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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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sts 23 「守るべきもの」

 9月11日の午後7時10分頃、俺達ははやてに呼び出された。理由は至極単純、明日は時空管理局地上本部の公開意見陳述会が行われるからだ。
 開会されるのは明日の14時からではあるが、警備はすでに始まっており、そのためなのはとヴィータ、リインそれにフォワード4名はこれからナイトシフトで警備に着くことになっている。はやてにフェイト、シグナムは明日の早朝から警備に着く予定だ。
 ちなみに俺はというと、形式上隊長格にはなっていないがロングアーチの副隊長のようなものであるため、明日はやて達と同じタイミングで警部に着くことになる。機動六課以外からも警備を任されている人間は多く存在しているが、何かあっては困るだけに警備が居て困ることはない。それがたとえ過剰戦力だと思われるほどの人材が居たとしても……。
 先日はやてから聞いた話では、今回の公開意見陳述会があの予言の重要なポイントになっているらしい。予言が絶対的に未来を示しているわけではないが、ここを無事に終えられれば今後の流れが好転する可能性が高くなる。それだけに気を抜くことは出来ない。

「さて……事前に説明はしてたけどなのは隊長にヴィータ副隊長、リイン曹長にフォワード4名はこれからナイトシフトで警備開始や」
「みんなはこれから警備だけど、ちゃんと仮眠は取った?」

 フェイトの問いかけにフォワードやリインは元気な返事をする。表情を見る限り、眠気のありそうな者はいないのできちんと仮眠は取れていると思われる。まあまだ午後7時を回ったばかりなので、仮眠を取っていなくても眠気が来る者は少ないだろうが。

「私にフェイト隊長、シグナム副隊長、それにショウくんは明日の早朝に中央入りする。それまでの間よろしくな」

 それを機にナイトシフト組は出発のために、早朝組は見送りのために移動を開始する。
 これは現在のことにほぼ関係ないと言えることだが、どうして他のメンツには隊長だとか曹長だとか付けていたのに俺だけ普通にくん付けだったのだろうか。まあショウ特殊魔導技官なんて呼ばれるのもそれはそれで微妙ではあるが。
 そんなことを考えている間にも確実に足は進み、いつでも出発できるように待機していたヘリにナイトシフト組は順次乗り込んでいく。最後になのはが乗り込もうとした矢先、彼女は誰かの視線に気が付いたのか不意に振り返った。

「あれ? ヴィヴィオ……どうしたの? ここは危ないよ」
「ごめんなさいねなのは隊長。どうしてもママのお見送りするんだって」
「もうダメだよヴィヴィオ。アイナさんにわがまま言っちゃ」

 言葉としては厳しめではあるが、なのはの表情から言えば仕方がないなぁっと言いたげな感じにも見える。今後は不明だが現状では保護者の代わりを務めているだけに見送りされて嬉しいという気持ちもあるのだろう。ただ立場的に素直に出すわけにもいかないのだろうが。

「……ごめんなさい」
「なのは、なのはが夜勤でお出かけするの初めてだからヴィヴィオ不安なんだよ」
「あっ……そっか。ヴィヴィオ、なのはママ今日は外にお泊りだけど明日の夜にはちゃんと帰って来るから」
「絶対?」
「絶対に絶対。良い子で待ってたらヴィヴィオの好きなキャラメルミルク作ってあげるから」
「うん……パパより美味しい?」

 毎度のことではあるが、どうしてヴィヴィオは突発的に俺のことを話題に盛り込むのだろうか。
 いやまあ今日に至るまでに何度かお菓子は作ってやったけれども……ただキャラメルミルクを作った覚えはないのだが。
 それに関してはなのはが作ってやっていたみたいだし、何より俺はヴィヴィオの保護責任者でもない。それに関わり過ぎるとなのは達との関係を本気で誤解する者も出てくるだろうし、ヴィヴィオはエリックを巡る事件に関わっている可能性が高いのだ。
 保護されている状態にある今は問題ないが今後の流れ次第では……それだけに距離感を詰め過ぎると精神的ダメージが強くなってしまう。そのときが来たとき、ママ代わりになっているなのはが心配ではあるが……いや、まずは今回の公開意見陳述会を無事に終えることを考えよう。これを無事に終えなければ、今後の流れが好転しにくくなるのだから。

「えっと……うん、パパよりも美味しいの作ってあげる。キャラメルミルクはパパにだって負けないんだから。だから良い子で待っててね」
「……うん」

 なのはがいなくなることへの不安は完全には消えていないように見えるが、ヴィヴィオはなのはと指切りを交わした。
 ヴィヴィオが納得したこともあって、なのは達は再度ヘリへと乗り込み始める。その際、なのはがパパとか言ってごめんねと念話で謝ってきたが、先ほどのような場合は仕方がない部分もあるので気にしないように伝えた。皆の搭乗が完了するとすぐさまナイトシフト組は出発する。

「…………さ、戻ろうヴィヴィオ」
「うん」

 ヴィヴィオはフェイトに手を引かれて部屋へと戻り始める。が、不意に足を止めるとこちらへ視線を向けてきた。

「フェイトママ、パパは?」
「え? えっとパパは……」
「戻るに決まってるだろ」

 今から9時間もすれば俺達も警部を始めるのだから。
 とはいえ、はやてあたりはまだ仕事が残っていそうなので当分は休むことができないだろう。部隊長を務めているだけに俺達以上にやらなければならないことは多いのだから。
 まあだからといって手伝えることは少ないだろうし、はやての性格的に手伝うといっても大丈夫だから休めと言うに違いない。俺に出来ることがあるとすれば、あとで差し入れでも持っていくくらいだろう。

「じゃあパパも一緒に行こう」

 と言って、今度はヴィヴィオがフェイトの手を引く形で俺に近づいて手を握ってきた。俺やフェイトは19歳とはいえ、体格的にはすでに大人。それだけにヴィヴィオを挟む形で手を繋ぎあっている今の構図は誤解が生まれてしまっても何らおかしくないだろう。
 俺とフェイトが昔から付き合いがあるというのは知っている人は知っているし、何よりフェイトの髪色が金色というのが不味い。そこがヴィヴィオが娘なのではないかという誤解を生んでしまう。
 しかし、ヴィヴィオの心境を考えるとなのはがいない不安を埋めようとしているとも考えられる。それに六課はヴィヴィオの現在に至るまでの経緯を知っているので誤解するものはほぼいないだろう。
 今日の分の仕事は終わっているし、個人的に任されているものもファラやセイが協力してくれたので慌てる状況ではない。しばらくはヴィヴィオに付き合うことしよう。

「分かった、一緒に行く。だからさっさと戻るぞ、ここは風が強いからな」
「うん。ねぇフェイトママ、今日はパパとフェイトママと一緒に寝たい」

 別にヴィヴィオはやましい考えなどは一切なく、ただ純粋に安心感を覚えて寝れるからそう言っただけなのだろう。きっと俺はなのはの代わりなのだ。つまり普段なのははママではなくパパをやっていることに……。
 なんてことを考えてどうにか冷静さを保てているが、一般的に考えて年頃の男女が一緒の部屋で寝るのは不味い。ヴィヴィオが居るのでふたりっきりというわけではないが……ある意味ではヴィヴィオが居るから不味いとも言える。

「えっと……あのねヴィヴィオ、さすがにパパと一緒は無理かな」
「なんで?」
「それは……その」

 あのなフェイト、顔を赤らめながら俺の方を見るんじゃない。お前が考えているようなことをするつもりは一切ないし、一緒に寝れない理由なんて色々と思いつくだろう。例えば夜遅くまで仕事があるから、とか。

「ヴィヴィオ、悪いけど一緒には寝てやれない」
「うぅ……なんで?」
「俺にもやらないといけないことがあるし……例えばお菓子作りとかな。ヴィヴィオが当分食べなくていいって言うなら話は別だけど」

 適当にでっちあげたように思えるかもしれないが、実際のところ六課に来てからはお菓子は基本的に夜に作っているのだから嘘ではない。そもそも早朝からフォワード達の特訓があり、休憩を挟んでまた特訓。これに加えてデバイス関連のこともやらなければならないのだから当然と言えるだろう。
 ヴィヴィオの表情を見る限り、かなり考えているように思える。俺と一緒に寝たいという気持ちもあるのだろうが、子供なだけにお菓子を食べたいという想いも負けないほど強いらしい。あと一押しすれば決着をつけられるだろう。

「ただ……ヴィヴィオが寝るまでは一緒に居る。だからフェイトママだけで許してくれ」
「……絶対寝るまで一緒に居てくれる?」
「ああ」
「……分かった。今日はフェイトママと寝る」

 完全に納得しているわけではないようだが、これでどうにか丸く収まっただろう。このあとフェイトとある意味気まずさのある時間を過ごさなければならないわけだが。慣れつつあるとはいえ、さすがにパパママ扱いしてくる子が居て意識するなという方が無理は話なのだから。
 というか……親扱いされなくてもフェイトみたいな美人と一緒に居たら普通に意識する。……いや、この言い方は正確じゃないな。いくら美人でも仕事で会っている相手とかよく知らない相手に異性意識は最低限しか持たないし。フェイトだから意識すると言うべきだろう。
 この言い方だとフェイトだけを特別意識しているように思うかもしれないが、他にもなのはやはやて、ディアーチェ達と昔から交流のあった相手は異性として意識している。だから誤解しないでもらいたい。
 まあ……昔なじみでも現状で言えばなのはにフェイト、はやてが他よりも意識しているとは思うが。だがパパママ扱いされている間柄や過去に告白された相手ということを考えれば仕方がないことだろう。

「あはは、パパさんも大変やな」
「パパじゃない、他人事だと思って楽しむな。今後のことを考えると笑い事じゃないぞ」
「そうやなぁ……確かにもしもフェイトちゃんと間違いでも起こされたら笑い事じゃなくなる。別に恋愛禁止や言うつもりはないけど、どこから構わずされるんはさすがになぁ。昔から付き合いがあるとはいえ、私はここの隊長やから問題になれば対応せなあかんし」
「安心してください主はやて。もしそのようなことになれば私がこいつを斬ります」
「真剣な顔で言うのはやめろ。お前が言うと本気で笑い事じゃなくなる」
「ふ、冗談だ。お前がそのような男ではないと知っている」

 だったら冗談に聞こえるように言ってほしいんだが。お前はただでさえ普段の立ち振る舞いや口調的に冗談を言うタイプには見えないんだから。

「あのなシグナム……からかうのはフェイトだけにしてくれ」
「何で私限定なの!? ただでさえシグナムは私をからかってくるんだからそういうこと言わないでよ」
「テスタロッサ、その言い方もどうかと思うがな。それではまるで私が頻繁にお前のことをからかっているみたいじゃないか」
「実際にからかってるよね?」
「さてな」

 とぼけるシグナムにフェイトは不満そうな表情を浮かべる。が、ふたりから感じられる空気に険悪さは皆無だ。まあ昔から気の合う間柄だっただけにこういうのも彼女達のスキンシップなのだろう。戦闘狂みたいな部分が同時に発動すると面倒なので、違った部分が似たほしかったと思ったりすることもありはするが。

「ねぇ戻らないの?」
「おっと、そうやったな。私らも9時間もすれば警備に出発やし、さっさと仕事片づけて早めに休まんと」
「そうですね。私の方で交代部隊には指示を出しておきます」
「うん、お願いや」

 そう言ってはやては一足先に戻り始める。俺とフェイトもシグナムに一声掛けてからヴィヴィオを連れて戻り始める。
 ちなみに余談になるがシグナムと別れる際にヴィヴィオも「おやすみなさい」と言った。それにシグナムは笑顔で「おやすみ」と返したわけだが……武人である彼女も子供には優しいらしい。まあ優しいからこそ彼女には口うるさい一面があったりもするわけだが。最近ではそうでもないが、昔はよくヴィータに小言を言っていた覚えがあるし。

「フェイトママ」
「うん?」
「パパの手おっきい」
「ふふ、うんそうだね。でも昔はパパも小さかったんだよ」
「ほんとう?」
「ああ。もちろんヴィヴィオのママたちもな」

 不意にヴィヴィオは俺達から手を放したかと思うと、自分の手を見つめ始める。

「……ヴィヴィオも大きくなる?」
「うん、大きくなるよ。そのためには好き嫌いせずに食べなきゃだけど」
「うぅ……」

 嫌そうな顔をするヴィヴィオをフェイトは優しく撫でる。六課で誰よりも子育てに慣れているだけにはたから見れば誰もが母親だと思うことだろう。
 だが……あくまでも今のなのはとフェイトは代理でしかない。なのははヴィヴィオを受け入れてくれる家庭を探してはいるらしいが、現状のヴィヴィオの様子からして仮に見つかったとしても納得するかどうか。なのはも説得しようとするだろうが、正直俺はなのはも大分ヴィヴィオに入れ込んでいるように思える。
 それだけにヴィヴィオが再び事件に巻き込まれた時が不安だ。いくらエースオブエースと言われているなのはも人の子。むしろ一般人よりも優れた力を持っているだけに責任を強く感じてしまって自分を責めたり抱え込んでしまうだろう。
 だからこそ、この子は守らないといけない。
 隊長陣に動揺があればそれはフォワードにも伝染しより悪い方向へ向かってしまう。予言に関連したことでそれが起きれば、更なる災難が俺達だけでなく世界中の人々に襲い掛かることになりかねない。
 それに……フェイトが言ったようにヴィヴィオはこれからどんどん大きくなる。大きくなって子供から大人へと変わっていくんだ。かつて多くの大人達に見守られて育った俺達のように。
 今の俺にどれだけのことが出来るかは分からない。
 けれど、ヴィヴィオのような年代の子供達には少しでも希望のある世界で過ごしてほしい。だからこそ、あの予言が実現するような事態にはしちゃいけない。そのためにもまずは明日の警備を無事に終えなければ……。

「パパ、どうかした?」
「何でもないさ」
「そっか。じゃあ戻ろう」
「ああ」

 
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