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ソードアート・オンライン―【黒き剣士と暗銀の魔刃】

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五節:朧気に映る “刃”

 
前書き
此方の話も、多少ながら改変していあります。
……その所為でガトウの奇行がより目立つ結果になっていますが……。

では、本編をどうぞ。 

 
 
 
 
 リズベットとガトウのコンビがインゴット集めにと、尖塔へ向けて歩き出してから十分足らず。

 その僅かな時間で、音もなく何時の間にPOPしたのか草むらから狼の様なモンスターが二匹現れた。


「早速来たみたいね! 片方よろしくガトウ!」
「あぁ……」
「もうちょっと気合い入れらんないのあんた?」


 リズベットは早速武器である片手鎚……正確には尖端に突起の付いた『槌矛』と呼ばれる、ナックルガード付きメイスを構える。
 装備としてのグレードの高さ、しっかりと強化してあるという事が、深みのある輝きからも見て取れる。

 ガトウは流石に戦闘だからか寝ておらず、腰に差してある短剣を構えた。
 鋼鉄色一色―――かと思いきや太陽光を受けて薄く、それでいて確かに青緑と似た色の独特な艶を持っており、リズベットも見た事が無く鍛冶屋名鑑にも載っていない短剣(それ)は、果たして装備としてのレベルは如何ほどの代物なのか見当もつかない。


 そう言えば、彼の武具は全て自分が見聞きした事もない装備だと……リズベットが好奇心をそそられ目線がそれたと同時に、意識が外れたその時をチャンスと判断したか狼が飛びかかってきた。


「ガルルアッ!」
「おおっと、甘いわね!!」


 メイスで一瞬受け止めすぐに体重のよっている方向へと受け流し、体勢を崩した狼の背後からリズベットは片手鎚スキル初級単発技を繰りだしてダメージを与えた。

 片手鎚は片手に装備できる武器の中でも一二を争う威力を誇るが、その代償に振る速度の遅さもまた一二を争う結果となっている。
 だからこそ、プレイヤースキルがそこまで高くない者は勿論、多くのプレイヤーが盾とセットで装備している……が、彼女はどうもそうではない様子。

 デスゲームで無ければスタイル優先でも良かったが、そんな事が出来るのはある程度スピードが速い武器に限られるだろう。
 となると、そこそこ腕に覚えがあるとみていいい。


「グルゥ……アアアアッ!」
「これでぇっ、終わりっ!!」
「オオオォォ――――」


 五十五層とは言えパーティー二人のレベルは差はあれど高く、装備のグレードや強化段階もそんじょ其処らの物では無いので、リズベットはパターン化された攻防を五回程行って狼のHPを削り切った。破砕音と共にポリゴン破片がまき散らされる。

 ガトウの方はどうだろうかと顔を向けると―――何時の間に終わっていたかナイフをクルクル回し、時々手の位置を移動させて遊んでいた。
 まぁ……それだけの余裕があったのであろうが、こっちがそこそこ真剣にやった後でそんなの遊びを繰り出されれば、リズベットも何処かやるせないものを感じてしまう。


「……」

 すると、ガトウがいきなりリズベットの方へと視線を傾けてきて、そのまま位置を固定し動きを止めてしまう。

 それが……何処か悲しげに、そして懐かしげな眼をしているように見えるのは、果たして気の所為なのか。

 暫く待っても一向に、ガトウの方からは何の反応も返さない事を不気味に思い、リズベットは黙っていられなくなったか己を指差しつつ自ら口を開いた。


「? ……な、なに?」
「いや……」


 それだけ言うと今度は不自然なまでに目線を逸らし、そこまでしなくてもいいのにと思える位に首を捻り、顔をビジュアルエフェクト以外には何もない虚空へと向けた。
 
 彼の拳が何故だか強く握られていたが、すぐに歩き出して行ったのを見て、慌ててリズベットも後を追う。
 自分勝手な奴だと思った半面……如何して自分の事を見るのか、初対面の筈な自分に対して抱くには、酷く合わない、情感がこもった目を向けるのかを不思議だと考え―――思い切って話を聞こうと一歩踏み出す。


「グルルルル……!」
「アレだ……エンカウント、だったか」
(う~……上手くいかないっ……!)


 されどモンスターに邪魔されてしまい、意外と数が多かった事で軽く頭から跳んでしまい、結局聞けずしまいとなる。



 ―――そういった狼や亜人型モンスターとの数回のエンカウントを繰り返して、難なくモンスターをポリゴンへと還しながら岩石地帯を進み、元は岩があった場所に存在していた口をあけている靄の掛かった洞窟を抜ける。

 と……開け青空の見える円形の荒野のど真ん中に、何故こんな物が外から見つからないんだと思える程背の高い尖塔が現れていた。


「うっひゃ~……コレ現実だったら超目立つ事請け合いよね~」
「……無駄、にデカイか……」
「あ、それは思った! 何で明確な設定も無いのに謎めいたもの建てるんだろ」
「………………………………………さぁな?」
「返事が遅すぎてまた寝たかと思ったわ……」


 余り攻略には意味の無い、文字通り名無駄話をしながらただ一つ口をあけてまっている、金属製の尖塔の入り口へと足を踏み入れる。

 此処は様々なトラップが乱立し、中には対策を偶然とっていたおかげで何とかなったが危うく死にかけた、途轍もない物まで設置されているらしい。
 無論、何が何処で襲い来るかは既に解明されていて、今では時間がかかるという難点を克服できる暇な人達の為の、いい稼ぎ場となっている。

 ……詰まる所そのインゴットが市場に出回るのは珍しいのは、登るのが非常に手間な所為なのである。


「あ、そうだ……今回駄目だったらその時は、あんた一人か別パーティーで行ってよね。今回はイレギュラーなもんだしさ」
「……そう、か……」


 ガトウはがっかりとも嬉しいとも取れない平坦且つ平坦な声色で呟く。彼が纏う空気は何処か投やりなもので、とても戦場真っただ中とは思えない。

 フィールド時のエンカウント戦闘では、意外とどころか流石攻略組とでもいえそうな活躍―――とは言っても速攻で片付ける所為で彼女はほぼ見れていないが―――をしていただけに、リズベットは抜ける気を留める事が出来ていない。


 戦闘時と日常の切り替えが上手いプレイヤーでさえ、彼のような極端な切り替えは行えないと断言できる。


「あ、そこ気を付けて。針が飛び出してくるから。しかも猛毒付き」
「……面倒だな」


 見抜かれたトラップなど視界のアクセントやオブジェに近く、枝分かれしている迷路も攻略本に載っている情報のお陰ですいすい進むのだが、如何せん道程(みちのり)はかなり長く傾斜を登り降りが頻繁に続くので、リズベットは精神的にダレてきていた。
 おまけにモンスターも少ないながら出没するので、ガトウがモンスターの数多めに請け負ってくれるとは言え更に余力が削られていた。
 
 対して、その件の(限定的)請負人たるガトウはと言うと……睡眠マニアな―――戦闘を除けば―――遅い思考とダラけた性格だからか苦も無く、精神的にも余裕なのか足を踏み入れた初期そのままの表情。
 しかも余裕すらあるか、時折振り返ってはペースを合わせて登っている。


「……」
(う~ん……やっぱりあいつの視線……)


 が……鍛冶屋での会話時と同じように、彼はリズベット本人を見ているというよりも、彼女を()()()何かを見ている眼に近く、オマケに道中の休憩の際は頭に手を当て左右に力なく振ったり大きく溜息を吐いたりと、全くもって何が言いたいのかが分からない。

 己経ずっと視線を注ぐ癖にちゃんと見ていない事と、嫌悪しているのか呆れているか、はたまた別何か分からない所作を見せる事。
 ……その事が、ずっと彼女の胸の内に引っ掛かっていた。
 
 ―――――今ならば、その理由も聞けるだろうか―――――


 そう思いもう一度ばかり大きく一歩踏み出した……その矢先。


「ギ、ギギギ……!!」
「……また出たか」
「~~~っ!!! あーもう! 精神摩耗半端ないってのに!」


 あざ笑うかのようにモンスターがPOPする。
 結果怒りも爆発し、戦わざるを得なくなった。

 
 文句を垂れながらリズベットはイライラからか自ら突撃。
 アイアンゴーレムの拳ならぬ拳での単調な一撃を難なく受け流し、片手鎚スキルニ連撃『アッパー・スウィング』で大きくノックバックさせようとする。……しかし相手方の重量は言わずもがな人間以上。
 なので蹈鞴を踏むだけで耐えられてしまい、必然的に次の真正面から攻撃を受け止めざるを得なくなった。

 先程叫んでいたように精神的に疲れているリズベットは、如何にか隙を作り出して入れ替わるべくメイスをしっかりと構える。
 襲い来た大きな一撃を前に待ってましたと弾いて……片手鎚スキル単発技『パワー・ストライク』を、上段から思いっきり叩きこんで今度こそ広めに距離を取らせる。


 そして合図すべく、若干後ろに顔を傾けた。


「ガトウ、スイッ―――ッ!?」


 “スイッチ”……そう言いかけた瞬間疾風が横切り、薄緑色のライトエフェクトが真横を駆け抜ける。

 次いで二回金属音が高らかに響いたかと思えば、既にガトウはアイアンゴーレムと至近距離の間合いに入っていた。

 喰いぎみな発動だったかに見えるが、実際はタイミングも位置取りもバッチリで、おまけに息があっていなければ上手く成功しないソードスキルでの直つなぎを披露して見せたのだ。
 明らかに発動タイミングが分かっていなければ出来ない芸当に、リズベットは驚きと称賛入り混じる溜息を吐く。


(そう言えばアイツ、外では一匹二匹を速攻で倒してて分かんなかったけど……相手の攻撃を全部読んで完璧に回避できてたっけ。なら相方に合わせるのもある程度可能なのかな……?)


 もしそれが的中しているとすると、ガトウのプレイヤースキルである “先読み” スキルは攻略組レベルなプレイヤー達の中でも随一だろう。
 そう言えるほど鮮やかな手前だ。

 堅い為か少し長いがそろそろ決着が付きそうな様子を見て、リズベットは戦っている際悠のガトウの表情が、意外ながら普通に真剣なモノだった事に気が付く。
 顔立ちは全プレイヤーの中でも上位に食い込めるくらいの二枚目と言え、普段はほぼ見られぬ男らしさとクールさを感じさせている。


(ああやって、放漫(ほうまん)まっしぐらな表情してなければ普通にカッコいいのにねぇ……ホント顔も体格も腕も良いのに、肝心の性格で損してるわよ……)


 戦闘も終わりまたもながいながーい通路をひた進み、そろそろリズベットの時間間隔がおかしくなってきた頃。
 出発から合わせてもうどれだけ歩いただろうか、叶うなら転移結晶でリンダースへ帰ってしまいたい……その弱気な考えが頭に響き続け、同時に疲れからの苛立ちがドンドンとより増加する始末。

 例え、意味がなくとも叫びたくなるときはあるモノで……遂にその限界が来たか、いい加減にしろと口を開こうと、リズベットは仰け反るぐらい大きく息を吸い―――


「…………扉だな」
「えっ! ホント!?」


 その空気が思い切り吐き出させる矢先に聞こえたガトウの声で、リズベットは顔を跳ね戻し、色あせた青銅の扉を目にして感情抑えきれず破顔する。
 ……ついでに吸い込んでいた息を、先の真偽確認の言葉で一気に吐き出した。

 これで終わりだと思うと彼女の体に、枯れていた筈のやる気と体力がわき出てくるように感じ、しっかりとメイスと盾を握ってガトウへと顔を向けた。


「分かってると思うけど、ボスの攻撃パターンは両手叩きつけと右か左でのストレートパンチ、そして通常の踏みつけと飛び上がっての踏みつけ、後者の踏みつけで発生するディレイ効果付き衝撃波、そして突進よ」
「……あぁ覚えて、いる」
「体力はそこそこ、攻撃力は高くも低くもないから、良く見て焦らず対処すればいいわ! じゃ、行くわよ!」


 これまでのモンスターも弱くは無いがこれといって大したものでは無く、ボスの強さとパターンをあらかじめ知っていた為、楽勝ムードでリズベットは扉を開ける。

 そして中に踏み行り視界にボスの姿が映った。


 それは『金属質のゴーレム』――――



「ロロロロロロロロォォォォ……!」



 では無く――――



「え……? 何、コイツ……?」
「……! こいつは……!」


 明らかな、『異形』だった。

 腕は人と同じく存在している左右の他右腕の片側から三本目の腕が生えており、それはイヤに長く槍状の突起が先端に付いている。
 頭部はスパルタ兵の兜にそのまま化物をくっ付けたかのようで、顔には大きく避け牙が見える口に不気味に光る一つ目が存在する。
 腰巻をしている部分は見えないが恐らく全身牙とも思える特徴的な形の鱗だらけな……亜人型をした『未知の怪物』であった。


 余りの予想外、余りの想定外な光景に、リズベットは目の前のモンスターが第三の腕を後ろに引き絞り、武器である槍状腕の凶悪な尖端を此方へ向けている事に気が付けない。


「……チィッ!!」
「キャッ!?」


 ガトウが咄嗟にリズベットの体を抱えて飛びのくと同時、背後に何かが着弾して地面が大きく揺れた。

 目を白黒させて彼を見やるリズベットの方は見ず、ガトウはただモンスターを睨んでいる。


 慌ててリズベットも視線をモンスターへ合わせて……更なる驚愕に見舞われた。


「な、何よアレ……何なのよあの名前!?」
「…………」


 本来ならば英語で表示される名前のある場所、そこには『wば5fレr・gtゼ-9ンn』というそれぞれは読めても、単語や名前として成立しない文字が羅列されているのみ。

 どう見てもバグ……意味など、当然ありはしない。

 それと同時に扉が閉じてしまい、『結晶無効化空間』な為に緊急離脱が不可能となってしまった。


「何かトラブルが起きたっていうの!? 何でこんな疲れててやっとこさ本命だって時に!」
「…………そうだな」


 大きな焦りを募らせるリズベットとはこれまた対照的に、ガトウはいっそ酷い程落ち着いている。

 しかしそれは余裕から来ている者では無く、証拠に表情から眠気が殆ど吹っ飛んで今までのどの戦闘よりも真剣味を帯びていた。

 へこたれていても仕方が無いとリズベットは取りあえず手を借りて立ち上がりメイスを構え、化け物を見据えた。

 だが、ガトウが短剣を構えながら彼女と同じく化け物からは目を放さず、行動しない様にと言いたいのか左手で制す。


「……おい。盾があるならそれでの、守りに徹しろ。ポーションはあるな?」
「も、勿論よ、盾もあるわ。デスゲームじゃあ油断一つが命取りだからね」
「なら……隙が出来たらポーションは、もっと用意しておけ。命を拾う為に、な」
「あ、う、うん」


 鍛冶屋で、主街区で、フィールド途中で見た彼と全くの別人、もしくは双子だったと思われても仕方が無い程に、ガトウの纏う空気は鋭い物へと豹変していた。

 その冷たさと圧力は問答無用で相手をうなずかせる程。

 何時もは閉じ気味な瞳は開かれ、そうした事で初めてしっかりと確認出来た目はこれもアイテムで設定したか白黒逆転しており、その事がより一層気迫を鋭利なものへと昇華させている。


 リズベットがメニューから盾を取り出し、しっかりと盾裏の固定具を握り、ガトウは音で確認したか切っ先を向け構えるや否や、その場から消えたかと見紛う如きスピードでリズベットから距離を取る。

 一瞬遅れて発生した爆風が彼のその脚力―――STRの高さと敏捷度による速さを物語っている。


「ギ、アアアァァァアア!!」


 それでも化け物は尚、リズベットへと狙いを定め第三の腕を引き絞る……


「……阿呆(アホ)


 と、化物の足もとで強烈なエフェクトが発せられ、ガーネット色の閃きと共にガトウは次々と刺突と斬撃の連続技を命中させていく。
 ……ダメージを与えた事でヘイト値がガトウの方へと(かたよった)らしく、『化け物』はリズベットを無視しターゲットが移ったガトウを狙いはじめた。


「ギャロロロロロロロロロロロォォォォォォォオオォォォォォ!!!」
「チィ…………」


 二、三度第三の腕を撃ち放って地を揺らし、拳と蹴りを叩き込んでまたも揺るがす。

 ガトウは殆どギリギリの位置で身を引いて仰け反り、または刃物を駆使して僅かに逸らし、それらの攻撃を見切りつつ捌き続けて行く。
 隙ありとばかりに三度剣を振るい敵を切り裂き、三角形の光芒を散らせるソードスキルを化け物へと目視困難な高速で見舞う。


「ギロロロロロ! ギャロ……ギャロロロロロロロ!!」


 しかし化け物もやられてばかりでは無い。
 今まで通り第三の腕を引き絞って何故か上に少し緩やかに伸ばした―――そう思うとほぼ同時だった。

 ―――二段層に分かれたライトエフェクトと恐るべき速度により、恰も空気摩擦により赤熱したかと誤認しそうな穿撃が、斜め上から連続でガトウへ襲い来るのは。


「―――ッ! クソが……」


 右への刺突を紙一重でかわし、斜め右を包帯の特殊効果からか籠手のように扱って逸らし、左前へ斜めへ後方への連撃は一発目は屈み、二発目を誘導して三発目を不発に終わらせる。
 最後にニ連から間を置いての一撃を、連撃の方はまるで来る場所が分かっていたのか一息早く動き、渾身の一発は大きくそれる事も無く目の前に着弾させた。

「シッ……!」
「ギィィォォアアァァァッ?!」


 第三の腕目がけて、見た事の無い“青緑色“に光る短剣カテゴリらしきニ連撃技を命中させた後、まだ終わらせないと前方に跳び出て足場替わりに着地する。


「……も一つ……土産、だ」
「ギョ―――ロロロロロ!?」


 今度はスラスト系の突進スキルで弱点であろう技で銃弾の如くかっ飛び、むきだしになっているたった一個の眼を、自身事飛び交う槍と化し轟音を上げて撃ち抜いた。


「……すごい……」


 リズベットからしてみれば、殆ど……どころか全く見えない、それでも確かに繰り広げられる攻防に、ただその言葉しか呟けない。
 目の前で繰り広げられているのはガトウや化け物共々、レベルが違うというだけで片付けられる話の領域では無い、それ程のものだった。

 少し相手の攻撃パターンを覚えたら手助けに入ろうかとも彼女は考えていた。
 されど、桁違いの戦闘を見せられて逆に足手まといとなってしまう事を悟り、だが目を放すことなく未だモンスターを見据える。



 すると―――いったい、如何した事だろうか。


「……そう、だな」


 何の脈絡もなく……行き成りガトウは短剣を腰に納刀する。
 無防備な様を、モンスターに晒してしまっていたのだ。

 それは本当に、予兆すらない、突然のことだった。


「コイツ、はアレだ……()()のモノ、だ」


 代わりに取り出したのは、レイピアなのかギリギリで片手直剣なのかが分かりずらい、刀身も掴も何もかも細い剣。
 ダガーよろしく鉄一本から削り出した様なそれを、ガトウは己の額に地被け何やら呟く。

 そのつぶやきに答えるかのように、ほんの少しだけだが、鈍いその輝きを増した様に見えた。


「嘗て、の……置土産だ……」
「ルルル……ギャアアロロロロロロロロロ!!」


 ガトウが武器を変えたのを合図としたかの如く、『異形』は立ち上がり、また地を揺るがさんばかりに吠える。

 そこからの行動は、両者ともに速かった。

 ガトウは瞬時に詰め寄ると、咄嗟に繰り出された『異形』の足掻きを柄尻で受け流す。
 威力から体勢が左半身になり……ソードスキル【リニアー】を用いて眼球を貫いた。


「ギャロロロロロロロロロロ!!」


 されど運命のいたずらか―――『異形』はもうそれではさして怯まず、また一撃くれたお礼の(かえ)しすら負けた物ではない。

 彼の一撃のダメージから立ち直るや否や、またも紅蓮の炎光を纏う連続突き。
 しかし先程よりも速度が上がっている。


「ッ……!」


 ムラあれども雨の如く降り注ぐそれを流石に捌ききる事は無理だったか、たった一発でかすりなれど当たったしまった。
 ダメージこそ少ないが回復している暇が無い事を考えると、余り良い展開とはとても言えない。

 ……逆を言えばそれをたった一発掠らせるだけで、エフェクトすら遅れる化け物の連撃を捌き切るガトウも異常だ。
 そうでなければ今頃は無様に吹き飛ばされた揚句、体中に穴だらけでHP全損確定である。


「ロロロォ……!」


 次いで化け物はまたも連続刺突の構えを見せる。
 が、途中でそれは止まりいきなり空中へ飛び出したかと思うと、第三の腕をガトウの傍に突き刺した……刹那、一気に縮めて兜に仕込まれていた槍状突起での体当たりを仕掛けてきた。


「く……オオォッ!」
「ギャロロロロオオォォ!!」


 ガトウは体勢を低くし前方へ向けてかっ跳ぶ事でこれを回避したが、今までのどの突きとも比べ物にならない衝撃波と振動が()()()()()包み、空気も地面も何もかも全てを巻き込んで強引なまでに震撼させる。


(あ……あんなもの喰らったら、一溜まりもないわよ……!?)


 バグにより発生してしまったイレギュラーなモンスターは、まるでまだ見ぬ八十層クラスの化け物の様だと、リズベットは個人の見解ではあるがそう判断する。

 それも戯言では無く、寧ろそう思えても不思議ではない、言わせても過言ではない迫力と力を秘めていた。
 ―――しかし相手が凶悪であればある程、同時に対処出来るガトウが何ものなのかという疑問も膨れ上がっていく。


「フゥ-……………ッ!!」


 見ると……ガトウは段々エンジンがかかってきたか、動きの切れが上がって来ていた。

 一発掠らせた一撃を残像が残る程の神速で惑わせ回避すると、『シューティングスター』で軌道をずらして脚の横を引き切り、背後に回り化け物が振り向こうと脚を動かしたと同時に細い剣スキル三連続技『ペネトレイト』を打ち込む。

 化け物が拳打で噴煙をまき散らし槍を伸ばして円形に払ったのを、ガトウはまたも前方へ動いて避け通常攻撃を数撃、対処しようと化け物が踏みだした足をまた避けた。


「ギィ……オオォォアッ!!」
「……シィッ!」


 繰り出される第三の腕に切っ先を当てて、軌道を逸らし安全地帯へ僅かに踏み入れる。
 更に三連斬撃『デルタ・アタック』で間髪いれずに追撃。


「ギ、アアァァァァァ!!」
「甘ぇ……」


 体を縮めてフェイントを絡めた化物の重攻撃には、ガトウも意趣返しかフェイントでモンスターの回避方向を誘導してまんまと五連撃喰らわせた。

 武器を変えても依然、優勢なのはガトウ。
 多数の武器スキルを取っているだけあって、その扱いは並のプレイヤーを凌駕している。
 何より本人の体捌きが、モンスターの異質な攻撃に付いて行けているのだから……この異常な状況に、しかし誰を差し置いてもこの上なく向いていた人物だと言えよう。

 このまま行けばこのバクより生まれた『異形』を、実力差から押し切れそうだ。



 ―――否、そう簡単には行かないのが、イレギュラーと言うモノ。


「ギャロロロロロロロロロロロロロロロロオオオオオオオ!!!」

「チ……!」
「うぐっ……うるさあっ!?」 


 状況は二転三転する。
 中に溜めこんだ激情を口より迸らせたのだと、そう言いきってもいいほどの強烈な雄叫びを、スパルタ兵型の『異形』は口からコレでもかと吐き出す。
 煩わしい事この上ないと、内に溜まる苛立ちを隠さない『異形』モンスターの咆哮だ。

 しかも、ただの獣の唸りとはほど遠い。
 それは恰もガラスを引っ掻いたような物に、幽鬼の叫びを無理に重ね合わせた様な、不快極まりない超音波交じりの奇声。
 ガトウは思わず動きを止めリズベットは耳を塞いでしまう。

 その……たった一回の、ダメージすら皆無な筈のその“声”が……何とか続いていた攻防を、此処で途切れさせる一旦となった。


 耳を塞ぎ、意識を僅かに取られた―――その瞬間が、双方にとって『命取り』だったのだ。


「ギュ、ギャロアアアッ!」
「チッ…………避けろ!!」
「へ? っ!? わああっ!?」


 突如としてターゲットを変え、第三の腕が直角に曲がり襲いかかってきた。

 奇声により呆けていたリズベットは窮地の訪れに慌てながらも如何にか盾を構えるものの、のしかかってくるその余りの衝撃に踏ん張りが利かず大きく弾き飛ばされた。
 例えるなら―――加速したダンプカーに正面から衝突した様な、途轍もない力がリズベットに多大なダメージを負わせてしまった。

 ゲーム内の筈なのに衝撃から目が霞み体が痛み、それでもどうにか立ち上がって腰のポーションを探り、逆にガトウへ隙を見せた化け物が眼を貫かれるのが目に入ると好機とばかりに口に含む。

 HPは全開値から残り三割を切りかけており、もし盾が無かったらと思うと彼女の背に冷たいものが走る。
 もし何時も通りに盾を外していれば、命は無かっただろう。


 そして若干肩を上げながら盾を正面に構え……ガトウが此方へ走り寄ってくるのを見て大丈夫だと目で伝え―――


「おい!!」
「声出さなくても大丈……ぶふっ!?」


 ―――ようとして行き成り何かに弾きとばされた。

 転がりながら何事かと顔を上げてみれば、そこには片手に保持したレイピアを立てて外へ攻撃を受け流し、もう片方の腕を伸ばし掌を自分の方に向けているガトウの姿が映る。

 ……もしかせずとも、彼が突き飛ばして助けてくれたのだ。


「あ、ありがと!」
「……あぁ―――――っ!!」


 今度はガトウが、まるで何か弾かれた様に飛び退いて『異形』の次撃を回避する。

 しかしその刺突は奇跡すら見えず……着弾音が聞こえた事で、漸く攻撃が行われたのだと気が付く事が出来た―――つまり、それほどの圧倒的“速度”。
 風切りのサウンドエフェクトと二色の焔ライトエフェクトが、()()()()()聞こえ瞬くほどに圧倒的なスピードを誇っている。


「ギャロロロロ! ギャロロロロロロロロ!!」
「……面倒くせぇ……!」


 しかし―――ガトウもまた異常だった。

 右半身に体を傾けたかと思えば頭上にレイピアを掲げ、火花が飛ぶか飛ば無いかの内に屈む。
 そのまま片手でバック転する……かと思えば腕で軽く跳び上がりレイピアを二度、奇跡が交差するように振う。

 瞬時に得物を逆手持ちに変えて地に突き立てる。

 ソコから火花が飛び散る間もなく体勢を低くして、左肩を前に出しつつ左手での掌底と裏拳を何もない『筈』の虚空へ打ち込む。


「え、は……ちょまっ……な?」


 その攻撃動作“全て”の後で遅れて《焔色のライトエフェクト》が散る事から、彼が無駄な事など一際していないのが分かる。
 流石にリズベットも呆けたような言葉を口にするしかなく……同時に彼女は、自分がいるからこそ攻勢に出れない事を悟っていた。


(なら……此処は隙を見て……!)


 大げさなまでに、攻撃の範囲外へ離脱する。
 それしかない。

 焔の奇跡が三度(みたび)遅れて輝き続ける中、青緑色の鋭い“力”を迸らせながら駆けるガトウを、ギリギリながら眼で追い後期の到来を待つ。
 待つ。
 ……待つ。
 盾を構え、待ち続ける。


 そして―――


「ギャロォ……ッ!!」

(! 来たっ!!)


 僅かに踏み込みが過ぎたか、バランスを崩して攻撃が僅かに途切れた瞬間を狙い、リズベットはバックステップで引き始めた。
 マスターメイサーと自ら宣言するだけあって、並のプレイヤーより退避速度が格段に速い。

 相手の『異形』は体勢を立て直しかけているが、ガトウに釘付けなのは何も変わらず、このまま行けば仮初ながら安全圏へ移動できる。

 ガトウはリズベットの方へ視線を軽く向け……その隙をついた『異形』の第三腕での豪裂な突きが降り注いだ。
 ……それでもやはりガトウのHPは殆ど減らない。


「うぐっ……あ、よ、よっしゃ!!」


 背中に来た衝撃で一瞬戸惑うも、その感情はすぐに喜びへ変わる。
 ついに―――壁際まで後退する事に成功したのだから。

 リズベットは内心でガッツポーズをとった。
 『異形』は第三の腕をあらぬ方へ向けているが、何の心配も要らない。

 何せ数十メートルなどおこがましいぐらい距離があるのだから、あとは盾さえ構えていれば予想外に対処できる。


「左に跳べぇっ!!」
「へ―――――?」


 なのに――――――またも突然だった。

 ガトウの叫びがリズベットの耳を劈き、思わず彼の方を凝視する。
 彼の放った言葉に、数瞬とどまったのが命運を分けた……。



「が、ぼっ……?」


 ―――唐突な衝撃、そして感じない筈の“痛み”。

 何が起こったのか、他ならぬ彼女自身が数秒ばかり判断できなかった。
 緩慢な動作で己が腹を見れば…………リズベットのその腹部を―――化物の先端が『貫いて』いた。

 
(え……?)


 腹部からは血の如く、赤いダメージエフェクトがとめどなく散っていく。


 唐突に起こった事態にリズベットは思考が付いて行かなくなり、背後を見る余裕もなく、引き抜かれて倒れてもまだ何が起こったか理解できないと、目を見開いたまま硬直している。
 ……だが、止まること無く減っていくHP、自身の命そのものである青いバーを見て、顔を恐怖にひきつらせた。

 叫ぼうにも、声は出ない。


 身の感じる冷たさは……余りにもあっけなく訪れ、余りにも素早く見に絡みつく、“死” の概念。


(い、いや……死にたくないっ……死にたくない、のにぃっ……! いや、いやああぁぁ……いやああああっ……!?)


 体を幾ら震わせようとも減少は止まらず、幾らもがいて足掻こうともアイテムに手は届かない……否、HPが0と数値的に決まった時点で、回復アイテムなど意味が無い。

 圧倒的な死の恐怖と、鉛以上に重くのしかかるダメージから、意識は段々遠のいて行く。
 視界が闇に、包まれていく。


 彼女が抗えぬ重みに屈し、瞼を閉じる瞬間……最後に見たもの。
 それは、自分を葬った化け物と、パーティメンバーのガトウ。
 そして――――








「―――ーシャを……イー――――を…………っ―――――」


 “何か”を呼ぶ叫び声と、ガトウの左手から伸びる、鋭き一本の歪な『光』だった。




 
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