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ソードアート・オンライン―【黒き剣士と暗銀の魔刃】

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六節:新たなる《ゴックローク》

 
前書き
例によってこの話もいろいろ変わっています。
武器名の前やガトウの反応もちょっとずつ違いますが……一番最後にガトウの描写を追加してあるのが、一番大きな変更ポイントかと。


では、本編をどうぞ。 

 
 
 リズベットは座っていた。

 鍛冶屋リズベットでは無く、現実世界の彼女として学校の机を前に椅子へ座り、黒板の前に立つ教師の言葉を聞いていた。

 午後一番の授業だからか彼女は眠そうに目をこすり、うとうと船を濃くさまは今にも机に突っ伏してしまいそうに思える。

 それだけは如何にか我慢したらしいがとうとう静かに寝息を立ててしまい、そんな彼女に教師が気付いたか近寄っていく。

 何時もの事なのか若い男性教師は彼女の肩に手を置き、彼女もまた馴染のある低めの声で肩を許すると優しい声を掛け―――――








「……起きろ、鍛冶屋」
「っ! ……へ? えっ、あれ? ……?」
「……俺が言えた事じゃあない、が……寝てんのかまだ」
「いや、そんなんじゃなくて……えっと?」


 彼女が目を覚ましたのは学校の教室では無く、真鍮と謎の金属で造られた部屋の中だった。
 不用心にも扉は開けられたままで、明かりは天井のランプ一つだけである。

 一体どういう事なのか理解するのにたっぷり時間を要し―――視界にの端に移る二つの細い枠をじっくりと眺め、漸くリズベットは自分の現在地と置かれている状況を理解した。


「そっか、ソードアート・オンラインの中だったっけ」
「……ボケたか?」
「うっさい! 誰だってトンでも無いダメージを受ければ多かれ少なかれショックで判断が……ああぁあぁっ!?」
「……うおっ……」


 そこで彼女は何が起こっていたかを思い出し弾かれた様に立ち上がる。

 ガトウの驚いた声―――なのであろうイントネーションでの呟きを無視し、慌てながらも自身のHPバーの方へと視線を向けた。
 そこには本当に一ドットだけではあるが、赤く表示されたHPバーが残っている。死んだと本当に恐怖こそしたが、確かに彼女の命は繋がっていた。

 その現象をポーションのお陰だと思いなおそうとしたが、そこで大きな違和感が存在している事に、リズベットは眉をしかめた。

 ポーションは一気に体力が回復するのではなく、時間をかけて徐々に徐々に体力が回復していくというもどかしい代物で、その間に大ダメージを受けてしまうと―――まずそれ程のダメージ自体有り得ないが―――回復も無駄になりHPを喰らい尽くされてしまう危険もある。

 ならば何故自分が生きているのか……


(でも……私は今此処にいるし、HPだって…………あっ?)


 ―――と、ポーチを探っている間に、秘密兵器として忍ばせていた『クリスタライト・ポーション』というアイテムが無くなっている事に気が付いた。


 そのアイテムはイベントクエスト限定品で、本当に偶然リズベットの手に渡ったアイテムであり、効果は『瞬時にHPを大回復させる』というもの。
 全回復では無いし、発動までにポーション以上の誤差があるものの、リズベットのHP値から換算すればちゃんと全回復する。

 つまるところ……本当に念の為にと入れていた希少価値の高いアイテムが、彼女の命を救ったのだ。

 それでもまだ不確かな部分はある。
 あるのだが―――今ここに【生きている】という事が、今一番大事な事実であり、迷いなくリズベットが確信している事である。


「って、ことは……」


 気絶してしまった事から恐らく、敵の攻撃がデバフ付きで攻撃力重視では無かったのであろう事。
 もし、ポーションをケチっていたらという可能性。
 ソレへ身震いすると同時に、通常のポーションを既に飲んだのに焦っていたとはいえ回復アイテムを無駄に使おうとしていた事を思い出して、仕方が無くともうっかりから軽く苦笑いする。

 ……が、ソコで一辺に気が抜けたか、ヘナヘナと座り込んでしまった。


「よかった! よかった~っ! アタシ死ぬかと思った!! アタシ本気で死ぬかと思った……!」
「……俺も、冷や汗かいたな……結構」
「あのねぇ……そんなだるーい語調で言われても説得力無いわよ?」


 死の恐怖はまだやはり残っているか震えこそしているものの、精神はいまだしっかりしている様子にリズベットは様々な要因重なって溜息をついた。


「あ、そう言えば……」


 此処でこうやって呑気に話をしていられるという事は、即ちボスは消えているという事。
 今話している部屋もボスフロアなので、結論を言えばガトウは倒れたリズベットを“庇いながら”ボスを倒した事になる。
 元々足手纏いになっていたのだから、意識を失った事により発生した、特殊な立ち回りの煩雑さはいっそ想像もつかない。

 取りあえずハイ・ポーションを口に含んでから、そんな苦労を掛けた事を謝ろうと口を開こうとして……彼女はある出来事に思い至った。


「……というかそもそもさぁ? あんたが妙なケチ付けなければ、こんなとこ来なかったのに」
「徹夜した、お前もどうかと思うが」
「う、うぐっ……」


 戦闘時以外では珍しい、かなりハッキリとした口調で同じ愚痴の様な文句を返され、無理をしたという事実から反論など出来ず、リズベットはその場で数瞬ばかり黙り込んだ。


「悪かったわよ。別にちょっと愚痴りたくなっただけよ」
「……まあ死に欠けて精神が、無事なら……文句の一つも飛び出るかも、な」
「今正に飛び出たけどね」


 あんな目に遭遇しておいて苦笑いできる自分が居る事にリズベットは内心驚き、意外と豪胆だったのかそれとも喉もと過ぎれば熱さを忘るというものなのかと考え、しかし答えは当然登って来ず思考を止めた。

 一先ずは聞くべき事を聞いてからだと、彼女はガトウの方へ向き直る。


「でも良く倒せたわね、あんなバグ生まれの化け物を……攻撃が途中から見えなかったのに」
「ああ、それだが……バクは、治った」
「は?」
「……正確に言うなら、途中でプログラムが検知したか……動きが止まって元のゴーレムに、なりやがった」
「ま、マジなの?」
「…………マジだ」


 尤も且つ何の疑いようもな言い分ではあり、まず疑う事でもないだろうと信じることにした。

 結局寝ていた彼女には、今この場に限って言えばだが、現状そのものが真実なのだから。

 もしかすると助かった理由の一端には、そのシステムのエラー検知も一役買っているのではないかと思い、強ち有り得無くもないとリズベットは微妙な表情を作った。


 一人云々頷いているリズベットを見て、ガトウはメニューを開くと何かをオブジェクト化して、彼女の目の前に持ってきた。


 不思議な二色の光沢を持つソレは……紛れもなく武具製作用アイテムの『インゴット』である。


「おぉ……おおおおおお! 出てたんだ! あぁ、よかったぁ……とことん疲れてあまつさえ死にかけたのに、それが全部徒労に終わったらどうしようかと……」
「だな。結果オーライとは行かない……かも、しれねぇが……」
「何でもかんでも“それ”じゃあ済ませられないしね。でもさ、今はそういう事にしとこうよ」
「……死の淵に立った奴に……そう言われたら、納得するしかねぇな」


 頭を二回痒い訳ではないのか緩慢な動作で掻いてからインゴットをアイテムストレージに収納し、ガトウは立ち上がるとリズベットへ手を差し出してくる。
 文句も言わず素直にその手を取ってリズベットは立ち上がり、表面上はそうでなくとも未だ恐怖はの負っていたか、盾をしまわず装備したままメイスの尖端を床につけ部屋を見回した。

 すると、開いていた扉が入ってきた時の物とは、明らかに違うサイズと形状だという事に気がつく。

 ガトウを伴って覗き込んでみれば、外へとつながる出口となっており、更に真っすぐな道を進むと塔の外壁ををぐるりと数周する、帰リ道専用であろう螺旋階段が現れていた。


 ダンジョン探索にボス戦も含めてかなり時が経っていたらしく、外はもうすっかり夜で、上には星空が広がっている。


「うわ、随分時間食っちゃったわね……ねぇ、アタシどれぐらい寝てた?」
「………………………」
「ん? ガトウ、アンタもしかして計算苦手だったり―――」
「……………………………スゥー」
「寝てんのかい!!」


 もうすっかり初対面時通りな寝ぼすけガトウに、リズベットは恐怖している暇もないと思いっきり突っ込みを入れた。

 其処から律義に階段を下りて行く。
 のだが……リズベットは最初、なにもそれに付き合ってやる必要はないのではないかと、クリスタルを取り出した。

 だが何の嫌がらせか、螺旋階段は尖塔の外にある癖に『結晶無効化空間』であり、結局またある意味長いながーい道のりを、トボトボ徒歩で行く事となってしまう。
 リズベットの口から愚痴がわんさか飛び出、ガトウが階段を降りながら寝るというこれまた器用な真似を行いながら、一つ二つどころではない悶着ありで――――如何にか塔を降り終わった。




「ふぃ~……到着っと!!」


 等を下り終わってから、僅かに数十秒後。

 待ってましたとばかりに二人は転移結晶を使って四十八層主街区『リンダース』へ、更に己の経営する【リズベット・スミスショップ】へと足を運ぶ。
 如何にか店舗近くまでは戻るものの、もう時刻は既に夜遅く、しかもリズベットは心身ともに大きく摩耗しており、これ以上何かハードな作業を続けるのは……正直無理だった。


「じゃあ、また明日。なるべくというか、絶対朝一に来てよ? ガトウ。……剣、作っちゃうからさ」
「……おうよ……」


 プレイヤーホームまで戻ってきたにもかかわらず、疲労感から大きく喜ぶ事も出来ないリズベット。 彼女は、遂に限界が来たか寝室まで向かう事無く椅子を引き出して、毛布をオブジェクト化させカウンターに頭を預けた。

 ドッと押し寄せる眠気に抗えず、また抗うつもりも無いリズベットの意識は、あっという間に遠のいていく。


「……」


 その様子をガトウは途中まで見届けると、なるべく静かにドアを開け、足音一切立てずに出て行く。



「お前―――もし――巻き込む――――――れ、イー…………リズ、ベット」 



 ガトウのモノであろう……至極小さな呟きにも、彼女は気に留めることなく、穏やかに意識を落としていった。

















 早朝。



 鳥の鳴き声さえ響かず、大きな時計塔の所為で大きな影が差しており、全く持って読み目覚めなどもたらされそうもない状況で、リズベットは毛布をずり落としながら上半身を持ち上げた。


 流石に状況判断が付いていたのに、疲れで寝て記憶を失う程彼女も忘れっぽくは無く、窓から少し遠くを見る。
 すると……ガトウがこれまた境目が曖昧で鍔は勿論ない大剣―――ソードアート・オンラインでは『両手剣』カテゴリに分類される武器を、器用に立てかけてもたれ掛り、眠りこけているのが目に入る。

 恐らく自身のホームとしている主街区へと帰るのが面倒くさかった為、そこまで寒くなかった事もあり道端で寝たのだろう。

 こういった無茶な事も出来てしまうのが、フルダイブゲームの良い所とも言える。

 このまま座っていても仕方無かろうと腰を上げて取りあえずフレンドにメールを送り、closeにしていなかった事を不用心だと思いながらドアを開けた。

 そしてリズベットは外へ出て、徐にガトウの元まで毛布を持って近寄る。


「シャ―――イーシャ、バルログ……お前ら、は……」
「何の夢を見てんだか……ねっ! と」


 と、就寝していようが相も変わらず無表情な彼へ、頭からバサッとかぶせた。


「……んごっ? ……む……ぬぅ……」
「起きなさいよ、ガトウ。もう朝よ」


 毛布の頂点を律儀に掴んで前方へと傾けて落とし、斜め右下へ向けていた顔を斜め左上にあるリズベットの方へと持っていく。

 彼女の顔を数秒見てから彼は何を言うでも無く、何度そうすればよいのかと言いたくなるぐらい、またじーっと見つめたまま。
 だが数秒と経たず頭を軽く左右に振ると、顔を傾けて軽く右手を上げ、大雑把に朝の挨拶を終わらせた。


 昨日の迫力や圧力など、余韻は勿論その片鱗すら欠片も残っていない。


「ほら、昨日冗談抜きで酷い目に遭いながら手に入れたインゴット、片手曲剣にしちゃうからさっさと店に入んなさいよ」
「……おう、分かった……」


 リズベットはまず右手の人差し指と中指をそろえて振り、アイテムストレージを選択してからインゴットの情報を調べるべくクリック。

 名は『ヘヴィブラス・インゴット』となっており、顔所の店にはないタイプのインゴットだと確認してから、リズベットは早速剣を作るべく準備に取り掛かる。


 カウンター奥の扉を開け、そこに設置されているレバーを引いてふいごを動かし、送り込まれた風で更に炉内が燃え上がり真っ赤となる。

 早速炉内に燃え盛る炎目がけてインゴットを放り込むと、数十秒程待ってからヤットコで取り出し金床の上に置く。


 実際はこんなに速くは無かろうし、まだやるべき肯定は幾つもあるのだろうが、それはそれであり此処はゲーム、余りリアルさを追求しすぎても仕方ない。

 剣を主とした近接戦闘の世界であり、力を入れるべきは近接戦闘におけるリアルさと爽快感、そしてスリルなのだから。


 リズベットは壁に立てかけてあった鍛冶用ハンマーを手に取ると、ポップアップメニューから作成アイテムの項を『曲刀』に指定し、赤熱した金属を見やりハンマーに神経を集中させ、火花を散らしながら気合いをこめて叩いて行く。


 決して目を放さずリズムを崩さず、集中し続けているリズベットではあるのだが、実際のところこの剣を作る工程はただインゴットを複数回叩けばいいだけであり、出来上がる武器の強さやランクはインゴットのレア度と作業時の叩く回数によって決まる為、ぶっちゃけた話ゲーム内である事も手伝って余り精神論は関係無かったりもする。

 しかしそれはあくまで一般論や説明にそう記してあるというだけであり、リズベットは全神経を注ぎリズム良く金属を叩けば、きっと一流すら超える技物が出来上がる……そう信じている。


 無我のままに、ただ魂を込めて、叩く回数すら途中から細かくは数えるのを放棄し―――恐らく大まかではあるが通算三百回に至ったころだろうか、赤く熱せられたまま鎮座してた長方形の金属が光り輝き、徐々に徐々にその姿を金属板から片手曲剣へと変貌させていく。


「これって……!」


 そして彼女は思わず猫背となり、その武器へ眼をむいてしまった。

 インゴットの色彩や質感などそれこそ全く受け継いでいない、その無骨な曲刀は―――


(あいつのウェポンと、まるっきり同じ……!?)


 ―――ガトウの所持している短剣、細剣と種類やサイズこそ違えど、そのフォルムやディティールは余りにも彼の得物と酷似していたからだ。


 唾が無く、鉄塊からそのまま削り出したとしか思えないデザイン。
 何処となく厚めであったり、反りも少なく、尖端が片方へ曲がっていなければ別種と勘違いしてしまうかもしれない。

 朝の日差しを受けて刀身が放つ色合いは青緑に似た物であり、差し詰め深淵で寝ていた物を削り起こしたかのような輝きと照かりを持っている。


(こりゃ本気でたまげたわねー……)


 通常のRPGとは違いSAOは先へ進めば進む程、ランクが上がれば上がる程武器の固有名や固有形状は多種多様となっていき、初期の武器群に代表されるに色合いが微妙に違う物ならばともかく、ガトウの様にシリーズものとも言えるそっくりな武器を集めるのはそれこそ幸運と根気が必要となってくる。

 勿論性能だけを比べ見るならばガトウの所持しているウェポンと同等の代物は幾つも存在しているだろうが、先に記したとおり姿や形は皆違うのだ。
 性能だけで妥協しなかった結果か、それともただ運を呼び寄せているのかは、正直仮説を立てようとも憶測の域を超えないが。

 根気でないのなら、実力と共に運も持っているのかと、珍しいからこそリズベットは目を見開いて驚き、同時にこの男には驚かされてばかりだと一周回って逆に感心してしまった。 


「よっ……んぐっ!?」


 持ち上げようとリズベットは柄に手を添える。
 ……ものの、見た目の無骨沙通りというべきかかなりの重量を誇り、中々持ち上がらず諦めたか置いたまま確認すべくクリックして、武器の詳細が記されたポップアップウィンドウを表示させる。


「っととと……えーっと名前は……へぇ~『イーシャオブエッジ・ゴックローク』だって」
「……!」


 その名前を告げた瞬間―――微かにガトウが目を何時もより見開き反応した。
 僅かながら、体を少し震わせてすらいる。

 ……が、見えなかったかリズベットは構わずパラメータを確認してから、腰を入れて持ち上げカウンターの上に鈍く大きな音を立てて乗せた。


「ふぅ……アンタの武器同様見た事無いし、多分情報屋が作ったモンスタードロップ名鑑や鍛冶屋名鑑にも載って無いわね。……ほら、どうぞ試してみて」
「…………おう」


 ガトウがやけに力を入れて眉を寄せ、神妙な顔つきとなっている事を訝しみながらも、若干重たげながら持ち上げそれを振りまわし、おまけにソードスキルまで繰り出して確認する様子を少しばかり緊張した面持ちで見つめる

 やがて吐かれた溜息に駄目だったのかと顔がゆがんだ……が。


「ただの……偶然じゃあ、無く引き寄せられた……か」
「へっ?」


 不意に呟かれた一言で、彼女の失望の顔が一転して呆然の顔へと変わり、ガトウがそれを横目で見てから首を横に振った。


「……いや、俺の個人的な事だ……武器的にはかなり、気に入った」
「ホント!」
「……おう、丁度シリーズそろって……いるからな」
「えっと、ちなみに幾つあんの? その―――多分名前からして《ゴックローク》とかいうシリーズ武器」
「あぁ……確か、曲刀(コレ)を合わせれば五つ目」
「あんた持ってる運気どんだけよ……!?」


 その後実力に自信があるのか元が正直なのか、隠す事無く吐きだされた情報からその部気群は、短剣、細剣、両手剣、両手槍、曲刀がある事が分かり、余計にリズベットはポカンとしてしまった。
 まさかのオールレンジ制覇済みな上に、近距離はパワーにスピードにテクニックと勢ぞろいである。
 更に曲刀や細剣の例からして、恐らくではあるがガトウは全てソードスキルをある程度ながらも習得している事が窺えた。
 ソロプレイヤーにはあるまじき武器ばかりを得欄が無茶苦茶なスキル構成にリズベットは開いた口が塞げない。

 策敵スキルや防御系にデバフ耐性、装備重量の変動に調合系と必要なものを取っ払っているそのスキルを見る限りでは、一回も死ぬことが許されないデスゲームという観点から見ると、パーティやギルドなど安全の面から言って誘って貰える筈もないのは明らか。
 だからといって、武器一色のスキルでソロなど、ほぼ自殺行為だ。

 もしもガトウが学んだらしき剣術と抜きん出た体捌きだけで此処まで勝ち上がり、ソロプレイヤーとしても攻略組としても通用するレベルまで上り詰めているのならば……ゲームだけでなく実際戦闘の才能も存在していたという事になる。


 ……まぁ、どこからどう見ても最低限付けられるのは睡眠の天才(笑)で、まさかアウトドアとインドアを複合させた関連物での、突飛なる才能の塊とは思いもしない。


「……それで、この剣の値段は………………いや条件、付けていいか?」
「条件?」
「……あぁ、条件だ」


 そんな空気や雰囲気など微塵も感知していなかったらしいリズベットは眉を片方ずつ上げて下げ、何をする気なのかと不審に思ったが、次に彼の口から出てきた言葉は至極まっとうなモノだった。


「先のダンジョンでは……俺が守れきれなかった、命を落とさせかけたって、その償いもある。……だから武器の料金を割り増していいか?」


 つまりリズベットが決めた値段に加え、自分のけじめや償いとして料金を上乗せして払うことを望んでいたのだ。

 相変わらず今の声色を除けば真剣味に欠ける表情ではあるが、それが空回でも何でもなく本気で言っているのだという事は、リズベットにも感じ取れる。


「……ホント、律儀なのかいい加減なのかはっきりしないわね……そんな気に負わなくていわよ、この世界ではやっぱり、死因のどこかに必ず自業自得は絡んでくるんだから」
「……」
「それに一時だけ高い値段で払うくらいなら、先を見積もって専属スミスにでもしてくれた方がいいわよ」
「……なら、それだ」
「ハイハイ御贔屓様一名増加! 今後ともよろしく!」
「……うーっす……宜しく」


 ガトウの実にやる気の無い間延びした返事を聞いて、リズベットはコルを受け取りながら全くもって誠実さが感じられない奴だと苦笑いした。


「リズぅっ!!」


 ―――――それと同時、扉が勢いよく開く。

「リズ、リズッ、リズゥッ!!」
「わわ……のぉわっ!?」


 勢い任せに跳び込んできた少女は店主を発見するや否や、正しく矢の如き速度で抱きついた。
 その力を受け流しきれず、リズベットは後ろに数歩ずれて、がっつり音を立てカウンターに当たって止まる。

 友人であり攻略組にも名を連ねる彼女の名前を、リズベットは申し訳なさを含んだ声で呼んだ。


「ごめん、心配させちゃったね」
「ほんっっっっとうに心配したんだから!! ほぼ1日連絡無いしメールにも答えないし、常連の人も知らないし場所も確認できなかったし!」
「だ、ダンジョンに入ってたからさ、インスタンスだったし。でも、ホントごめん……“アスナ”」


 リズの友人であるその少女は、白を基調とした服、装飾に施された円形の唾を持つレイピアを装備した、血盟騎士団副団長・アスナだったのだ。
 様子を見るに繋がりが深くつき合いの長い友人であるらしい。

 攻略組を主な顧客としていると聞けば、当然《血盟騎士団》副団長たる彼女の存在も頭に浮かぶ―――が、よもや此処まで仲が良いとは余り思いつかないのではなかろうか。
 片や一人の少女鍛冶師、片や有名の少女剣士。繋がりはあれど、すぐに気が付けるものでは無いだろう。


 数十秒物間たっぷり時間を掛け、一頻り抱擁を交わした後で、アスナはゆっくり顔を上げる。


「あ……! そう言えばさっき、ダンジョンに入ったーって言ってたけど……ま、まさか一人で!?」
「違うわよ、そこに立ってる人と行ったの」


 若干失礼かなという思いをにじませながらも、リズベットは後ろにいたガトウを指差す。

 突っ立ったまま微動だにせず顔を下に向けている辺り、何が起こっているのか何をしているのか、今現在彼の事を一部でも知った彼女には丸分かりだが。


 だが、呑気に寝ているのを戸惑いつつ起こしてから、きっちりお礼を言うであろうと思ったリズベットの予想に反し―――アスナは口を大きく開けてたっぷり数十秒間固まって、クエストに出向く前の先の彼女と同様、その人物を勢いよく指差した。


「が、が、ガトウ! ……さん!?」
「えっ!?」


 声を出されても顔を上げる素振りが無いのを見るに、やはりこれは何時もの事かと思いながらも、リズベットはアスナがガトウを知っていた事に驚いた。
 ……次いで呼び捨てにされ掛けていたのを証明する付け加えを聞き、とことん信用ないのだろうなとも彼女は思ってしまった。

 しかし今気にする所はそこでは無く、アスナが何故眼前の男を知っていたか、という事だ。


「えっとさ……アスナ? ガトウの事、知ってんの……?」
「知ってるも何も前に言ったじゃない! 寝てばっかりいるけど戦闘は凄い、髪色も立ち振る舞いも奇妙な男性プレイヤーが居るって!」
「あ~……あ? ……あ、あぁっ! そうだった思い出した!!」


 ダンジョンへ向かう最中に思ったガトウの名前に聞き覚えがあるが、詳しくは何も知らないという違和感、それがここにきて一気に氷解する。

 それと同時にリズベットは聞かされた話を、漸く鮮明に思い出した。
 六十層攻略途中にもアスナはリズベット武具店にレイピアとブレストアーマーのメンテナンスにとよってのだが、そこでアスナはこう愚痴っていた。


 『強い事は強いのだが協調性に難があり、今一何を考えてるのか分からない睡眠第一な男』
 ……こんな摩訶不思議且つ理解不能なプレイヤーが居ると。


 容姿の事は余り事こまかに連ねては無かったのだが、ガトウという名前は頻りに口にしていたので、見た目の印象だけでは分からなかったのだ。

 やはりというべきか直立不動で寝ていたガトウを、呆れ顔でアスナは見ている。


「この人リズに変な事言わなかった? まあ、どうせ寝てたり寝てたり寝たりしたんでしょうけど」
「大当たり。会話中に寝るわ武器にケチ付けて寝るわ散々よ。……あ、あと武器の見た目がKoBの制服並みに気にいらないとかも言ってたっけ……」
「なにそれっ!? まさか団長が誘った時に断った理由ってそれも含まれてたんじゃ……!」
「じゃないの? というかKoB団長直々にねぇ。確かにあいつはめちゃんこ強かったけどさ」
「本当に謎な人よね……特にオンとオフの切り替えの激しさが何とも言えないわ……」
「別人よね、別人!」


 二人して他人をだしに笑い合うのは流石に失礼過ぎるのではないかとも思うが、それもこれもガトウの人柄の所為であり彼にも非があるのだから強く批判も出来ない。

 その後幾つかガトウ関連からは外れた会話を交わし、攻略ノルマを無視してリズベットの無事を確認しに来たらしいアスナは急いで彼女の武具店を飛び出していった。

 嵐の様な友人の入退場に相変わらずだと口角を上げて吐息を洩らしながらも、ガトウへと近づいて間髪いれずに腹をぶん殴った。
 犯罪防止コードにより発生する不可視の障壁が、紫色の音を鳴らしてガトウを少しだけのけぞらせる。


「…………ぬ……」
「少しぐらい普通に驚いても良いんじゃあないかって思うけどね……あんたリアクションがとことん薄いのよ」
「……うぉっ」
「今更驚いても遅いわ!!」


 漫才としか取れないやり取りの後、ガトウはリズベットへ背中を向けて扉の方へと歩みでる。

 もう用事も終わったのだから帰るのは当然だろうと、何故か少し寂しさを感じながら見送ろうとした矢先……不意にガトウは脚を止め、振り向かずに彼女へ声を―――否、問を掛けた。


「おい」
「な、何?」


 雑味や奔放さが抜けた声にリズベットは思わず気を付け……とまでは行かず手も姿勢を直してしまう。


「お前はもし……自分は元々関係無かった、事なのに……ある少しのほんの僅かな、ズレによって巻き込まれる運命となったら……どうする?」
「はい? あ、え~っと……」


 余りに唐突な、意味深長な質問が、ガトウの口から発せられた。

 質問の意図も分からず肝心の質問自体も曖昧勝つ難しいものだった為、リズベットは首を必死に捻って悩んでいるのか犬の様に唸る。

 やっぱり答えは出ないと、何故そんな問いを自分に投げかけたのかを聞こうとし……しかしガトウに手で制された。


「いややっぱ、いい。……忘れろ」
「は、はぁ……?」
「…………まぁ、アレだ……そんじゃ、またな……」


 何だか奥歯に物が挟まった様な、途轍もなく微妙に後引かれる言い方の所為で、リズベットは再度問いかける機会を逃す。
 結局……最後に何が言いたかったのかも分からないまま、ガトウは戸を開け、店を出て行ってしまう。


(あ、そう言えば……何で見てたか、聞くの忘れてた……)


 更に自分を通して、一体何を見ていたかも聞けずじまいに終わってしまった。


「……」
 

 次から次へと変わる声色、感情、雰囲気にリズベットはついて行けずドア前で硬直したまま、ガトウが去っていった方向を見やっている。

 やがて凍結状態から回復すると、口の端をひん曲げて表情を歪めた。


「何だったのよアイツ……よし! 次来たら絶対に聞きだしてやる―――――ん?」


 そのとき不意に、リズベットの脳裏へ何かがよぎる。


 それは光のようであり、その光は何かに繋がっていた。
 その何か、人の形をしたそれが光が強まるのと反比例し、一瞬強く鮮明に浮かんだ瞬間……脳裏からそれは消えたが、その不可解な光景にリズベットはまたも呆然と立ち尽くす。


「……そういえば………何だったのかしら、ガトウのあの変な光」


 だが呆然としていたのは光景の曖昧さにではなく、気を失う前に見たその()()()()()()()と偶然にも一致したからだったらしい。
 詳しくは分からぬその情景を再度思い浮かべようとはするのだが、先程脳裏に走った幻像も僅かに記憶されている光も、靄がかかったが如く思い出しきれない。

 どうにもならないもどかしさを抱えるも、職人魂といったところか仕事を即座に思いだし、まずは溜まっているオーダーを消化すべくとしたか、一度は消した炉内の火を再度赤々と燃えあがらせる。

 武器種や鎧種を入念に確認し、見合ったインゴットを選んで炉内へ抛り込み、ガトウの時と同じくやっとこを使い取り出して、金床の上に置いて叩きはじめる。




 武器が数種類出来上がる頃には……リズベットの頭からその光景は消え去っていた。


















 その時と、ほぼ同時刻
 少し離れた、森林地帯近くで……ガトウは顔をゆがめていた。


「そうだ、アイツは違う……アイツは“彼女”じゃあ無い……“アイツ”じゃあ、無い」


 額に手を当て頭を振う彼の様子は、明らかに普段の気だるいモノなどと全く違う。


「お前らは此処に、いる……アイツはただアレだ、近しいだけだ……」


 暫く武器を三つほど縦掛け、それに声を掛ける様にして自問自答していたガトウは―――漸く落ち着いたか武器をストレージへしまった。


「…………いや……だがそれでも似て、いやがる……アイツは、とても。……せめて何も進まなけりゃあ……」


 そこで独り言は唐突に途切れ、またもや居眠りを始めたのか、突っ立ったまま動かなくなった。
 そのままざっと数分は過ぎ、誰かが通り掛るまでは動かないのじゃあ無かろうかと、そう思える位静かに佇んだまま微動だにしなくなる。


 と―――――


「ああ、そうだな……行くか。お前なら、こうするから……」


 行き成り眼を開けたかと思えば草地しかない地面を睨みつけ、またも小さく呟く。


「お前の、心情と行動でお前の影を、繋いでみせる……まだここに有る」


 そのまま転移門広場の方へ向けて歩き出し、何も言ない筈の虚空へ向けて経った一言を……されど、確かな情念の籠った言葉を、吐き出した。



「まだ現れなくとも何れ奴を、葬れば……また“お前ら”は笑えるか?」

 
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