してジュリオがゴモラを召喚したときだった。
「陛下、ご指示を」
「ッ…仕方ありません。これより民衆の避難誘導を優先して行動しなさい!リッシュモンのことは二の次としなさい!」
「はっ!全員、駆け足!」
命令を聞き入れた銃士隊の隊員たちは直ちに町へ繰り出した。アンリエッタは、今度はグレンの方を見やる。
「グレン、外でジュリオさんがご自身の怪獣を使って町を守ってくださっているはずです。力を貸してあげてください」
「あいよ。あの糞爺は俺の手でぶちのめしてやりたかったが…しゃーねぇ、世話になったお姫さんの大事な民を無視できねぇし、行ってくるぜ!」
リッシュモンを捕まえられなかったことを悔しがりつつも快く引き受け、外に飛び出していった。
「しかし陛下、いつの間に彼を召し抱えていたのですか…?」
思えばグレンがこのトリスタニアに来ていたことは誰もしなかったこと、全員がそうだったが、ギーシュが思わずその疑問を口にする。
「この国には、既に裏切り者が何人か存在しております。その容疑者の中には、ミシェルも混ざっておりました。アニエスが調べたところ…彼女もまた没落した貴族の一人だったのです」
「ミシェルが!?」
平民の女性で構成された部隊の副隊長であるミシェルが、実は貴族だった。それはルイズたちにとって衝撃的事実だった。
「それをアニエスから聞き、私は他にもさらに裏切り者が、それも私のすぐ近くにまで値を広げていると考え、アニエス以外には時が来るまで一切今回の作戦のことは口外しないように伝えていたのです。もしかしたら、ミシェルも…と予想して」
ミシェルが元々没落した貴族でありながら、アンリエッタの近衛兵として召し抱えられた。返り咲いたともいえるだろう。だが一度没落した貴族がトリステインで再び成功した例などまるでない。一度位をはく奪された貴族はそのあとも同じ貴族たちから誹謗中傷の的となり、再出世など絶対にありえない。だがミシェルは銃士隊の副長という立場に身を置いている。間違いなく、裏切り者であるリッシュモンが裏で手を貸していたのだ。そうなるとミシェル以外にも召し抱えられた裏切り者がいても不思議じゃない。
「サイト…」
「平賀君…」
塞がれた床の仕掛け扉をルイズとハルナは、憂い顔で見下ろしていた。
だがこうしてはいられない。早くリッシュモンを追わなければならない。


隠し通路へ逃げ込んだリッシュモンとミシェルは、ミシェルのレビテーションの魔法でゆっくりと落下しながら着地した。そこは地上からどれほどの深い場所にあるのかはわからない暗い闇の中だった。
「ふぅ…よくやったなミシェル。計画は途中であの小娘に頓挫されてしまったが、最悪わしらが生き残れば問題はない。
ミシェル、わしの警護をせよ」
「…はっ」
二人は闇の中を進み始める。途中二手に分かれた道に出くわし、二人は左の道へと進んだ。
この通路は自分の屋敷にも通じている。後は屋敷まで逃げ切り、これまで集めてきた財産を持ってアルビオンに亡命してしまえば自分たちの勝ちだ。その時間稼ぎのためにも、怪獣バイヤーからもらったあの怪獣のカプセルを早速使わねば。
それにしても、あの姫はずいぶんと余計なことをしたものだ。次に会ったときは、あの体を男供の慰み者にし、使い物にならなくなったところを絞め殺してやる。
しかしミシェルの表情は、リッシュモンと違って晴れやかさがなかった。
(サイト…)
これで本当によかったのかと、今になって迷いが強まった。リッシュモンという主には覆しようのない邪念がある。自分がそれでも従っているのは、やはり自分を救ってくれた恩義がある。だが恩義ということに関して言えば、自分はウルトラマン…サイトに救われたことがある。どちらを選んでも結局恩義を仇で返してしまったことになる。
だがその時だった。
ガシャン!!と天井が大きく揺れ、天井に敷き詰められたレンガの一部が落ち、目の前の通路が崩落してしまう。
「ぬぐぅ…くそ、あれほど整備をしておけと命じておったのに、使えん奴らめ」
リッシュモンは口汚く吐き捨てた。おそらく自分の命令でこの通路を作ったメイジたちに対して文句を言っているのだ。
「リッシュモン様、この先へはいけません。ここは町の外に通じるルートを行きましょう」
「ふん…致し方あるまい」
この隠し通路はリッシュモンの屋敷以外にも、もう一つ通じている行き先がある。彼女の言うとおり街の外だ。リッシュモンの屋敷からの脱出も可能なように、街の外にもこの通路を開通させていたのだ。
二人は分かれ道の方へ戻り、もう一つの、右の道へと進んだ。
その先の道は、トリスタニアの町中に張り巡らされている地下水道の中である。そこからマンホールを開ければ地上を拝むことができる。出口のマンホールはすぐ近く。主の身の安全のため、ミシェルから先に梯子を上って出口のマンホールを開いた。
外は土砂降りの雨だった。リッシュモンとしてはこんな雨の中、外に出たくもなかった。高級な生地で作られた服が水で台無しになってしまう。だが今は四の五言っている場合ではない。ミシェルに手を引っ張られ、彼もまた地上に出る。
ズシン!と地面に強烈な振動が走る。二人が町の方を見ると、二体の怪獣が互いに暴れていた。
「崩落の原因は奴らか…余計なことをしおって」
あの怪獣たちが地上で暴れまわった衝撃のせいで、さっきの屋敷へのルートが崩落したのだ。リッシュモンは暴れまわるヤナカーギーと、それを迎え撃つゴモラを見て苛立ちを募らせた。
「ずいぶん変わった帰り道だな。二人とも」
雨と闇の奥から、聞き覚えのある声が二人の耳に入った。
「隊長…!」
闇の奥に居るその女性は…今となってはミシェルの元上司でもある銃士隊隊長、アニエスだった。体が冷えることもいとわず、彼女は雨の中で二人を待ち続けていたのだ。
 
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